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第4話 血染め少女は恋をする・2

前半の続き!

ミラ・セイラムは一瞬、迷った。他の人ならともかく、指揮官の命令だ。指揮官様は、あたしに居場所をくれた大切な人間だ。だから、言われたことには従わなくてはいけない。でも……。と、彼女はコックピットに映し出された敵機を見る。こいつは、あたしの獲物だ。あたしがみんなに馬鹿にされないために、血祭りにあげなければいけない大事な獲物だ。あたしのことをまな板だの子供だのと馬鹿にしてきた連中は、ここで上げた功績を見せつけて、何も言えないようにしてやる……。だから、あたしはこの目の前の敵を殺さなくてはならない……!


「ミラ、聞こえるか? 落ち着け。頭に血が登りやすいのはお前の悪い癖だ。そいつは私が生け捕りにする」


仮面の女は、そう通信してきた。


「で、でもっ、あたしはこいつを殺さないとっ、またみんなに馬鹿に……っ!」


他の人の前では絶対に出せない弱みも、指揮官の前では隠すことなく晒すことが出来る。


「そうか……お前はそんなやつだったな」


仮面の女はやれやれという様子で言った。


「だが言っただろう? 私はお前たちを拾ってやったのだ。もし、私がいなければお前たち三人はどうなっていたことか……」


ミラは思い出す。無機質な壁、そして床。血の匂い。自分に対して敵意をむき出しにする同年代の子供たち……。嫌だ。と、ミラは思った。あんな地獄は、二度と見たくない。


「分かった……」


ミラはさっきまでの激昂が嘘のように沈んだ心持ちになって言った。そう、指揮官は機体を生け捕りにすると言った。パイロットを生け捕りにするとは言っていないのだ。だから、指揮官が四機目のハイペリオンを捕まえて艦に戻った時に、パイロットはこの手でなぶり殺しにしてやればいい。

ハイペリオンシュヴァリエはバーニアを吹かしてハイペリオンオメガから離れた。


「デュアルシフト! グリフォーン!」


グリフォーンが飛行機型から人型へと変形した。両翼は背中に移動し、胴体から頭部が飛び出して、ふたつのアンテナが展開した。まるで、猛禽類が翼を広げたような形状のアンテナだ。


その様子をスターペンドラゴンの艦橋から見上げていたアリアが呟く。


「可変機……か。珍しいな。まさかあいつ……。いや、そんなはずはないか……」

「きゅう?」


その言葉に反応したのは、彼女の横で翼をはためかせながら浮遊していたモフ子さんだけだった。


グリフォーンの両腕からワイヤーが飛び出し、ハイペリオンオメガに巻きついた。


「う、動きが……」

「オメガくん!」


ストリクスが光弾を打ち込むものの、オリハルコン合金製のワイヤーは、プラズマ攻撃を弾いてしまう。


「さぁ四機目のハイペリオン、私のところに来てもらうぞ……」


その時、グリフォーン目掛けて上空から光弾が降り注いだ。仮面の女は思わず、ワイヤーをしまい、ハイペリオンオメガから離れた。

オメガは光弾の飛んできた上空を見上げて、息を飲んだ。


「あれは……」


そこにいたのは、いつかアーカムの基地で遭遇した黒いRAだった。赤い横長のモノアイに、頭部の両側から伸びた銀色の角、そして手のひらには光弾を放つための砲口。間違いなく、あの正体不明の黒いRAだ。


「あいつ……今度こそ正体を突き止めて……!」


オメガはバーニアを吹かして黒いRAに向かっていった。黒いRAはそのまま、踵を返して空を飛んでいく。


「逃がすか……!」


オメガは追った。


「オメガくん! 落ち着いてください! そのRAの正体は未だ不明! 危険です!」


クローネが警告しながらハイペリオンオメガを追う。


「だから今から突き止めようと言うんですよ! クローネさん! 僕はあなたと違います! 僕は戦うために造られた人間です……! だから、あなたに出来ないことを、やってみせる!」


そこで、ストリクスの横を猛スピードで飛び抜ける者がいた。ハイペリオンシュヴァリエだった。


「くっ……指揮官は逃がしたが……あたしはあんたを逃がさない!」


ミラはハイペリオンオメガに手を伸ばした。

ストリクスは飛びながら、プラズマスナイパーライフルを背中に戻し、腰元から二丁のプラズマハンドガンを抜いた。


「オメガくん、私はなんと言われようと、あなたを連れ戻します……!」


だがそこで、スターペンドラゴンからの通信が入る。


「クローネ、その先は危険だ。すぐにオメガを連れて戻れ!」


アリアが言う。


「危険って……何が……?」

「磁場異常だ。どうやらあたしら、戦いに夢中になるあまり魔の三角海域に近づきすぎてしまったらしい。魔力をプラズマに変換して撃ち合ったりなんかしたせいで磁場に異常が発生している。最悪の場合、この世界から文字通りの意味で消滅しちまうぞ……!」

「で、ですが……!」


クローネが言った時だった。ハイペリオンシュヴァリエがハイペリオンオメガの足を掴んだ。


「捕まえた……! あんたは、あたしの獲物だ……!」


その瞬間、晴れていた周囲がいきなり雲が湧いてきたかのように暗闇に包まれた。


「え……?」


クローネは驚いて辺りを見回す。

周囲に閃光が走った。前を行く二機のハイペリオンが光に包まれた。その瞬間、ストリクスは見えない力に押し出されるようにして、空間から弾き飛ばされた。


「きゃあぁぁぁっ!」


クローネは衝撃に思わず悲鳴をあげる。

気がつくと、周囲は再び晴れ模様になっていた。ストリクスは海面めがけて落下していった。

だが、途中でストリクスは別のRAに抱きとめられた。それは、月聖神だった。


「クローネ、無事か。あとのふたりは?」


神威からの通信が入る。


「分かりません。ふたりとも光に包まれて……。あの、一体何が起こったのでしょうか……?」

「磁場異常に飲まれたんだ。クローネ、お前もな……だがお前は運良くそこから弾き出された。ちなみに磁場異常に巻き込まれてから今まで、一時間ほど経過しているぜ。敵さんも、狙っていたハイペリオンオメガや仲間や仲間のひとりを失って、そのまま撤退しちまった」

「一時間……そんな……一瞬に感じたのに……」


クローネは呟いた。


「あの、神威さん、オメガくんは、それに敵のパイロットは無事なのでしょうか!? 私みたいに、どこかにはじき出されて……」

「さぁな……」


神威は正直に答えた。


「まだ分からない。突然のことに俺たちも戸惑っているんだ。……だが、魔の三角海域に飲まれた者の行き着く先は、前例から主にふたつ、あるとされている。ひとつは地球上のどこかとんでもない場所に転移しちまう例。もうひとつは……消えたっきり戻って来ない例だ」

「そんな……」


クローネは最悪の結末を想像して沈んだ気持ちになった。もし仮に、オメガくんと二度と会えないのだとしたら、私は……最悪の別れ方をしてしまいました……。


「クローネ、そんなに気落ちするな。俺たちは……少なくとも希望はあると思っている」

「希望……ですか?」

「あぁ、磁場異常に飲まれる前、ハイペリオンオメガから発せられた微弱な電磁波を、我らがスターペンドラゴンの計器は捉えているんだ。電磁波は考えられないほどの速さで俺たちから離れていくところだった。つまり……どこか別の場所への転移途上だったという可能性が高いというわけだ」

「そうですか……私もそれを……信じたいです」


クローネは青い海原を見つめた。オメガくん、どうか無事でいてください……。このまま、仲直りもせずにお別れするなんて……絶対に許しませんよ。



ハイペリオンオメガとハイペリオンシュヴァリエは、黒雲に包まれたような空間から、突如投げ出された。機体は両方とも重力に従って落ちていく。


「くそっ、メインカメラこそ機能しているけど、動かないぞ……こいつ!」


オメガは操縦桿を色々といじるがハイペリオンオメガはビクともしない。それに、外部への通信も使えないようになっていた。

コックピット内に衝撃が走り、機体は地面に落下したことが分かる。隣を見ると、ちょうどハイペリオンシュヴァリエも同様に落下したところだった。


「いっつつ……」


ミラはコックピット内で頭を抑えた。落下の衝撃で頭をぶつけてしまった……。手を離すと、そこには赤黒い液体がついていた。


「許さない……」


と、ミラは言った。


「あたしに傷をつけるなんて……民間人ごときが……。殺してやる!」


ミラはパイロットスーツの腰部に取り付けていた拳銃を手に取る。コックピットハッチの開閉ボタンを押すと、ハッチが勢いよく開いた。どうやらこういう簡易的なシステムは生きているようだ。


オメガはコックピット内から周囲を見回した。ここはどこかの海岸のようである。白い砂浜にサファイア色の海、そして海岸にはヤシの林が広がっている。まるで、絵に描いたような南国の風景だ。オメガは、コックピットハッチを開いて外に出てみることにした。

外に出ると、太陽の日差しが眩しかった。オメガは地面に横たわったハイペリオンオメガの胸部から砂浜に飛び下りる。コックピットハッチは彼の背後でひとりでに閉まった。ハイペリオンオメガの両眼の光が消える。RAは、パイロットが外に出ると自動的に操縦システムがオフになる仕組みなのだ。

だが、オメガがもう少し周囲の様子を観察しようと思った時だ。


「てめぇ、やっと姿を見せやがったな! この場で殺してやるっ!」


何者かが襲いかかってきて、オメガは砂浜の上に押し倒された。彼に跨り、拳銃を突きつけてきたのは、金色の髪をした小柄な少女だった。髪型は三つ編みアップヘアにしている。瞳の色は赤色、年齢は、13歳かそこら辺に見える。灰色地に赤いラインの入ったパイロットスーツを着ているところを見るに、彼女がハイペリオンシュヴァリエのパイロットなのだろう。彼女は、物凄い殺気でオメガの喉元に拳銃を押し付けてきた。


「あたしは、あんたを、この場で……この……場で……」


と、思ったらみるみるうちに殺気が弱まってきた。


「かっ、可愛い! 無理!」


一瞬のうちに彼女は拳銃を投げ捨ててオメガに抱きついてきた。


「えっ、え、何……!?」


オメガは状況の整理が追いつかなかった。


「あんた、名前は? 歳は? あたしより歳上? それとも歳下? 好きなタイプは?」

「え、えっと……オメガ……グリュンタールです。年齢は十五歳で……」


と、オメガは戸惑いながらも例の書類に書かれた偽造年齢を答える。


「十五……じゃあ、あたしより歳下だね! ますます大好き!」


少女は、さっきよりも強くオメガを抱きしめた。


「痛い痛い、首が絞まっちゃうよ……」

「ごめん……そうだよね……いきなり襲われて怖かったよね……」


オメガは大きく頷いた。だが、少女は気にする様子もなく、オメガから身体を離すと言った。


「あたしはミラ・セイラム! 年齢は十六歳で……今はハイペリオンシュヴァリエのパイロットをやっているの」


思ったより歳上だった……。と、オメガは思う。


「あの……ミラちゃん……って呼んでいいかな」

「いいっ! むしろそう呼んでっ!」

「君……怪我をしているよ」


オメガはミラの額に手を当てた。


「そ、そうなの……ここに落ちる時にぶつけちゃったみたいで……」

「はい、治ったよ」


オメガはミラの額から手を離した。


「えっ、嘘、何がどうなってるの!?」

「気にしないで。あんまり自慢したくない能力だから……」

「そう……オメガくん……って呼んでいいかな?」


オメガは頷いた。


「あぁもう大好き! どうしてオメガくんはそんなに可愛いの? ……じゃなくて……オメガくんはここがどこだか分かる?」

「分からないけど、多分どっかの南の島だよ。本で読んだことがある」


オメガは立ち上がりながら答えた。


「そう……南の島……バカンス……オメガくんとふたりっきり……何も起こらないはずもなく……ひゃあぁっ、あたしってばなんて罪なことを考えちゃってるのぉ!?」


ミラは両手で顔を覆った。


「大丈夫? まだどこか痛むの?」


オメガは尋ねた。


「ううん、そんなんじゃあないの……。ただ、他に誰かいないのかなって……」


もし、あたしたちのバカンスを邪魔する虫がいたら徹底的に殺し尽くしてやる。


「そうだね……誰かに助けを求めないと、食べ物とか水とか、手に入らないかもしれないし……」


オメガは思案するように言った。


「で、提案なんだけど、ミラちゃん。僕たちでこの島を探索してみない? そうしないことには何も始まらないだろうしね」

「うん、する……」


あぁ、これってもしかしてデートのお誘い……? 誰もいない南の島でこんな可愛い男の子とふたりっきり……あたしってば貞操を保てるかしら……?

ミラはオメガに飛びつくようにしてその手を握った。ちょうど、手のひらを合わせるような手の繋ぎ方だ。


「面白い手の繋ぎ方をするね」


オメガは言った。


「うん! 恋人繋ぎっていうの!」

「コイビトツナギか……。うん、覚えておくよ」


ふたりは歩き始めた。方や生き残るため、そして方や幸せを手にするために。

魔の島、そこは南海の魔窟。

ふたりの若き魂が地に立つ時、黒き魔女が姿を現す。

その姿は光か闇か。

魔女はふたりを導き、運命の海原に飛び込んでいく。

次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『魔女の棲む島』。

運命は、潮の流れに導かれる。

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