第40話 復讐の果てに・1
オメガ・グリュンタールたちはルルイエ遺跡へと向かう。
しかし、そんな彼らを追跡する影があった……!
クローネが手を離すとロンギヌスの槍は青く光る海中へと落ちた。槍は海の底へと沈んでいく。
「これで……いいんですよね?」
彼女の隣に立つオメガは尋ねた。スターペンドラゴンの甲板部分にはこのふたりの姿しかない。
クローネは頷いた。
「私は……力を持つことが正義だとは思っていませんから」
彼女はまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。そしてオメガに背を向けて立ち去っていく。オメガはそんなクローネの姿に首を傾げた。
その日の昼、オメガは食堂にて手料理のガパオライスをダンとシルフィに振舞っていた。
「おふたりが残ってくれて……良かったです」
オメガはニコリと笑うと言った。
「フローラさんは船を降りちゃいましたけど……」
「まぁアイツらしいな。アイツは自分のやりたいことに正直だから」
ダンがスプーンでご飯をかき混ぜながら言った。
「それに聞きました」
オメガは続ける。
「ダンさん……RAに乗るんですよね?」
「あぁ、あのティラエとかいうやつが置き土産を残しておいてくれたからな。RAの操縦は久しぶりだが、お前たちの力になれたらと思っている」
「すっごいんですよ!」
シルフィが言った。
「ダンはなんたって世界を救った英雄ですから!」
「シルフィ、大袈裟だ」
ダンは返した。
「あの……」
とオメガは新しい話題を切り出した。
「クローネさん……なんか元気がないみたいでした。どうかしたんですか?」
「オメガ、それは……お前がお前自身で聞き出してやれ」
ダンは言う。
「え……?」
「それがあいつと付き合っているお前の役目ってもんだろう?」
ダンはオメガの頬をつまんだ。オメガは少しだけ恥ずかしいような気がして顔を赤らめた。
クローネはひとりでスターペンドラゴンの廊下を歩いていた。
「クローネさん! 見つけました!」
だがそこでオメガに声をかけられ、彼女は振り返った。
「オメガくん……?」
「なんか……元気がないみたいでしたから……。お昼、もう食べました? ガパオライス、クローネさんの分も余ってますからね」
オメガは言った。
「ありがとうございます……」
クローネは返す。
「どうしたんですか? どっか悪いとか……」
オメガはクローネに歩み寄ると心配そうに見つめる。
「いえ、そうではなくて……」
「じゃあ……もしかして僕がなにか……。あっ、クローネさんの誕生日なら忘れてませんからね! もうすぐですよね?」
「違います……。『力の意味』について考えていました」
「力の……意味?」
オメガは聞き返す。
「はい。エウロペ大陸を出る時に、ライラさんと話しました。どうしてハイペリオンオメガVVに封印されたはずのアブソリュートシステムを搭載したのかと。彼は言いました。『邪神に対抗するためには、究極の力が必要だ』と……」
「ライラさんがそんなことを……。でも、ライラさんは決して自分の道を見誤るような人じゃあありません! ちゃんと自分のしたことには、しざるを得なかったことには責任を感じて……」
「わかってます。でも……」
「クローネさん」
オメガは言った。
「僕はもう迷いません。僕は与えられた力を正しく使ってみせます。それに……この戦いが終わったら……あの機体は封印するつもりです」
「封印……?」
「あの力が恐ろしいことは僕にもわかりました。だから絶対にハイペリオンオメガVVも、それに類似の後継機も造らせてはいけない。僕は戦いが終わったら、あの槍のように誰にも手の届かない場所にあの機体を送るつもりです。例えば……」
オメガは天井を見上げた。
「僕たちの誰もが手の届かない。太陽の炎の中とか……」
「頼もしくなりましたね」
クローネは少しだけ誇らしげに言った。
「クローネさんが居てくれるからです」
*
ラムダ・プロメテウスはケンタウロス海の海底に停泊した戦艦の艦橋にいた。彼の隣にはサザームの姿もある。
「なぁ……サザーム……」
ラムダはサザームに声をかけた。
「あんたに……世界に復讐をしろと命じた奴は……」
「滅びた」
サザームは答えた。
「彼らは私が思うよりも遥かに強かった……」
彼の声は少しだけほっとしているようにも聞こえた。
「あんたは……」
ラムダはかねてから思っていた疑問を口にする。
「もう元から復讐をするつもりなんて消え失せているんじゃあないか?」
サザームは銀色の仮面をラムダに向けた。
「お前はどうなんだ?」
サザームは聞き返す。
「お前は姉と弟に敗北した。お前は……」
「俺はあんたとは違う」
ラムダは言い返した。
「俺はあいつら相手に……復讐を遂げる!」
そう言うとラムダは艦橋を出ていった。
*
ケンタウロス海を航行していたスターペンドラゴンは補給のためにアラビア帝国西岸の都市、ヌアクショットに立ち寄っていた。オメガはアギリを伴ってその街の市場を歩いている。
「オメガ……どうして僕までお前の買い物に付き合わされなくちゃあいけないんだ?」
アギリは少しだけ文句を言うようにそう言った。カラフルなテントが張られた市場は地元の人間や観光客たちで大いに賑わっている。
「どうしてって……ついてきたのはアギリさんの方ですよね? 僕が出かけようとしているのを見つけて……」
「お前はひとりでいると何をしでかすかわからないからな」
アギリはオメガから顔を背けた。
「どうなんだ?」
それから彼は問う。
「どうって……何がですか?」
「ゼロムさんと……あとはあのガキたちだ。ゼロムさんは記憶を取り戻しそうなのか?」
オメガは首を横に振る。
「わかりません。ミラちゃんはなにか思うところがあるみたいでずっとゼロムさんに付きっきりですけど……」
「あいつはあいつであのふたりの子供とは気が合うんだろうな。自分も子供みたいなもんだし……」
*
ミラ・セイラムの手に握られていたボールペンがへし折られた。
「ミラ姉ちゃん、どうしたの?」
彼女と同じ部屋にて、お絵描きをしていたガイが尋ねる。
「ううん、なんか嫌な感じがしただけ……」
ミラは言った。
「そ、そう……俺、ミラ姉ちゃんのことが好きだな」
「はっ!?」
「いや、別に変な意味じゃあないよ。ただ、ミラ姉ちゃんは優しいし……エクス兄ちゃんが記憶を取り戻すように頑張ってて……」
「あたし、約束したから……」
ミラは言う。
「ゼロムを絶対に笑顔にするって。だから、たとえ記憶がなくってもその約束は果たさなくっちゃ」
ミラは新しいボールペンを手に、ガイのお絵描きを手伝いながら言った。
*
「で、オメガ……今日はなんの買い物なんだ?」
アギリが尋ねた。
「それ、わからないで来てたんですか……? もうすぐクローネさんのお誕生日ですから、そのお買い物ですよ。でもクローネさん……どんなものが欲しいのかなぁ」
「本人に訊いてみたらどうなんだ?」
「それだと開けるまでの楽しみがないじゃないですか! まったく……そんなんだと女の子にフラれますよ」
「余計なお世話だ」
アギリはオメガから顔を背けた。
「まぁ、だが……お前の妙なセンスだと変なものを買ってきかねないからな……僕も監修くらいはしてやるぜ」
「信用ないなぁ」
オメガはため息をついた。
その時、港の方で人々の悲鳴が聞こえ、警告用の金を打ち鳴らす音が聞こえた。
「何事だ!?」
アギリが辺りを見回す。オメガの腕輪型通信機が鳴り、そこからクローネの声が聞こえてきた。
「オメガくん……敵襲です。しかも因縁の相手……です」
「因縁の相手?」
オメガは聞き返す。
*
ヌアクショットの軍港上空を飛ぶのはオレンジ色のRAだった。ラムダ・プロメテウスのRA、イリアム=オリュンポスである。
「出てこい! オメガ……! お前は俺を否定した! だから俺は! 兄としてお前を……!」
だがそこに、半透明の装甲を青く発光させたメルセデスが突撃してくる。
「あなたはまだそんなことを……!」
RAを駆りながらガンマは言った。
「姉さん……! 姉さんは! どうして! なんで! なんで俺のこの気持ちがわからないんだっ!」
イリアム=オリュンポスはビームセイバーを展開した。メルセデスも装甲の色を緑色に戻し、同じようにビームセイバーを展開する。2本の光刃は互いにぶつかり合い、火花を散らした。
だがふたりは気づいていなかった。戦場となっている軍港の海底を一筋の影が泳行していることに……。
その影は、突如海上に飛沫を上げて飛び出すとイリアム=オリュンポスの左足首に巻きついた。
「なんだ……!?」
ラムダは目を丸くする。それは1本の触手の切れ端のようなものだった。ガンマはその見た目にどこか見覚えを感じた。
「あれは……!」
シルフィからの通信がメルセデスのコックピットに入る。
「大きさこそ遥かに小型化していますが、ローマに現れた邪神と同じものです! 恐らくはあの邪神の肉片の一部が奇跡的に生き残り、それが私たちを復讐という名の本能に従って追ってきたものかと!」
「復讐……」
ガンマは呟いた。軍港に停泊していたスターペンドラゴンから光弾が飛んでくる。光弾は海中から飛び出した触手の切れ端を打ち砕いた。
ガンマが振り返って見るとミネルヴァΔが戦艦の甲板にビームバイオネットをガンモードにして立っている。
「ガンマさんは……これは私たち姉弟の戦いだと言いましたが、これくらいの援護ならいいですよね。相手は邪神ですから」
クローネの通信が入る。ガンマは無言で頷いた。だが、攻撃をくらったはずの触手はみるみるうちに再生を開始した。
「な……なんだ……ぁ!?」
ラムダの目が恐怖に見開かれる。触手は成長し、イリアム=オリュンポスの脚部装甲を砕きながら這い登ってきた。
「ラムダ……!」
ガンマが叫ぶ。
「あの触手……ラムダさんを乗っ取ろうとして……!?」
クローネのミネルヴァΔがバーニアに点火をして空中に飛び出す。
「今のうちに切断すれば!」
ガンマはメルセデスのビームセイバーをイリアム=オリュンポスに突き立てようとした。だが、触手の一部が分離して攻撃用の触手となりそれを弾く。触手はみるみるうちにイリアム=オリュンポスを這い登り、そのコックピットに到達した。
「く……どうなっていやがる! 俺が……俺が……こんな終わり方!」
ラムダはノイズが走る外部映像、そしてスパークする計器類を見ながらアブソリュートモード用のクリスタルに手を伸ばす。だが、アブソリュートシステムを起動する前にクリスタルが砕け散った。そしてコックピットの正面が砕け、無数の小さな触手の枝が襲いかかってくる。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ! やめろっ! こんな終わり方! 俺は認めねぇ! 俺は……っ! 復讐をっ!」
更に無数の触手がコックピットの四方を破って侵入し、ラムダの両腕両脚を包み込む。
「嫌だっ! 嫌だ! 助けてくれ! 誰か! 姉ちゃん……!」
「ラムダ……!」
ガンマは思わずメルセデスに手を伸ばしかける。だがそんなメルセデスをミネルヴァΔが羽交い締めにした。イリアム=オリュンポスはもう全身を無数に枝分かれした触手に覆われている。
「離して……! 私は……! ラムダを……!」
「だめです! 今行ったらガンマさんまで巻き込まれます!」
「でも……!」
「……っあぁ……」
ラムダはコックピットの中で項垂れるような体勢になりながら呟いた。
「馴染むなぁ! 俺と同じ、復讐に囚われた人間の身体は!」
ラムダは顔を上げると叫んだ。彼の顔には血管状に張り巡らされた小さな肉の筋が浮き上がっている。
「く……くかかかかかかかか、おもしれぇ……おもしれぇよ……。姉ちゃぁん! 俺ともっと遊んでくれよなぁ! くかかかかかかかか!」
イリアム=オリュンポスをおおっていた触手は動きを止め、それぞれの場所に落ち着いた。機体はまるで装甲が割れてそこから肉の筋が飛び出して身体をおおったような禍々しい姿へと変容している。
「さぁ、姉ちゃん! いくぜ!」
イリアム=オリュンポスが斬りかかってきた。
後半へ続く!




