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第39話 さらばモフ子さん・2

 前半の続き!

 巨大モフ子さんは、今までのモフ子さんをそのまま巨大化させたような見た目をしていた。ただ、その大きさは数キロメートルはあるように見える。そんな巨大モフ子さんがローマの街を覆い尽くしているのだ。


「モフ子さんが……!」


 オメガは目を丸くした。


 *


 触手群を相手に戦っていたアギリとロヴェナも、突如上空を覆い尽くすように出現した巨大で白いモフモフの生物を見上げた。


「な、なんなの……あれ……」


 ロヴェナは息を飲む。


「あいつ……モフ子さんなのか?」


 アギリが言った。ということは指揮官はこのことを知って……。アギリは己の目が信じられないという様子で首を横に振った。


 *


 クローネ、ミラ、ティラエの三人も上空を見上げた。


「あれって……どう見ても……」


 ミラが言う。


「モフ子さんですよね」


 クローネが言った。


「で、でもあんなにおっきな生き物だっけ?」


 ティラエが訊く。


「いいえ、でも、あの見た目はどう見てもモフ子さんです」


 クローネは言う。


「何が起こってるの?」


 ミラは呟いた。


 *


 ウィンダーとガンマも戦う手を止めた。


「モフ子さん……?」


 ガンマが言う。ウィンダーは何も言わなかった。


 *


 スターペンドラゴンの艦橋でもローマ上空に出現した巨大な生体反応は観測されていた。


「ローマ上空にて超巨大な生命反応を確認、その大きさは、数キロメートルにもわたるものと思われます!」


 シルフィが分析用コンピュータを覗き込みながら言った。


「数キロメートルだって? そんな生物が……」


 ダンは言う。


「今、ローマ方面の映像をモニターに出しますね!」


 シルフィは言い、艦橋前方に備え付けられた大型モニターにローマ上空の様子が映し出された。そこでは巨大化したモフ子さんがローマの街を見下ろすように浮遊していた。


「あれは……」


 フローラが呟く。


「モフ子さん!?」


 アリアが唖然とした。


「モフ子さん、ということは……」


 マイがガイと顔を見合せた。


「オメガ……」


 エクスが呟く。


「お姉ちゃんのアドバイス通りだったんですね」


 シルフィが言った。


「で、でも……これから何をするつもりなんすか? 巨大モフ子さんは……」


 レアーノが疑問を口にする。


「それは見てのお楽しみというやつだ」


 そんな声とともにディーナが艦橋に入ってきた。彼女は腕を組むと続ける。


「この先のことは私も知らない。ただあのモフ子さんなら戦場に行きたがるだろう。そう思っただけだ。それに、もしあの巨大な異形の肉塊が邪神化したナイアーラならば対抗できるのはモフ子さんくらいなものだしな」

「お姉ちゃん……」


 シルフィが呟いた。


「紹介しよう」


 ディーナは巨大モフ子さんが映し出されたモニターの前に進み出て言う。


「あれこそはモフ子さんの真の姿。あえて名付けるならば……邪神モフ子さんといったところか」


 *


 巨大モフ子さん改め邪神モフ子さんを見上げていたオメガの頭に激痛が走った。オメガは顔をしかめるが、すぐに痛みは収まる。


「オメガ……少し痛んだか。すまなかった。だが私の意識とお前の意識とを今、コネクトした」


 脳内に渋い大人の男の声が響いてきた。


「だ、誰……ですか?」


 オメガは通信機器を確認したり周囲を見回したりしたもののどこから発せられた声なのかわからなかった。


「違う。上を見るのだオメガ」


 オメガはハッとして邪神モフ子さんを見上げた。


「まさか……」

「そうだ。お前たちが『モフ子さん』と名付けたこの私がお前に語り掛けているのだ」

「モフ子さん……」


 オメガは言った。


「男の子だったんですね! ずっと女の子とばっかり……」

「オメガよ。私はお前に感謝をしている。お前といた日々は、尊く、そして楽しかった。本来この時空の外からやってきた私は、地球人類の楽しみなど知るはずもなかった。私は人類の監視のために我々の時空より送り込まれた存在なのだからな」

「そうだったんですね……」


 オメガは思い返した。だからあの時、カーター教授の屋敷でモフ子さんと出会ったのだろうか。きっとカーター教授は邪神たちの真実に近づこうとしていたんだ。そんな彼を監視するためにモフ子さんはあの屋敷に向かった。そして教授に拾われた。だが教授はルルイエに眠る別の邪神の精神干渉を受けて自殺してしまった。パートナーのいなくなったモフ子さんを、今度は僕が拾ったというわけだ。


「私の当初の目的は、以前に引き続き、今度は邪神に近づこうとしているお前たちの監視だった。しかし、お前たちと交流するうちに、私はお前たちが最も重んじるもののひとつでもある『感情』あるいは『心』というものを感じるようになってきた。特にオメガ、お前はこの私をまるで友人のひとりのように扱ってくれた。私はお前たちの監視という本来の役割以上に、お前たちと共に過ごす日々を尊く、楽しいものと感じるようになった」


 邪神モフ子さんは続けた。


「おそらく、あのディーナという娘は私の正体に気づいていたのだろう。さすがはルルイエ神聖教団の実働部隊指揮官だけある。知識として地球上に存在する邪神についてある程度知っていたのだろうな。私は彼女にも感謝をしている。私の気持ちをくみ取りここまで連れてこさせてくれたのだからな。しかも、その任務をオメガに与えてくれた」

「どうして……僕じゃあなきゃいけないんですか? モフ子さんは……」

「お別れを言わなくてはならない」


 モフ子さんは落ち着いた声で言った。


「え……」


 オメガの瞳が揺らいだ。


「私は数ある人間たちの中でもお前に最も世話になった。そしてお前のことが好きだった。だからだ……。ナイアーラは強敵だ。なぜなら私と同じ邪神なのだから。彼は私とは違い人間界を狂気で満たすことを何よりの楽しみとしている。彼が世界を滅ぼすのは純粋な遊戯のためだ。彼にとって世界は、ただのゲーム盤にすぎない。そして人の心を知ってしまった私は、彼を許すことができない」

「でも……他に方法が……!」


 オメガは少しだけ涙ぐんだ声で言った。


「モフ子さんが犠牲にならなくても、僕たちが頑張って……」

「不可能だ。ナイアーラを今この場で倒せるのは同じ邪神であるこの私のみ。悩んでいれば、彼はその触手を地球内部のマントルにまで伸ばし、大地のエネルギーを吸い取ってこの星を文字通り死の星へと変えてしまうだろう。時間がないのだ。本来なら私も、お前たちの最終決戦。すなわち遥かなる異空から現れる『外なる神』との戦いまで付き合いたかった……。だが、それよりも前に倒すべき敵が目の前に現れてしまったのでな。すまない、だが諸君らの今後の健闘を祈る」


 モフ子さんがそう言うとローマの空は目もくらむほどの白い光に包まれた。


「モフ子さぁぁぁぁぁぁぁん!」


 オメガは手を伸ばす。地面が大きく揺れた。ローマの中心街で何かが爆発するような大きな音がした。

 やがて、強い閃光は収まった。オメガが街の方を見ると、かつての宮殿、現在の地球防衛軍本部は跡形もなく消滅し、大きなクレーターができていた。あれほど大量に出現していた触手たちは全て消滅していた。そして、空の色は元の青い色に戻っていた。

 その時、モフ子さんを外に出した時から開きっぱなしだったコックピットハッチの真正面によく見慣れた姿が現れた。それは、いつもの大きさに戻ったモフ子さんだった。


「モフ子さん! 生きて……」


 オメガはモフ子さんに手を伸ばす。


「いいや、これで本当のお別れだ」


 モフ子さんは言った。よく見るとその真っ白い毛はところどころ黒く焦げ付き、飛び方も弱々しかった。


「ただ、これだけは言わせてくれ」


 モフ子さんは渋い声を必死に絞り出しながら言った。


「邪神は、手強い。今の私でも相討ちが精一杯なほどにな……。しかし、しっかりと準備しておけば、お前たち人類でも必ず勝てる相手だ。外なる神から地球を守りたくば、まずは地球人類の力を全て結集させろ……さすれば勝利への道も見えてくるだろう」


 モフ子さんの身体がボロボロと崩れ始めた。


「モフ子さん……そんな……これでお別れだなんて……」

「さらばだオメガ。遥かなる異星の友よ……」


 モフ子さんの身体は完全に崩れ去った。風が吹き、彼の身体はサラサラと砂の城が崩れる時のように飛び去っていった。


「モフ子さん……」


 オメガはこぼれ落ちてくる涙を拭った。


「僕は……あなたを……忘れません。さようなら、モフ子さん……」


 ローマでの戦いはこうして終結した。地球防衛軍は本部が消滅したことにより、事実上組織としても再編が急がれる状態となった。幸いにして、シェヘラザード姫が地球防衛軍の総司令官に再任されることによって、組織そのものが消滅することは避けられた。そして、スターペンドラゴン隊は世界の裏切り者というレッテルを剥がされ、正式に地球防衛軍の一部隊、さらには今回の事変の最大の功労者として復帰することが出来た。

 だが喜び勇んでいる暇はなかった。スターペンドラゴンとティンダロスは、かねてからの謎にして世界にとっての真の危険因子でもあるルルイエ遺跡に向かわなければならなくなった。また、これに伴って部隊の再編も行われた。ティラエは艦を降りることになった。彼女は故郷に帰り、アディーラの弔いをするということだった。また、同時にフローラも艦を降りた。フローラの場合は魔女教団の司教として仕事が山積しているからだという。あの人、いつも暇そうな遊び人に見えるんだけどなぁとオメガは不思議がった。ダンとシルフィは艦に残った。また、ダンにはティラエの代わりにアンフィプテラが支給された。ふたりは関わってしまった以上、途中で投げ出すつもりはないということだった。どっかの偽悪的魔女さんも見習って欲しいとオメガは思った。エクスとマイとガイも艦に残った。3人はエクスの記憶が戻るまで付き合うということらしい。


「お前が聞いたっつーモフ子さんの言葉だと、世界人類の皆が協力すればいずれ来るであろう邪神を倒すことが可能ということだったな?」


 ロマニア海を出て、ケンタウルス海を航行していたスターペンドラゴンの廊下で、アリアはオメガに尋ねた。ふたりは廊下でばったりと出くわし、モフ子さんの最後についてと今後の作戦について話していた。


「はい、そう言ってました……」


 オメガはモフ子さんのことを思い出して沈んだ顔をする。


「しっかし驚いたなー。あのマスコットキャラだと思ってたモフ子さんが人間の言葉を喋るなんてさ」

「そうですね、すごいイケおじボイスでした」


 オメガはやはり沈んだ様子で言う。


「やっぱり、寂しいか」


 アリアは訊く。


「はい、寂しいです。あれがモフ子さんの選んだ最善だとは分かってるんですけど……」


 アリアはオメガの頭に手を乗せた。


「ったく、悲しむなとは言わないが、もっと自信を持て。お前のおかげでモフ子さんは人の心に目覚めた。お前のおかげで多くの命が救われたんだからな」

「でも……僕は……」

「モフ子さん、感謝してたんだろう?」


 オメガは頷いた。


「だったら、もっと誇りを持ってもいいと思うぜ」


 アリアはオメガの頭をぽんぽんと叩くとその場を去っていった。


「そうですよ。オメガくん」


 オメガはその声にはっと振り返った。そこにはクローネが立っていた。


「モフ子さんはオメガくんと一緒にいれてきっと幸せでした。それに、これからも、彼のために頑張らないとですね」

「モフ子さんのために……?」

「はい、全世界が力を合わせて邪神に立ち向かう。それがモフ子さんの作戦でしょう?」


 クローネは言った。

 オメガは頷いた。


「あっ、そうだ。オメガくん……実はオメガくんにこれ、届けに来たんです」


 クローネは赤い包装紙に包まれた小さな箱をオメガに手渡した。


「これは……?」

「オメガくんが元気を出すようにって思って作りました。オメガくんほど上手くはできていないかもしれませんが……」


 クローネはにこりと笑って言った。


「あの、これ、開けていいですか?」

「はい、開けてみてください」


 クローネはオメガの反応が楽しみだという様子で言った。

 オメガはクローネの前できちんと綺麗になるように苦労しながら包装を開け、中の箱の蓋を外した。そこには、ひと口大のチョコレートがいくつも並んでいた。


「ちょっと早いですけど、もうすぐ好きな人にチョコレートを送る日がくるみたいですから」


 オメガはチョコレートをひと粒、口に運んだ。上手くできているとは言い難かったが、それでも、オメガにとっては絶品のチョコレートだった。

 銀の仮面は世界を映す。

 炎の獅子はその牙を研ぐ。

 復讐の名のもと、少年は闇に呑まれ、刃を振るう。

 その心を解かすものはいずこに。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『復讐の果てに』。

 過去は、未来への一歩。

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