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第38話 ローマにて・2

 前半の続き!

 ミラ・セイラムはハイペリオンシュヴァリエを駆り、ゲルマニアの量産機、ドーベルを次々と撃墜していった。だが、そんなミラの前に一機の魔動機が現れる。魔動機は、白いボディに紫色のラインが入ったデザインをしていた。頭部には金色のアンテナが2本ついている。


「魔動機……!」


 ミラはその機体と対峙する。背中にはウイング状のパーツが取り付けられた天使に近い見た目をしている機体だ。


「あんたが……敵の部隊のリーダーなの?」


 魔動機のコックピットでロヴェナ・ジュネーヴは呟いた。


「だったら……今ここであんたを倒す!」


 ロヴェナは自身の機体にビームセイバーを抜かせるとハイペリオンシュヴァリエに斬りかかった。両者の光刃がぶつかり合う。

 ハイペリオンシュヴァリエの周囲では、味方機が次々と撃墜されていった。


「くっ……」


 ミラは顔をしかめる。


「このままじゃあまずい……っ! やっぱり多勢に無勢……!」


 だがそこでミラのところに通信が入る。


「ミラちゃん、大丈夫?」

「あっ、オメガきゅうん」


 ミラはオメガの声に咄嗟に力を弛めてしまう。ハイペリオンシュヴァリエの顔面にロヴェナの機体の拳が命中した。


「ミラちゃん!」


 ハイペリオンオメガVV(ブイツー)がハイペリオンシュヴァリエを受け止める。


「うん……ありがとうオメガきゅん」


 ミラは幸せそうに言った。


「ったく、無事そうで何よりだ」


 アギリが言う。そしてロヴェナの魔動機に斬りかかった。

 ロヴェナは防戦一方になる。


「むっ、無理! 死にたくない……!」


 ロヴェナは相手の容赦ない攻撃に機体を後退させた。


「おい、オメガ……こいつ……てんで怖がりちゃんだぜ。というかポンコツなんじゃ……」

「ゲルマニア……。ポンコツ……」


 オメガはハッと気がつく。


「アギリさん! そのパイロット、もしかして……」


 オメガは相手のコックピットに通信をかけた。


「ロヴェナさん、お久しぶりです」

「っ……! オメガ……!? どうして……」

「あなたこそどうしてそこにいるんですか? あなたは確かゲルマニアのポンコツ諜報員……」

「ポンコツは余計だけど……。で、でもオメガがいてくれて助かった!」


 ロヴェナは自身の機体をハイペリオンオメガVVに抱きつかせた。


「あーっ! ちょっとあんた、どういうつもり!?」


 ミラが通信を入れる。


「オメガくんに勝手に抱きついていいのは猫さんだけって思ってたんだけど!?」

「私、RAパイロットに昇格されて……でも、戦場に立つの、怖くて……」


「何をやっているんだ? ロヴェナ……」


 艦橋で、二機が抱き合うさまを見ていたブルームは呟いた。


「ロヴェナ……! 何をやっている?」


 ブルームは慌ててロヴェナの機体に通信をかけた。


「な、何って……大統領! もうこういうの、やめましょうよ! 私、この人たちと戦いたくありません!」


 それからロヴェナはふっと我に返ったように、言ってしまった……という表情をした。


「どういうことだ……? お前は我が国のために忠義を尽くし……。それに約束したではないか。この私と契りを結ぶと……」

「大統領……って、まさかそこにいるのは!」


 通信を聞いていたオメガはハッとした。


「え、えへへ……そういうこと」


 ロヴェナは言った。


「くっ……」


 オメガの頭に色々な思考がぐるぐると巡った。もし、今ここでブルーム・ローゼンハイム大統領を討ち果たせばエウロペ大陸に平和がもたらされ、奴隷のような扱いを受けていた異種族たちも皆、解放されるだろう。でも、ロヴェナと大統領の間にはなにかありそうだ。それにここで僕が独断で斬り込んで行って何かあったら、作戦に狂いが……。


 その時、大統領は呟いた。


「撃て……」

「は、はい……?」


 艦の砲撃手が言った。


「撃てと言っているんだっ! ロヴェナ・ジュネーヴ諸共、あの機体を始末しろ!」

「し、しかしロヴェナはあなたの……」

「構わん。私は国家を愛している。それ故に……」


 艦の乗員たちが一斉にブルームへと拳銃の銃口を向けた。


「どういうつもりだ?」


 ブルームは落ち着き払った声で言った。


「ヴィル、お前はこの国よりも娘が大切だと?」


 銃を構えたまま前に進み出たヴィルにブルームは言う。


「当たり前です」


 ヴィルは言った。


「あなたは国を愛した。その心に間違いはないでしょう。ですが、国は最後の最後であなたの愛に愛想をつかしたのです。我々は、あなたの愛に応えることができない。あなたは人の心を知らなすぎた」


 そしてヴィルは、引き金に指をかけた。


「これは、我が娘を守るためだけではありません。この計画は元々進行していました。私が守りたいものはあなたと同じです。大統領」


 艦橋に銃声が響いた。


「え……」


 ロヴェナはその音を聞いて目を丸くした。


「総員に告ぐ」


 ヴィルの声が戦場にいるゲルマニア共和国軍全機に転送された。


「パパ……?」


 ロヴェナが呟いた。


「独裁者は倒された。我々はこれより戦場を離脱し、祖国へと帰還する。だがこれは命令ではない。もし大統領の意志を継ぎ、我々に対し仇を討とうというものがいるのならば私は止めないし、戦いを続けたくばここに残るがいい。私は決して止めることはしない」


 それから、戦艦は船体を旋回させて戦場に背を向けた。


「ロヴェナ……帰るぞ」


 ヴィルはロヴェナだけに通信をかけてそう言った。


「待って……!」


 ロヴェナは父に言う。


「私を……もう少しここに残らせて……」

「そうか……いいだろう」


 父からの通信はそう言って切れた。


「の、残るって……どうして……」


 オメガはやや緊張がほぐれたような気がして言った。戦闘を続行しようとする機体はいなかった。


「ウィンダー、それにガンマか……。援軍に向かってきてくれているところ悪かったな。詳しくは後で説明するが、敵が撤退した……」


 アギリは増援に向かおうとしていたウィンダーたちの部隊に通信をかけた。


「私、あなたたちに仕事とはいえ酷いことをしちゃったなーって……何回も騙そうとしたし……脅したし、色々と……」

「全部実害はなかったし、大丈夫だよ」


 オメガは言った。


「いや、そういう意味じゃあないと思うけど……?」


 ミラがツッコミを入れた。


「え、そうなの……?」

「と、いうか……お前、いいのか? さっきの話の流れだと大統領には求婚されてたみたいな感じだったが……」


 アギリは指摘する。


「ま、私ってば可愛いからねぇ。大統領に惚れられちゃったみたいで……」

「自分で言うのか……」


 アギリはため息をついた。


「でも、もういいの。あの人って多分、私なんかよりも本当は国の方が大好きだったから……。私なんて国民へのお飾りに過ぎなかったんだと思う」

「っていうかあんた! いつまでそうやってオメガくんの機体にひっついてるわけ!? いい加減に……」


 ミラが言うとロヴェナは慌てて機体を離した。


「ごめん! で、でも私は断じてそういうんじゃあないからねっ! ただ怖かったからオメガに抱きついちゃっただけで……」

「いや、誰もそういうのは心配してないから……」


 ミラはため息をついた。


「で、君はこれからどうするんだ……?」


 オメガは訊いた。


「分からない。お父さんと一緒に新しい国づくりを目指すかもしれないけど……」


 それからロヴェナは遠ざかっていくゲルマニア軍の方に向けて機体のバーニアを吹かし、向かった。


「でも、生きるってそういうことでしょ? 先のことは分からない。だからこそ人は、自分の信じた方に一生懸命に向かっていく。って」


 ロヴェナは通信を切ると仲間の艦隊の方へ向かって飛び去っていった。


「ポンコツなのに……最後だけいいことを言っちゃってさ」


 オメガは呟いた。


「ったく、とんだアクシデントってやつだな」


 アギリが言った。


「だがまぁ、これで今度こそクローネやティラエの交渉が成功してくれるのを待つだけだ」


 *


 クローネ・コペンハーゲンおよびティラエ・マラガはロマニア海海上に停泊した白い戦艦の艦橋にて、ギムール・ギマラインシュ元帥およびライラック・ソフィア総督と対面していた。ローマ連邦の旗艦とあるだけあり、豪華かつ洗練されたデザインの艦橋だった。後方にかかった垂れ幕にはローマ連邦の象徴、月桂冠にSPQRの文字が書かれた紋章が刺繍されている。


「クローネ、久しぶりだな。元気にしていやがったか?」


 ギムールは楽しそうに笑いながらクローネの頭を撫でた。


「ぎ、ギムールさん……その……」

「やめてあげてください、クローネが迷惑そうな顔を……」


 ライラックが指摘する。


「ったく、分かってるって。俺は今でもフローラちゃん一筋だからな」


 ギムールはニヤリと笑って言った。ギムール・ギマラインシュは銀色の髪をした背の高い男だ。


「えーっと、クローネに……君は……」


 ライラックの視線がティラエの視線とぶつかる。


「マラガです。ティラエ・マラガ」

「マラガ……?」


 ライラックは言った。


「私の父はあなたに殺されました」


 ティラエは言った。


「でも、私はあなたを恨んでいません」

「そうか……」


 ライラックは沈んだ表情をする。


「い、いやまぁとにかく、だ。俺はお前たちが世間が言うように世界の反逆者なんかじゃあないってことはよく知ってる。なんたってあのフローラちゃんがいるって言うからな。あぁ、フローラちゃあん、俺は君が行方不明と知ってから夜も眠れなくって……でも良かったよぉ、生きててくれてぇ」


 ギムールは涙をこぼさんばかりの勢いで言った。


 *


 交渉が行われている海域とさほど離れていない箇所の海底に停泊していたスターペンドラゴンの艦橋で、フローラ・リヨンは手に持っていたペンをへし折った。


「ど、どうしたんですか?」


 近くで作戦のシュミレーションをするためにコンピュータをいじっていたシルフィが尋ねる。


「いえ、妙な悪寒を感じたもので……」


 フローラは言った。


 *


 交渉は、ギムールがふたつ返事で了承してくれた。すぐにでもローマ連邦軍は動き、地球防衛軍本部攻略作戦のために協力してくれるということだった。

 クローネとティラエは艦橋を出て、スターペンドラゴンへ帰艦しようとする。だが、廊下でライラックがふたりに声をかけた。


「待ってくれ」


 ふたりは立ち止まった。


「クローネ、どうして君は……ティラエを……?」


 クローネはその問いに、一瞬どう答えるべきか迷ったが、やがて決意をして言った。


「ティラエさんにも、決着をつけることが必要だと思ったからです。たとえ恨んでいないという言葉が心の奥底の本心からだとしても、あなたが父親、アディーラ・マラガの仇であることに変わりはありません。ですから、自分の心とは、あなたと会うことで決着をつけなければ……」

「で、どうなんだい? ティラエ、君の心は……」

「分からない……」


 ティラエは言った。


「私には分からない! どうしてあなたが、そうやって平然としていられるのか! 私はあなたを殺すかもしれない! それなのに……! なんでこうやって普通に話しかけられるのか!」

「僕は……穢れた存在だ」


 ライラックは言った。


「それは、この道に進んだ時から決まっていたのかもしれない。僕が生きるこの道は、なにかの犠牲なしにはなにかを得ることができないそんな世界だ。だから、僕はもうすぐ終わらせてほしかったのかもしれない。そんな、僕の……」

「勝手なこと言わないで!」


 ティラエは拳銃を取りだし、ライラックに向けた。


「そうやって悲劇ぶっていれば、かっこよく見えるとでも……」

「逆だ。僕は、自分自身があまりにも惨めでならない……。アディーラ・マラガと決着をつけるしかなかった。僕の立場が……」

「ライラさんは……」


 クローネが口を開いた。


「自分の理想のためにこの道を選んだのではないんですか?」

「あぁ、その通りだね。でも、理想への道のりはあまりにも遠すぎた」

「だったら……最後までそれを貫き通してください!」


 クローネは言った。


「たとえ、周りからは悪人だと言われようと、恨みを買おうと蔑まれようと、それでも、自分の理想を最後まで生きてみせてください! それが、かつて迷っていた私に、立ち上がれるように手を差し伸べてくれたライラック・ソフィアという人の生き方でしたから……」

「クローネ……」


 それからライラックはふっと笑って続けた。


「まさか君に怒られる日が来るとはね。でも、その通りかもしれない。善人はここでおしまいだ。ティラエ、僕をここで……」


 だが、ティラエは拳銃を下ろした。


「ううん、あんたの本心が聞けて良かった。言ったでしょ? 私はあんたを恨んでいないって。それから私から言わせてもらうと、あんた……悪人にはなりきれないと思うよ?」


 そしてティラエはライラックに背を向けた。


「だって、今わかったけどあんた。最っ高にダッサいんだもん」


 ふたりはライラックに背を向けて歩き始めた。


「そうだね、まさしく君の言う通りだよ」


 ライラックは自分に言い聞かせるように呟いた。


「僕は善人ほど強くないし、悪人ほどかっこよくもない……なんてね」

 その瞳は勇者たちを見つめていた。

 その翼は勇者たちとともにあった。

 人とともに生きた彼は、今、決断する。

 すべてを守り抜くために。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『さらばモフ子さん』。

 彼は、時空のかなたより。

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