第38話 ローマにて・1
永遠の都に運命が集まっていた!
そう、今、最大の決戦の火ぶたが切って落とされる!
スターペンドラゴンの作戦室に遅れてやってきたミラを、オメガとクローネが扉の入口で迎えた。
「まったく、遅いですよ。ミラちゃん、一体どこに行ってたんですか?」
クローネが腰に手を当てて言った。
「うぅ、オメガくん、猫さんがいじめるよぉ」
ミラはオメガに嘘泣きで泣きつく。
「クローネさん……」
「腹黒いですよ。ミラちゃん」
クローネはため息をついた。
「まぁ本当のことを言うとゼロムの……エクスのところに行ってたんだけどねぇ」
「え……ゼロムさん?」
クローネはキョトンとした。
「はい、ゼロムさんは今、記憶を失っていて……クロノポリスの街に……」
オメガは説明を開始した。
「そ、そんな大事なこと、どうして黙ってたんですか!」
クローネは言った。
「だって……クローネさんその間カマルさんと一緒にネオアテナイの方に行ってましたし……」
「オメガくん、とにかく作戦会議が終わったらすぐにそのエクスさんのところに案内してくださいね」
クローネはオメガとミラの腕を掴むと作戦室の中に入っていった。
「戦場は主にローマ半島となるだろう」
アリアが説明を開始した。
「だがなるべく犠牲は出したくない。我々はローマと戦争をするわけではなく、あくまでも現在の地球防衛軍と戦うわけだからな。そこで、ローマ連邦軍元帥のギムール・ギマラインシュ、およびブラジリア総督のライラック・ソフィアには我々に協力するよう要請を出しておいた。幸いにしてライラはローマに滞在している最中らしいしな。それから……エラーダ王国、イラン帝国の両軍にはバルカン半島側からの攻撃を、そしてアラビア帝国はアマジグ大陸側から北上して攻め上ってもらう。まぁこれは無論ローマ半島内にある地球防衛軍基地を無力化していくためなのだが……」
「ライラさんも……来るんですね」
クローネは呟くように言った。
「クローネさん、やっぱり未練が……」
「違いますっ!」
オメガの言葉に思わず叫んだクローネに周囲の視線が集まった。
「あ、その……すみません」
クローネは謝ってからオメガの手の甲をつまんだ。
「そうやってすぐに余計なことを……」
「じょ、冗談ですよ……。そんな怒らなくても……」
作戦会議が終わると、オメガとミラはクローネに声をかけた。
「じゃあ、猫さん、ゼロムのところに行く?」
ミラが言った。
「は、はい……でもその前に、ひとりで行きたいところがあるので、少し待っててくれませんか?」
「いいですけど……どこですか?」
オメガは訊く。
「教えません」
クローネはにこりと笑って言った。
「うーん、腹黒そうな笑顔」
ミラが感想を述べる。
「そうかなぁ……」
オメガは首を傾げた。
クローネはそのまま、艦内のある部屋へと向かった。そこは今、独房として使われていた。扉の前に立つ兵士に挨拶をしてから、クローネは扉をノックし、部屋に入る。
「ティラエさん」
クローネは薄暗い部屋の中でベッドの上に座る少女に声をかけた。
「クローネちゃん! 大丈夫だったの? 通り魔に刺されたって噂だけど……」
「通り魔ではないですけど……大丈夫です。傷はオメガくんが治してくれましたし、それ以外のところは、スモモさんに……」
クローネはティラエの隣に座った。
「よかったぁ……」
ティラエは胸をなでおろした。
「で、今日はなんの用? 今度こそ私の処刑日が決まったみたいな?」
「いいえ、そうではありません。というかティラエさんを処刑するなんてそんなこと……」
「そっか、残念」
ティラエは言った。
「今度の作戦で、私はライラさんに会います」
「え……?」
ティラエは目を丸くする。
「あなたの父の仇ですよね」
クローネは言った。
「そうだけど、別に恨んでるわけじゃあない。だってそれが戦争ってやつでしょ? 私が嫌なのは、なんも関係ないのに父親を叩いているローマ国民の連中」
「分かってます」
クローネは真剣な顔で続ける。
「ですが、あなたが完全に自分の過去と向き合って、前に進むためには、彼と会うべきだと思うんです」
「私、何をするか分からないよ。今言った言葉だって全部嘘で、そのライラックって人を殺してしまうかも……」
「それでもです」
クローネは言う。
「それに、私はあなたを信じていますから」
クローネは立ち上がり、ティラエに背を向ける。
「クローネちゃん」
ティラエはクローネに声をかけた。
「ありがとう、私と仲良くしてくれてさ」
*
クローネは、オメガたちの案内でクロノポリスの郊外にある廃墟へと向かった。廃墟の食事用広間で、エクス、マイ、ガイの三人が待っていた。
「また新しい人?」
マイは言った。
「はい、えっと……クローネ・コペンハーゲンといいます」
クローネは会釈をして名乗る。
「えぇっと……ミラ姉ちゃんが言ってた腹黒い姉ちゃん?」
マイが言った。
「オメガ兄ちゃんが言ってたいつもからかってくる困った姉ちゃんだろ?」
ガイが言う。
クローネは無言でオメガとミラの頭を小突いた。
「お前も……俺を知っているんだな」
奥の椅子に座っていたエクスが言った。
「はい……。本当に……何も覚えていないんですね」
「あぁ、悪いがな」
「あの……エクスさん」
クローネは言う。
「一度、私たちの艦に戻ってくださいませんか?」
「お前たちの艦にだと?」
「腹黒姉ちゃん! それは……!」
マイが抗議の声を上げる。
「戦場を見れば、なにか思い出すかも……知れま……せん」
「私は絶対認めない!」
マイがクローネを睨みつける。
「エクス兄ちゃんを戦場に立たすなんて!」
「あなたたちにとってそれが辛い選択なのは分かっています。でも、エクスさん、いいえ、ゼロムさんは私たちと共に戦っていました。心よりも……身体が覚えていることだってあるはずなんです」
「勝手だよ、そんなの! だいたい、エクス兄ちゃんだって、そこまでして記憶を取り戻したいなんて……」
「いや、行こう」
マイの言葉を遮ってエクスは言った。
「え……?」
「俺は……お前たちにとってそこまで必要とされる存在だったのかと思ってな。俺は、ゼロム・グリュンタールという男を知ってみたいんだ。記憶を取り戻すという以前に。彼が何を思い、何を感じていたかを……」
「ゼロムさん……」
オメガは呟いた。
「ということで、行こうか。マイ、ガイ、お前たちはしばらく……」
「私たちも行く」
マイは決意したように言った。
「うん、俺たちは軍人が嫌いだ。軍人なんてみんな俺たちの両親を殺した敵だ。でも、この人たちは違う。俺は思ったんだ」
ガイが言う。
「この人たちは……俺たちの知ってる軍人じゃあない。交流してみて……俺はそれに気がついた。だから……俺たちも連れていってほしい」
オメガ、クローネ、ミラの三人は顔を見合せた。
「わかりました」
やがてクローネは言った。
「ですが、もし、降りたくなったら私たちに言うこと。遠慮する必要はありません。生き延びることに、なんの恥もありませんから」
ふたりの姉弟は頷いた。
数日後、作戦が開始された。オメガはハイペリオンオメガVVブイツーをローマに向けて飛ばしていた。今回はこちらも総力戦だ。使えるRAは全て発進させている。
「しかし驚いたな……。あのティラエのRAも解禁されたんだろ?」
オメガの隣を飛行するハイペリオンナベルスから、アギリが通信をかけてきた。
「はい、クローネさんの判断で、作戦に参加させてほしい……と」
オメガは言う。
「そうか……で、オメガ。そのマフラーはどうしたんだ?」
オメガはアギリの言葉で、自分の首に巻かれた赤いマフラーを見る。
「どうしたってこれ……アギリさんとお姉ちゃんからの誕生日プレゼントじゃあないですか。戦場で晴れ姿を見せてお礼が言いたいなって……」
「どこまでもお気楽なやつだ」
アギリはやれやれと言った。
「あっ、ちょっと待ってくださいって!」
オメガは、機体を加速させたアギリに追いつこうと自身の機体の出力も上げる。
オメガとアギリが属する部隊は、ローマの西方から攻め込む部隊だった。二機のRAはローマの街を見下ろせる丘の上に着地し、立つ。
「作戦は……分かっているな」
アギリが確認をした。
「はい……」
オメガは返事をする。
「僕たちはこの西方の岡に陣取り、地球防衛軍本部を牽制します。同じ役割を背負っているのは、東方のウィンダーとお姉ちゃんたち、それから北方のミラちゃんたちの部隊……。それから、ローマ連邦軍に交渉に向かったのはクローネさんとティラエさん、あのふたりが戻り次第、僕たちは地球防衛軍本部に総攻撃を仕掛けます。間違ってもそれ以外の場所に犠牲を出さないこと。すでにローマ半島外の防衛軍基地はアラビア帝国やイラン帝国、それにエラーダ王国の軍勢が攻めているので援軍はそうそう送られてこないでしょう。送られてきても……僕たちは彼らが到着する前に本部を制圧していなくてはいけません」
「上出来だ」
アギリは言った。
「お前にしてはよく覚えていたな」
「アギリさん、僕だってそれくらいは……」
その時だった。ふたりのところへ北方にいるミラからの通信が入る。
「オメガくん! それにワカメ、大変なの……!」
「どうした?」
アギリが尋ねる。
「え、えぇっとね……ローマ半島の北部から猛スピードで攻めのぼってくる軍隊の姿を確認したってあたしの部隊の偵察要員が……」
「軍隊?」
「ゲルマニア軍みたいで……」
「ゲルマニア……?」
アギリは聞き返した。
「そうか……!」
オメガはハッと気がついた。
「ナイアーラはきっと、僕たちが持っているロンギヌスの槍を餌にしたんだ。ゲルマニアは槍を欲しがっていた……。世界を支配するために、だから、僕たちを倒すのに協力してくれれば、槍を渡すという協定を結んだに違いない!」
「オメガ……行こう」
アギリは周囲に並ぶヤザタやヌビアといった量産機を見回しながら言った。全て、協力してくれる国家の軍隊から借りた機体だ。
「行くって……でも持ち場は……」
「そのための持ち場だろう? もちろんがら空きにはしないように何機かは残しておくが……他の場所がヤバそうだったら僕たちも援護に向かう。僕はこの仕事をそう解釈しているんだがな」
「わかりました」
オメガは敬礼のようなポーズをした。
*
ミラたちの部隊は空中にて数百機程はありそうなRAの大部隊と対峙していた。
「嘘……こんな大軍と戦わなきゃいけないの……?」
相手の陣形の中央には紺色の装甲に覆われた戦艦まで鎮座している。金色のラインが入った豪華な造りの戦艦だ。
「どうやら……相当な身分の人間が乗っているようですね」
部隊員のひとりが言った。
「うん……それならやることはひとつだね! あの真ん中にいる戦艦を討つ!」
ミラはハイペリオンシュヴァリエのビームレイピアを抜くと言った。
相手の艦の艦橋に立つのは金色の髪に片眼鏡の男だった。ブルーム・ローゼンハイム大統領だ。
「良かったのですか……?」
彼の背後に控える初老の男は言った。
「大統領が直々にこのような仕事を……」
「いいも悪いもないだろう。我々はこれより槍を手に入れるのだからな。その場に私がいなくてなんとする」
それからブルーム大統領は艦橋の外部映像を映し出したモニターに目をやった。
「にしても舐められたものだな我々も……あのような小部隊に迎えられるとは……。総攻撃を仕掛けろ。それからヴィル、お前の娘も出撃させてやれ」
「はっ……し、しかし……あの子はまだRAの操縦は……」
「なに、このような多勢に無勢、危険はあるまい。初陣が大勝利ならば彼女にも自信がつき、今後RAパイロットとしての活躍も見込める。違うか?」
ブルームは言った。
「は、さようかもしれません……」
ヴィルと呼ばれた男は、そのまま艦橋を出ていく。
彼が向かったのは格納庫だった。一機のRAのコックピットハッチが開いており、そこにひとりの少女が座っている。銀色の髪をした少女だった。黒字に赤いラインの入ったパイロットスーツを着ている。
「パパ……」
少女、ロヴェナ・ジュネーヴは言った。
「私、やっぱり怖いよ……」
ロヴェナは弱々しい声で言う。
「RAの操縦なんて今まで訓練でしかやったことないし……いきなりパイロットに昇格だなんて言われても……」
「安心しろ」
ヴィルは優しい口調で言った。
「もうすぐ、全てが終わるんだから……。お前は安心して戦っておいで」
「全てが……?」
ヴィルはにこりと笑ってみせた。
「お前を死なせたり、傷つけたりするようなことはこの私がさせない。ということだ」
ヴィルは覚悟を決めたように言った。
後半へ続く!




