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第37話 闇との決別・1

 オメガ・グリュンタールはラムダ・プロメテウスを追う。

 すべては復讐のために……!

 オメガはスターペンドラゴンの医務室に向かった。医務室の前の廊下には人だかりができていた。


「オメガくん!」

「オメガ!」


 シルフィとダンがオメガの前に立ちはだかる。


「どいてください! 僕の能力があれば、クローネさんは!」

「落ち着け、オメガ! いくらお前の能力で傷を治せたところで、彼女が意識を取り戻すとは限らないんだ! 今は、スモモさんに任せて……!」

「落ち着けません!」


 オメガはふたりの静止を振り切って医務室の扉を開けた。医務室のベッドには、クローネと、もうひとり、褐色肌の女が寝かされていた。


「クローネさん!」


 オメガはクローネに駆け寄った。


「今、治しますからね!」


 オメガはシーツの上からクローネの腹部に手を当てる。緑色の光が放たれた。

 オメガにはクローネの傷が塞がっていくのが分かった。しかし、彼女の目は開かなかった。


「クローネさん、どうして……!」

「あんたが……オメガちゃん……?」


 クローネの隣で、身体中に包帯を巻かれて寝かされている褐色肌の女が言った。

 オメガは無言で頷いた。


「ごめんね……。あたしがいたのに何も出来なくて……」

「あなたは……?」


 オメガは訊いた。


「あたしは、カマル・テッサロニキ。テッサロニキ朝エラーダ王国国王ヒベリオス二世の妃で、クローネちゃんとは昔からの知り合いだけど……」

「クローネさんは……」


 オメガはカマルに詰め寄った。


「誰にやられたんですか?」

「えっと……確か、ラムダって名前の……」


 あいつだ。オメガは思った。僕の兄さんでもある、あいつの仕業だったんだ。

 オメガはカマルの方に手を伸ばす。彼の指先から緑色の光の粒子が発生し、カマルの傷を治していった。


「ありがとうございます、カマルさん。僕は……あいつに会って……」


 オメガは言う。


「あいつに会って、どうするつもり?」


 カマルは尋ねた。


「クローネさんの仇を取らなくちゃあいけないんです!」


 オメガはカマルに背を向けて医務室を出ていこうとした。


「待って! クローネちゃんはまだ死んでるわけじゃあない! そんなことをしたら、あいつの思う壷だよ! あいつは……オメガちゃんの心を復讐で支配するためにこんなことを……」

「でも、それでも! 僕の心があいつを許さない! 僕はあいつを倒さなくちゃあいけないんです!」


 オメガは医務室を飛び出していった。


「オメガ!」

「オメガくん!」


 ダンとシルフィが呼び止めようとするが、オメガはそれを振り切って格納庫へと向かった。


 格納庫のタラップを駆け上がると、オメガの前に、ミラが現れた。ミラはオメガの行く手を遮るように両腕を広げた。


「そこをどけ……ミラ……」


 オメガは静かに言った。


「嫌だ。どかない」


 ミラは言う。


「どけと言っているんだ! 僕は、今から戦いに出る!」

「駄目! 今出たら、相手の思う壷!」


 ミラは言い返す。


「こんなの……オメガくんじゃあないよ……。オメガくんはあたしに優しさを教えてくれた。なのに、そのオメガくんが優しさを忘れようとしているなんて……」

「僕は……もういいんだ。僕の心に宿っていたのは漆黒の意思だった。それは、もしかしたら僕が兵器として造られた時から備わっていたものなのかもしれない。戦闘用の人間に、優しさなんて不要だからね。だから……僕は今それを解放する。解放しなくちゃあいけないんだ!」


 オメガは、いつか、ロンギヌスの槍を手にした時に見た光景を思い出しながら言った。あの時、僕は間違いなく強大な力を手にしていた。ならば、今こそその力を使う時ではないのか? クローネさんをあんな風にされて……絶対に……絶対に許さない!

 オメガはミラを押し退けるとハイペリオンオメガVV(ブイツー)のキーのボタンを押し、コックピットハッチを開いた。そして、コックピットに飛び乗る。

 コックピット内のモニターに外部の光景が映し出された。ハイペリオンオメガVVを乗せた台座がカタパルトの方へとせり上っていく。


「オメガくん……」


 ミラはその光景を見て辛そうに呟いた。だが、そんなミラの肩に誰かの手が置かれる。

 ミラはさっと振り返った。それは、ガンマだった。


「私に任せて」


 ガンマは言った。


「兄弟同士の喧嘩を収めるのは、姉としての私のつとめ」


 ガンマはまだ慣れない笑顔で微笑んでみせた。


 *


 オメガ・グリュンタールはアルキ海上空をハイペリオンオメガVVを駆って飛行していた。

 ラムダがどこにいるのか手がかりはひとつもない。それでも、オメガは彼の居場所が本能的に分かっていた。


「出てこい! ラムダ・プロメテウス!」


 オメガは叫んだ。すると、上空から猛スピードでオレンジ色のRA(ライドアーマー)が突撃してきた。ラムダの機体、イリアム=オリュンポスだ。


「来たか……俺の弟! オメガ・プロメテウス!」


 ラムダは言う。オメガには、通信が繋がっていないにも関わらず、彼の声が脳内に直接伝わってきた。


「その名で呼ぶな! 僕はお前とは違う! 僕は、オメガ・グリュンタールだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 オメガは、ハイペリオンオメガVVにビームセイバーを抜かせ、イリアム=オリュンポスに斬りかかった。イリアム=オリュンポスはその攻撃を自身のビームセイバーで防御する。


「いいぞっ! 俺は嬉しい! お前が憎しみに囚われてくれて! それでこそお前の、本当にあるべき姿だ!」


 ラムダは狂気的に笑いながらハイペリオンオメガVVの攻撃を防いでいった。


「いいか? オメガ、俺は、いや、俺たち兄弟は皆、人類種に対して、今、お前が抱いているような気持ちを持ってきたんだ。仲間をみんな殺された。自分たちを創造した創造主たる存在に、仲間を殺された痛み、お前なら遺伝子の奥底に刻まれているはずだろう? 俺と共にこの世界に復讐をしようではないか!」

「僕は……」


 オメガは言った。


「まずお前に復讐したい!」


 ハイペリオンオメガVVが金色の光に包まれた。周囲の海面がうねり始める。


「そうだ……それでこそ我が弟だ……!」


 ラムダは叫んだ。そして、自身の機体もアブソリュートモードに変化させる。両者がぶつかり合うたびに、衝撃で海がうねり、波が割れた。


「アブソリュートアタックスキル!」


 オメガはコックピット正面の、赤いクリスタルに手をかざした。光の魔法円がクリスタルの上に浮かび上がる。


「アブソリュートフォトンスラッシュ!」


 ハイペリオンオメガVVの頭部にあるエッジが銀色の光を発し始めた。


「来るか……ならば俺も!」


 ラムダも正面のクリスタルに手をかざす。


「アブソリュートアタックスキル! ヒュドラ・レルナス!」


 イリアム=オリュンポスの背後から漆黒のエネルギーが発生し、それはやがて九つの頭を持った蛇の姿に変わる。

 銀色の光の鞭と、九つの頭を持つ黒い蛇が海上でぶつかりあった。海はそのぶつかりあった地点を中心に大きな渦を巻き始める。

 やがて、二機のアタックスキルは相殺され、ハイペリオンオメガVVとイリアム=オリュンポスは互いに後方へと投げ出された。その衝撃で二機共にアブソリュートモードを解除され、海面に落下した。

 オメガは、機体が水中に叩きつけられた時の衝撃でコックピットが大きく揺れるのを感じた。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。オメガは目を凝らし、海中に敵の姿を探した。

 やがて見つけた。オメガはハイペリオンオメガVVの背部のバーニアから魔法粒子を噴射させ、イリアム=オリュンポスに向かって突進していく。


「お前を……沈めてやる! 深海ならば、お前の機体だって水圧で潰れるはずだ! この僕諸共、海の藻屑となれ!」


 ハイペリオンオメガVVがイリアム=オリュンポスに組み付いた。


「はっ、させるか……折角復讐するために来たんだ。ここら辺で終わりにしようぜ!」


 ラムダはハイペリオンオメガVVのコックピットにイリアム=オリュンポスの拳を打ち込んだ。ハイペリオンオメガVVは海中で後方に投げ出される。


「オメガ! お前の機体はここでばらばらにしてやる! なぁに、すぐにサザームがお前にぴったりの機体を用意してくれるさ!」


 イリアム=オリュンポスはビームセイバーをハイペリオンオメガVVに向けて斬りかかった。

 その時だった。


「やめて……!」


 そんな声がふたりの脳内に響いた。


「なんだ……?」


 ラムダは言う。


「この声は……」


 オメガは呟いた。

 海中に何者かが飛び込んできた。それは、半透明の装甲を身にまとったRAだった。メルセデス……。お姉ちゃんだ! オメガは確信した。しかし、メルセデスの半透明の装甲は、今回は赤く光り輝いている。時と場合によって、色が変わる仕様なのか……? オメガは思った。


「あなたたちが争うことは……この、ガンマ・プロメテウスが許さない……」


 ガンマはプラズマライフルをふたりに向けた。


 *


 クロノポリスの街外れにある廃墟では、エクスがバルコニーに出て空を見上げていた。


「どうしたの?」


 マイが彼に声をかけた。


「心配なんだ……。あの、オメガという少年。俺はあいつのことを覚えていないが……あいつは俺のことを知っている。あいつの心は……闇に囚われかけていた。あの、ミラという少女の報告を聞いた時に……」

「オメガ兄ちゃんが闇堕ちするかもしれないってこと?」


 マイは尋ねる。


「あぁ」

「ありえないよ!」


 マイは言った。


「あんな……いかにもなよなよしていて、弱っちくて、料理なんて女々しい特技を持ってるオメガ兄ちゃんが闇堕ちなんて!」

「お前が言うなら……そうかもな。だがひとつ訂正させてもらえば、あいつは弱くなんかない。もっとも、そいつは肉体的な意味ではないが……」


 マイは何も言わなかった。ただ、その瞳にはエクスと、そしてオメガを信じる。そんな光が宿っていた。


 *


 オメガとラムダは操縦する腕を止めた。


「お姉ちゃん……」


 オメガは呟いた。


「ガンマ……なのか……? しかし……そんなはずは……」


 ありえない。ガンマ・プロメテウスは死んだと聞いている。二年前のミレニアム戦役で、戦いに敗れ、宇宙の果てに消えていったと……。


「しかし……そうだな。仮にあんたが俺たちの姉さんだとして……姉さんには俺たちを止める義理はないはずだ。なんたって姉さんこそ人類に復讐しようとして戦いを始めた張本人なんだからな」


 ラムダは言う。


「そうかもしれない……」


 ガンマは呟くように言った。


「でも、だからこそ今は分かる。たとえ人類を全て滅ぼしても死んでしまった兄弟たちが生き返ることはない。破壊は破壊しか生まない……。だから私は、奇跡的に助けられたこの身は、今度は創造することに使いたい。私たちと、人類はきっと分かり合える。オメガは……私の末の弟はそれを教えてくれた……」

「そんなことはないっ! そいつは……俺たちの本来の役目である復讐を忘れて……!」


 ラムダは言い返す。


「そんなもの、私たちの目的じゃあない。私たちは本来、兵器として産み出された存在」

「お姉ちゃん……?」


 オメガは言った。


「でも、もう私たちはその在り方を否定した。生き残った私たちは、人として生きることを望んだ。自分の道は自分で決めることができる。それが人の道。もし、あなたがそれを理解した上で復讐を望むのなら私は止めはしない。でも、それにオメガを巻き込むようなことはしないで」


 ラムダはしばらく黙っていた。だがやがて、バーニアを吹かすと海中を飛び出し、2機の前を去っていった。

 ガンマはそんなラムダの機体、イリアム=オリュンポスを見上げていた。

 オメガは、ラムダの姿が見えなくなると呟いた。


「お姉ちゃん、ありがとうございます……」


 それからやや迷うように続けた。


「でも、僕は……自分を忘れそうになって……あの時見たヴィジョンに力をもらおうとしました。あの光景は、僕が一番恐れていたものだったのに……」


 ガンマは何も言わなかった。彼女の機体の半透明な装甲が元の緑色に戻っていく。


「でも、あなたは戻ってきた……」


 やがて、彼女は言った。


「帰ろう、みんな待ってる。クローネも」


 オメガは頷いた。

 後半へ続く!

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