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第36話 過去からの暗雲・2

 前半の続き!

 オメガはマイとガイのふたりをボートに乗せると海上に停泊しているスターペンドラゴンからクロノポリスの街に向けて出発した。


「あんた……何者なの?」


 しばらくしてマイが尋ねた。


「何者って?」


 オメガは聞き返す。


「戦艦なんかに乗っちゃってさ。そのくせ、軍人にしては弱っちくて……」


 オメガは一瞬迷ったが答える。


「地球防衛軍……かな」


 あの組織とは一応今は決別をしているが、それでもオメガたちはその本来の目的、世界全体の調和を保つために活動している。


「軍……!」


 マイはオメガを睨みつけた。


「お姉ちゃん……」


 ガイはそれをなだめようとするが、マイは弟を無視した。


「軍人なんて……みんな……!」


 マイは言う。


「好き勝手に戦争を初めて、苦しむのは私たち庶民だ! お前なんか……!」


 オメガは彼女に圧倒されて少し俯く。


「なんか言い返したらどうなの!?」


 マイはなおもオメガに詰め寄った。


「そうなのかもしれない。僕たちは戦う手段を持っているけど、君たちは持っていない。そういう人が戦争では問答無用に犠牲になる。彼らにはなんの落ち度もないのに……」


 オメガは言った。


「オメガ兄ちゃん……?」


 ガイは言う。


「僕だって、元々はそっち側の人間だったんだ。僕の兄弟たちはみんな殺されてしまった……。向こうの一方的な思い込みのせいで……」

「そうだったんだ……ごめん、オメガ兄ちゃん、勝手に決めつけたりして……。私たちだって、戦争で両親を失ってからずっとふたりきりで生きてきて……」


 オメガは何も言えなかった。このふたりに何かをしてやりたい。でも、何が出来るのか分からなかった。スターペンドラゴン隊で引き取るのはあまりにもふたりにとって残酷すぎる。なにしろ自分たちは戦争をしている張本人なのだから。


 オメガはふたりを街まで送り届けるとスターペンドラゴンの医務室に戻った。


「おかえりなさぁい」


 スモモが作業用机で自分の仕事をしながら挨拶をする。


「ただいま……」


 オメガは言った。


「元気がありませんねぇ。どうしたんですかぁ? ゼロムじゃなくて人違いでしたかぁ?」


 スモモは尋ねる。


「いえ、彼はゼロムさんで間違いないと思います。ただ……自分自身で記憶を思い出すことを拒否しているみたいで……」

「余程辛い経験をしたのでしょうねぇ。本人が自分と向き合えるまで待ってみるのが吉だと思いますよぉ」

「待って……どうにかなるものなんですか?」


 オメガは訊いた。


「はいぃ。彼はとっても強い人ですからぁ」

「そうですか……。やっぱり……僕とは違いますね」


 オメガは呟いた。


「どういうことですかぁ?」

「僕は……やっぱり、自分と向き合えていない気がするんです。頭ではそれが正しいって分かっていても、まだ心が追いついていないというか……。頭と心がばらばらなんです、僕は」

「大丈夫ですよぉ、オメガも、だいぶ強い人間だと思いますぅ。特に、前に比べれば、どんどん強くなっているかとぉ」

「だと、いいんですけど……」

「もっと、自信を持ってくださぁい。オメガにはぁ、オメガにしか出来ないことがいっぱいありますよぉ」

「僕にしか……出来ないこと……」


 オメガは呟いた。


 *


 クローネは、アルキ海に浮かぶ広陵とした島を歩いていた。島の最も標高が高い丘の上に黒い石で出来た真新しい十字架が建っていた。


「慰霊塔を……建てられたのですね、あなたたちの王様は……」


 クローネは隣を歩く褐色肌の女に言った。彼女は、金の装飾がついた白い服を身にまとった20歳程の女だ。長い黒髪は少しだけウェーブをし、両の眼は黒く大きな宝石のようだった。


「そりゃそうでしょ? 虐殺を止められなかったのは、私たちの責任でもあるんだから」


 女は言った。


「ミレニアム戦役の後、うちの王様はプロメテウス研究所を全部更地にして慰霊碑を建てた。でも、その工事の最中におびただしい数の人骨が見つかって……それは全部慰霊碑の下に埋葬した」


 クローネは地面にしゃがみこんで手を当てた。


「ここに、オメガくんのご兄弟たちが……」


 クローネは呟いた。


「顔を上げてよ、クローネちゃん」


 女はクローネの肩に手を置いた。


「オメガちゃんは真っ当に生きてるし、ガンマちゃんだって戻ってきたんでしょ? だったら、前を向いて生きるべきじゃない? ここの人たちだって、それを望んでるはずだよ……」

「カマル王妃……」


 クローネは彼女の手を握り返して立ち上がった。


「いいや、俺の兄弟たちが望んでいるのは復讐だ」

「え……?」


 ふたりは背後から聞こえた声に振り返った。

 そこに立っていたのは、ラムダ・プロメテウスだった。


「ラムダさん……!」


 クローネは言った。


「誰……!?」


 カマルは尋ねる。


「オメガくんとは別の生き残りです! そして、彼は復讐を望んでいる!」

「クローネ……俺は考えたんだが……お前みたいなのがそばにいてオメガを惑わせるからあいつはいつまで経っても自分の本当の目的に気づけない。お前がここで死ねば、あいつは目覚めるはずだ!」


 ラムダは拳銃を取り出した。


「カマルさ……じゃなくてカマル王妃! 私の後ろへ!」


 クローネはカマルを庇うように彼女の前に立った。ここで王妃に何かあってはそれこそ一大事だ。クローネは自身の拳銃を取り出した。


「ラムダさん、私の銃の腕は知っているはずです。それでも、私をどうにかしますか?」


 クローネはラムダを睨みつけて言う。


「そうだなぁ、クローネ、確かに俺は銃の腕ではお前に敵わない。だが……」


 ラムダは銃を構えながらクローネに少しづつ近づいていった。そして彼は駆け出す。

 しばらくの後、銃声が響いた。ラムダの手に持っていた拳銃はクローネに撃ち抜かれて地面に落下した。クローネの銃口からは煙がたなびいていた。

 だが、地面に倒れたのはクローネだった。ラムダの左手には、血で赤く染ったナイフが握られていた。


「お前は銃にばかり気を取られて、俺の左手に何があるか気付かなかった。貴様の銃は脅威だが、今回ばかりはそれへの自信が命取りになったな」


 クローネの両の瞳が焦点を失う。彼女の服は、腹の部分から徐々に、どくどくと血が流れてきた。


「う……嘘……クローネちゃん……!?」


 カマルがその場に崩れ落ちる。そしてクローネを揺すぶった。だが、クローネは返事をしなかった。

 ラムダはふたりから背を向けるとナイフを手にしたまま丘をくだり始めた。


「あんた……!」


 カマルが立ち上がってラムダに呼びかけた。彼女の瞳は少しだけ涙に揺らいでいた。


「目的はオメガちゃんなんでしょ!? どうして……どうしてクローネちゃんを……!」

「どうして……? 俺は貴様たち人間全部に復讐をするつもりだ。だから、オメガを仲間に引き入れるために何人死のうが関係ない。どうせいずれはみんな俺とオメガの手にかかって死ぬ身なんだからな」

「ふざけるなぁっ! そんなことで……勝手に色んな人を巻き込んで……許されると思うなっ!」


 カマルはクローネの拳銃を手に取ってラムダに向ける。


「ふーん、お前も俺を邪魔するのか。まぁいい、すぐに始末してやるよ」


 ラムダは丘を駆け下り始めた。

 王妃とか言われてやがったな……。あんな小生意気な奴……。俺がここまで乗ってきたイリアム=オリュンポスで踏み潰してやる。


 ラムダは海岸の岩陰に隠したイリアム=オリュンポスを見つけると、開いたコックピットへ、崖の上から飛び降りた。

 コックピットハッチが閉まり、イリアム=オリュンポスは起動する。

 ラムダはイリアム=オリュンポスの背部から魔法粒子を噴射させて機体を上昇させると島の方にメインカメラを向けてカマルの姿を探した。しかし、島にはカマルはおろかクローネの姿もなくなっていた。


「ち……どこに隠れやがった……」


 その時、イリアム=オリュンポスの背後からビームセイバーが振り下ろされた。


「なっ……!」


 ラムダははっとして自身のビームセイバーを展開させてその攻撃を防御する。

 そこには、紅色のRA(ライドアーマー)の姿があった。頭部の額には金色のコブラの頭に似た意匠が取り付けられている。


「あたしを舐めるなぁっ!」


 そのRAのコックピットにいたカマルは涙を流しながら叫ぶ。彼女の膝の上にはクローネがぐったりと横たわっていた。


「あの機体……まさかあの王妃とやらがパイロットなのか!? あいつ……何者!」


 ラムダは相手の機体とビームセイバーを押しあった。


「アタックスキル!」


 カマルは叫ぶ。


「デッド・オア・アイギス!」


 カマルの機体の頭部に取り付けられたコブラ型の意匠の両眼が光り輝いた。それと同時にイリアム=オリュンポスが固まったように動かなくなる。


「う、動けない……!?」


 ラムダはコックピットのレバーを動かそうとしながら言った。


「今だ! 喰らえぇ!」


 カマルはビームセイバーを相手のコックピットに振り下ろす。

 だがそこでイリアム=オリュンポスが黄金色に輝き始めた。


「この光……!」


 カマルははっとする。やがて、カマルのRAのビームセイバーが相手のコックピットに命中するも、その光刃は黄金に輝く装甲にぶつかると同時に消滅した。


「え……!」

「この頭部を破壊すればいいんだな!」


 イリアム=オリュンポスはカマルの機体の頭部を殴った。頭部は粉々に砕け散り、コックピット内に投影されていた映像が消える。コックピット内部は赤い非常用ランプに照らされた。


「な、何……!?」


 カマルは慌てる。


「ばらばらにしてやる!」


 イリアム=オリュンポスは相手の機体を何度も殴りつけてフレームを砕いていった。

 コックピット内の計器類が悲鳴をあげ、衝撃とともにショートしていく。


「い、嫌……。やめて……!」


 カマルの両眼は恐怖に見開かれた。

 やがてカマルの機体は制御を失い、海中に落下していく。


「あいつらはもう終わりだな……」


 ラムダは呟いた。


「機体をあんなんにされちゃあいずれは水圧でばらばらになる。海水をたらふくに飲み込みながら魚の餌にでもなってるんだな」


 ラムダは機体のアブソリュートモードを解除するとバーニアを吹かしてその場を飛び去っていった。


 *


 マイ、ガイ、そしてエクスが暮らしている廃墟の1階にある広間の大テーブルに、たくさんの料理が並べられていった。スープにハンバーグ、そしてオメガ特性のドレッシングをたっぷりとかけたサラダだ。


「皆さん、どうぞ召し上がってください!」


 深緑色のエプロンを身につけたオメガはにっこりと笑って言った。


「美味いな……」


 スープを口に運ぶとエクスは言った。


「ありがとうございます! でも、僕にしか出来ないことって……これくらいしか思いつかなくって……」

「充分な才能だと思うよ」


 マイも言った。


「うん、オメガ兄ちゃんがずっとここにいてくれたらなぁ」


 ガイは言う。


「で、エクス兄ちゃん、なにか思い出した?」


 ガイはエクスの方を見て尋ねた。


「いいや……まだだ……。だが、この味は覚えている。俺がかつて守ったことのある、そんな味だ」


 オメガとマイ、ガイは顔を見合せた。


「やったね、オメガ兄ちゃん! オメガ兄ちゃんのことは覚えてるってさ!」


 ガイは言う。

 そこに、家の中にどたどたと誰かが押し入ってくる足音がした。

 オメガ、マイ、ガイの三人は身構える。とうとう警察の退去要請が来たのか……!?

 広間の扉が開いて、何者かが息を切らしながら飛び込んできた。


「ミラちゃん!?」


 オメガは驚いて言う。部屋に現れたのは、ミラ・セイラムだった。


「よ、良かった……。ここにいたんだ……。探したんだからね……」


 ミラは息を切らして言った。


「どうしたの? そんなに慌てて……」


 オメガはミラの様子にただならぬものを感じて訊いた。


「オメガくん……! 大変なの……。猫さんが……猫さんが……」

「クローネさんが?」


 オメガは少し不安を感じて先を言うように促した。


「ナイフでお腹を刺されて……そのまま……!」


 オメガはその言葉を聞いた瞬間、自らの意識が遠のいていくのを感じた。


「オメガ兄ちゃん!」


 倒れそうになる彼を両脇から姉弟が支える。


「す、すぐに……行かなきゃ……」


 オメガは呟いた。


「すぐに……クローネさんのところに……」


 オメガの思考は混乱し、そう言うのが精一杯だった。

 絶望は闇を呼び、さらなる絶望を連れてくる。

 曇天を貫くはひとつの聖槍か。

 己の影と対峙した時、その瞳に映るものはなにか。

 因縁はそこに廻りて……。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『闇との決別』

 それは、ある影の可能性。

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