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第33話 悪夢の再会・1

 舞踏会への潜入を試みるはロヴェナ・ジュネーヴ。

 果たして彼女は、槍を手に入れられるのか……!

 オメガは窓のそばのバイキングスペースからふたり分のケーキを皿に乗せるとそれを持って窓の向こう側のバルコニーへと向かった。バルコニーから夜風に当たって外を見ているのはクローネだ。


「あんまり、外にいると風邪をひきますよ。もう寒い時期なんですから」


 オメガは言った。


「オメガくん……」


 クローネは、オメガの方に目を向けた。


「はい、ケーキです」


 オメガはケーキの片方をクローネに差し出す。


「ありがとうございます」


 クローネはフォークを手に取りケーキを崩し始めた。彼女はいちごから食べる派のようだ。


「すごく楽しかったです」


 オメガは言った。


「こうして、クローネさんと一緒に踊ることが出来て……。上手くできたかは分かりませんけど、でも、とても楽しかった……」

「私もですよ」


 クローネはケーキをもう半分も食べ終わると言った。


「たとえ優勝できなかったとしても、私にとっては大切な思い出です」

「そうですね……って、あっ、駄目ですよ! 優勝しなきゃ! 優勝して新しいRA(ライドアーマー)を手に入れるのが任務ですから!」


 オメガは慌てて言う。


「そうでしたね」


 クローネはにっこりと笑って言うとケーキを平らげた。


「まったくもう、早食いだなぁ」


 オメガは言うとこちらも慌ててケーキを完食する。

 ふたりはその皿をバルコニーの幅の広い手すりに置いた。


「クローネさん……」


 オメガはクローネに向き直って言った。


「どうしました?」


 オメガはそれからの言葉を覚悟を決めるように続けた。


「キス……してもいいですか?」


 クローネは少し驚いたようだったが、すぐに微笑んで答える。


「いいですよ」


 ふたりは、そっと唇を重ね合わせた。


 *


 ロヴェナの目の前で屋敷の門が閉められた。


「普段なら投獄のところだが、パーティーの席を壊したくないという当主様のご意向だ。追い出されただけで済んだのを光栄に思えよ」


 門の向こう側から声が聞こえる。


「う、うぅ……許さないわ! それもこれも全部あのクロなんとかのせいよ!」


 ロヴェナは夜闇で叫んだ。その両眼は少しだけ涙ぐんでいた。


「ロヴェナ・ジュネーヴ」


 彼女は背後からそう声をかけられた。


「へ? だから私のことは姫様と呼ばないと……」


 ロヴェナは振り返りながら言うものの、そこに居たのは見知らぬ少女の姿だった。


「なーんだ。私の出来損ないの部下たちじゃあないんだ。じゃ、いっか」


 その少女は、水色の髪をしていた。耳に当たる部分には電極に似た装置が取り付けられ、そこに円形の電飾が光っている。服装は、どこか近未来的な印象を与えた。


「あなたは……?」

「セッテ・ガー」


 少女は答えた。


「そう、あなたがゲルマニアの来客なのね。確か……噂によるとロンギヌスの槍の在処を知っているとか? もしそれが本当なら私はこんな苦労をしなくても……」

「嘘」


 セッテは言った。


「それはハッタリ。そうでもしなければゲルマニアに取り入ることはできなかった」

「は? そ、そんなことを堂々と言っていいわけ?」

「ただし、実績が伴わないハッタリは以後使うことが出来ない。よって、私はあなたと協力し槍を見つけ出したい。あなたにとっても悪い話ではないはず」


 セッテは機械のような声で言う。


「うん、まぁ確かにそうかもしれないけどぉ」


 ロヴェナはセッテの両肩を掴んだ。


「それよりもセッテちゃん! 今の私に協力してくれない?」

「今は何を?」


 セッテはロヴェナの服装を上から下まで観察してから言う。


「私、この舞踏会の主催者が槍の在処を知ってるんじゃないかと睨んでるの。だから舞踏会に侵入して一緒に踊りながら槍の在処を探ろうと思ってるんだけど……」

「主に後者が目的」


 セッテは彼女の表情を分析して言った。


「う、う、うるさいわね! 別に私が何を考えてようといいでしょ? ちゃんと仕事はしてるわけだし」

「で、どんな作戦……?」


 セッテは尋ねた。


「まずはエラーダ王国からの来客を襲って縛り上げて招待状を奪ってそいつになり済まそうとしたんだけど……なんかバレちゃって……」

「それは悪手。他人に化けるのは至難の業」


 セッテは言った。


「やっぱそうかぁ……」


 ロヴェナはそう言ってからはっと思いついた。


「そうだ! だったら人じゃなければいいのね? セッテちゃん、私に協力してくれない!?」

「何を?」


 セッテは訊く。


「ケーキ屋さんに化けて、私を届けなさいよ! もちろん、そのケーキの中には私がいるの!」


 ロヴェナは自信満々に言った。


「それはもっと悪……」

「ね、いい手でしょ!?」

「うん、いい手……」


 セッテはロヴェナの勢いに押されて無理やりに頷いた。


 *


 バルコニーから戻ったオメガは、ガンマと共にバイキングスペースを見て回るアギリに出くわした。クローネも、彼から少し遅れてバルコニーから戻ってくる。ふたりは、少し顔を赤らめていた。


「オメガ、バルコニーでふたりっきりで何してやがったんだ?」


 アギリはからかうように言った。


「顔が真っ赤だぜ」

「べ、別に関係ないでしょう? アギリさんには……」


 オメガは顔を背けた。


「お姉ちゃんも知りたい」


 ガンマが言った。


「ガンマ姉さんまで……」


 オメガはたじたじになる。

 そこで、バイキングスペースの隅に大きなケーキが置いてあるのに気がついた。さながらウエディングケーキのようだ。


「あんなケーキ、ありましたっけ?」


 オメガは訊く。


「あぁ、なんかさっきケーキ業者みたいな人が届けに来てたぜ? あの業者、なんかどっかで見たことあるような気がしたんだが……」


 アギリは言った。


「そうですか。じゃ、早速いただきますね! アギリさんとお姉さんも食べます?」


 オメガは近くに置いてあったケーキ用のナイフを手に取って言った。


「オメガ、お前さっきからケーキばっかり食べてるだろ? そんなことばっかりだと今に太るぜ?」


 アギリが言う。


「もう、アギリさんは変なことばっかり気にしすぎなんですよ! カロリーがなんだとかエネルギー消費がどうとか! お料理は美味しくて笑顔になれればそれでいいんです!」


 オメガは言い返した。


「私は……貰いたい」


 ガンマは取り皿を手に取ってオメガに差し出す。


「そ、そうか……じゃあ僕も今回は特別に貰っといてやるぜ」


 アギリも取り皿を差し出した。


「素直じゃないなぁ」


 オメガは文句を言いながらもケーキ用ナイフを巨大ケーキに突き立てようとする。だが、ナイフは一向にケーキに刺さらない。


「あの、アギリさん、このケーキ、すっごく硬いですよ?」

「んなわけあるか。お前の力の入れ方がおかしいんじゃあないか?」

「違います! アギリさんもやってみてください!」


 オメガはアギリの方を振り返って言った。


「あぁ、分かっ……って、オメガ、そのケーキ!」


 アギリは見逃さなかった。オメガがこちらを向いた瞬間、ケーキがそれを乗せているテーブルごと、オメガから逃げるかのように離れていくのを。


「どうしたんですか?」

「動いているぞ」

「え?」


 オメガは振り返る。ケーキは止まる。


「またまたぁ、冗談はやめてくださいよ。アギリさんらしくない……。ケーキが動くはずないじゃないですかぁ」


 オメガはアギリの方を向いた。するとまたケーキが動き出す。


「いや本当だって……。あっ、ほら、今も!」


 オメガが振り返るとケーキの動きは止まる。


「え? 止まってるじゃあないですか」


 オメガはアギリを見た。ケーキは動き出す。


「いや、また動いた!」

「だから……」

「動いてるんだって!」

「止まってますよぉ」

「動いた!」

「悪ふざけがすぎますよ!」


 そうこうしている間にも、ケーキは段々と3人から離れていっていた。


「オメガ、確かにお前が見た時ケーキは止まる。だが、それでも奴が移動した距離は分かるはずだ。よく見てみろ。さっきから少しづつケーキとの距離が広がってきているだろう?」

「気のせいじゃないですか?」

「あぁもう!」


 アギリは飛び出していた。彼はそのままケーキに突撃する。はりぼてのケーキはそのまま破壊され、中に潜んでいた銀髪の少女をアギリは取り押さえる。


「あぁっ、アギリさん、ケーキがもったいない……」

「こいつはどう見てもはりぼてだろう! それにこの女はどう説明をつけるんだ?」


 アギリはロヴェナを取り押さえたまま言った。


「ケーキの妖精さんですね!」


 オメガは納得がいったように言う。


「お前にはもう何も話しかけねぇ」


 アギリはやれやれと言ってからロヴェナに向き直った。


「おい」

「はい……」


 ロヴェナは目を白黒させながら言った。


「お前、何者だ?」

「あの日助けていただいたケーキです……」


 アギリは言い返す言葉すら見つからなかった。

 そこでオメガが声をあげる。


「あっ、思い出しました! その人、ゲルマニアのスパイさんです!」

「思い出すのが遅い!」


 アギリはツッコミを入れると改めて目の前の少女を睨みつけた。


「で、どういうつもりだ? なんでまた偽物のケーキの中に隠れていた?」

「アギリ……」

「アギリさん……」


 ガンマとオメガが呼びかける。


「どうした?」

「その体勢、結構まずいんじゃ……」


 アギリははっとしてロヴェナから離れた。それは、傍から見たらまるでアギリがロヴェナを襲って押し倒しているようにも捉えられかねない体勢だった。


「そ、そうねっ! じゃあ私はここでおさらばして……」


 ガンマが逃げようとするロヴェナをぎゅっと抱きとめた。


「じゃあ私なら大丈夫……」

「いや、それはそれである界隈の人には需要があるような……」


 アギリは言った。

 その言葉を証明するように、ひとりの少女が近づいてきて言った。


「なんですかそれは! 百合ですか!?」


 それは、クローネだった。クローネは周りの視線を見てはっと我に返ったように咳払いをする。


「失礼、なんでもありません」


 オメガはクローネに尋ねた。


「クローネさん、百合ってなんですか?」

「な、なんでもありませんっ」


 クローネは慌てたように否定をした。


 *


 スターペンドラゴンの艦橋には、シルフィの姿があった。彼女はひとり、小型コンピュータに向き合っている。

 艦橋に、ダンが入ってきた。


「シルフィ、ここにいたのか……」


 ダンは言った。


「はい、ロンギヌスの槍について、ちょっと調べてました……」


 シルフィは言った。


「それに今頃は皆さん、踊ってらっしゃるんだろうなって……」

「そうだな」


 ダンは言ってから、意を決したように続ける。


「なぁシルフィ、俺たちも……ここで踊らないか? あいつらが……特にクローネやガンマが舞踏会に出てるのに俺たちには何もないってのは些か悔しいだろう?」

「でも……ダンは踊りが苦手だって……」

「あぁ、確かに優勝を目指すなら戦力にはならないさ。だが、この場で楽しむ分には……別にいいと思ってる」


 ダンは照れるように言った。


「分かりました! じゃあしっかりとエスコートしてあげますね!」


 シルフィはそう言うとコンピュータから曲を流し、立ち上がった。

 ふたりは向かい合って身体を寄せた。


 *


 ロヴェナは広間の隣の休憩所の隅に椅子に縛り付けられて拘束されていた。部屋には、オメガ、クローネ、アギリ、ガンマの姿がある。


「で、槍の在処をこの家の人から聞き出すためにケーキに化けて舞踏会に侵入した……と」


 アギリは言った。


「すると……やっぱりあの時のケーキ業者はセッテだったのか……」


 アギリは納得するように呟いた。


「でも、いいんですか? そんなに洗いざらい話しちゃって……」


 クローネは言う。


「仮にも諜報員ですよね?」

「だ、だって言わなかったら何されるか分かんないし……」


 ロヴェナはクローネから目を逸らしながら言った。


「だがこんなに早く陥落したことが知れたらお前の上官はなんて言うか……」


 アギリの言葉にロヴェナの顔色がさっと変わった。


「な、なにも言わないわよっ! 私はあなたたちに脅されて渋々白状したんだから! そういうことにしておくんだからっ!」

「なるほど、小物……」


 オメガは呟く。


「あの……誤解を解きたいのですが……」


 クローネが言った。


「何よ、クローバー」

「だからクローネです……。って、それはいいのですが、エメルさんがロンギヌスの槍の在処を知らないというのは本当です。というか、ここの家の人は槍の在処を知りません」

「はぁ!? 私を騙す気?」

「いいえ、本当のことです。槍は本当に失われてしまった。その在処の手がかりになりそうなのは今のところあの図書館の禁書室にあるという本のみ。ですが、禁書室はレイスたちに守られていて……」


 クローネは説明した。ロヴェナは嫌なものを思い出したという顔をした。


「だったらそうね。あの図書館を丸ごと吹き飛ばせばいいのよ!」

「よし、こいつは西トゥルキイェの国家警察に突き出しだな」


 アギリが言った。


「や、やめてよぉ! それだけは……!」


 ロヴェナが懇願する。


「じゃあなんだ。このことからは一切手を引くか?」

「それも嫌よ!」

「お前はどうしたいんだ?」


 アギリはやや威圧的に尋ねる。


「それは……」


 ロヴェナはアギリから顔を背けた。


「私は槍を手に入れたいし、ここで終わるわけにはいかないの!」

「分かりました」


 クローネは言った。


「では、私たちはこの場であなたを見逃しましょう。ですが、私たちはこれからもあなたより早く槍を見つけ出せるように作戦を展開するので、そこは忘れないように。それから……」


 クローネは覚悟を決めたように続けた。


「あなたの国で、ブルーム大統領に反感を持つ人間はいないのですか?」

「は? なにそれ」


 ロヴェナはぽかんとする。


「確かに、大統領の政策は私たち人間という種族にとってはこの上なく魅力的なものでしょう。ですが、その反面異種族、例えば魔女やエルフといった種族にとっては地獄にほかならない。彼ら彼女らは大昔の奴隷のように扱われ、同じ人類種としての権利はことごとく無視されている。ブルーム大統領が政権を取る以前、あなたにそういった異種族のお友達はいなかったのですか?」

「でも……大統領のことはみんな支持して……。それに異種族は敵だって言われて子供や若者はみんな異種族から引き離されて……」


 ロヴェナは言う。その瞳は少しだけ揺らいでいた。


「その事に大して、誰も反感を持たなかったんですか? 自由に友達と遊んだり、恋をしたり出来ない。種族が違うからという理由で、お互いの気持ちが制限される……」

「私だって……本当のことを言うと嫌よ。でも、そうでもしないと豊かな暮らしは手に入らない。ただでさえゲルマニアは、植民地競争に乗り遅れて資源が少ないというのに……!」

「そうですか。……ガンマさん、彼女を解放しましょう」


 クローネはガンマに呼びかけた。

 ガンマはしばらく心ここに在らずという様子だったが、彼女の声にはっと我に返って頷いた。ふたりはロヴェナの縄を解く。

 ロヴェナは立ち上がると扉まで歩いていき、そしてクローネをちらりと見てから部屋を出ていった。


「クローネさん、良かったんですか? 彼女を逃がしてしまって……」


 オメガが尋ねた。


「彼女も、被害者のひとりです。ブルーム・ローゼンハイムという男の……」


 クローネは自らにも言い聞かせるように言った。

 後半へ続く!

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