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第32話 舞踏会にて・2

 前半の続き!

 クローネの持っていた拳銃が不意に宙に浮かび、はね飛ばされた。


「しまっ……!」


 クローネが目を見開く。次の瞬間、彼女は身体が動かなくなるのを感じた。怪物たちは数体の群れをなしてふたりに近づいてくる。


「く……くっそう! これでもくらえ!」


 オメガは片手に持った懐中電灯を投げつけた。

 すると、怪物たちは明らかにその光に怯んだ様子を見せた。クローネは怪物の魔力から解放されてふたたび動けるようになる。

 クローネはオメガの手首をぎゅっと掴んだ。


「オメガくん、逃げますよ!」


 クローネは階段を駆け上がり始めた。


「で、でも禁書が!」

「命と禁書! どっちが大事なんですか?」

「それは……」


 ふたりは階段を上がり終え、新聞保管庫に戻った。ふたりが戻るのを確認すると、黒い扉は自動的に閉まった。


「ふう……」


 オメガは胸を撫で下ろしてその場に座り込んだ。


「どういうつもりですか?」


 クローネはやや怒ったように言った。


「勝手に禁書の部屋に入るなんて……」

「だって、あそこにロンギヌスの槍の手がかりが……」

「まったく……」


 クローネはオメガの頬をつまんだ。


「いだだだだ……何を……!」

「決まってるでしょ? 私は怒ってるんです。だからこうやって……」

「さっきの怪物より怖い……」


 オメガは呟いた。


「何か言いました?」

「いえ……何も……」

「オメガくん」


 クローネはオメガの頬から手を離すとその手を彼に差し出した。


「立てますか?」

「立てます」


 オメガはクローネの手を握って立ち上がった。


「今夜、私と踊る約束をしているのに、そうやって命を粗末にしたら許しませんからね」


 クローネは言う。


「はい……」


 オメガは答えた。

 そこに、エメルが駆け寄ってきた。


「あっ、ふたりとも! 良かったです……。無事で……。結局ロンギヌスの槍の手がかりは得られませんでしたけど……でも、そういう本がここにあるということは、この街に槍が何らかの形で関わっているのは事実みたいですね」


 エメルは言った。

 その時、新聞保管室の入口からどたどたと足音が聞こえ、数人の黒づくめの1団が入ってきた。率いているのはロヴェナ・ジュネーヴだ。


「お前たち、やっと見つけたわ! 特にそこのクロムメッキ!」

「クローネです……」


 クローネは訂正した。


「ロンギヌスの槍はどこにあるの? 言わないと痛い目に遭うわよ!」


 ロヴェナはびしっと決めるようにクローネを指さして言った。


「あぁ、それなら……」


 オメガは禁書室の扉の前に移動した。


「開け、ゴマ!」


 ハンドルが回転し、扉が開き始める。


「この中にありますよ。どうぞどうぞ」


 オメガは1団に中に入るように促した。


「ふーん、分かってるじゃないの。行くわよ、お前たち」


 ロヴェナは部下たちに命じる。


「し、しかしロヴェナ様、これは確実に罠じゃ……」


 部下のひとりの言葉に、ロヴェナは何も答えない。


「おい、お前、ロヴェナ様は『姫様』って呼ばないと返事をしないんだ」

「はっ、では姫様……」

「大丈夫大丈夫、こーんな可愛い私を罠にかけるなんて非道な真似をする人はこの世にいないでしょう?」


 ロヴェナは先陣を切って階段を下りていく。


「ひっ、姫様! お待ちを!」


 慌ててロヴェナの部下たちが彼女を追った。


「ほ、本当にポンコツ……」


 オメガはその姿を見て呟いた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 図書館という場におおよそ似つかわしくない叫び声が響き渡った。


 その日の夜、オメガたちはイズミル家の屋敷に招かれていた。オメガは、アギリやウィンダーと共に男性用控え室に控えている。豪華なカーペットやソファーなどが置かれたきらびやかな部屋だった。3人ともタキシード姿だ。周囲には、他の国からきたと思しきタキシード姿の男が数人ほど思い思いに立ち話などをしている。


「なるほど、ロンギヌスの槍……か」


 アギリはオメガの話を聞いて言った。


「そうです。この街のどこかにはその槍があって、で、ゲルマニアの諜報部員たちがそれを狙っているみたいなんです」


 オメガは説明した。


「分かった。僕もそれらしき情報には気を配ることにしよう。だが分かっているだろうな? 僕たちがここにいられるのは長くてもあと数日、その後はローマに向かって地球防衛軍からナイアーラを追い出さなくちゃあならない」

「分かってます。でも……このままゲルマニアが世界を支配したら、多くの人が悲しい想いをすることになる……」

「オメガ……」


 アギリはオメガの頭をぽんぽんと叩いた。


「ったく、無理するんじゃあないぜ。どうせお前ひとりじゃあ抱えきれないんだ。もう少し僕たちに頼れ」


 アギリはウィンダーの方をちらりと見ながら言った。彼の表情は相変わらず読めなかった。

 その時、周囲で話す男たちの会話が三人の耳に入ってきた。


「そういえばエラーダ王国のなんとかっつー貴族がまだ来ていないみたいだが……」

「すっぽかしたのか?」

「エラーダ王国……?」


 オメガはその言葉を繰り返した。


「この国の隣国。国王ヒベリオス二世が支配する王国だ」


 ウィンダーが説明した。


「いや、それは分かってますけど……。でも……」


 オメガは自身の記憶を手繰り寄せた。確か……僕が造られた研究所もエラーダ王国内に……。オメガはふるふると首を横に振った。


「どうした?」


 アギリは尋ねる。


「いえ、ただ、僕の出身地がそこだ……って話です」

「そうか……」


 アギリはオメガの肩に手を乗せた。


 *


 同時刻、夜の帳が降りたイスタンブールの路地裏で、ひと組のペアが黒づくめの一団に囲まれていた。


「な、な、なんですの!?」


 水色のドレスを着た女が言う。一団のリーダーと思しき銀髪の少女が進み出て言った。彼女は丈の短い黒いドレスを身にまとっている。


「何って……。ちょっと大人しくしててちょうだいねぇ。私たちがあなたたちふたりの代わりに舞踏会に出るってことよ。招待状を私たちに寄越しなさい? さもないと……」


 少女は拳銃を取りだした。


「わ、わ、分かりましたわ!」


 水色のドレスの女は震える手で招待状を差し出す。少女はそれを受け取った。


「ふむふむ、エラーダ王国のお貴族さんっと。上出来よ。さっ、こいつらを縛っておしまいなさい」

「はっ、姫様」


 少女の部下の男たちはエラーダ王国から来たというペアをその場に縛り上げた。


「今に見てなさい! クロンベルク! 私をあんな怖い目に遭わせた報い、受けてもらうんだからっ!」


 少女は闇夜に向かって高らかに宣言した。


 *


 オメガたちがいる控え室に、イズミル家の使用人と思しき男がやって来た。


「お待たせしました。準備が出来ましたので、広間の方へ……」

「行くか」


 アギリはオメガに声をかけた。


「はい!」


 オメガはそう答えて使用人に従って周囲の招待客らと共に部屋を出ていく。


 広間は、大きなシャンデリアの光に照らされた明るく天井の高い部屋だった。中心には踊るためのスペースが用意され、壁沿いには白いクロスのかかった丸テーブルがひとつ置かれ、部屋の片側の壁の上段になったスペースには、イズミル家と思しき一団が席に座っていた。エメルは山吹色のドレスを身にまとっている。とても緊張した面持ちだった。イズミル家と反対側の壁、大きな窓のある壁沿いには様々な料理が並んだテーブルがあった。どうやら食事はあそこから持ってくるらしい。バイキング形式というやつだ。

 オメガたちが広間に入場してしばらくしてから、彼らが入場した扉とは別の扉からドレスを着飾った女性陣たちが入ってくる。

 オメガはほぼ反射的にクローネの姿を探した。


「オメガ、見ろ……」


 オメガはアギリが示した方向に目を向けた。

 そこには、はっとするほどに綺麗な黒髪の少女の姿があった。ややその場に戸惑っているようなおどおどした表情をしているが、それもまた彼女の美しさを際立たせている。まるで夜空のような紺色のドレスを身にまとい、長い髪は複雑に結わえてある。


「クローネさん……?」


 オメガは吸い込まれるようにその少女の方へと向かった。


「クローネさん!」


 オメガはクローネに声をかけた。


「オメガくん!」


 クローネの表情がぱっと明るくなった。


「凄く……似合ってます。それに綺麗だ……」


 オメガは息を飲むように言った。


「そう言うオメガくんだって似合ってますよ」


 クローネは嬉しそうに言う。


「ありがとうございます……」


 オメガは微妙に照れくさいような気がしてクローネから顔を背けた。


「それじゃ、踊りましょうか」


 クローネは言った。ちょうど曲が流れ始めたところだった。

 ふたりは身体を寄せ合う。お互いの体温が感じられるほどにまで近づいて、ふたりは微妙に恥ずかしいような気がして顔を赤らめた。


 *


 ウィンダーはその場の雰囲気に圧倒されていた。人が多い……。こういうにぎやかな環境は少し苦手かもしれない……。


「ウィンダー?」


 ウィンダーは声をかけられてはっと我に返る。そこには、赤いドレスを身にまとったミラの姿があった。背中についている巨大なリボンに似た飾りはさながら彼女のパワフルさを象徴しているようだ。


「ミラ……」


 ウィンダーは呟いた。


「まったく、なにぼやーっとしてるの? まぁあんたはいつもぼやっとしてるけど……。もしかして、他の女の子に目移りとか?」

「違う」


 ウィンダーは否定した。


「ま、あんたみたいなぼんやりに限ってそんなことはないか……。せっかく、あたしが組んでやってるんだから今夜はしっかり、エスコートしなさいよね?」


 ミラは言った。


「分かった。エスカレートする」

「絶対分かってないでしょ」


 ミラはそう言いながらもウィンダーの手を取った。ウィンダーも彼女に従って共に踊り始める。


 *


 アギリは、みんなとは少し離れた場所にいるガンマの姿を見つけて、彼女の方に向かった。ガンマは、白いドレスを着て、その緑色の髪を三つ編みにしていた。


「ガンマ……」


 アギリはガンマに声をかける。


「みんなの方に行かなくていいのか?」


 アギリは言った。


「私は……こういう場は初めてだから……。行けば空気を壊してしまうかもしれない……」


 ガンマは言った。


「お前……ガンマ・グリュンタールの名前でエントリーしたんだってな」


 アギリは言う。


「プロメテウスの姓は、みんなを恐れさせてしまうかもしれないから……」


 ガンマは答えた。


「そうか……」


 アギリは言った。こういう時、お前の弟のオメガならなにか気の利いたひと言でも言ってやれてるんだろうけどな。アギリは思った。だが、あいにく僕にはそれが出来ない……。くそっ。アギリは自分の不器用さを呪った。


「みんなの所へ行こう」


 アギリはガンマの手を取った。


「でも……」

「いいんだ。上手く踊れなくてもいい。笑うのが下手くそでもいい。僕だって、それにオメガだって出来ないことはたくさんある。でも、大切なのは今を楽しむことだ。たとえ出来なくても、楽しむことだけ出来れば、それで上出来じゃあないか」

「アギリ……」


 ガンマはアギリの瞳をじっと見つめた。


「分かった……。私も……行く……」


 アギリはガンマの手を取って歩き始めた。


「足もと、気をつけろよ」


 アギリは言った。


「分かった……」


 ガンマはアギリの手をぎゅっと握りしめた。大袈裟でも、比喩でもなく、こんな暖かい気持ちになれたのは、産まれて初めてだ。私にも……こんな感情があったなんて……。


「ありがとう……」


 ガンマはアギリに聞こえないように呟いた。


 *


 しばらくして一曲目が終わった。オメガとクローネは互いに動きを止める。

 その時、廊下の方を慌ただしく人が行き交う音が聞こえた。


「何事でしょうか……?」


 オメガはクローネと顔を見合せた。

 ひとりの使用人がイズミル家の当主と思しき男に言う。


「エラーダ王国の客人に送った招待状を持ってやって来た者がいるのですが……その姿はどう見てもエラーダ人ではなく……」


 次の瞬間、広間の扉が勢いよく開かれた。


「よくもこの私の入場を拒否しようとしたわね! そのツケ、この場でしっかりと払ってもらうわよ!」


 それは、ロヴェナ・ジュネーヴだった。


「あっ、ロヴェナさん、生きてたんですね!」


 オメガは呼びかける。


「勝手に殺すな!」


 ロヴェナが言い返した。


「……というかお前はクロワッサン!」

「ですからクローネです……」

「また私の邪魔をしようと現れたのね!」

「いえ、今現れたのはあなたの方では?」

「うるさいっ! 今日という今日はけちょんけちょんにしてやるから覚えてなさい!」


 ロヴェナは言ってのけた。


「連れていきなさい」


 イズミル家の主人が命じた。使用人たちが左右からロヴェナを取り押さえる。


「えっ、ちょっと、何するのよ! 触らないで! この変態!」


 使用人たちはロヴェナの言葉に傷つく様子もなく、彼女を部屋の外に引きずっていった。


「おーぼーえーてーなーさーい!」


 ロヴェナの姿は廊下に消えていった。


「な……なんだったんでしょう……」


 オメガは言った。


「きっとポンコツさんも皆さんと踊りたかったんですね」


 クローネは大真面目な顔で言った。

 それは、黄金の女神か。

 聖なる瞳は孤高の狼を見据え、その記憶を呼び覚ます。

 かつてのあこがれが恐れに変わる時、滅びが始まる。

 その姿はさながら死神のように。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『悪夢の再会』。

 その花は、悪魔の花。

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