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第32話 舞踏会にて・1

 ゲルマニアの諜報員たちに狙われていた少女を助けたオメガ・グリュンタールたち。

 彼らは、ある聖なる槍の話を聞く……!

 エメルは、オメガとクローネに事情を話した。

 三人は先程屋台で買ったケバブサンドを食べながら通りを歩いていた。


「彼女たちゲルマニア共和国諜報部は私たちの一族がロンギヌスの槍を所有していると考え、それを狙っているんです」

「ちょっと待ってください」


 クローネが言った。


「諜報部……ということはあの方たち、スパイということですよね。あんないかにもポンコツそうな、小物感のすごい女の子がスパイだなんて……」

「クローネさん、言い方……」

「ははは、面白い人たちですね!」


 エメルは楽しそうに言った。


「すみません、続けてください」


 クローネはまだなにか引っかかることがあるという感じだったが、エメルに話を続けるように促した。


「ですが、私はロンギヌスの槍がどこにあるのか知りません。果たして、私たちの一族が本当に所有しているのかも……」

「でも、なにかゲルマニアが目をつけるということはなにか根拠があるはずです。槍の所有を疑われるようなことは?」


 オメガは尋ねた。


「おそらく、現在はローマ連邦となっている旧帝国が槍を失ったのが東方遠征の時だったからでしょう。当時、ローマ軍が遠征の時に使った街道の中でも最も栄えた街がここでしたから……。そして、その街で現在最も力を持っているのが私たちイズミル家です。ですから、私たちが槍を持っているはずだと……」

「なんていい加減な……」


 オメガは呟いた。


「でしょう? 絶対にポンコツですよ、ロヴェナさん」


 クローネはうんうんと頷いて言った。それから小声で付け加える。


「ですが、あのジュネーヴという姓。どこかで聞いたことが……」

「でも、どうしてゲルマニアがロンギヌスの槍を狙ってるんですか? 僕にはそもそもの理由が……」

「槍を手にした者は世界を支配する力を手に入れると言われているからです。現に、エウロペ大陸南部からアマジグ大陸の大半、更には中南ローリー大陸までを支配した旧帝国は槍を手放した辺りから衰退を始めました。ゲルマニアのブルーム大統領は自らの国家による世界統一を望んでいます。ですから、その目的のために、槍が必要なのでしょう」


 エメルは説明した。


「ブルーム大統領……」


 オメガは呟いた。彼の話はシェヘラザードさんから聞いている。彼には絶対に世界を統一させてはいけない。オメガは思った。


「クローネさん。槍をブルームに渡してはいけません」


 オメガはきっぱりと言った。


「オメガくん……?」

「ブルーム大統領は……悪魔です。だから、絶対に奴に力を与えてはいけない」

「分かってます」


 クローネは答えた。


「でも……私たちには私たちの任務もあるんですよ?」

「それは……」


 オメガはクローネから目を逸らした。確かに、僕たちの最優先事項はルルイエの地に眠る邪神の復活を阻止すること。そのために、世界中を巻き込む『ルルイエ神聖教団』や、ナイアーラの陰謀を暴くことだ。


「確かに……そうですけど……」

「オメガくん」


 クローネは真剣なトーンで言った。


「ただ……世界の均衡と平和を守ることだって私たち地球防衛軍の仕事です。それに、人を助けるのに理由なんていりますか?」

「クローネさん? じゃあ……」

「要はゲルマニアよりも先に槍を見つければいいんですよね?」


 エメルはこくこくと頷いた。


「では、そうしましょう! ロヴェナさんたちよりも早く、私たちが槍を見つけるんです!」

「でも、見つけるっていっても、槍はどこにあるんですか? エメルさんも知らないみたいですし……」


 オメガは尋ねた。エメルはふたたび頷く。


「でも、やっぱりこの街に手がかりはあると思うんです。記録上、槍が失われたのはこの付近だということは間違いないみたいですから」


 クローネは言った。


 三人はケバブサンドを食べ終わると、街で最も大きな図書館に向かった。


「さて、ここから調査を開始しますよ!」


 クローネはドーム状の屋根が連なる建物を前にしてやる気満々に言った。


「文献を漁るんですか……。でも、この量……三人で手分けした方が良さそうですね」


 エメルは言う。

 クローネは図書館の入口近くの壁に貼り付けられたプレートを見た。そこには、館内のマップが刻まれている。


「そうですね。探るのは街の歴史文献が所蔵されているコーナー。そこを3等分にして3人で調べましょう。ここからここまでは私で……ここからはオメガくん、それからここはエメルさんで……っと」


 クローネはその場で分担を決めた。

 三人は早速図書館に入館した。石造りの広い建物だった。図書館特有の大声を出すことがはばかられる空気感がその場を支配している。館内は明るく、ドーム型の天井が白い照明で照らされていた。入口すぐの場所は吹き抜けになっており、建物が三階建てだということがすぐに分かる。歴史文献が所蔵されている一角は入口から入って右側の所に別室として存在していた。広い窓からは中庭が見渡せる明るい部屋だ。3人は早速、クローネが提案した分担に従って部屋の中を手分けしてロンギヌスの槍についての話が書かれていそうな文献を探した。


 オメガは自らの分担の場所でひとりになると天井近くまで聳える本棚を見上げた。


「ここを全部調べるのかぁ……」


 オメガは呟いた。だがすぐに、名案を思いついた。


「そうだ!」


 オメガは腕輪型通信機を起動させるとそこに小声で話しかけた。


「あの、シルフィさん、シルフィさん、聞こえますか?」

「聞こえますよぉ……」


 シルフィは項垂れたようなトーンで言った。


「ていうかなんで小声なんですかぁ……」


 その声を聞いてオメガは思い出す。そういえば、いつかお世話になったあのゲームセンターに魔改造された部屋はアリアの手によって閉鎖されたんだっけか。


「今、図書館にいるからです。それよりもシルフィさん、調べて欲しいことがあって……」

「調べて欲しいこと……ですか?」


 シルフィもオメガにつられて小声になって言う。


「はい、イスタンブール市立中央図書館にある『ロンギヌスの槍』に関して書かれた書物を探して欲しいんです。管理用コンピュータかなんかに侵入してもらって……」

「オメガくん、それ、犯罪ですよ?」

「今までだって散々色んなデータに侵入してきたじゃあないですか」


 オメガは言う。


「まぁ、そうですけどぉ」


 シルフィは答えた。それからしばらくしてカタカタとコンピュータをいじる音が聞こえ、やがてシルフィは言った。


「あっ、ありましたよ? 検索件数は一件。ですけど……禁書のコーナーにあるみたいです」

「禁書?」

「はい、西テュルキイェ政府が意図的に閲覧を禁止した書物がある場所です。一般の人には閲覧出来ない場所にあるみたいです」

「その……禁書のコーナーの場所は?」


 オメガは訊いた。


「うーん、今ちょっと座標を送りますね。本の座標も送っておきます」


 しばらくして腕輪型通信機から図書館の間取りを示す立体映像が投影された。その中の1点が赤く光り輝いている。おそらくそれが、目的の書物のある場所なのだろう。


「ありがとうございます!」


 オメガはそう言うとそっと歴史文献の部屋を抜け出した。途中、クローネの管轄を通り抜けることになったが、彼女は黙々と本を探っており、こちらには気づかない。禁書の部屋に勝手に入るんだ。クローネさんには共犯になってもらいたくないもんなぁ。オメガは思った。でも、クローネさん、きっと怒るだろうなぁ。よし、バレないように本だけ盗んでから歴史文献の部屋に戻って、そこら辺で見つけたような表情をしていればいいんだ。オメガは我ながら完璧な計画だと思った。

 禁書の部屋への入口は、図書館の地下にあった。そこは、これまで発行された地元新聞紙を保管しておくための棚が並ぶ部屋を抜けた先にあるようだ。オメガは地上階とは打って変わった明らかに薄暗い部屋を抜けて禁書室の入口へと向かった。そこは、黒い石でできた大きな扉だった。真ん中には金色のさながら昔の船の舵に似たハンドルが取り付けられている。

 オメガはそのハンドルをしっかりと握ると、回そうとした。だが、ハンドルはびくともしない。


「シルフィさん、シルフィさん!」


 オメガはふたたびシルフィに通信をかけた。


「あっ、オメガくん、禁書の部屋、見つかりました?」

「み、見つかったんですけど……扉が開かないです」


 オメガは言った。


「近くに、鍵穴か、あるいは何らかのコードを入力するパネルかはありますか?」


 オメガは辺りを見回した。


「な、ないみたいです……」

「じゃあなんでしょうか……。そこら辺の情報はどこのデータベースにも記されてなくて……。合言葉とかあればいいんですけど。『開け、ゴマ』みたいな……」


 その時、ハンドルがゆっくりと右に回り始める。


「え……?」


 オメガは驚いて目を丸くした。


「開きました!?」


 シルフィも通信機の向こう側で驚いた声を上げた。


「は、はい……」


 オメガは言った。


「そっか……『開け、ゴマ』。そういえば、あの言葉の元になった話は中東圏の話でしたね!」


 シルフィはひとり合点がいったように納得した。

 ハンドルが自動で回り終わると、扉は壁に吸い込まれるように奥へと下がっていった。ある程度後方に下がると、今度は右にスライドしていく。

 やがてオメガの目の前に下り階段が現れた。オメガは懐中電灯を取り出して前方を照らす。薄暗い通路の石壁は崩れかけ、周囲には蜘蛛の巣が張っていた。やがて、階段を下り終えるとふたたび扉が姿を現した。こちらはごつごつとした手触りの古い石扉だ。先程とは違い、オメガが少し押しただけで、自動でスライドし、彼を向こう側に通す。

 扉の向こう側は広い空間だった。その向こう側に3つの扉がある。


「扉が三つ……。ひとつはダミーということですか?」


 オメガは通信機に尋ねる。だが、通信機から返事は無い。耳を澄ませると、通信機からは微かにノイズのような音がしていた。


「電波が……悪いのか……」


 オメガは呟いた。

 その時、広間の隅の方をなにか黒いものが動いたような気がした。


 *


 スターペンドラゴンはボスポラス海峡の海底に停泊していた。そんな船の艦橋でシルフィはオメガと通信していた。艦橋にアリアたちの姿はない。彼女たちは1歩遅い昼休憩のため、食堂にいるのだ。

 シルフィは、コンピュータに備え付けられた通信機からノイズしか聞こえなくなったのを確認した。


「やっぱり、地下は電波が悪いですね……。あるいは何らかの妨害電波が……」


 シルフィは呟く。

 そして片手でイスタンブール市立中央図書館の禁書室に関する情報を漁っていたが、やがて彼女は手を止めた。そこに表示されていたのは、図書館禁書室に無断侵入しようとした者は帰ってこなくなるという都市伝説のような情報だった。


「オメガくん……!」


 シルフィはその場で叫んだ。ノイズ越しに聞こえているかどうかは分からない。だが、とても嫌な予感がする。


「オメガくん! すぐに引き返してください! 許可なく禁書室に侵入するのは危険な行為でした!」


 *


 オメガはそっと広間を横切ろうとした。

 だが、視界の端に何かがいるのが目に入る。オメガは立ち止まり、左側の部屋の隅に目を向けた。そこにいるのは、黒いローブのような服を身にまとった何者かだった。


「あ、あの……」


 オメガは不自然に思いながらもそれに声をかける。


「あなたは……」


 黒いローブを着た何者かが立ち上がった。

 いや、そいつに足はなかった。ふわふわとローブをはためかせながら宙に浮かんだのだ。


「人間じゃあない……!?」


 オメガは嫌な予感がして後ずさった。

 そいつはローブのフードを脱いでこちら側に顔を向けた。それは、頭蓋骨に似た頭部だった。両眼部分には赤い光が点っている。首からは魔術的な意匠が施された金色の首飾りを下げていた。

 そいつはゆっくりとこっちに手を伸ばしてきた。なにかやばいとオメガは思った。相手は骸骨のような手を伸ばし、空を掴む動作をした。すると、オメガの身体は一瞬にして金縛りのように動けなくなる。


「くっ……」


 オメガは自らの身体が相手に少しづつ引き寄せられていくのを感じた。


「こいつが……!」


 オメガは呟く。


「こいつが禁書室を守って……!」


 三つの扉のうちいちばん左側の扉が開いた。その暗闇の向こう側に、いくつもの赤い光が灯る。扉の向こうには、この骸骨に似た化け物が無数に存在している……? オメガはそう直感した。

 骸骨似の化け物はオメガの両脚をがっしりと掴んだ。そしてその顔を覗き込んだ。


「オマ……エ……」


 化け物は言った。


「禁忌ヲ……犯シタ……ナ……」

「殺セ……」


 開いた扉の向こうからそう言う声が聞こえた。


「殺セ……殺セト命ジ……ラレテイル……」

「侵入者ニ……死ヲ……」


 その時、暗闇に銃声が響いた。骸骨似の怪物がオメガから手を離す。


「わっ……!」


 オメガは慌てて怪物から離れた。そして銃声が聞こえた方を見ると、クローネが拳銃を構えて立っていた。


「シルフィさんからの緊急連絡です。勝手に禁書室に侵入しようと企てた悪い人を連れ戻すようにと……」


 クローネは言った。


「クローネさん……」


 オメガは安心して胸を撫で下ろした。そしてクローネの服の裾をぎゅっと掴む。その手は少し震えていた。


「オメガくん、安心するのはまだ早いですよ」


 クローネの言葉に前方を見ると部屋から無数の怪物たちが這い上がってくるところだった。

 後半へ続く!

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