第31話 スターペンドラゴン西へ・1
クローネ・コペンハーゲンとミラ・セイラムによる最後の戦いがおこなわれた!
そして、スターペンドラゴンは……!
クローネ・コペンハーゲンとミラ・セイラムはスターペンドラゴン艦内の道場にて竹刀を持って向き合っていた。クローネは紺色の道着を身にまとい、長い黒髪をひとつ結びにしている。一方、ミラは白い道着を身にまとっていた。
「あ、あの……なんでこんなことに……」
少し離れた場所からその様子を見守るオメガは言った。彼の腕にはモフ子さんが抱えられている。
「きゅう……」
モフ子さんはそう鳴いてオメガの左隣に目を向けた。そこにはガンマが立っていた。ガンマは何も言わない。
「もう、お姉さんも何か言ってください!」
オメガは言った。
「何か言ったらこうなった……」
ガンマは言った。
あぁ、そうだった……。オメガは思い返した。ガンマさんがミラちゃんに対して僕をあげるとかなんとかって言ったから……。
「お姉さん、念の為訊いておきますけど、この状況、どういう状況か分かってます?」
オメガは尋ねる。
「戦わなければ生き残れない……」
ガンマは言った。
「えぇー、そんなぁ……」
オメガは言った。そして意を決したように一歩を踏み出す。
「ふたりとも! やめてください!」
クローネとミラの視線がオメガを捉えた。
「オメガくん」
クローネは言った。
「オメガくんもどっちかはっきりしたらどうなんですか!? いつもいつも、皆さんにいい顔ばっかりして……本当は……私は……」
「クローネさん……?」
「とにかく! 私たちの戦いには手を出さないでください!」
クローネはぴしゃりと言った。
「猫さん、これがあたしたちの最後の戦いだよ……」
ミラはクローネを見据えて言った。
「望むところです!」
クローネは答える。両者はともに畳を蹴り、竹刀を振り上げてぶつかり合った。お互いの戦力は互角、ふたりは何度も竹刀で押し合う。
「ふたりとも……どうして……」
オメガは言った。
「きゅう……」
モフ子さんは鳴く。
「仲間同士で戦うならもっと平和的な方法にしてください!」
オメガは言った。
ふたりの動きが止まった。
「平和的な……」
「方法?」
ふたりはオメガの方を見る。
「分かりました。ではそうしますね」
「うんうん、オメガくんの言葉なら間違いはないよ」
「きゅう……」
モフ子さんはまたため息をつくように鳴いた。
数分後、艦の食堂にクローネとミラの姿があった。ふたりの前には巨大なステーキの山がいくつも置かれている。
「で、平和的な方法が大食い対決ですか……」
オメガは言った。
「はい、オメガくんのお料理ならいくらでも食べられますよね? ミラちゃん?」
「当ったり前じゃないの。あんたこそ途中で音を上げるんじゃあない?」
ミラは言い返す。
「はいっ、では、よーいスタートです!」
オメガが合図をした。ふたりはステーキにがっつき始める。
「こ、こりゃあどういうつもりだ?」
厨房から顔を覗かせその様子を見ていたジョアンが近くにいたガンマに尋ねる。
「戦わなければ生き残れない……」
ガンマはふたたび言った。
「なぁおい、ふたりとも……」
ジョアンはオメガとガンマに声をかける。
「ひょっとして、お前ら……女心というものが分かっていないな?」
オメガとガンマは顔を見合わせる。
「えっと……じゃあジョアンさんは逆に分かってるんですか? 女心……」
オメガはジョアンの強面な顔を見て言った。
「い、いや……まぁ俺も分かっているかといったらどうか微妙だが……」
「もう、ジョアンさんも分かってないじゃないですかぁ」
オメガは言った。
「だがこれだけは分かるぜ? オメガ。あいつらふたりは、お前を取り合っているんだ」
「え、僕を……ですか?」
オメガは聞き返した。
「そうだ。お前、気づかなかったのか?」
「でも、僕はすでにクローネさんと付き合って……」
「確かにそうかもしれないな。だが、それでお前とクローネの関係性が少しでも進展したか? いや、進展はしたのだろう。したのだろうが……お前にとって、クローネにあり、他の人にはないものはなんだ?」
「それは……」
オメガは考えた。答えられなかった。僕にとってのクローネさんは、他の人、ミラちゃんも含めた他の人とは何かが違う。それは分かっていた。だが、その事を上手く言語化することは出来なかった。
「あ、あの……ふたりとも……!」
オメガはふたりに声をかけた。ふたりの動きが止まった。
「僕に……考える時間をください!」
「考える時間……ですか?」
クローネが言った。
「はい、僕がおふたりのうちどちらかを選ぶ……時間です。僕はもう、僕のせいでふたりに争って欲しくない。だから考えさせてください!」
「あー……」
ジョアンが頭を抱えた。
クローネがすっくと立ち上がった。
「つまり、オメガくんが私と付き合っているというのは遊びだということですか!?」
「え……?」
「どうして、考える時間が必要なんですか! 私たちは、もうすでに……!」
クローネはナイフとフォークを置くと、怒ったように食堂を出ていった。
「ちょっと待って……!」
オメガはクローネを追った。
「猫さん! オメガくん!?」
ミラはそんなふたりを追いかける。
クローネは、誰もいない格納庫の隅で見つかった。彼女はひとり、その場に座り込み涙を流していた。
「クローネさん……!」
オメガは声をかける。
「来ないでください!」
クローネは言った。
「僕が……悪かったです」
オメガは言う。
「上手く、言語化出来ないけど……クローネさんは僕と付き合っていることは紛れもない事実です。なのに……ついあんなことを……」
「いいんです」
クローネは言う。
「私はオメガくんにとって、所詮そこまでの人間だったということですから」
「そんなことは……!」
クローネは立ち上がった。
「気を使わなくて結構です! オメガくんにとって、私もミラちゃんも、天秤にかけられるくらいの同じような存在だったということです! それなのに、私はいい気になって……」
オメガは言い返せなかった。
「もうちょっと、わがままになってくれてもいいのに……」
クローネは呟いた。
その場に沈黙が流れた。
やがて、オメガは口を開いた。
「こう言うのは、ちょっと変だと思いますけど、でも、今こうやって言われて……僕は少しだけ嬉しかった。クローネさんのわがままが聞けて……僕はよかった」
クローネの俯いていた顔が少しだけ上がった。
「クローネさん、僕にだけそういうことを言ってくれますよね。もしかしたら、それで心を許してもらっていると思っているのは僕だけなのかもしれない……でも、僕は、クローネさんのそういう特別な人になれて、本当に誇りに思っているんです」
「だったら……」
クローネは言った。
「尚更、私に対してももっとわがままになってください! これじゃあ、まるで私がひとりで……」
「ごめんなさい。僕は……すっかり忘れていたんです。お互いに心を許し合うのが、大切なことだって。だから、クローネさんを傷つけたくない一心で……」
クローネは何も言わなかった。
「でも、今分かったんです。クローネさんから本当の意味で心を許してもらうには、僕自身もわがままになった方がいいって。……改めて言わせてください」
オメガは深呼吸をしてから続けた。
「僕は、クローネさんが欲しい。他の誰よりも、クローネさんの全てが……。あの、これで……許してくれますよね……?」
クローネがさっと動き、オメガを抱きしめた。
「あ、あの、クローネさん……?」
「いいですか? これは罰です」
クローネは涙混じりの声で言った。
「暫くは……離しませんからね」
「はい……」
オメガも頷いてクローネを抱き返した。
「凄く……素敵な罰ですね……」
「ふざけないでください……」
ふたりはお互いに言い合った。
ミラ・セイラムはそんなふたりの姿を壁の柱の陰から眺めていた。
「あんなの……負けを認めるしかないじゃん……」
ミラは呟いた。
「ずるいよ、猫さん……。あたしは初めっから負けていたなんてさ……」
ミラはそっとその場を後にした。
*
数日後、テヘランに向け、着々と仲間を増やしながら進軍を続けていたジャムシードたち反乱軍本隊からスターペンドラゴンへと通信が入った。
艦橋にはアリアとレアーノの他に、オメガとクローネの姿もある。
「テヘラン郊外の要塞に篭っていたザッハークたちが投降した。これにて今回の反乱による戦闘はひと通り終了だ。お前たちの協力、感謝している」
ジャムシードは言った。
「いいや、こちらこそお前たちのおかげでアラビア帝国とイラン帝国の衝突は回避出来たんだ。感謝しているぞ」
アリアは返した。
「それから、お前たちが知ろうとしていた『ルルイエ神聖教団』からの協力者なのだが……」
ジャムシードは言う。
「残念ながら奴らは早々にザッハークを見限ったらしく、俺たちが攻め込んだ先にはいなかった」
「まぁ奴ららしくはあるな」
アリアは言った。
「それから、こちらとアラビア帝国のシェヘラザード姫との間で独自に行なっていた交渉があるのだが……」
ジャムシードは話題を切りかえる。
「交渉?」
アリアは聞き返した。
「あぁ、そちらにひとりほど人員が増えただろう?」
「あぁ、そうだが……」
アリアはオメガの方をちらりと見て言った。
「それに……アギリのハイペリオンガルーは壊れちまった」
ジャムシードは言う。
「そこで、お前たちに新しい機体を2機ほどさずけようと思ってな。ただし、タダでは手に入らない」
「か、金が必要なんすか?」
レアーノが尋ねた。
「いいや、金じゃあないさ。必要なのは社交界に相応しい美しく秀麗な身のこなしだ」
「それは、どういう……?」
「こいつは我々イラン帝国新政権と西テュルキイェ王国、アラビア帝国の和平交渉もかかっている事案だ」
それからジャムシードは勿体ぶるように続けた。
「お前たちの中から幾人かは、今から一週間後、西テュルキイェ王国のイスタンブールにて開かれる舞踏会に出てもらう」
「舞踏会……ですか?」
クローネが訊いた。
「そうだ。そしてその舞踏会にて見事優勝を果たしたひと組のペアには優勝賞品が与えられる。それが……最近開発された二機のRAというわけだ」
「つまり……私たちのうちの誰かが、その舞踏会に出るということですね」
クローネは言った。
「そういうことだ。ちなみにひとつの団体につき出場出来るのは3組まで、お前たちは現在世界各国の軍や地球防衛軍から追われる立場だから……特別に俺たちイラン帝国新政権代表としてエントリーしてもらうことになる。アラビア帝国は公式には現在西テュルキイェ王国とは敵対中だからな」
「そうですか……では、ひと組はアギリくんとガンマさんだとして……問題はあとふた組ですね。オメガくん、何か案がありますか?」
「ミラちゃんとウィンダーはどうですか? ミラちゃんはみんなから気に入られそうですし、ウィンダーは落ち着きがあって……」
「お前たち」
ジャムシードは言った。
「自分たちは出なくていいのか?」
「は、はい……?」
クローネはオメガと顔を見合せた。
「ったく、こういうのは若者の晴れ舞台ってやつだろ? オメガ、クローネ、お前たちに舞踏会への参加を命じる。イラン帝国反乱軍の総司令としてな」
ジャムシードは命じた。
*
セッテ・ガーはひとり、カーペットの敷かれた古風な建物の廊下を歩いていた。壁には燭台型のランプが取り付けられ、建物内をオレンジ色に照らしている。セッテは、ひとつの部屋の前にたどり着くと、大きな木製扉をノックした。
「来たか……。いいだろう、入れ」
中から男の声が聞こえた。
セッテは扉を開けて部屋に入る。暖炉のある執務室のような部屋だった。部屋の奥には、雪が舞う窓の外を眺めるひとりの男がいた。金色の髪に片眼鏡をした若い男だ。
「『ルルイエ神聖教団』。お前たちの話はだいたい理解したつもりだ」
男は言った。
「そしてお前たちは私が探し求める『槍』の場所を知っているという。ならば共に戦線を張ろうではないか。我々は、良き友として……」
男は右手を差し出した。セッテはその手を無感情な瞳でそっと見つめた。
「分かりました。ブルーム・ローゼンハイム大統領閣下」
セッテは抑揚のない声で言った。
後半へ続く!




