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第30話 竜の少女・2

 前半の続き!

 三つ首の龍が機能を停止し、動きを止めた。いや、それだけではない。これまで魔力により保っていた重量バランスが崩れたことにより、巨大なRBは自重で倒れ始めた。


「オメガくん! すぐにその場から脱出してください! このままでは機体ごとオメガくんも押しつぶされてしまいます!」

「で、でもこの子を助けないと……!」


 オメガは言った。オメガは黄緑色の髪をハーフアップにした少女に肩を貸すと自身のコックピットに戻った。その時、ハイペリオンオメガVVの頭上でめりめりと音が聞こえ、三つ首の龍の崩壊が始まった。


「まずい……!」


 オメガはコックピットハッチを閉じるとハイペリオンオメガVVをふたたび起動させた。モニターにクローネの姿が映し出された。


「クローネさん、すみません! 今、脱出します!」


 オメガはハイペリオンオメガVVの背部のバーニアを吹かした。


「急いでくださいね……って、その子は?」


 クローネが驚いて目を丸くするのが画面越しに見えた。


「このRBのパイロットですよ。他に誰がいるって……」

「いえ、それは分かっています。でも、なんでこの子がこんなところに……」

「クローネさん、知り合いなんですか?」


 オメガは自身の脇でぐったりとする少女を見て言った。


「その人は……」


 クローネは呟いた。


「オメガくんのお姉さんです」

「はい……?」

「ガンマ・プロメテウス。かつてミレニアム戦役において世界に絶望し、人類を滅ぼそうとした人造人間たちの首魁にあたる人物です」


 オメガはガンマを連れてスターペンドラゴンに戻った。彼女を医務室のベッドに寝かせると、彼はクローネと共に艦橋に向かった。どうやら敵方のドゥルヨーダナも三つ首の龍が破壊されたことにより撤退したようで、艦橋には既にアギリも戻っていた。


「オメガ……!」


 アギリはオメガに声をかけた。


「良かった……。無事だったんだな」


 アギリはオメガをぎゅっと抱きしめた。


「アギリさんこそ……」

「当たり前だ。機体こそ壊れちまったが、僕はお前なんかよりも……」


 そこまで言ったところでアギリは我に返りオメガを突き放した。


「って、うわっ、お前、何抱きついてきてやがるんだっ!」

「いや、今のはアギリさんの方が……」

「うるさいっ! 僕に触るな! お前といると僕まで変なキャラになりそうだ!」

「変な……キャラ?」


 オメガは首を傾げた。

 その隣でクローネがダンに声をかける。


「あのっ、ダンさん!」

「ん? どうしたクローネ」


 ダンは覗き込んでいた艦の計器から顔を上げて言った。


「会って欲しい方がいるんです」

「俺に……か?」

「はい、ダンさんに」


 オメガとクローネはダンと共にふたたび医務室へと向かった。病院服に着替えさせられ、ベッドに横になるガンマの姿を見るとダンは驚いてその場に固まった。


「ガンマ……なのか?」


 ダンは言う。


「そうだと思います」


 クローネは答えた。

 ダンは慎重にガンマに近づいていく。


「意識は?」

「取り戻していませんが、一時的な精神疲労によるものだと先生は……」


 クローネは医務室の隅にある作業机で書類にタイピングをしている白衣を着たピンク髪の女をちらりと見ながら言った。


「ガンマ……」


 ダンはベッドのそばにある椅子に座った。そして彼女の手をそっと握った。


「オメガくん」


 クローネがオメガの肩に手を置いた。


「私たちはこれで……。行きましょうか」


 オメガは無言でクローネに従い部屋を出ていく。

 廊下に出るとオメガはクローネに尋ねた。


「ガンマさんは……お姉さんは、ダンさんの大切な人なんですか?」

「ダンさんは……責任を感じているんです」

「責任を……?」

「もし、彼女ともっと分かりあっていたのなら、あんなことにはならなかったのではないか。あんな悲劇は防げたのではないか……と」

「それは……!」


 オメガは言いかけて口をつぐんだ。いいや、僕には分からない。例えそうではないと思っていても、でも僕の知らないところで起きたことには、何も言うことは出来ない。


「ですから、これはダンさんが自分の過去と向き合うチャンスだと思うんです」


 クローネはなるべく明るくなるようにつとめて言った。


「チャンス……ですか?」

「はい、かつての自分の選択が決して間違いではなかった。そう思い直せるような……。そして新しい一歩を踏み出せるような……」


 *


 薄暗い通路をふたりの人間が歩いていた。ひとりはドゥルヨーダナ・ヴァラナシィ、そしてもうひとりはセッテ・ガーだ。ふたりは無言で通路を歩いていたが、やがて開けた空間へと出る。部屋の奥には、階段状のステージが設けられており、その上にはウェーブのかかった深い青色の長い髪をした少女が立っていた。彼女は宝飾品に飾られた豪華ながらも上品な出で立ちをしている。


「戻りましたか」


 少女は言った。


「我が『ルルイエ神聖教団』の本拠地、ケレーノへ」

「はい。ザッハークを見捨てよとのアイリス様のご命令に従い」


 セッテはその場に跪く。


「ったく、だがどうするってんだ? あんたが宇宙空間で拾ったとかいうガンマ・プロメテウスは敵に奪われちまった。挙句に今回もハイペリオンオメガを逃しちまったんだぜ」


 ドゥルヨーダナはセッテとは違いその場に跪かず立ったまま言う。


「ガンマに関しては問題ありません。彼女はただの戦力です。奪われようとこちらには関係ありません。それに、ハイペリオンオメガVVは必ず我々の手に落ちます。近い将来、彼らはルルイエへと向かうでしょう。そうなれば私たちの勝ちは確定したも同然」

「んじゃあ、何もするなと……」

「いいえ、来たるべき邪神復活の時に向け、この惑星を狂気で満たさなくてはなりません。私たちの次の目的地はエウロペ大陸。それに彼らもまたそちらへ向かうことでしょう」

「へっ、次こそあのハイペリオンオメガを俺様の手で……」


 ドゥルヨーダナは拳を握りしめた。


「セッテ」


 そこでアイリス主教はセッテに顔を向けた。


「そういえば、相手方、いえ、我々から裏切った者たちの中に、アギリ・ランゴーニュという者がいましたね」

「はい……」


 セッテは抑揚のない声で返事をした。


「そうですか」


 アイリスは言った。

 ドゥルヨーダナはその真意を探ろうとしたが、彼女の表情からはなんの考えも読み取ることが出来なかった。


「それからディーナ・オルレアンには……」


 アイリスはまたしても話題を切りかえた。


「そろそろ真実を伝える頃合ですね」


 *


 どれほどの時が経っただろうか。と、ダンは思った。気がつくとダンは眠ってしまっていたようだった。医務室の灯りは消され、窓からは月明かりが差し込んでいた。

 ダンはそっと顔を上げた。座ったまま眠っていたため、身体の節々が傷んだ。


「私は、また、人殺しを……」


 ベッドの上に座る少女が呟いた。


「ガンマ……!」


 ダンは少女に言った。


「意識……取り戻したのか?」


 ガンマはこくりと頷いた。彼女の瞳は綺麗なエメラルド色をしていた。


「教えてくれないか、ガンマ。あの後、俺とお前が決着をつけたあと、何があったのかを……」

「分からない……」


 ガンマは首を横に振った。


「私は確かに、あの場で消滅したはずだった。でも、私は助けられた。いや、彼らは私を助けたかったのではなく、ただ、観測したかっただけなのかも……。たったひとり、人類の滅びを願ったものが、これから先、地球人類を相手にどう行動するのかを……」

「待ってくれ、その言い方じゃあまるで……」

「ねぇ、ダン」


 ガンマは少しだけ表情を緩めると言った。


「私たち地球人類はまるで自分たちが世界でいちばん進歩的な生き物だと思っている。宇宙のことは寸分も分かっていないのに、まるで自分たちよりも進歩した生き物はこの世に1種たりとも存在しないかの如く振舞っている。でも、もし仮に、そうでないとしたら? この広い宇宙には、地球人類を遥かに超越する生命体が存在しているとしたら?」

「何が言いたいんだ?」

「その生命体にとって地球人類は観測対象かもしれないってこと。あるいは、文明を持ったばかりの生物がどういう歴史をたどっていくのかという実験対象なのかもしれない」

「お前は……そんな宇宙人連中に助けられたとでもいうのか?」

「分からない。でも、そうかもしれない。その後私は、カプセルに乗せられて宇宙空間に放たれ、やがて彼女に拾われた。彼女の名前までは分からない。ただ『主教』と呼ばれていた。それからは『再調整』されて、あのRBに乗せられて戦っていた。私を助けた誰かの精神と共鳴して、記憶を取り戻すまでは……」

「お前を助けたのは……」


 ダンは続けた。


「お前の弟だ。あの時、あの研究所から唯一救出された。お前の弟なんだ」

「え……」


 ガンマは目を丸くした。


「彼は、多くの仲間に囲まれて、人間として生きている。確かに少しばかり未熟で危なっかしいところもあるが、それでも俺たちの大切な仲間だ。……お前だって、そんな世界を夢見ていたんだろう」

「ダン……」


 ガンマは言った。


「ありがとう……」

「初めて……」


 ダンは言った。


「俺の前で笑ってくれたな」


 ダンはガンマの頭を撫でた。ガンマはそっとダンに身体を預けた。


「しばらく……このままで……」

「あぁ、ここまで、よく頑張ったな」


 ダンはガンマの背中にそっと手を当てた。


 *


 オメガはクローネから手渡された書類の束を持って艦の廊下を歩いていた。アブソリュートモード時の戦闘用記録だ。


「もう、クローネさんは本当に人使いが荒いんだから……。こんなたくさんの紙の束を艦長の部屋まで運べって……」


 だが、そんなことを言っていると急に紙の束が軽くなり、オメガは咄嗟に隣を見た。そこには、オメガが持っていた紙の束を半分ほど引き受けたガンマの姿があった。


「あ、あの……ガン……じゃなくて、お姉さん。回復したんですね!」


 オメガは、僕と同じくらいの年齢の見た目なのにお姉さんっていうのはなんだか変な感覚だなぁと思いながらも言った。


「ガンマでいい」


 ガンマは鈴のような声で言った。


「は、はい?」

「ガンマで……いい……よ……」


 ガンマはやや顔を赤らめながら言う。しかも無理やりに優しげな口調を作っているような言い方だ。


「あ、え、えっと……ガンマさん」


 オメガは改めてガンマに呼びかける。


「オメガくん」


 ガンマはその響きを噛み締めるようにオメガの名を口にした。


「はい、なんでしょうか?」

「可愛い。弟」


 ガンマは尊そうに言う。


「嬉しい……」

「僕も……嬉しいです。こうしてお姉さんに出会えて。ま、まぁ見た目年齢ほとんど同い年くらいですけど……」


 オメガは言った。ガンマはオメガが持つ紙の束をさらに自分の持つ束に移した。


「あ、あの、そんなに持ってもらって……悪いですよ。せっかく回復したばっかりなのに……」

「お姉さんがしっかりしないと……」


 ガンマは自分に言い聞かせるように言った。


 ふたりはそのままアリアの部屋へと向かった。部屋の直前でオメガはガンマを説得して紙を全部貰うと、彼女には廊下で待っていてもらい、アリアに書類を提出した。どうせならガンマのお披露目はみんな揃っている時がいいとオメガは思った。


「オメガ……くん」


 ガンマはオメガが部屋から出てくるとぎこちなく言った。


「なんですか? ガンマさん」


 オメガは返す。


「抱きついて……いい?」

「は、はい……?」

「お姉さんとして……弟を……しっかりと……」

「いいですよ!」


 オメガは屈託のない笑顔を浮かべて言った。


「ありがとう」


 ガンマはオメガに抱きついた。


「良かった……」


 ガンマは言った。


「幸……せに……」

「あの……ガンマさん、涙が……」


 オメガはガンマの顔を見て言う。彼女の頬を涙が伝っていた。

 その時だった。


「見つけたぞこの泥棒猫第四号! ってーいっ!」


 ふたりの前にミラが現れ、勢いよく着地を決めた。

 ガンマはさっとオメガから離れる。


「誰?」


 ガンマは尋ねた。


「えぇっと、ミラちゃんだよ。僕たちの仲間の」

「そう、で、どういうつもり? あんたまであたしのオメガくんを奪いに来たの?」


 ミラは言う。


「違うよ、この人は僕のお姉さんで……」

「えっ、あっ、じゃ、じゃああたしのお義姉さん!?」


 ミラはかしこまってその場で姿勢を正した。


「お義姉さん、オメガくんをあたしにください」

「いいよ……」


 ガンマは答えた。


「えっ?」


 オメガは言った。

 ガンマはふたりを見て首を傾げた。今、私はなにかおかしなことを……?

 其は女神の名を冠する大陸。

 聖なる槍が眠りし土地。

 洋の東西が交わる地で、彼らは何を見るか。

 今、世界の覇権に名乗りを上げる者あり。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『スターペンドラゴン西へ』。

 王の力が、そこに。

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