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第29話 特訓! レッツダンシング! ・1

 特訓が開始された!

 それは、歌って踊る過酷な特訓である……!

 オメガとアギリは、特訓用の道場にてシルフィと向かい合って立っていた。


「大切なのはお互いの存在を感じ合うことです」


 シルフィは言った。


「言葉はなくとも、お互いの動きを感じ合い、そして気持ちも通じ合わせる。それこそが信頼への近道です」


 シルフィはそう言ってから畳の上に置かれた蓄音機のスイッチを押した。

 曲が流れ始めた。


「え、えっと……これを踊るのか?」


 アギリがオメガに小声で言う。


「そうですね、でも、講師がシルフィさんで良かったです。あんまり怒らなそうですし……」

「そこ、講師をナメない!」


 シルフィはそんなオメガの言葉を耳ざとく聞きつけた。


「クローネさんからオメガくんには厳しくするように言われてますからね? 罰としてこの道場を三周走ってきてください!」

「うぅ、鬼ぃ……」


 オメガはシルフィに言われた通り道場を走り始めた。


「ったく、だから浅はかな発言は……」

「そこはしっかり踊る!」


 やれやれと言いかけたアギリもシルフィに注意された。


「は、はいっ!」


 アギリはシルフィの言葉に従って音楽に合わせて身体を動かした。


 しばらくの後、オメガとアギリはくたくたになり畳の上に崩れ落ちていた。音楽は相変わらず道場に鳴り響いていた。


「まったく、こんなもんですか?」


 シルフィは楽しそうに身体を動かしながら言った。


「まず動きが音楽に合っていませんし、それ以前の問題としてお互いの連携が一切出来ていません。ふたりとも自分のことしか頭にないみたいな……」

「そんなこと言われたって……」


 オメガは言った。


「心に余裕がないというかなんというか……」

「うーん」


 シルフィは動きを止めて考え込む。


「だったら、今度は歌いにいきましょう!」

「う、歌いに……?」


 オメガはアギリと顔を見合せた。


 ふたりは道場を出るとシルフィの案内で艦内のあまり行ったことのないスペースにたどり着いた。


「ここは元々物置として使われていたんですけど、元からあんまり物も置いてありませんでしたし、私がアミューズメント用の部屋として改造したんですよ?」


 シルフィはその中の重そうな金属製扉を示して言った。


「アミューズメント用の部屋?」


 アギリはその言葉を聞き返した。


「はい、見ててくださいね!」


 シルフィは壁に取り付けられた操作盤にパスコードを入力し始めた。


「あっ、ちなみにパスコードは0823、私の誕生日ですよ! 本当はこういうのに誕生日を設定するのは良くないんですけど、この部屋はみんなに使って欲しいし、誕生日は覚えてもらいたかったので……」


 扉がスライドして開いた。中からカラフルな色合いの電飾の光が漏れ出てきた。おまけに大音量の音楽も聞こえる。


「ここは……。というかシルフィさん、こんな電力量、どこから引いてきてるんですか……」


 オメガは当たりを見回しながら尋ねた。その光景はさながらゲームセンターのようだ。クレーンゲームやリズムゲームが並び、向こうの方にはシューティングゲームまで見える。クレーンゲームのぬいぐるみは本物そっくりなモフ子さんたちだった。


「そこは、まぁ、ちょっと艦から拝借して……」

「怒られますよ……アリアさんに」


 オメガは言った。


「だからこそのパスコードです! 分かる人には分かって、分からない人には分からないような!」


 シルフィは自信満々に答えた。


「で、僕たちはどうしてここに……?」


 アギリが質問する。


「それは……」


 シルフィはやや勿体ぶるように言ってから部屋の一番奥にある扉を示した。



「あそこです!」

「あれは……?」


 オメガはそう言いながらアギリと共にシルフィを追い越して扉に向かった。そして扉を開く。

 そこは、ソファと大画面のモニターがある個室だった。モニターの下にはふたつのマイクがセットされた充電台が置いてある。


「これは……」


 アギリが呟いた。


「じゃーん! シルフィちゃん特製、カラオケボックスでーす!」


 シルフィが得意げに言ってふたりの背中を押し、部屋の中に入れた。


「じゃ、じゃあ歌うっていうのは……」

「ふふーん、ここでふたりにはデュエット曲を歌ってもらいます」


 オメガの言葉にシルフィはそう答えた。


「デュエット曲……こいつとか?」


 アギリは言う。


「はいっ、さぁ選んで選んで!」


 シルフィはタッチパネル式の端末を用意してオメガに手渡した。


「アギリさん、どうしますか?」


 オメガは端末からタッチペンを抜き取りながら訊いた。


「どうするったって……やるしかないみたいだな。オメガ、お前、どんなの歌えるんだ?」

「うーん、あんまりこういうところ来たことなくて……」

「安心しな、僕もだ。まずは……そうだな、デュエット関係なしにお前の好きなのを選びな。まずはお互いの力量を見てからだ」


 アギリは慎重に言う。


「力量だなんて、まるで戦いかなにかみたいじゃないですか……。僕たちは歌いに来てるのに……」

「当たり前だ。こいつは訓練なんだからな、僕はお気楽極楽なお前とは違うんだよ」

「さぁさぁ! 心置きなく歌っておいてくださいね! 私も久しぶりに歌ってみたくなっちゃいました。飛び入り参加、いいですか?」


 シルフィはにこにこと笑いながら言った。


「いいですよ! あ、最後は三人で歌いますか?」

「だから僕たちは遊びに来てるわけじゃ……いや、まぁいいか」


 アギリはオメガとシルフィの楽しそうな様子を見て言った。この状況を楽しもうとしていなかった僕の方が空気を読んでいなかったのかもしれないな……。


 三人がカラオケボックスに入って一時間ほどが経過した。三人は交互に色々な曲を歌い回していた。


「あの……そろそろ……」


 オメガが端末を手に取ったアギリに切り出した。今はちょうどシルフィが歌っている最中だ。


「そうだな」


 アギリはシルフィの歌声に聞き入りながら言った。彼女はかなり普段から歌い慣れている様子で、その歌声もとても綺麗だった。


「僕はお前に任せようと思う」

「えっ、いいんですか?」


 オメガは聞き返した。


「当たり前だ。お前は僕より歌が下手くそだろう? だったら上手い者が下手な者に合わせるのがものの道理というものだ」

「下手くそだなんて……」

「だがアドバイスはしといてやるぜ、お前は男性ボーカルよりも女性ボーカルを歌った方がいい。さっきから無理して男性ボーカルの曲を歌おうとしていただろ? あれじゃあお前本来の持っている声の持ち味が発揮出来ない。女性ボーカルを歌った方が遥かにマシになるってもんだ」


 オメガの顔が少しだけ明るくなった。


「アドバイス、ありがとうございます! じゃ、僕が歌えそうな曲を探しますね!」


 オメガは敬礼のようなポーズをして言った。


「あぁ、任せたぜ、オメガ」


 アギリはそう返した。

 しばらくしてオメガが見つけてきた曲は、有名な特撮シリーズの曲だった。数あるシリーズの中、この作品はふたりの探偵が活躍するバディもので、楽曲もそれらしくデュエット曲になっている。オメガがメインのメロディを歌う女性ボーカルを、アギリがそれに合わせラップ調の部分を歌う男性ボーカルを担当することになった。


「お前、こういうの好きだったんだな……」


 前奏が始まるとアギリが言った。


「いいですよね、このシリーズ。最近のはあんまりバイクに乗らないのが残念ですけど」

「そうなのかよ……」


 ふたりは歌い始めた。オメガには、シルフィの言っていた言葉が分かるような気がした。お互いを、言葉ではなく動きで感じ合う。今はそれが、出来かかっている気がした。これなら、シルフィとのダンスの特訓もクリアできそうである。

 アギリも同じことを思っていた。そして同時に、不思議にも感じていた。僕はこいつのことが嫌いなはずだ。なのに、どうしてなのだろうか、今はとても楽しい。そんなはず、あるわけがないのに……。

 やがて曲が終わった。アギリはそっとオメガに向かって手を挙げ、その手のひらを向けた。オメガはその手にハイタッチをした。ふたりはそれぞれの手を握り合い、顔を見合せ、笑いあった。

 そこでアギリはハッと我に帰った。


「オ、オメガ……僕は別に今のでお前と完全に打ち解けあったとは思っちゃあいないからな。僕はやっぱりお前が苦手だ」


 それから、口篭りながらも続けた。


「……だが、それでも……一緒に友達をやってあげてもいいと思っている」

「むぅ、素直じゃあないなぁ」


 オメガは言った。


「でも、そこがアギリさんですからね」

「余計なお世話だ。勝手に言ってろ」


 アギリはぶっきらぼうに言うが、その瞳は少しだけ嬉しそうだった。


 *


 クローネとフローラは廊下を歩いていた。クローネの両手にはモフ子さんが抱えられている。


「……それで、オメガくんは今特訓をしているはずです」


 クローネは言った。


「そう、ま、それは別にいいですわ。でも、最近艦内の電力消費が激しいとアリアさんがおかんむりですのよ。ですからわたくしたちはその調査を……と。あぁっ! ムカつきますわ! どうしてわたくしがあんな眼帯年増女の使いっ走りに!」


 *


「はっくしょい!」


 アリアは艦橋の艦長用の椅子に座ってくしゃみをした。


「あ、風邪っすか?」


 レアーノが尋ねる。


「かもな、もしくは誰かがあたしの悪口を言ったか」

「考えすぎっすよ」

「だといいがな」


 アリアは怪訝な表情をしながら答えた。


 *


「ま、まぁまぁ……あんまり悪口を言ってるとアリアさんに怒られてしまいますよ」


 クローネがフローラを宥めた。


「別にいいですわよ、怒られても。わたくしはプライドを傷つけられてもっと怒っていますし」

「えぇっと……この辺りから電力が引かれてるって話でしたよね。フローラさんの分析によると……」


 クローネはフローラが持つ携帯用のコンピューターを覗きながら言った。


「そうですわね。でもたしかこの先には倉庫用の部屋しか……。考えたくありませんがわたくしのコンピューターが間違っているという可能性も……」


 ふたりはまもなくその扉の前へとたどり着いた。


「ほら、やっぱり……。行きますわよ」


 フローラはせっかく手に入れそうだった獲物を逃してしまったというような顔で言った。


「そうですね……って、あの、フローラさん」


 クローネはその場を立ち去りかけたフローラに続こうとしたが、そこであるものに気づいて立ち止まった。


「ここに……パスコードロックなんてかけられていましたっけ?」


 クローネの言葉にフローラも彼女が示した方向を見る。そこには、その言葉通りパスコードロックの操作盤が取り付けられていた。


「何者かが……部屋を改造してロックをかけたんですのね。いいですわ。この陰謀、わたくしたちで暴いてさしあげますわよ」

「で、ですがパスコードは……」


 クローネが言った。


「そうですわねぇ。考えられる文字列を全部試していたら夜が明けるまでかかりますわ。かといって扉を壊そうにも恐らく扉には魔術的な防壁がかけられている……」

「あの……」


 クローネが言った。


「フローラさん、お誕生日はいつですか?」

「三月十五日ですわ」


 クローネはパスコードロックのキーを「0315」と打ち込んだ。操作盤の上部にあるモニターに「ERROR」の文字が表示された。


「当たり前ですわ。だいたいどうしてわたくしの誕生日ですの?」


 フローラはまったくといった様子で言った。


「いえ、適当に思いついた番号を打ち込もうと思いまして……」


 クローネはけろりとして答えた。


「えっと……では、次は私の誕生日を……」


 クローネは操作盤に「0118」と打ち込んだ。やはり扉は開かなかった。


「やっぱり、そうですよね……。次はどうしましょう、オメガくんのにしますか?」


 クローネは少しだけ楽しそうに言う。


「いいえ、やめた方がいいですわ。多分あまりにも違う番号を続けて打ち続けていると強制ロックが……」

「で、では……」

「闇雲に番号を打ち込むよりももっといい方法を思いつきましたわ」


 フローラはにやりと不敵に笑って言った。

 後半へ続く!

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