第28話 破壊の竜・1
イラン帝国への反逆が開始された。
その時、三つ首の竜が現れて……!
ジャムシードたちのイラン帝国軍基地地階にある薄暗い作戦室に、反乱軍たちの主要メンバーが集めらていた。部屋の中央には帝国のマップが投影されたデスク状のモニターが据え置かれている。オメガとアギリも特別にその部屋に招待されていた。
「我々は今回の件で明確にザッハーク一派とは袂を分かったわけだ」
と、ジャムシードは言った。
「よって、放っておいても敵方はこの基地に攻め寄せてくると思う。だが、防戦一方になることはこちらとしても避けたい。なるべくならば進軍を続け、各地でザッハークに不満を持つ者たちをまとめあげ、そのまま帝都テヘランへと進軍をしたい」
「ですが……果たして勝算があるのですか? 途中で味方を引き入れることを前提としても……初戦を大軍で叩かれては……」
「問題ない」
ひとりの軍人の質問にジャムシードは言った。
「そこで重要になってくるのがオメガ、アギリ、お前たちだ」
ジャムシードはオメガとアギリを見据える。
「え……?」
「俺がなんの考えもなしにお前たちを軍議に参加させると思うか? お前たちにもしっかり役割が与えられている」
ジャムシードは続けた。
「オメガ、お前は特に、アラビア帝国のシェヘラザード姫とは仲がいいという話だったな」
「えっと……一応、そうだと思います。一緒にお食事に行ったり……手料理を振る舞ったり……」
「思いっきり仲良しじゃねぇか……」
ジャムシードは小声で言ってから話を続ける。
「ならば姫に頼み込んで援軍をよこして欲しい。ついでにお前たちの仲間も引き連れてな……。本来、内戦に外国勢力の力を借りるのは戦後処理の観点から見て悪手だが……シェヘラザード姫の場合は別だ。彼女は地球規模で物事を見ることが出来る稀有な人物だ」
「わ、分かりました!」
オメガは少しだけ緊張をして、敬礼をした。
「それから……だ」
ジャムシードは隣に立つグルドの方を向いた。
「お前も一緒に行ってやれ」
「え……?」
「向こうの交渉担当は皇族身分だ。釣り合いを保つためにな」
「まっかせて」
グルドはジャムシードに向かってウインクをした。
「よし、ふたりとも、機体はヤザタを使え。万一にでもお前たちが基地を空けていることが敵方に知られたらまずいことになるからな」
しばらくの後、オメガとグルドの姿は基地の格納庫にあった。ふたりは2機の黒と金色のイラン帝国軍量産機、ヤザタに乗り込んでいる。
「よろしくね、オメガくん」
グルドが通信をかけてきた。
「あの……本当に行かなきゃいけないんでしょうか。こういう交渉は、通信越しだけでも……」
「大事なことこそ、顔と顔を突き合わせてやらなきゃいけないってこともあるの。ましてや、この国の未来に関わることなんだから……」
グルドはそう言うと操縦桿を引いた。
「ヤザタ。グルド・へラード、清く正しく美しくぅ! ……なんちゃって」
「ヤザタ。オメガ・グリュンタール、翔びます!」
オメガもグルドに続いて砂漠の晴天に飛び出していった。
イラン帝国反乱軍代表とシェヘラザード姫、およびスターペンドラゴン、ティンダロスとの交渉は翌日、スターペンドラゴンの艦橋にて行われた。
艦橋にはオメガ、グルド、シェヘラザード、アリア、レアーノ、クローネ、ダン、シルフィ、ディーナ、ウィンダー、ミラが集まっている。
「あなたたちが本気で国を変えようとしているのは分かった」
シェヘラザードは言った。
「でも、少々私たちのことを買い被りすぎなんじゃあない?」
「買い被り……すぎ……?」
グルドは聞き返した。
「そう、まるで私たちが戦後一切あなたたちの国の政策に関わらないって言ってるみたい……」
「だ、だってそれは……!」
グルドは言う。
「さぁーて、どうかしらねー」
シェヘラザードは軽い調子で言ってのけた。
「え……?」
「なーんてねっ」
シェヘラザードはにこりと笑うと言った。
「確かに私たちはそんな下衆なことはしない。でも、将来的にはあんたたちが国を運営していくんでしょ? その時は、気をつけた方がいいよ。列強国は信用しすぎないこと。いい?」
「肝に……銘じます」
グルドは畏まって言った。
会談が終わると、グルドはオメガを伴って艦の休憩スペースに向かった。窓の外からはアラビア帝国の戦艦用プールに停泊した他の戦艦たちが見える。
「私には……」
と、グルドは言った。
「憧れている人がいた。そんな人に、今日、出会えた」
「シェヘラザードさんのことですね」
グルドは頷いた。
「私も、あんな風になれるかは分からない。でも、なりたいと、ううん、国を守るためにはならなくちゃあいけないと思った」
それから表情を弛めてオメガの肩をばしばしと叩く。
「なんちゃって……! 辛気臭くなっちゃった? ごめんごめん」
「痛いですよ! もう……お姫様なんですからもうちょっとお淑やかに出来ないんですか!?」
オメガは言った。
「でもこれが素の私だからぁ……」
「あの……ザッハークさん……? が、あなたたちに何をしたのか、教えてくださいませんか」
「え?」
「僕は、お互いの利害だけで戦うのは嫌なんです。なにか、そういう理由が欲しいというか……」
「ザッハークは……」
グルドは切り出した。
「私の大切な兄さんを殺した」
「お兄さんを……?」
「言ったでしょ? 第一皇子は追放されたって。それって、私の同母兄なの」
「でも、追放って……」
「そう、表向きはね。でも、最終的には幽閉されて、そこで暗殺された。全ては自分の言うことを聞く第二皇子を皇帝の後継に据えるために……」
「でも、皇帝は……何も言わないんですか? 自分の息子を道具みたいに扱われて……」
グルドは首を横に振った。
「言わないんじゃなくて言えないの。お父さん、もうだいぶ耄碌しているから……」
「分かりました」
オメガは言った。
「これでようやく戦う決心がつきました。敵方にドゥルヨーダナがいるというだけじゃなく、僕自身が相手を許せないと思ったから……」
「オメガくん」
グルドはきっぱりと言った。
「ありがとう。でも、その考えだけはやめた方がいい」
「はい……?」
「だってそうでしょ? 人が戦いをやめないのは相手を許せないと思うから、他人の痛みを自分の痛みと思ってしまうから……じゃないの? 私だって他人のことは言えないかもしれない。でも……なるべくなら私個人の復讐に心まで尽くして欲しくはないの」
「でも……」
と、オメガは言った。
「誰かの痛みを分からなくなったら……それこそ人はどこまでも残酷になってしまいます。僕は……まだまだ人間としては未熟ですけど、でも……これまでの戦いでそれだけは分かったつもりです」
「そうかもしれない」
グルドはオメガの頭を撫でた。
「みんな正しくてみんな間違ってる……。それがこの世界なのかも」
その時、休憩スペースの入口で悲鳴のような声が上がった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! この泥棒猫第三号!」
一瞬にして、ミラが飛んできてグルドの胸元に飛び込み、オメガから引き離した。
「ど、泥棒猫……?」
「あたしのオメガくんの頭を許可なく撫でてたでしょ!? 気持ちは分かるけど、絶対に許さないんだから!」
「え、えっと……紹介します」
オメガは戸惑いながらもミラを紹介した。
「この子はミラ・セイラムっていって、ハイペリオンシュヴァリエのパイロットで……」
「RAのパイロットさん?」
グルドは聞き返す。
「はい……」
オメガは頷いた。
「だったら伝えてくれる?」
グルドはミラの両肩に手を置いた。
「あなたたちのRA三機は私たちが戦闘を開始してから援軍として加勢に来て欲しいの。なるべくぎりぎりまで援軍のことは秘密にしたいからね。まずは相手を油断させることから。こういうのは初戦の勝利がいちばん大事でしょ?」
「う、うん……」
ミラは頷いた。
「泥棒猫の頼みってのは悔しいけど、どうせオメガくんも同じ意見なんでしょ? だったらそれに免じて聞いてあげるっ」
ミラはオメガの方を尊そうに見つめて言った。
「ありがとう、ミラちゃん」
オメガは言う。
「うんうん、あたし、オメガくんの頼みならなんでも聞いてあげちゃうんだから」
ミラはそう言うととても上機嫌に部屋を立ち去って言った。
「とっても楽しそうな仲間だねぇ」
グルドが言った。
「ミラちゃんは……たまに口が悪いけどいつもパワフルでとってもいい子だから……」
オメガは言った。
オメガとグルドがジャムシードのところに戻って数時間後、戦闘が開始されたとの報告がスターペンドラゴン、およびティンダロスに入った。
クローネは、その報せを受けてミネルヴァΔデルタのコックピットに乗り込んだ。彼女はコックピットのスイッチを次々と入れていく。
「オールチェックグリーン、行けます!」
それからクローネは操縦桿を大きく引いた。
「ミネルヴァΔ。クローネ・コペンハーゲン、撃ち抜きます!」
ミネルヴァΔの背部から水色の魔法粒子が噴射され、スターペンドラゴンのカタパルトから空中へと射出される。
右方に目をやると、ちょうどハイペリオンシュヴァリエとハイペリオンミハイルも射出されたところだった。
「猫さん、どっちが多く敵を倒せるか、勝負だからね?」
ミラからの通信が入る。
「絶対に負けませんよ?」
クローネは言い返した。
三機のRAは戦場へ向けて砂漠を飛んでいった。
オメガとアギリは、作戦の第一目標である近くのイラン軍基地に向けて飛行していた。周囲には十数機のヤザタ。そして前方にはシームルグがそれらを率いるように飛行している。反乱軍側のヤザタは、敵方と区別するために金色のラインを銀色に塗り替えていた。
しばらくして地上に基地が見えてきた。基地の周囲には帝国側のヤザタたちがプラズマライフルを構えて待ち受けていた。
「行くぞ……。総攻撃を仕掛ける!」
ジャムシードが部隊の者たちにそう号令した。
「分かりました!」
オメガは仲間と共に機体を基地に向けて降下させていく。すぐさまヤザタがプラズマライフルを放ってきた。
だが、オメガのハイペリオンオメガVVは素早くその攻撃をかわすと、頭部のエッジを分離させて敵機に向かって飛ばした。
「メガロスラッシャー!」
メガロスラッシャーは数機のヤザタの関節を切断して戦闘不能にするとハイペリオンオメガVVの頭部に収まった。
周りを見ると、味方機は次々と敵機を撃退していくところだった。
「妙だな……」
アギリからの通信がオメガに入った。
「妙?」
オメガが聞き返す。
「あぁ、敵にまるで勢いが感じられない。もう少し抵抗されるものだと思っていたが……」
その時、前方で敵を撃破していくシームルグの動きが止まった。
ジャムシードは周りに号令をかける。
「まずい……! 我々は誘い込まれていたんだ! 撤退するぞ!」
「え……?」
その時、地面を揺るがすような振動が基地の地底から上がってきた。
「地震……?」
オメガは訊く。
「いいや……」
アギリは言った。
突如、基地の地面が割れ始めた。
「何か……。地底からやって来る……!」
地上を覆っていた岩盤が大きく陥没した。基地の建物はその陥没に次々と飲み込まれていった。粉塵が周囲を覆う。
やがて土煙が晴れ、そこに姿を現した者に周囲にいた者たちは我が目を疑った。
それは、巨大な三つ首の龍だった。背部には大きな翼が生え、全身を覆う装甲の色は黄金色をしていた。
「三つ首の……ドラゴン……?」
オメガは思わず呟いた。
「いや……あいつは……」
と、アギリは言う。
「巨大すぎて半ば信じ難いが、あいつはRBライドビーストだ。人間が操縦する機械の化け物だ……」
確かに、全身は装甲に覆われているし、その造形は機械的だ。だが、その全長は100メートル近くある。あんなものが果たして人間の手で造れるのだろうか……? オメガはそう思った。
三つ首の龍は二本の太く逞しい脚を使い、地上を歩いた。その度に、龍の足元の地面は少し陥没した。
龍は、三つの首の先についた頭部から金属が擦れるような音の咆哮を上げた。やがて龍は、その口内にエネルギーを溜め始めた。龍の喉の奥が少しづつ黄色い光を放っていく。
「まずい……! 待避だ!」
ジャムシードが言った。しかし、一歩遅かった。三つある龍の口全てから黄色く光る雷のような光線が発射されたのだ。稲妻のようなその光は、空に向けて放たれ、反乱軍のヤザタたちを次々と撃破していった。なんとか命中を避けたオメガ、アギリ、ジャムシードたちだったが、光が近くを通過する時、コックピット内の空気までもが振動するのを感じた。
三つ首の龍は咆哮した。その姿はまさに、破壊そのものであった。




