第27話 反逆の日・2
前半の続き!
オメガたちがようやく目の前の皿を平らげた時、基地内に警報が鳴り響いた。
「何事だ!?」
ジャムシードが誰よりも早く立ち上がり、自身の腕輪型通信機に通信を入れる。
「外を……見れば分かります!」
通信機の向こう側の声が叫んだ。四人はすぐにバルコニーの手すりに向かう。
そこには、見覚えのある機体によく似た赤いRAが地上を破壊していた。
「あれは……」
オメガが呟く。微妙に機体の形状は異なっており、かつてチャクラムを装備していた部分には金属製の鉤爪がついているが、あれは間違いない……。
「ドゥルヨーダナ……!」
オメガは言った。
「ジャムシードさん……!」
オメガはジャムシードに向き直った。
「行くんだな」
ジャムシードは言った。
「はい。あいつは僕が決着をつけなくちゃあいけない相手です!」
神威さんのためにも、あいつだけは絶対に……! オメガは心の中で自信に言い聞かせた。そして、格納庫に向かおうとする。
「待て」
そんなオメガをアギリが呼び止めた。
「僕も行こう」
「アギリさん……?」
アギリはにやりと笑って言った。
「お前ひとりじゃあ心もとないんだよ」
それからアギリはジャムシードの方に目を向けた。
「いいだろう? ジャムシード」
「構わない。ここで盛大にやってくれれば、我々も宣戦布告の手間が省けるというものだ」
ジャムシードの言葉が、ふたりにとっての戦闘開始の掛け声となった。
ふたりは格納庫に向かうと、自分たちの機体の周りに張り巡らされたタラップを駆け上がり、コックピットに飛び込んだ。
「ハイペリオンオメガVV。オメガ・グリュンタール、翔びます!」
オメガは操縦桿を大きく引いた。
「ハイペリオンガルー。アギリ・ランゴーニュ、美しく……なぁ!」
ハイペリオンガルーの両眼に光が灯り、両手の甲から光の爪が飛び出す。
二機はカタパルトに足をかけた。格納庫の前方のシャッターが開き始める。
「オメガ……足手まといにはなるなよ……!」
「そっちこそ……!」
ふたりは同時にバーニアに点火をした。
二機のRAは砂漠の青空めがけて飛んでいく。
ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィはエンディミオンヴリトラの右手に構えたプラズマライフルの光弾を基地の建物に命中させ、破壊していった。
「はっ……この俺様を愚弄した報い……ここで受けやがれってんだ!」
ドゥルヨーダナは言った。
だが、そんな彼の目の前に、二機のRAが飛来した。ハイペリオンオメガVVとハイペリオンガルーだ。
「これ以上は行かせない!」
オメガはハイペリオンオメガVVにビームセイバーを抜かせた。
「そっちからお出ましとはなぁ!」
ドゥルヨーダナはエンディミオンヴリトラのプラズマライフルを腰部に戻すと代わりにビームフィランギを抜き、緩やかにカーブしたオレンジ色の光刃を展開した。
二機の光の刃は青空を背景にしてぶつかり合う。
「もう僕は……お前になんか負けない!」
オメガはそう言うとエンディミオンヴリトラの刃を押し返した。
「こいつ……」
ドゥルヨーダナは呟いた。
「前より強くなっていやがる……?」
だが……。と、ドゥルヨーダナは笑みを浮かべた。
「それでも俺様の敵ではないがなぁ!」
ドゥルヨーダナはエンディミオンヴリトラの出力を上げて容赦ない連続攻撃を浴びせた。
次第にハイペリオンオメガVVは防戦一方となっていく。
「オメガ……!」
アギリが言った。
「交代だ! 次は僕の番だ」
ハイペリオンオメガVVは機体を飛び退かせる。すかさずにエンディミオンヴリトラの前にハイペリオンガルーが割り込んだ。
今度はハイペリオンガルーのビームクローがビームフィランギとぶつかり合う。
「いっちょ前に連携でも見せてるつもりか? くだらねぇ。まとめて焼き尽くすまでだ!」
ドゥルヨーダナは叫んだ。そしてエンディミオンヴリトラの両腕にあるオリハルコン合金製の爪に炎を纏わせ始めた。
「アタックスキル……。カリ・ユガ……!」
「させるかぁっ!」
不意に、空中から白いものが飛来してエンディミオンヴリトラを突き飛ばした。エンディミオンヴリトラは姿勢を崩し、アタックスキルは不発に終わる。
ハイペリオンオメガVVとハイペリオンガルーの前に立ったのは、いつかの白いRAだった。
「あれは……!」
オメガは言った。
白いRAからの通信が入った。そのパイロットは、ジャムシードだった。
「自分たちの基地が蹂躙されて黙ってるわけにはいかないだろう?」
ジャムシードは言った。
「あなただったんですね……!」
オメガが言う。
「あぁ、ジャムシード・アラーク、機体名はシームルグ。華麗にいかせてもらうぜ!」
シームルグは背中の両翼を広げるとエンディミオンヴリトラに突撃した。シームルグはビームシャムシールを抜き、ビームフィランギとぶつけ合った。
「どいつもこいつも……邪魔をしやがって……!」
ドゥルヨーダナは激昂した。
「俺様の本当の力を見せてやるぜ!」
エンディミオンヴリトラは空中に飛び上がりシームルグから距離を取ると機体表面を黄金色に輝かせ始めた。
「あれは……!」
オメガは目を見開く。
「なんだ……?」
アギリが訊いた。
「あれです! 僕や兄さんの機体にあったっていう暴走機能は……。ドゥルヨーダナまで……!」
「ったく、いつも暴走気味の野郎のくせに更に暴走モードだと……?」
アギリは呟く。
オメガははっとしてシームルグの腕を取り、後方に引いた。
「ジャムシードさん! 近くにいてはいけません!」
「なんだと……?」
「アブソリュートモードの出力は近くにいるだけでもあらゆるものを破壊します!」
「そんなやつ、どうやって……」
「僕がやります。僕もアブソリュートモードになって、あいつを……」
「やめろ、オメガ」
アギリが言った。
「でも……!」
「お前まで暴走してどうする? ここでアブソリュートモードを使って……ここに居ないお前の仲間。クローネやミラが喜ぶと思うのか? 暴走してでも勝利する。そんなお前の考え方に僕は賛成できない」
「じゃあ、どうすれば……!」
「安心しろ」
アギリの赤い瞳がきらりと輝いた。
「近づくとやばいんなら近づかなければいいだけの話だろ? 僕が奴の動きを封じる。その隙にお前はアタックスキルを放て」
「そんなことが出来……」
「見てなって。僕はお前と違って有能な男なんだよ!」
アギリはそう言うとハイペリオンガルーの右手のビームクローを地面に突き立てた。
「行くぞ……! アタックスキル! フェンリル・グレイプニル!」
アブソリュートに変化しかかっていたエンディミオンヴリトラの周囲から光のロープや鎖が出現し、機体を拘束した。
「な……っ!」
ドゥルヨーダナは突然のことに驚く。
「オメガ! 今だ! やれ!」
「分かりました!」
オメガは頷くと、自身の真正面に位置する赤いクリスタルに手をかざした。
「アタックスキル!」
クリスタルに魔法円が浮かび上がる。
「フォトンスラッシュVV!」
ハイペリオンオメガVVの頭部のエッジが虹色の光を発し、やがてそれは光の鞭に変化してエンディミオンヴリトラへと襲いかかった。
「く……き、貴様……!」
エンディミオンヴリトラは攻撃を耐えるものの、アブソリュートモードは解除され、地面に落ちていった。
「今だ!」
オメガは、ハイペリオンオメガVVにビームセイバーを構えさせ、落下していくエンディミオンヴリトラに向かった。
だが、そんなオメガのトドメの一撃を、受け止める者があった。
「新手……?」
オメガは機体を後退させると新たに現れた青い機体に向き直った。
背部にX字型のウイングのある細身の機体だ。手にしているのは、グリフォーンのものにも似たツインセイバーである。頭部からは一本のユニコーンの角のようなアンテナが伸びている。
「ここから先は通さない」
その機体のパイロット、セッテ・ガーは呟いた。
「セッテ……。余計なことを……」
ドゥルヨーダナがセッテに通信をかける。
「ドゥルヨーダナ。あなたの行動は理解に苦しむ。今アブソリュートモードを使えば間違いなく『鍵』諸共ハイペリオンオメガを破壊していた」
「ったく、てめぇには分からねぇだろうがよ! 俺様は今、最っ高に頭に来てやがるんだよ!」
「戦場において感情は敵」
セッテはそう言いながら自身の機体をハイペリオンオメガVVと格闘させた。
「ドゥルヨーダナ、撤退を推奨する」
セッテは提案した。
「けっ、頭を冷やせってか? てめぇの血で冷やしてやるぜ!」
「そう……」
セッテは無関心そうに言った。
セッテはハイペリオンオメガVVが一瞬自らから離れたのを見て取り、機体を戦闘機型に可変させ、飛び去っていった。エンディミオンヴリトラも彼女に続いた。
「可変機……だったのか?」
オメガは呟いた。
ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィとセッテ・ガーは戦場を後にすると、近くのイラン帝国軍基地格納庫に機体を滑り込ませた。
格納庫の床面に降り立ったドゥルヨーダナにセッテが声をかける。
「今回の功績はひとつ。ザッハーク様がジャムシード一派を討伐する口実が出来たこと。これで私たちは心置きなく戦える」
すると、ドゥルヨーダナは拳銃を抜いてセッテに向けた。セッテは無表情のまま銃口に目を向ける。
「本当に驚かねぇんだな」
ドゥルヨーダナは言った。
「あなたの行動は常に不可解」
セッテが言う。
「俺様にとっちゃてめぇのが不可解だ。お前にはまるで恐怖心というものが感じられない」
「恐怖心……?」
セッテは少しだけ首を傾げた。
「あぁ、どんな生き物でも欠片ほどは持っているはずさ。死に対する恐怖を、自身が傷つくことに対する恐怖を。だがお前にはまるでそんなものが感じられねぇ。まったく、殺し甲斐のない女だぜ」
「戦場にそんなものは不要」
セッテは冷たく答えた。
「そういう所だ」
「それよりも」
セッテはドゥルヨーダナの右手を取る。
「負傷の治療のが重要。傷口が化膿する前に手当をするべき」
ドゥルヨーダナはセッテの手を振り払った。
「なんの真似だ? お前だって知ってるだろ? この傷は俺様が壁を殴った時に……」
「理由はどうでもいい。治療が必要」
「そうかよ。お前と言い合いをしようとした俺様のが愚かだったぜ。ここまで融通の効かない馬鹿も初めて見た。治療は医務室で受ける。それでいいだろ?」
セッテはこくりと頷いた。ドゥルヨーダナはセッテに背を向けた。
「安心しな。今日は暴れねぇよ。お前と話していると馬鹿らしくて怒りも吹き飛んじまうんだ」
「哀しみ、怒り、寂しさ、それに恐怖……」
セッテは呟いた。
「あぁ?」
「人間の感情に含まれる要素をその人の言動から分析し、読み取ることを学んだ。結果、あなたの心からそれらが検出された」
「てめぇ……」
ドゥルヨーダナは呟いた。
「意外だった」
セッテは言う。
「あなたは私と同じで恐怖心などないと思っていた」
ドゥルヨーダナはセッテに背を向けたままにやりと笑って答えた。
「言っただろ? 恐怖心を全く持たない生き物はいないってな」
彼はそう言うと立ち去っていった。
後に残されたセッテは呟いた。
「やはり……不可解」
オメガたちのいるイラン帝国軍基地の屋外に、木箱などを組み合わせて即席の演説台が用意されていた。周囲には多数のイラン帝国軍人たちが集まっている。
演説台の下で、オメガは隣に立つジャムシードに尋ねた。
「あの……ジャムシードさんはどうして……クーデターを起こそうと?」
ジャムシードはしっかりと前を見すえて答えた。
「決まってんだろそんなこと。俺はこの国が好きだ。だからこそ、そんなイラン帝国が誰かの食い物にされようとしている現況が許せねぇんだよ」
やがて、演説台の周りに集まった軍人たちが、拍手を始めた。壇上に、グルドが上がったのだ。
グルドは会釈をすると話し始めた。
「私、イラン帝国第八皇女、グルド・ファランギース・へラードはここに号令します。今こそ、国家に仇なす逆賊、ザッハーク・ゴルガーンを討ち果たすべき時であると!」
軍人たちが歓声を上げた。
反乱が、始まろうとしていた。
砂漠に黄金の竜が降り立った。
悪魔の生み出したその竜は聖鳥と爪を交える。
空が割れ、大地が砕ける。
勝つ者は聖か邪か。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『破壊の竜』。
三つの牙が、襲い来る。




