第25話 愛の戦士、登場!?・2
前半の続き!
オメガは紫の仮面を被った少女に飛びかかられ、椅子ごと床に倒れ込んだ。
「うわっ、ほ、ほんとに何事!?」
隣を見るとシェヘラザードも床に転がっている。
「な、何……? 新手の暗殺者!?」
「あなたですね!」
紫の仮面の少女はオメガを床に押さえつけると言った。
「は、はい……?」
「確かあなたは……付き合っている女の子がいたはずです。なのにほいほいと地元の娘に誘われて、こんな高級そうなレストランに……。まだ、わた……じゃなくて、彼女さんとすらこういう高そうなお店には入ってませんよね!?」
「いや、だから……これは別にそういうんじゃ……」
「じゃあどういうことですか!?」
「えっと……その……お仕事というか……」
「言い訳は通用しません!」
紫の仮面の少女が言った。
「いいですか? あなたのお仕事は地球防衛軍少尉のはずです! 知らない女の子とレストランに行くことではありません!」
「あの、なんで僕のことを……」
すると紫の仮面の少女は得意げに言った。
「私たちは正義の味方ですから、何でもお見通しなんですよ」
「乱暴な正義だなぁ……」
オメガは呟いた。
「何か言いましたか?」
「いや、何も……」
「では、もう金輪際、悪いことをしたり、彼女さんを悲しませたりしないと誓いますか?」
紫の仮面の少女が言った。
オメガがちらりと横を見ると、シェヘラザードは赤い仮面の少女によって、まるで捕縛されたかのようにロープで縛られていた。
「とほほ……」
シェヘラザードは言った。
「でも違うもなにも僕は……」
「オメガくん、私は信じてました……」
紫の仮面の少女は若干上擦った声で言った。
「え、あの、僕、そんなにあなたたちに監視されてたんですか? だから声も見た目もどっかで会ったような気がするのかぁ……」
「う……うぅ……」
紫の仮面の少女はその場に崩れ落ちてしくしくと泣き始めた。
「あぁ、泣かないでください。なんか知らないけど罪悪感が出てきちゃうじゃあないですか……。ほら、そんな仮面なんか外して涙を……」
「ちょ、ちょっとやめてください……仮面は……!」
オメガは紫の仮面の少女の仮面に手をかける。すると少女は慌てたようにオメガの手を振り払った。そこで、オメガの指先が少女の仮面にひっかかり、仮面が宙を舞う。
「「あっ……」」
ふたりは同時に言った。
「クローネさん!?」
オメガは素っ頓狂な顔を上げる。
するとクローネは立ち上がって慌てて否定をした。
「いいえっ! 私はアモーレヴァイオレットです!」
「いや、でもどう見ても……。待って、てことはそっちの赤いのは……」
「あ、アモーレレッドだから!」
ミラ・セイラムと思しきアモーレレッドは手を振って否定した。
「そうです! 他人の空似です! 私はクローネ・コペンハーゲンなんて人は知りません!」
クローネは否定した。
「あの……無理がありますよ。だいたいもう自分の名前言っちゃってるし……。どうしたんですか? 完全に不審者じゃないですか」
「オメガくん!」
クローネはオメガに詰め寄るように身体を近づけた。
「は、はい……」
「説明してもらいます! この方はどこの誰で、どうして一緒にお食事をしているんですか!?」
「その点については……」
と、シェヘラザードが口を開いた。
「アモーレヴァイオレットさん、私から説明します」
彼女は毅然とした態度で言った。
「私は皇帝シャフリヤール六世の姉、シェヘラザード・ギザ。その方には少しだけお仕事を手伝ってもらって、その労いのために……」
「そうですか……って、えぇ!?」
クローネは驚いて飛び退いた。
「す、すみませんっ、それはご無礼を……!」
クローネは何度も頭を下げる。
「いいんです。あなたたちが街の平和を守るヒーローだということは分かりました。ですが、私にも、ましてやオメガくんにはなんの罪もありません」
いや、この人たち、ヒーローじゃありませんよ……。オメガは言おうとしたが、やめておいた。
ミラも仮面を外す。
「だってさ、猫さん。あたしたち、ただの勘違いだったみたい……」
「そうですね……」
クローネはそう言ってからシェヘラザードに向き直った。
「この度は、ご迷惑をかけてしまい……。あの、私たち、実は正義の味方なんかじゃあなくて、ただのオメガくんの仲間というか……その……」
「えぇっ、そうだったの!? 分からなかったなぁ」
シェヘラザードは本気で驚いたという様子で呟いた。そこで、考え込むような表情になる。
「ん? 待って? てことは……もしかして、オメガくんの彼女さん!?」
「そ、そうです……」
クローネが顔を赤らめて答えた。
「で、あたしはそのライバル!」
ミラが胸を張って言った。
「そうだったんだぁ。あ、もしよかったらふたりも一緒にお食事どう?」
シェヘラザードがふたりを食事に誘った。
「え、あ、あの……いいんですか?」
クローネが言う。
「いいよいいよ、私たち、もうオメガくんで繋がったオメ友だし!」
「なんですかその造語……」
オメガは小声でツッコミを入れた。
四人は改めて席に座って向かい合った。それぞれの前には前菜のサラダが並んでいる。
「オメガくん、お味はどうですか?」
クローネが訊いてきた。
「美味しいです。……このドレッシング……どうやって作ってるのかなぁ……。多分、この味は……」
オメガはメモを取り出して書き込み始めた。
「それにしても、楽しい仲間たちだねぇ」
シェヘラザードは感心するように言った。
「私たちが……ですか?」
クローネは訊く。
「うんうん、ちょっと羨ましくなっちゃった。だってこの三人に加えてダンくんやシルフィちゃん、それにディーナちゃんもいるわけでしょ? 絶対毎日楽しいって」
シェヘラザードはにこにこと言う。
「そうですね。僕もみんなと居られて良かったと思ってますから」
オメガは答えた。
「あたしも、オメガくんと出会えて本当に良かった」
ミラは心から言う。そうだ、あたしはオメガくんと出会えてなかったら、多分、まだ殺戮兵器のままで……。
「だから猫さん、絶対にあんたには負けないからね」
「望むところです」
クローネは答えた。
「あの……ところで……」
と、オメガは言う。
「さっき『新手の暗殺者』がどうとかって……。あの『新手』ってなんですか?」
オメガの質問に、シェヘラザードの表情が少しだけ暗くなった。
「私、もうすでに何回か暗殺未遂事件にあってるの……。どうも私が反ゲルマニア派だから、ゲルマニアの急進派が、それなら私を排除してしまおうと差し向けてくるみたいで……」
「ゲルマニア共和国……。ブルーム・ローゼンハイム大統領ですね」
クローネは言った。
今日その名前を聞くのは二回目だ。と、オメガは思った。
「クローネさんも知ってるんですか?」
「はい。常識で……って、ふたりはそうでしたね、少し普通の人と事情が違う人たちですから、知らなくても当然でした……」
クローネは説明を開始する。
「ブルーム・ローゼンハイム大統領。ミレニアム戦役終戦後に大統領に就任した彼は、ゲルマニアをローマ連邦やブリテン王国に並ぶ大国に押し上げることを掲げて国民の絶大な人気を得て就任しました。確かに、その経済政策は一定の成果を出しましたが……逆に、過激な一面も目立ち……この前の南ローリー大陸での反乱にゲルマニア軍が関わっていたのもおそらくは彼の指示でしょう。また、エウロペ大陸中央部に位置するエルフたちの諸国家も強制的に併合しました」
「つまり……軍事強硬派ってこと?」
ミラが訊く。
「そこまでならまだ良かったかもしれません。ですが、彼は国民の大半、そして自分自身が所属する種族である人間からの支持を得るために、人間以外の人類種、すなわち魔女やエルフといった者たちを皆、強制労働、すなわち古代でいうところの奴隷身分に相当する扱いに落としたといいます。併合された諸国家のエルフたちも、見つかり次第過酷な工場労働や、鉱山労働に……」
「どうしてそんなことを……」
オメガは言った。
「人は誰しも、自分が社会の上位者になりたいと願っていますからね。あえて人工的に下層を作ることで、人間の国民全員に上級国民あるいは資本家として豊かな暮らしを保証し、彼らの支持を得ようとしているのでしょう」
「だからこそ私は彼には協力できない……」
シェヘラザードは言った。
「私の目指す理想郷と、彼の目指す世界は、違うから……」
「私も、シェヘラザードさんの考えには賛成です」
クローネは言う。
「ブルーム大統領は、自身のゲルマニアによる全世界の統一こそ世界平和への近道と考えているようですが……」
「そんなの、本当の平和とは言えない」
シェヘラザードはきっぱりと言った。
「そうですね、私もそう思います。もしかしたら、それで争いや戦争はなくなるかもしれませんが、人々の笑顔なくして平和は有り得ませんから……」
だが、そこでミラが立ち上がった。
「三人とも! あれを……!」
彼女が示したのは、一階から上がってくる階段部分だった。そこから、黒服の男たちがどたどたと足音を立てながら現れたのだ。
「いたぞ……!」
先頭に立っていた男がシェヘラザードを指さして言った。周囲の客たちは皆、大慌てで悲鳴をあげながら逃げ出す。高級レストランはあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
オメガ、クローネ、シェヘラザードもミラに続いて立ち上がった。
「クローネさん、銃は!?」
オメガは尋ねる。
「すみません、持ってきてません……。こんなことになるとは予想してませんでしたから」
だが、クローネはみんなを庇うように前に進み出た。
「オメガくん、シェヘラザードさん、後ろのバルコニーから逃げられます。私たちが侵入してきた時用にロープが用意されていますから……」
「クローネさんとミラちゃんは?」
ミラはクローネに目配せをした。
「大丈夫、あたしたちにはちゃーんと策があるから」
「分かった……。行きましょう! シェーラさん!」
オメガはシェヘラザードの手を取ってバルコニーに飛び出す。そしてバルコニーの柵から下がったロープを使い、地上の裏通りに降り立つ。
「に、逃げたぞ! 下だ!」
そんな声が二階の窓から聞こえてきた。
「シェーラさん! すぐにカイロ市警察に通信を……!」
オメガはシェヘラザードと共に夜の街を走りながら自身の腕輪型通信機を手渡した。
「分かってる。まったく、度胸あるよねぇ、あいつら、ここは私のホームグラウンドだっていうの!」
シェヘラザードは入り組んだ路地に入り、何度も道を曲がりながら、カイロ市警察への通信を接続した。
暗殺者たちは、街の裏通りへと繰り出した。
「探せ! まだどこかに逃げているはずだ!」
リーダー格の男が指示をする。
だが、そんな男たちの前にふたりの人影が現れた。
「そうはいかないよ」
「なっ、なんだ!?」
暗殺者のひとりが言う。
男たちの目の前に現れたのは、ふたりの仮面の少女だった。ひとりは赤い仮面に赤いマントを、もうひとりは紫の仮面に紫のマントをしている。
「あなたたちに名乗る名などありません!」
紫の仮面の少女が言った。
「そう、なぜならあたしたちは正義の味方!」
赤い仮面の少女が言う。
「愛の戦士!」
紫の仮面の少女が続けた。
「血のように赤き翼、アモーレレッド!」
赤い仮面の少女がポーズを決める。
「夜の闇のような紫の翼、アモーレヴァイオレット!」
紫の仮面の少女がポーズを決めた。
「「ふたり合わせて!」」
ふたりは同時に叫ぶ。
「「アモーレシスターズ!」」
ふたりは改めて決めポーズをとった。
暗殺者たちは唖然とする。
「ほんとになんだ……!?」
「リーダー! 不審者ですよ! 無視して行きましょう!」
「逃がすかぁっ!」
アモーレレッドがひとりの男に飛びかかり、目にも止まらぬ速さで彼を羽交い締めにし、銃を奪い取って男のこめかみに押し付けた。
「いい? 変な動きを見せるとこいつの頭は吹き飛ぶことになるよ?」
「そうです! おとなしくカイロ市警察が来るまで待っていてください!」
「いや、やることがゲスいな正義の味方!」
その時、遠くからサイレンが聞こえ始めた。
其は白き翼。
砂漠に舞い降りた聖なる鳥は、少年たちに爪を向ける。
それぞれの正義がぶつかる時、その砂塵の中では……。
暑く、熱い戦いが今、幕を開ける。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『砂漠の白鷲』。
聖なる言の葉、そこに紡げ。




