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第3話 南極へ飛べ・1

 オメガ・グリュンタールとクローネ・コペンハーゲンは謎の敵の正体を探るべくダンウィッチ村を訪れた!

 そこでふたりが出会ったものとは……!?

 オメガは、謎の白い生き物と向き合って床に正座した。生き物はコウモリのような翼をはためかせてちょうどオメガの目線の高さに浮遊する。体型からして、翼は本当に飛行するための揚力を発生させるものではなく、反重力的な魔法を司る器官なのだろう。これは、ドラゴンやペガサスといった一部の魔法動物と同じ飛行原理である。


「君は……何者なんだい?」


 相手に敵意はなさそうなので、オメガはそう質問した。


「きゅう……?」


 謎の生き物は首を、いや、どこからが首でどこからが体なのか判別がつかないので、上半身をかしげる。


「どうやら言葉を発することは出来ないようですね……。こちらの言葉はある程度理解しているようなのですが」


 オメガの後ろからふたりの様子を見ていたクローネが言った。


「そんなことって、あるんですか?」

「えっ、知らないんですか? 人間に飼われている犬や猫や小動物なんかにはよくある事ですよ? あるいは動物園の猛獣も、もしかしたら飼育員の言葉はある程度分かっているかもしれません」

「つまり……」


 と、オメガは考えた。


「もしかしたらこの子、カーター教授に飼われていたのかもしれませんね……」

「そこまでは言いきれませんが……」


 ふたりがそう言った時、地面が大きく揺れた。


「じ、地震!?」

「有り得ません、ここ東海岸では地震は滅多に起こらないはずです……!」


 廊下の先にある窓に巨大な影が映し出された。オメガとクローネは咄嗟的に窓に向かい、外の様子を見る。

 そこには、巨大なゴカイのような生き物がいた。身体の幅は三メートル程もあり、頭部にある口は、鋭い歯が円形に、内側に向かって生えていた。


「ギアァァァァァァァ」


 怪物は咆哮を上げた。


「魔獣……?」


 クローネが呟く。だがそこで、ふたりのそばにゆっくりと歩いてきながらウィンダーが言った。


「いいや違う。お前たちがこれまで便宜上魔獣と呼んできた存在は眷属。すなわち邪神に使える下等な生き物たちの事だ」


 魔獣、あるいは眷属は口内から無数の触手を伸ばしてこちらを攻撃してきた。目こそ見当たらないがこちらの姿は認識できているようである。向こうとこちらの間には壁や窓があるため、恐らくは音や超音波の類ではなく、匂いか熱探知か……?


「オメガくん! 窓から離れてください!」


 クローネがオメガの腕を引いて窓から離れた。直後、無数の触手が窓を割り、建物内に侵入してきた。


「逃げましょう……!」


 ふたりは階段を目指して走り始めた。オメガは途中で白モフの生物を抱えあげる。


「君も一緒に逃げよう!」


 触手はかなり長く伸ばすことが出来るようで背後から迫ってきた。

 ふたりは一階に降りると、屋敷の扉目掛けて走った。

 途中でクローネが腕輪型の通信機に通信をかける。


神威かむいさん! 聞こえますか! すぐに私たちのRA(ライドアーマー)を射出してください。座標はダンウィッチ村にあるカーター教授の屋敷付近です! 魔獣が現れました……!」

「魔獣!? ……分かった! だがどうする。機体は……ふたり分必要か?」

「はい、お願いします!」


 クローネはそう言って家の外に飛び出す。


「オメガくん! これを……!」


 クローネは手のひらサイズの灰色をした薄い板をオメガに渡した。


「これは……?」

「スペアのキーです。多分、ここにはもうすぐ私のRAとハイペリオンオメガ射出されてきます。ですから、その時のために……!」

「分かりました!」


 ふたりはさっき乗ってきた車に向かって走った。だが、もうすぐ車に乗り込めるという矢先に、魔獣の巨大な尾が車を押し潰した。魔獣はそれからこちらに向かってそのグロテスクな顔を向ける。


「どうやらある程度知性も有しているようですね……」


 クローネはオメガをかばいながら立ち止まり、後退りをする。オメガは心做しか少しだけ情けない気分になった。さっきからクローネさんには助けられてもらってばっかりだ……。


「グルルルルルルルル……」


 魔獣が唸り声をあげたかと思うと。口からクッションほどの大きさもある巨大なヒトデが数匹こぼれ落ちた。ヒトデの表面は骨質の棘が並んでいる。ヒトデは車の上に落ちると、その表面を溶かしていった。


「別の生き物が口から出てきた……?」

「恐らく共生関係ですね……。魔獣が消化できないものはあのヒトデが溶かし、魔獣がそれを食べる。ヒトデの方はそのおこぼれをもらって生きていける……。合理的な生存戦略です」


 魔獣がふたたびこちらに顔を向けた。その喉の奥に、無数のヒトデが張り付いているのが見えた。


「クローネさん、解説している場合じゃあないみたいです。あの魔獣、ヒトデを僕たちに向かって……」

「私たちを溶かすつもりですか……」


 だが、ふたりがそんなことを言っていた時、目の前に巨大な白いものが着地をし、魔獣の前に立ちはだかった。


「ハイペリオンミハイル……!?」

「ということはウィンダー……!?」

「きゅきゅきゅう!」


 途中から姿が見えなくなっていたと思ったら、ウィンダーは恐らく自らがここまで来る時に乗っていたであろうRAに乗り込み、戦闘準備をしていたのだ。

 魔獣の口から発射されたヒトデを、ハイペリオンミハイルはビームセイバーを薙いで焼き切った。


「助けて……くれるのか?」


 オメガが言った時、ミハイルの水色のカメラアイがこちらをちらりと見た気がした。

 ハイペリオンミハイルは背中の天使のような翼を展開し、空中に飛び上がる。そして、翼の羽の部分を分離し、そこから光線を放って魔獣に撃ち込んだ。


「プラズマビットにもなるのですね……あの翼は……」


 クローネが呟く。

 だが光線は、魔獣の分厚い皮膚を通さない。魔獣は口からふたたび触手を伸ばした。触手は、ハイペリオンミハイルの手足を拘束する。


「ウィンダー!」


 オメガが叫んだ。

 その時、北方の空から何かが空を切り高速で飛んでくるような音が聞こえてきた。


「今度はなんだ……!?」


 オメガは音の方向を振り返った。


「オメガくん、味方です……。私たちのRAです!」


 よく見ると、それは全高が十二メートル程もある人型の鋼鉄の巨人だった。材質はミスリル合金性。間違いない、RAだ。片方はハイペリオンオメガ。そしてもう片方は、オメガが初めて見る機体だ。黒に近い紫色の機体色に、後頭部からは赤色のコードの束がふた房ばかりツインテールのように生えている。機体のシルエットは全体的に細身な印象だ。背部には通常のものよりも銃身の長いプラズマライフルを背負っていた。カメラアイはツインアイだが、右眼にあたる部分は、ちょうど片眼鏡のようなひし形のレンズに覆われていた。恐らく、あれがクローネの機体なのだろう。

 二機のRAは土煙を上げて地面に着地すると、機械的な動きで膝立ちの姿勢になった。


「このまま自動操縦で戦ってくれればいいんですけどね……」

「何を言ってるんですか? まだ自動技術で出来るのは直線距離の飛行と着地くらいの単純な動きだけですよ?」

「冗談ですよ。クローネさん……」


 ふたりは自分が乗るRAをよじ登ると、キーのスイッチを押し、コックピットハッチを展開した。そして乗り込んでから機体を起動させる。


「ハイペリオンオメガ。オメガ・グリュンタール、翔びます!」


 ハイペリオンオメガの黄色い両眼に光が点る。


「ストリクス。クローネ・コペンハーゲン、撃ち抜きます!」


 ストリクスと呼ばれた機体の水色の両眼に光が点った。


「クローネさん! 僕はウィンダーを救出します! クローネさんはその間に本体を……」


 オメガはクローネの返事も聞かずにハイペリオンオメガの魔法粒子を噴射させて飛び上がった。だが、新たな触手が伸びてきて、ハイペリオンオメガに襲いかかる。


「な……!」


 だが直後、襲いかかってきた触手が弾け飛んだ。


「え……?」


 オメガが下方を見ると、ストリクスが二丁のプラズマハンドガンを手にしてこちらを見上げていた。

 クローネは右眼に、ストリクスのものと同じ形状の片眼鏡式のレンズを装着していた。そこには照準のマークが浮かび上がっていたが、それと対応するようにストリクスのレンズにも同じく照準のマークが浮かび上がっている。


「オメガくん、救出は遠距離特化型の私に任せてください。オメガくんの方こそ、本体を……」

「で、でも……」

「オメガくんは花形を私に任せようとしているのかもしれませんけど、戦いの場に花形も脇役もありませんよ。皆それぞれが適材適所。自分の仕事においての主役は、自分だけです!」


 そしてクローネは、さらにプラズマハンドガンを撃ち込みさせ、ハイペリオンミハイルを拘束していた触手を破壊した。

 ハイペリオンミハイルはそのまま地面に着地をする。ハイペリオンオメガもその隣に並び立った。


「ウィンダー、ありがとう、さっきは助けてくれて……」


 オメガはウィンダーに通信をかけた。


「眷属と戦うのは不本意だが、戦うなと命じられた訳じゃあない……」

「不本意なら、何故……」


 すると、ウィンダーは上方に飛び上がり、魔獣の触手と格闘しているストリクスを見た。


「彼女には命を助けられた。だから恩を返しただけ」


 オメガは複雑な気持ちになった。


「その……さっきはごめん、銃を向けたりして……」

「いいや、それが正常な行動。敵ならば見つけ次第殺すのが戦場の常道。不可解なのは、彼女の方」

「ウィンダー……」

「しかし、その不可解さこそ、本当は戦場で最も必要とされることなのかもしれない……」


 ウィンダーはそう言うと、ハイペリオンミハイルのバーニアから魔法粒子を噴射させ、魔獣に突撃した。だが、今度は魔獣がヒトデを放ってきた。ハイペリオンミハイルはビームセイバーでそれらを薙ぎ払うが、ハイペリオンオメガの方は一瞬だけ動きが遅れてしまった。ハイペリオンオメガの機体の装甲にヒトデたちが張り付く。


「う、うわっ、溶かされる……!?」


 オメガはややパニックになりかけるが、そこにクローネからの通信が入った。


「オメガくん、落ち着いてください! ミスリル合金はちょっとやそっとでは溶けませんよ!? ……じっとしていてくださいね……」


 一体何が始まるのだろうかと思っていると、上空から光弾が降り注いできた。見上げると、ストリクスがこちらに向かってプラズマハンドガンを撃っている。


「うわっ、クローネさん!? 何をするんですか!?」

「何を……って、例のヒトデを払ってあげたんですよ?」


 見ると、ヒトデたちは皆、光弾に撃ち抜かれて地面に転がっている。凄い命中精度だ……と、オメガは思った。ハイペリオンオメガの機体装甲は少しも傷ついていない。

 その時、コックピットの真ん中にあったシャッターが開き、中から赤いハンドボール大のクリスタルが現れた。


「あの、クローネさん、これは……?」


 オメガは質問する。


「あぁ、それはアタックスキルですね?」

「アタックスキル?」

「はい、早い話がRAの必殺技みたいなものです。RAの装甲に使われているミスリル合金は衝撃を受けると魔力を生成するというのは、常識でしょう?」


 オメガは頷いた。


「そうやって発生した余剰魔力がある一定数に達したところで、それを特殊技に変換する力が開放されるんです。それが……アタックスキルです」

「アタックスキル……。僕の機体にはどんな技が……?」

「それは……私も見て見なければ分かりません。ですがオメガくんなら本能的に分かるんじゃあありませんか?」


 そうかもしれない……。何しろ僕は本来、兵器として造られた人間なんだ……。オメガは自身の心に語りかけ、クリスタルに右手をかざした。

 クリスタル表面に光の魔法円が浮かび上がる。

 オメガは心に浮かんできた言葉を叫んでいた。


「アタックスキル!」


 ハイペリオンオメガの頭部のエッジが光り輝き始める。


「フォトンスラッシュ!」


 光はそのまま高出力の光線となり、光のムチのようにも見えるそれは、魔獣目掛けて振り下ろされた。

 魔獣の身体は光により斬り裂かれ、やがて苦しみ悶えながら爆散した。


「やりましたね!」


 クローネが歓声を上げた。


「きゅうきゅう!」


 例の白いモフモフの生き物が飛び出してきてオメガの膝の上に乗る。


「えぇっ! 君、いつの間に……」


 どうやら彼あるいは彼女は知らぬ間にハイペリオンオメガのコックピットに乗り込んでいたようだ。

 ストリクスは地面に降下してハイペリオンオメガに並び立つが、2機の前にハイペリオンミハイルが向かい合うように立ち塞がった。


「ウィンダー、その……今日はありがとう」


 オメガは感謝の意を伝える。


「恩は返した」


 と、ウィンダーはストリクスの方を見て言った。


「次に会う時はまた、敵同士だ」


 ハイペリオンミハイルは魔法粒子を噴射し、その場から飛び去っていった。


「ウィンダー……」


 オメガは呟いた。


「さっ、オメガくん、基地に戻りましょうか?」

「そ、そうですね」

「多分、今回勝手に任務に参加したオメガくんには、キツいお仕置が待っていると思いますよ?」

「えっ、でも、僕魔獣にトドメを指した……」

「冗談です」


 クローネはニコリと笑って言った。


「まぁでも、本当のことは分かりませんが……」

「不安を残さないでください!」


 二機のRAは魔法粒子を噴射し、空中に飛び上がる。


「それにしても……」


 と、クローネが言った。


「その子……名前を決めないといけないですね……」

「きゅう! きゅう!」


 白モフはそう鳴いて自己主張をする。


「あの……モフモフなので、モフ子さんっていうのはどうでしょうか?」


 オメガが提案した。


「きゅう……」

「オメガくん……」

「……って、なんなんですか!? ふたりしてそのため息は……」

「オメガくん、名付けのセンスはもう少し勉強するべきだと思いますよ。ねぇ、モフ子さん?」


 クローネは通信越しにモフ子さんと目を合わせて言った。


「きゅうきゅう!」


 ふたりの間には、謎の共感が生まれていた。

 後編へ続く!

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