第25話 愛の戦士、登場!?・1
オメガ・グリュンタールがシェヘラザード・ギザとともに出かけるのを目撃したミラ・セイラム。
そして、仮面の少女戦士が登場する……!
オメガは、シェヘラザードの部屋で、彼女宛に届いた公的な手紙の整理を手伝っていた。
「あの……どうして僕が……」
オメガは疑問を口にするが、シェヘラザードは彼の隣でせかした。
「いいから、いいから! ほら、ブリテンから来たやつはその箱に入れて……それからゲルマニアから来たやつは……」
オメガは、床にちらばった手紙を、手際よく用意された箱に入れていく。
「ゲルマニアからのお手紙……多いですね」
オメガは箱の様子を見て言った。ゲルマニアから届いた手紙を入れる箱は、ふた箱目だったが、もう既に溢れようとしている。
「そうなんだよねぇ、本当に嫌になっちゃう」
シェヘラザードは言った。
「ゲルマニアの話はさっきの会議でも一瞬出たけど……」
オメガは思い出して呟く。
「あぁ、そう?」
「でも、ブリテン王国よりは脅威にならないだろうって……」
オメガは言った。
「その人たちは、私や外務省に届く外交文書を知らないから……」
シェヘラザードは答えた。
「確かに、ゲルマニアは国自体は小さい……ううん、植民地自体は少ないかもしれない。でも、だからといって脅威にならないかというとそういうわけじゃあない。特に、二年前の戦役の後に大統領に就任したブルーム・ローゼンハイム大統領は……」
彼女はそこで言葉を切った。
「そんなにすごい人なんですか?」
オメガは尋ねた。
「えぇ、国民からの人気は絶大。みるみるうちに植民地競争に乗り遅れた祖国の経済を活性化させた……。それだけじゃあなくて、軍備の増強もはかり、各地の植民地に手を出している。ほら、あなたたちも南ローリー大陸にいたのなら覚えてるでしょう? かの地の反乱にはゲルマニア軍からも支援があった……」
オメガは思い出した。
「そういえば、そんなことが……。でも、国民がその方を望んでいるのなら、いいんじゃあないですか? 少なくともみんなが選んだ人なら……」
「そんな単純な問題じゃあないの!」
シェヘラザードは思わず叫ぶように言った。
「ご、ごめんなさい……。なんか……」
オメガはびくっとなって謝る。
「あ、ううん、こっちこそごめん。いきなり怒ったりして……。でも、いい? みんなが選んだことが必ずしも正しいことだとは限らない。多数派が間違えることだって充分に有り得るってこと。これだけは忘れないで」
「分かり……ました」
オメガは頷いた。
オメガがひと通りの作業を終えると、時刻はもう夜になっていた。
「オメガくん」
シェヘラザードの部屋から月明かりの照らす廊下に出たオメガを、シェヘラザードが呼び止める。
「うーんと、今から、ちょっとどっかに夕食でも行かない? 私はもちろんお忍びで!」
シェヘラザードはウインクをしてみせた。
「いいですけど……どっかいいお店とかあるんですか?」
「ふふん、いつも私が通っているお店があってね」
シェヘラザードは自慢げに言った。
オメガと初めて出会った時のように町娘の格好に変装をしたシェヘラザードは、オメガと共にカイロの街を歩いていた。
明るい街だった。夜になってもオレンジ色の光が家や街から漏れ出ている。
「綺麗な街ですね」
オメガは言った。
「うんうん、そうでしょ? なんたってここは私たちの夢の街だから」
シェヘラザードは自慢げに言った。
「夢……ですか?」
「そうそう、私の理想はみんなが幸せを感じられる国づくり。その第一歩として目の前にあるこのカイロの街から再整備や警察組織の改革を行なったってわけ。私はね、ゆくゆくは帝国全体をこの街みたいな幸せの国にした」
「素敵な夢ですね」
オメガは言った。
「でしょ? あっ、ほら、見えてきたよ」
シェヘラザードが指さしたのは、高級そうな構えのレストランだった。おそらくは洋食のお店である。
「えっ、お忍びって言うからもっと……」
「ね、ザ・庶民って感じがするでしょう?」
シェヘラザードは大真面目に言った。
「庶民……かなぁ……」
オメガは呟いた。一般市民には敷居が高そうな感じがかなりするのですが……。
「さっ、入るよ入るよぉ、今日は私の奢りだからね!」
シェヘラザードはオメガの手を取るとレストランに入場した。
そんなふたりを、道を挟んだ反対側の道路の街路の影から見つめるふたつの影があった。
時は、数時間前に遡る。自室にて報告書の整理を終えたクローネは、息抜きのために廊下に出た。
さて、と。少し疲れましたね……。休憩がてらなにか甘いものでも……。それとも、オメガくんにちょっかいをかけに行きましょうか……。
だが、そんなことを考えているクローネの元に、何かが突撃して抱きついてきた。
「猫さぁぁぁぁぁぁぁん」
それは、ミラだった。
「ミラちゃん?」
「久しぶりぃ猫さぁん。本当はもっと色々訊きたいこととかあるけど、今はいいや……そんなことよりあたしの話を聞いてよぉ」
ミラは涙声で言う。
「どうしたんですか?」
クローネはミラの顔を離して覗き込んだ。その顔は涙に濡れてなかった。嘘泣きだ。
「あぁ、もう、せっかくいい所だったのに! どうしてあたしの顔を離して見ちゃうかなぁ。この腹黒猫!」
「腹黒いのは嘘泣きをするほうだと思いますが……」
クローネは言った。
「と、とにかく、オメガくんと付き合うことになったんだって? 本当はもうちょっと前、ううん、あんたがオメガくんと付き合うことになったその日にここに来ようと思ったんだけど、なかなか指揮官が許してくれなくて……」
ありがとうございます、ディーナさん……。クローネは心の中で感謝をした。
「で、何の話ですか?」
「あたしはまだ諦めてないから!」
ミラは言った。
「まぁでも、今は決闘云々の話は置いておいて……」
ミラはクローネから離れると真剣な顔で言った。
「オメガくんがね、何処の馬の骨とも知れないアラビア娘と一緒に街の方に行くのが見えたの」
「はい?」
クローネは聞き返した。
「待ってください! それは……その……つまりは……」
「もしかしたら、そういうことかも……」
ミラは沈んだように言った。
「有り得ません!」
クローネは言った。
「あんなオメガくんを好きになるような人間が私たち以外にいるはずありません!」
「いや、言い方酷くない……?」
「だって、オメガくんって……。あんなに見た目も弱そうですし、結構怖がりだし、天然だし、それにお料理が得意なんて……。もう、女の子じゃあないですか!」
「でも、そこがいいんだけどねぇ」
ミラは呟く。
「ミラちゃん、行きますよ」
クローネは決意をしたように言った。
「い、行く……?」
「かくなる上は、私たちでことの真相を確かめるんです! さぁ、急いで急いで!」
クローネはミラに一緒に来るようにせかした。
「普段は敵対するライバルが共通の敵相手に共闘……。これって胸熱展開?」
「ミラちゃんの胸は薄っぺらいですけどね」
「猫さん!?」
こうして、ふたりはカイロの街に繰り出していった。
そして、現在。クローネとミラはたった今オメガとシェヘラザードが入っていった高級レストランへと向かった。
ふたりは、舞踏会用の仮面をつけている。クローネは紫色、ミラは赤色の仮面だ。
「なんか……すごく高そうなレストランだけど……」
ミラは言った。
「もしかして、オメガくんのお相手って実は凄いお金持ちなんじゃ……」
「あ、あたしだってお金くらい!」
ミラは赤いがま口を取り出して左手の上に振った。そこから彼女の掌に、コインが一枚転がり落ちてくる。
「まったく……私が払ってあげますよ」
クローネがレストランの入口に立つ黒いスーツ姿の男の前に立った。
「あぁ、お嬢さん、入場料が必要です」
「入場料……?」
クローネはミラと顔を見合わせる。
「千ゴルド」
「せ、千ゴルド……!?」
「ん? どうしたの? 猫さんが払うって……」
「で、でで、出直してきます!」
クローネは男の前からすたこらと退散した。
「あっ、ちょっと待ってよ! 猫さん!」
「どうしましょう……ミラちゃん、私……」
クローネは力なく言った。
「猫さん……」
ミラはクローネに寄り添うように背中をさする。それから瞳に炎を燃やして言った。
「あの女……許さない。あたしたちのオメガくんを奪って……! 猫さん! 作戦変更だよ!」
「作戦……変更……?」
ミラは得意げに頷いた。
「そっ、こんなこともあろうかと、とっておきのを用意しているんだから」
オメガとシェヘラザードは、二階の窓際の席に座った。レストランの客は皆、上品そうな物腰をしており、オメガは少しだけ自分が場違いなような気がしてきた。
「ほらほら、オメガくん、そんなに固くならなくったって大丈夫だって。なにしろ私がついてるんだから」
シェヘラザードが元気づけるように言った。
「ありがとうございます……」
ふたりはメニューを広げる。
「オメガくんは……こういうところに女の子と来るの、初めて?」
シェヘラザードは訊いた。
「え……? いや……その……初めてではないです……」
「何!? もしかして、誰かと付き合ってるとか!?」
シェヘラザードが身を乗り出してきた。
「えぇ、まぁ、はい……」
「ふーん、素敵な子?」
シェヘラザードは興味津々に瞳を輝かせる。
「そうですね……。ちょっと変ですけど……でも、とっても優しくて頑張り屋さんで……」
「いーなー、羨ましーなー」
シェヘラザードは言った。
「あの、シェーラさんは誰かいないんですか? そういう人……」
「ん? それ、私に訊いちゃう?」
「あぁ、失礼だったらごめんなさい……」
オメガは慌てて謝った。
「いいのいいの。……でも私は、ずっと帝国の姫君として、皇帝の姉として育てられてきたから……なかなかそういうことも考えてる余裕がなくって、気がついたら政略結婚として他国の王子様と婚約する年齢すら過ぎちゃったし……」
「政略結婚……。婚約は結構みんな早いんですね」
オメガは言った。
「うーん、そうだねー。だいたい皆十代前半くらいには相手は決まってるし、早い人ならまだ年齢がひと桁代の頃からって人もいるし」
それからシェヘラザードは少し寂しそうに続けた。
「だから私は、ずっとこのままなんだろうなーって……」
「そんなの……分からないですよ」
オメガは言った。
「人は、先のことは分からないんです。だから、シェーラさんにだってきっと」
「オメガくんって、優しいんだねぇ」
シェヘラザードは言った。
「僕は優しくなんて……」
その時だった。
「そこまでです!」
窓の外から声が聞こえた。
オメガとシェヘラザードはそっちに目を向ける。バルコニーの手すりに、ふたりの人物が立っていた。ひとりは赤い仮面に赤いマントをつけた小柄な金髪の少女、そしてもうひとりは紫色の仮面に紫色のマントをつけた長い黒髪の少女のようだ。
「月の光があたしを照らす!」
小柄な方の少女が言った。
「星のまたたきが力をくれる!」
黒髪の少女が言う。
「この世に悪がある限り!」
「愛を邪魔する者ある限り!」
同じ順番でふたりは言う。
「あたしのナイフがお前を殺す!」
「私の銃があなたを滅す!」
「「愛の戦士!」」
ふたりは同時に叫んだ。
「アモーレレッド!」
赤いマントの方がポーズを決める。
「アモーレヴァイオレット!」
紫の方がポーズを決めた。
「ツッコミが追いつかない……。それにこの声、どっかで聞いたことあるような……」
オメガは頭を抱えた。
その横でシェヘラザードが拍手をする。
「かっこいい! なに? あなたたち、ショーでも始まるの!?」
「かっこいい……?」
オメガは首を傾げた。
「そこのふたり!」
赤い方がオメガとシェヘラザードを指さした。
「あまつさえ、恋人がいるのにほかの女の方とおデートをしているとは……。万死に値します!」
紫の方が続ける。
「ってことであたしは、そっちの女の方をとっちめる!」
「では、私はオメガく……じゃなくて、男の方を!」
ふたりの愛の戦士はオメガとシェヘラザードに飛びかかってきた。
後半へ続く!




