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第24話 帝国の姫君・2

 前半の続き!

 こうして、ダンとシルフィは何故かシェヘラザードをスターペンドラゴンにまで案内することになった。シェヘラザードは、ウェーブのかかった髪をひとつ結びにし、カラフルな民族衣装を身にまとい、庶民の娘に変装をして、艦に現れた。

 ダンはシェヘラザードに言った。


「いいですか? 見るだけですからね? 姫様にもしなにかあったら俺たちは……」

「大丈夫大丈夫、私がそんなになにかしでかしそうに見える?」


 見えるから言ってるんです……という言葉をダンは必死に飲み込んだ。


「あっ、そうだ。ダン」


 シルフィがダンに声をかけた。


「ん? どうした? シルフィ」

「あの、私、急用を思い出したので、部屋に戻りますね!」

「あ、あぁ……」


 ダンは、逃げたな……。と思った。


「ふーん、シルフィちゃん、忙しいんだねぇ」


 シェヘラザードは言った。

 ふたりはしばらく、艦内の廊下を歩き、シェヘラザードは色々な部屋を通り過ぎるたびにその部屋の説明をダンに要求していた。


「えぇっと、姫様、ここら辺は別に寝室が並んでいるだけなので特に面白いものは……」


 その時、ダンの右手の扉が開き、モフ子さんを抱えたオメガが現れた。


「よしよし、モフ子さん、これでブラッシングも終わりだよ……」


 シェヘラザードはモフ子さんの姿を見て立ち止まった。


「きゅう! きゅう!」


 モフ子さんは翼をはためかせながらオメガから離れる。


「ちょっと待って、君! その生き物は、何?」


 シェヘラザードは目を輝かせてオメガに話しかける。


「えっ、モフ子さんのことですか? 僕もよく分からないんですよねぇ。でも、拾ったら懐かれたっていうか……」

「きゅう!」


 モフ子さんは飛び去っていった。


「へぇ、君、面白いねぇ、名前は?」

「僕ですか? 僕は、オメガ・グリュンタールっていいます!」


 オメガは敬礼のようなポーズをする。


「オメガ、やめろ、その方はだな……」


 ダンが間に割って入ろうとするがシェヘラザードがその言葉を遮った。


「あっ、私のことは……。そうだ! シェーラって呼んでくれる?」

「シェーラさんですね! 分かりました!」


 オメガは答える。

 あぁ、オメガ……お前は一国の皇帝の姉になんという態度を……。ダンは内心で頭を抱えた。


「あの、お客さん……ですよね?」


 オメガはシェヘラザードに尋ねた。


「んー、そうかも」


 シェヘラザードは答える。


「あぁもう、駄目ですよ、ダンさん。交渉の方はどうしたんですか?」


 オメガは怒ったように言った。


「ほんとにもう、まったく、お仕事をサボっちゃってぇ」


 シェヘラザードもからかうように言う。

 あの……どうして俺が悪者みたいな流れに……。ダンは心の中でため息をついた。


「あっ、でも、お客さんならおもてなししなくちゃあいけませんね! シェーラさん、僕、自分で言うのもあれなんですけど、お料理が得意なんですよ!」


 オメガは得意げに言った。


「そうなの? じゃ、私に振舞ってくれる?」

「もちろんです! ほら、行きましょう!」


 オメガはシェヘラザードの背中を両手で押して厨房に向かう。


「オメガ……もう俺は知らんからな……」


 ダンは呟くが、やはり心配なのでふたりについていく。


 シェヘラザードの目の前に、ほかほかと湯気のたった皿が置かれた。


「じゃーん、ヴィシュヌ大陸東部で食べられているお料理、八宝菜でーす!」


 オメガが紹介する。


「わぁ、美味しそう。いっただきまーす!」


 シェヘラザードはスプーンを手に取ると八宝菜を口に運んだ。


「どうですか?」


 オメガは訊く。


「美味しい! ここの艦の人たちはみんなあなたの料理を?」

「いえ、僕は趣味みたいなものですから……。たまにジョアンさんを手伝うことはありますけど、普段は厨房のスタッフさんたちが作ってくださってます!」


 オメガは答えた。


「オメガくん」


 シェヘラザードはかしこまって言った。


「なんでしょう」

「私、あなたのこと気に入ったかも! よろしくね!」


 シェヘラザードは手を差し出してきた。


「あ、あの……」


 オメガはその手を握り返しながら言う。


「ううん、もちろん変な意味じゃあないよ。ただ……お料理も上手いし、なによりいいキャラしてるし」

「そうですか?」

「うんうん」


 シェヘラザードは満足そうに頷いた。


「……っていうか……よろしくって……?」

「あ……」


 シェヘラザードのスプーンが止まった。


「ごっめーん、ちょっと口滑らしちゃった……。実はね、ダンくんは有能だからもう交渉は成功させててぇ」


 オメガはちらりとダンの方を見た。


「私がその……シェヘラザードさんご本人だったり……」

「まったくもう、冗談が上手いですよ!」


 オメガは言った。


「オメガ……お前……」


 ダンはため息をついた。


「ううん、冗談じゃない。そうだよね? ダンくん」

「は、はい。その通りでございます」


 ダンはかしこまって言った。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 オメガは驚いて後ろに飛び退いた。


「そういうことだ。オメガ、これまでの非礼を一切詫びて……」


 ダンがオメガの隣に来て言う。


「いいのいいの、私もとっても楽しい時間を過ごせただけじゃあなく、こんなに美味しい料理まで振舞ってもらえたんだから」

「喜んでもらえて嬉しいです!」


 オメガはにこりと笑った。


「僕はそう言ってくれる人のためにお料理を作っていますから」

「あっ、そうだ」


 シェヘラザードは思い立ったように言った。


「実は私、アラビア帝国のお姫様としての仕事と、こっちの仕事と……その取次役が欲しいなーと思ってて……」

「は、はぁ……」


 ダンが言った。


「んで、その役目、オメガくんに任せられない?」

「僕ですか?」


 オメガは驚いて目を丸くした。


「そうそう」

「しかし……こいつは……」


 ダンは言いかけるが、シェヘラザードはそれを打ち消すように指を振った。


「だめだめ、そういう風に仲間の評価を下げちゃ」


 そしてやや真剣なトーンになり、言う。


「私だって、ちゃんと理由くらいあるんだよ? まず、オメガくんは今みたいに誰にも臆せずに接することが出来るタイプでしょ?」

「まぁ……そこは……否定はしませんが……」


 ダンは言った。いい意味でも悪い意味でもな。


「それからふたつめ、こーんな美味しいお料理の作れる人間が、ポンコツなはずないでしょ?」

「は……?」

「私ね、お料理は宮廷の料理人たちがやってくれるからしたことはないけど……でも、分かる。とっても頭や感性を使う作業だって。だから、お料理が上手い人は、能力的なハズレはいないってこと」

「分かりました……」


 ダンはそう言ってから、オメガに向き直った。


「オメガ、くれぐれも無礼はないようにな」

「任せてください!」


 オメガは言った。

 うーん、やっぱりちょっと不安だなぁ。ダンは思ったが、口には出さなかった。


「OKOK、じゃ、早速、私がこれを食べ終わったら、宮廷に来てもらおうか」


 シェヘラザードは言った。


 オメガはシェヘラザードについて、カイロ皇城へと向かった。古代文明の神殿をも思わせる石造りの建物だったが、石はまだ白く、新しい。


「この宮殿は、まだ新しくてね」


 アラベスク模様の装飾が壁面や天井に施された廊下を歩きながらシェヘラザードは説明した。


「まぁ、あのダンくんたちがこの国を救ってくれた時に、前の宮殿は燃えちゃって……」

「そうだったんですね……」

「それで、本当は質素な建物に作り変えようとも思ったんだけど……国民の方がそれを許さなくて、今みたいに国中から職人が集まってきて……。ま、まだ造り途中なんだけどね」


 シェヘラザードは再び白い衣装に着替えて、髪を下ろしている。頭には金色の髪飾りをつけていた。


「あの……シェヘラザードさん……いや、様?」

「シェーラでいいって」


 シェヘラザードは言う。


「じゃあ、シェーラさん。取次役って……僕はなにをすれば……」

「大丈夫大丈夫、私に言われたことをしてればいいから」


 シェヘラザードは言った。


「了解です!」


 オメガは敬礼のようなポーズで返す。


「てことで、早速、いい?」

「はい」


 シェヘラザードは説明する。


「今から……国防省の会議があるんだけど……そこに傍聴役として出席して、重要そうなことをあなたのお仲間に伝えておいてくれない? 本当は私も行けたらいいけど、私にはまだ仕事があるし、なによりも私が出るとみんな緊張しちゃうっていうか……」

「分かりました」


 オメガは答えた。


「うんうん、じゃ、これ、国防省の地図ね」


 シェヘラザードは一枚の紙をオメガに渡した。


「あ、あとそうだ……」


 シェヘラザードは次に、カラフルな布の束を渡してきた。


「多分……その、防衛軍の制服は目立つから、これを着て……ね」


 オメガは、シェヘラザードから貰った地図に従って国防省の会議室にたどり着いた。会議はもう始まるところだった。オメガは、会議室の入口近くの壁沿いに立つ。会議室は、中央に円卓のある明るい部屋だった。至る所に観葉植物が飾られている。オメガのように、席に座らず、壁沿いから話を聞くものもかなりいる。ほとんどの人間がカラフルな民族衣装を着ている。オメガはシェヘラザードに言われた通り着替えておいて良かったと思った。


「それでは……これから会議を始めよう」


 奥に座った男が言った。


「まず……我が国との国境付近に集結した西テュルキイェ王国の軍、およびイラン帝国の軍だが……。どうやらそこに何やら不穏な動きをする第三勢力が動いているとの諜報部からの情報が入った」


 席についた者のひとりが言った。


「第三勢力……?」


 誰かが質問する。


「詳しいことは分からない……だが……姫様が助けると表明した防衛軍の裏切り者どもと関わっていそうだな」

「むぅ……」


 オメガは呟いた。今すぐにでも自分たちは裏切り者ではないと言ってやりたかった。だが、ここでそんな発言をするのは賢い策ではないだろう。それに、自分は今、傍聴人のひとりなのだ。

 そこで、オメガははたと気がついた。そうか! だからシェーラさんは僕をここに寄こしたんだ! ……自分が行くと、みんなこういう、シェーラさんに対して批判的な意見を言えなくなってしまう。だから、国のありのままの姿を僕たちに伝えるために……。


「しかしだ……裏切り者の敵対者といえば防衛軍、防衛軍ならばこそこそ行動せずとも……」


 防衛軍じゃないのなら、ルルイエ神聖教団か『観測者』たちか……。何を企んでいる? オメガは思った。


「ち……。しかし何故我々が奴らに手を貸さねばならんのだ。我々への利益は、それに、もし、我々が世界への裏切り者となってしまえば……」

「姫様のことだ。勝算はあるのだろう。それに、ローマ連邦だってどちらかといえばその裏切り者に協力的な姿勢を示そうとしているというではないか」


 ローマ連邦? と、オメガは思った。ライラさんか……あるいはもっとその上の人の力があったのか?


「あとは……ブリテンがどう出るかだな……。今、地球防衛軍にもっとも協力的、いや、その防衛軍を取り込もうとしているのはブリテン王国だ……」


 そのせいでカレリアさんは……。


「ゲルマニアもな」


 誰かが言った。

 だがすぐにそれを否定する意見が現れる。


「ゲルマニア? まぁ確かにあそこの新しい大統領は脅威だが、国自体は対して広くもなければ資源もない。あんな国に何が出来るというのだ」

「そういう楽観意見が国の崩壊を招くのだ!」


 すぐに反論の声が上がる。

 会議はそれから同じような内容が3巡くらいして、終わりを告げた。


 オメガは、会議室を出て、スターペンドラゴンに通信をかけようとするが、思いとどまり、その前にシェヘラザードの部屋へ向かった。


 オメガは皇城のシェヘラザードの部屋の扉をノックする。


「どうぞ?」


 シェヘラザードの声が聞こえて、オメガは部屋に入った。


「あっ、オメガくんかぁ。会議、どうだった?」


 シェヘラザードは書き物机に向かいながら言った。


「堂々巡りでした」


 オメガは正直に答えた。


「ま、そうだよねぇ。でもみんな、国のことを考える気持ちは同じだから、あんまり悪く思わないであげて」

「あの、シェーラさん」


 オメガは言った。


「なぁに?」

「この国を攻めようとする動きがふたつも……」

「そうらしいねぇ」


 シェヘラザードはあまり関心がなさそうに言った。


「言ってくだされば、僕たちもこんな無茶な真似は……。それに、僕たちの敵も、そいつらとくっつこうとして……」

「オメガくん」


 シェヘラザードは振り返ってオメガの方を見た。


「私たちの国を甘く見ないでちょうだい?」


 その声は、今まで聞いた中でいちばん真剣だった。


「それくらい、想定内。対策は充分に打ってある」


 それから、元の表情に戻って続けた。


「なーんてね、オメガくん、そんなことよりもここで油を売ってて大丈夫? 同じことをお仲間さんにも報告しなくっちゃ」

「そ、そうですね……」


 オメガは腕輪型の通信機を起動しながら言った。

 このお姫様……普段ははっちゃけているが、それは仮初の姿。本当は、とっても色々な意味で怖い人なのかもしれない……。オメガは思った。

 世界の平和、否、自分たちの愛を守るために戦え愛の戦士たち!

 この世の浮気者に鉄槌をくだすため、今、ふたりの戦士が立ち上がった!

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『愛の戦士、登場!?』。

 来週も、アモーレチャージ!

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