第24話 帝国の姫君・1
スターペンドラゴンの捕虜となったティラエ・マラガ。
ディーナ・オルレアンは彼女に面会しようとする……!
スターペンドラゴンとティンダロスはバフルマディナにある軍港に、隣合って停泊していた。オメガたちとディーナは、お互いに自分の戦艦に戻ろうと別れるが、やがて、ディーナが立ち止まった。
「待ってくれ。確か……お前たちのところにアディーラ・マラガの娘がいたと言っていたな」
「あぁ、ティラエのことか?」
ダンが言う。
「そうだ。会わせてくれないか?」
ディーナは言った。
「いいが……どうしてだ?」
ダンは尋ねる。
「約束をしたんだ。アディーラから『娘を頼んだ』と言われた」
「分かった。ついてきてくれ」
ダンはディーナを案内するように、彼女に背を向けてスターペンドラゴンに向かう。オメガとクローネも、そんなふたりに従ってスターペンドラゴンへと戻った。
ダンは、オメガとクローネと別れると、ディーナを案内して、ティラエのいる独房へと向かった。
ダンは独房の前に来ると言う。
「行ってこい。俺がいると邪魔だろう?」
「配慮、感謝する……」
ディーナは独房の扉をノックした。返事はない。ディーナは扉を開けて、中に入った。
ティラエはベッドの上に座り、俯いていたが、すぐに顔を上げてこちらを見た。
「なんだ……。クローネちゃんかと思った……。あんたは?」
「ディーナ・オルレアン……と言っても信じてくれないだろうな」
「あはは! ディーナって二年前に暗殺された議員さんでしょ? 信じるわけ……」
「まぁいいさ」
ディーナはアディーラから貰った写真をティラエに見せた。そこに映っていたのは、アディーラと、まだ赤色のメッシュがないティラエの姿だった。
「その写真……いつ……」
「私は、お前の父が反乱を起こした時に、彼と共に戦った者だ」
「そう……」
ティラエは言った。
「だったらどうして……」
と、彼女は続けた。
「だったらどうしてこんな船と一緒にいるわけ!? あんたにとって、この船は敵でしょう!?」
「私は同じ質問をお前に返せるな。お前は何故ここから逃げ出そうとしない? そうしようと思えば何度もチャンスはあったはずだ。例えば、あのクローネ。あいつを人質にとってこの独房を脱することだって……」
「それは出来ない!」
ティラエは否定した。
「出来ない? どうしてだ?」
「だって……クローネちゃんは私の大切な友達だから……」
「ならば私はこの艦の者たちも大切な友達だからと答えよう。同時に……お前の父も私の大切な仲間だった」
「なにそれ、慰めのつもり?」
ティラエは言う。
「いいや、ただ事実を述べたまでだ。だが……今、お前と話していて分かった」
ディーナは続けた。
「お前は……決して復讐のできるような人間ではない」
「私をなめないでよ!」
ティラエは言い返した。
「確かに……私はみんなより戦った経験も浅いし……ほんの少し前までただの一介の不良女子学生だった……。でも、私だって……」
「私はなにもお前を弱いとは言っていないぞ」
ディーナは言った。
「は?」
「ただ……お前は自らのその力を復讐とかそういうことに使うのに向いていないと言っただけだ」
「それが弱さ……!」
「違う。もう少し周りを見てみろ、ティラエ」
「周り……?」
「例えば、あのクローネもお前と同じタイプだ。彼女とて、一度は心の闇に屈しかけたが、最終的には戻ってこられた……。それは何故か。それは彼女が本質的に『守る人』であるからだ」
「守る……人?」
「そうだ。人が戦う理由には、根本的に二種類がある。ひとつは、戦うため、本能的に戦わずにはいられないがためだ。そしてもうひとつは、何かを守るため。自分の大切なものを守るためという理由だ。どちらが正しいとか……そういう話ではない。だが、お前は後者だと私は思う」
ティラエは思い出していた。確かに……あの時、私がアタックスキルを使えたのは、ラムダやオメガくんを止めるためだった……。その前にアタックスキルを使った時は、手が震えてとてもじゃあないけど使えない状況だった……。
「そうかもしれない。でも……私はやっぱり見返したい。お父さんをただの反逆者として処断したローマ連邦を……!」
「見返す方法は……復讐以外にもあるさ」
ディーナは言った。
「え……?」
「まぁ、その辺は自分で探してみるといい。自らが答えを見つけてこそ、意味のあることだと思うからな」
ディーナはそう言うと彼女に背を向けた。
「待って!」
ティラエはそんなディーナに声をかける。
「どうして……あなたは……」
「お前の父に頼まれた」
ディーナは答えた。
「『娘を頼んだ』とな」
ディーナはそう答えると部屋を出ていった。
オメガは、ひとり、艦内の休憩スペースから窓の外を眺めていた。そこに、モフ子さんを抱えたクローネが入ってくる。
「どうしたんですか?」
クローネは声をかけた。
「考えていました……」
オメガは窓の外を向いたまま答えた。
「考えていた?」
「はい」
オメガはクローネの方を振り返った。
「付き合うってどういうことなんだろうって」
「きゅーう!」
「あっ、モフ子さん!」
モフ子さんがクローネの腕を抜けてぱたぱたと翼をはためかせながら部屋から出ていった。
「そうですか……。で、答えは出ましたか?」
「えっと……ダンさんやシルフィさん、それに……ちょっと違うかもしれないけど、ジャーファルさんやディーナさんのお話を見聞きして……思ったんですけど、お互いを偽らないで関われることなんじゃあないかなぁ……と」
「偽らないで……ですか」
「はい、だから色んな形があるんだと思います。ダンさんたちみたいに仲がいいタイプも、ジャーファルさんたちみたいに喧嘩はするけどやっぱり仲はいいってタイプも……」
「そうかもしれませんね……」
クローネは言った。
「だから、僕はクローネさんに頼みがあるんです」
「頼み……?」
クローネが首を傾げた。
「どうか、僕にだけでもいいですから、自分を偽らないでください」
クローネは驚いて目を丸くした。
「え……?」
「ごめんなさい。えぇっと……クローネさんが嘘をついているとかそういう意味じゃあなくて……」
「なんですか?」
「僕、昔から思っていたんですけどクローネさんは『いい子』すぎるなって……」
「はい?」
「えぇ、まぁ、確かに昔っから僕に対してだけはなんか妙にからかってくるし、怒るし、それにたまによく分からないことも言ってきますが、それは関係ありません」
「オメガくん、今の……」
「クローネさんは『いい子』を演じすぎているんだと思います」
オメガは言った。
「『いい子』を……演じすぎている……?」
クローネはその言葉を繰り返した。
「はい、クローネさんは、誰にでも優しくて、頑張り屋さんで……しかも、言われたことはなんでもこなす。……でも、クローネさん自身、少し、辛いんじゃあないですか?」
「そんなことは……!」
クローネは言いかけるが、慌てて口を噤む。
「いえ、それは正しいかも……しれないです」
「クローネさんは、自分を偽りすぎているんだと思います。いつも……自分のことを後回しにして……それに、自分が本当に思っていることを心の中にしまっている……。言ってしまえばクローネさんには『自分』がないんです」
クローネは何も言わなかった。
「確かに……僕はクローネさんの生い立ちを知りました。そうなるのは必然的なこと、仕方の無いことなのかもしれません」
そう、クローネの今までの人生の大半は、幸せだと言える時期がないのだ。幼少期から父親から虐待まがいのことをされ、士官学校ではいじめを受け……。
「でも……」
と、オメガは言った。
「でも、ここではみんなクローネさんの味方です。特に僕は……」
それからオメガはなるべく明るいトーンで続けた。
「だって、クローネさんのことが大好きですから。だから……もう少し、せめて、僕に対してだけでも『自分』を出してください。嫌なことは嫌と言い、やりたいことには率先して手を出す……そんなクローネさんを、僕は見てみたいんです」
「分かりました」
クローネはにっこりと笑って言った。
「では、遠慮なく言わせていただきますね? この前、冷蔵庫に入れておいたプリンを食べたのは誰ですか?」
「ん? んえっ、それは……」
オメガは不意打ちをくらって目を逸らした。
「それだけじゃあありませんよね? 私のお部屋の机の上に置いてあったクッキーもひとつ減ってたこともありましたし……それから……」
「あの、それは……味の研究にと……」
「買ってきてくださいね」
クローネは穏やかだがオメガに詰め寄るような声で言った。
「余罪はいっぱいありますけど、みんな時効なのでプリンだけでいいです。とびっきりに美味しいやつ、今から、お願いしますよ」
オメガはクローネに追い立てられるように部屋を出ていった。
「まったく……あぁ言った次の瞬間にこれだ……。困った人だなぁ」
オメガは呟いた。
ティラエ・マラガは、ひとり、ディーナから貰った写真を手にしていた。そこには、まだ父に反抗する前の自分の姿が写っている。
「最後に……もう一回だけ……こうして一緒に写真でも撮りたかったな……」
ティラエは呟いた。そして、続ける。
「お父さん、私は……どうすればいいの?」
スターペンドラゴンとティンダロスは、ジャーファルによって派遣されたアラビア帝国軍の護衛によって無事にカイロの帝国軍基地に送り届けられた。
シェヘラザードとの謁見は、ジャーファルの計らいにてカイロ皇城にて行われることになった。
謁見に向かうメンバーは、初め、アリアが引き受けようとしたが、そこでディーナが名乗りを上げたため、彼女とシルフィ、そしてダンが皇城に向かうことになった。
シェヘラザードとの謁見は、さほど広くない部屋で行なわれた。だが、部屋の装飾にはレースがふんだんに使われ、皇帝の姉として申し分のない部屋飾りになっている。
三人はシェヘラザードの従者によって部屋に通されると、彼女の前にひざまずいた。
シェヘラザード・ギザは、長い黒髪に褐色肌をした二十一歳ほどの女だった。服装は白っぽいアラビア風の衣装を身にまとっている。
「おもてを……って、あなたは……!」
シェヘラザードはディーナの顔を見ると、驚いた。
「ディーナ・オルレアンです。もっとも私には過去の記憶はありませんが……あなたとはかなり親しかったと……」
「本当にびっくりしたぁ……」
シェヘラザードはそう言って呼吸を整えた。
「なに? 幽霊?」
「私にも分かりません。記憶がありませんので……」
ディーナは正直に答える。
「そ、そう……ま、いいけど……。で、あなたたちの所業は元地球防衛軍長官として色々聞いているんだけど……それについての弁明は?」
「それは……」
ダンが口を開いた。彼は、今までのことのあらましを隠すことなくシェヘラザードに伝えた。
「そう……信じ難い話だけど……。でも、私は昔、あなたたちと一緒にそれはそれは信じられないことをいくつも経験した。だから、あなたたちの話を信じましょう。確かに、私がいなくなってからの地球防衛軍は腐敗している……とは思う。だから……」
シェヘラザードはにやりと笑うと続けた。
「ちょっくら、クーデターでも起こしちゃいましょう」
「クーデター……。……ですか?」
ダンは聞き返す。
「そっ、アラビア帝国軍も全面的に味方につくはずだから……それで、ちょっくらローマにある防衛軍本部を乗っ取っちゃってぇ。あとは私たちでルルイエとかいう神殿を調査しちゃいましょう! ついでに地球にやって来るとかいう邪神様も倒しちゃって、これで万事解決です!」
シェヘラザードは言った。
「ですが、事態はそんな簡単には……」
ダンは言いかける。
「いかないって言うんでしょう? 私だってそれくらいは分かってる。でも、今後の行動方針を表明してみたってだけ、それくらいなら、いいでしょう?」
「はぁ、感謝いたします」
ダンは頭を下げた。
「まったくぅ、固い固い! 仮にも共闘した仲でしょう?」
シェヘラザードは砕けて言った。
「共闘……と言ってもあなたは政治分野でしたし、ミレニアム戦役で顔を合わせたことはほとんど……」
「あれぇ、そうだっけぇ、ま、いいや。あっ、そうだ。あなたたちの戦艦、見せて貰えない?」
「え?」
ダンは驚いて聞き返した。それからシルフィと顔を見合わせる。
「ほらほら、お忍びってことでさ! 私も変装していくし」
シェヘラザードは楽しそうに言った。
後半へ続く!




