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第23話 アラビア帝国にて・2

 前半の続き!

 バフルマディナはエリュトゥラー海に浮かぶ人工島上に建設された海上都市だった。平坦な地形の島には白く均整の取れた建物たちが並んでいる。

 オメガ、クローネ、ダンの3人はそんなバフルマディナの街の中心部の建物と建物を繋ぐ通路を歩いていた。通路の両側面には大きなガラス窓がはめ込まれており、南国風の街の景色が一望できた。

 三人は、カラフルなアラビア風の格好をした案内人に案内され、通路の突き当たりにある部屋へと連れていかれる。白い扉の前に控えていたふたりの従者風の者たちが、両側から扉を開ける。

 そこは、円形の広い部屋だった。壁は白く、奥には半円状に大きな窓が取り付けられている。やはりそこからは、街が一望できた。床にはアラビア風の模様が描かれた赤い絨毯が敷かれている。部屋の真ん中にある観葉植物の乗った白いデスクの向こう側に褐色肌の少年が座っていた。


「ジャーファル」


 ダンが声をかけた。

 少年はにかっと笑うとこっちに飛んできた。


「よっ、ダンにクローネ……だな。久しぶりだぜ!」


 アラビア帝国軍大佐、ジャーファル・べシャールは明るく言った。

 彼は、カラフルなアラビア風衣装を身にまとっている。ここまで来た時に見た人たちの様子と総合すると、どうやら、アラビア帝国軍に明確な制服は指定されておらず、各々が自由な格好で軍に参加しているようだ。年齢はダンやクローネと同じくらい。背は低く、艶やかな黒髪をしていた。額にはV字型のタトゥーが入っている。


「あー、そこの……」

「オメガです」


 オメガは自己紹介をした。


「オメガ・グリュンタール」

「そっか、よろしくな、オメガ」


 ジャーファルは右手を差し出してきた。オメガはその手を握り返す。


「んで、あんたらの目的は知ってるぜ」


 ジャーファルはオメガから手を離すと続けた。


「シェヘラザード様に会いに来たんだろう? だがどうやらあんたらは成り行きで世界の敵になっちまった。だから帝国領内には入れて貰えそうにない。んでもって旧知の仲であるこの俺に話をもちかけてきたってわけだ。姫様に謁見する許可を得たいってな」

「だいたいその通りだ」


 ダンは答えた。


「で、なんだ? お前たちは何をしでかしたってんだ?」


 ジャーファルは尋ねた。


「そうか、ま、お前には話しても……いや、話すべきなんだろう」


 ダンは話し始めた。自分たちが邪神復活を企むルルイエ神聖教団を追っていたこと。そして、そのルルイエ神聖教団と地球防衛軍、それに『観測者』の戦いは実はナイアーラによる茶番だったこと。もうすぐ、宇宙の深淵から神が降臨して、世界は滅ぶかもしれないということ……。だが、ダンはいちばん肝心なことを言わなかった。それは、ルルイエ神聖教団実働部隊の指揮官の正体だ。


「そうか……にわかには信じ難いが、お前が言うんならそうなんだろうな……。ま、俺もかつてはお前たちと一緒に世界を滅ぼさんとする悪意と戦った身だ。信じるし、協力もできるぜ」


 ジャーファルはふたつ返事で答えた。


「い、いいんですか!?」


 オメガは尋ねる。


「あぁ、それともなんだ……。不服か?」

「いえ、そんなことは……」

「俺たちアラビア帝国は、地球防衛軍はともかく、ここにいるダン・アマテたちには恩があるんだ。なにせ、国を救ってもらったようなもんだからな……」


 ジャーファルは言った。


「そうなんですか?」


 オメガは訊く。


「あぁ、国家を転覆せんという計画を、ダンたちが暴いてくれた……。そのおかげで今の国があるといっても過言じゃあない。あの時は、ディーナもいて……」

「ジャーファル、そのディーナのことなんだが……」


 ダンは慎重に口に出した。


「実は……生きていたんだ」

「はぁ?」


 ジャーファルはきょとんとする。


「いくらお前でもそれは許されないぜ。そんな冗談は……」

「いいや、本当だ。現にルルイエ神聖教団にて実働部隊の指揮官として活躍していた仮面の女の正体こそ、ディーナ・オルレアンだった。もっとも彼女自身……記憶を失ってるみたいだが……」

「おいおい、待ってくれって。俺は確かにこの目で……」

「分かってる。お前が確かにディーナの息絶える瞬間を目撃していた張本人だということはな。だが、シルフィまでもが、彼女こそれっきとした本物のディーナ・オルレアンだと認めているんだ」

「それだけではありません……」


 と、ここでクローネが口を開いた。


「そのディーナさんを殺害した張本人であるサザームさんまで生きていて……」

「悪い冗談だろ……」

「悪い現実です」

「ダン、頼みがあるんだが……」


 やがて、ジャーファルは決意したように言った。


「ディーナに会わせてくれないか? 俺も……その……」

「分かってる」


 ダンは言った。


「お前がそう言うことは予想がついていた。……だから、俺たちは、いや、俺の独断でディーナにもこの街に来てもらっていてな」

「え?」

「そうだったんですか!?」


 オメガとクローネが目を丸くした。


「あぁ、悪いな。任務としては少々違反になるんだろうからギリギリまで黙っていたが、まぁ、そこは大目に見ていて欲しい。ジャーファルのためにも……と思ってな」

「ありがとよ、ダン。んで、ディーナはどこにいるんだ?」


 ダンの案内で向かった先は、街にあるレストランだった。ヤシの木が並ぶメインストリートを見下ろせる屋上席に、ディーナは座っていた。いつもの黒いコート姿ではなく、焦げ茶色のジャケットとスカートの、スーツ姿だった。仮面も外している。


「ディーナ……!」


 ジャーファルは彼女の姿を見ると、早足で向かいその前の椅子に腰をかけた。


「あな……たは……?」


 ディーナは問う。


「本当に……なにも覚えてないんだな。俺だ……ジャーファルだ」

「ジャーファル……」


 ディーナは額に手を当てた。


「凄く……懐かしい響きな気はする……だが……」

「無理に思い出せとは言わないさ。ただ、久しぶりだという挨拶をしたくてな」

「そう……か……」


 ディーナは言った。

 すると、ジャーファルはにやりと笑って言った。


「ははーん、さてはお前、イメチェンってやつをしたな?」

「イメ……なんだ?」

「昔はもっと、俺の言うことなすことに文句を言ってきたし、すぐに怒るし、凶暴ったらありゃしないような女だったぜ?」

「私が……そのようなことを?」


 ディーナは信じられないという顔をした。


「だがな、俺はそんなお前が好きだったんだ……」


 オメガは少し離れたところからその様子を見てきょとんとするが、ダンはそんなオメガに向かって呟いた。


「ふたりはな……まぁ、端的にいえば、喧嘩するほど仲がいいってタイプだったんだ……」

「喧嘩するのに……仲がいいんですか?」

「難しかったか……?」

「難しいし、よく分かりません……」

「んじゃ、自分たちのことも振り返ってみるんだぜ、オメガ。俺にはお前たちふたりも、喧嘩こそしていないが似たような関係に見えるんだがな」


 オメガはクローネの方をちらりと見た。


「確かに、クローネさんは僕のことをからかってくる困った人ですけど……」


 それからクローネに聞こえないほどの小声で言う。


「オメガくん」


 クローネがオメガの方を向いて言った。


「そうやって小声で言っても、聞こえてるんですからね?」

「じ、地獄耳……」

「耳がいいって言ってください」


 クローネは怒ったような、それでいて楽しそうな口調で言った。


「そうか……」


 と、ディーナは言った。


「だから……お前には謝りたいことがある。お前が死んだと思った後……いや、あれは確実に死んでいたのだが……あの後、俺はドゥンヤと結ばれた……。その……」

「お前は今、幸せか?」


 ディーナは尋ねた。


「え?」

「幸せかと訊いているんだ」

「あぁ、そうだな……。今、俺は幸せ……だ」


 ジャーファルは慎重に答えた。


「ならいい」


 ディーナは言った。


「多分、以前のディーナもそう言ったことだろう」

「ありがとよ……」


 ジャーファルはそう言うと立ち上がった。


「それじゃ、俺は仕事に戻らなきゃあな。知ってるか? ディーナ、俺は大佐にまで昇進したんだぜ? だから今はとても忙しい。本当はもっと話したいが……」

「おめでとう……」


 ディーナはぎこちなく言った。


「ありがとよ」


 ジャーファルは手を振ると立ち去っていった。

 ジャーファルの姿が見えなくなると、ディーナは立ち上がってこちらにやって来た。


「お前たち……私は、これで良かったのか?」


 ディーナは尋ねる。


「あぁ、こういうのは早い方がいいだろう? それに……ジャーファルとお前には会っておいて欲しかったんだ。お互いに……な」


 ダンは言った。


「あの……」


 と、クローネがダンに声をかける。


「すみません……私、隠そうとしていました」

「何をだ?」


 ダンがきょとんとして聞き返す。


「オメガくんのRA(ライドアーマー)には、アブソリュートシステムが搭載されていたことです。皆さんにはこれ以上迷惑をかけないようにと思っていたのですが……違いますね。今、ダンさんの姿を見て……やっぱり……仲間内で隠し事は良くないと……」

「待ってくれ。つまり……それは……ライラのやつがアブソリュートシステムの凍結を解いたということなのか?」


 ダンがクローネとオメガを交互に見ながら言った。


「そういうことに……なります。『観測者』にいるラムダさんのRAも同様にアブソリュートシステムを搭載していたので……おそらくは、それに対抗するために……」

「だが待て、クローネ。ライラはどうやって『観測者』のRAの存在を知った?」

「それは……」


 クローネは口ごもる。


「お前がライラを疑いたくないのはよく分かる。俺だって疑いたくないからな。しかし……俺はそこら辺のことをシルフィと探ってみようと思う」

「ダンさん……」

「安心しろ、クローネ。悪いようにはならないさ。ライラは俺もお前もよく知った相手だ。きっと事情があるに違いない」


 ここは、コーカサス海の真ん中に浮かぶある島の地下基地。そこで、ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィはセッテ・ガーという少女に案内され、RA格納庫にいた。

 セッテは、水色の髪をしたまるで機械のような印象を与える少女だった。


「あれが……あなたの新しい機体」


 セッテは格納庫に渡された足場のような通路から赤いRAを見上げて言った。それは、エンディミオンラージャに似たRAだった。


「エンディミオンラージャ……? いいや、違うな」


 ドゥルヨーダナはその機体の両腕を見て言う。両腕の甲の部分からは、おそらくオリハルコン合金製であろう金属の爪が伸びていたのだ。


「機体名はエンディミオンヴリトラ。天地を覆う邪龍」

「はっ、どうでもいい」


 セッテの言葉にドゥルヨーダナは言った。


「そんなことよりも俺様は暴れてぇんだ。なぁ、セッテ……俺様の次の舞台は用意されているんだろう?」


 セッテはこくりと頷いた。


「預言は降りた。我々が手に入れるべき残りふたつの鍵は『勝利者』の名を冠する都市に現れる……」

「勝利者……。かつての言葉でカーヒラ、すなわちカイロか」


 ドゥルヨーダナは言い当てた。


「カイロにはかつて、かの者たちと戦った同士たちがいる。アラビア帝国が彼らを保護するのは確実」

「つまりあれか? 今度はアラビア相手に暴れまくれってのか? 楽しみだぜ」

「いくらあなたの機体が特殊機構を有していたとしても我々だけで国家相手に立ち回るのは不可能。よって……」


 セッテは自らの左腕に装着した腕輪型の装置から空中に地図の立体画像を投影した。ヴィシュヌ大陸南西部の地図だ。


「西テュルキイェ王国、およびイラン帝国。この2国に支援を仰ぐ」

「支援? だが……」

「世界の敵の討伐のためと言えば拒否はされない」

「そうかもな」


 ドゥルヨーダナは言った。


「おい、セッテ……」


 それから改めてセッテに向き直る。


「んで、てめぇが今さりげなく流そうとした特殊機構ってのはなんなんだ? エンディミオンヴリトラに何か妙な仕掛けでもあるのか?」


 セッテは無表情のまま頷いた。


「かの機体は、『絶対なる力』を有している。それはすなわち……」


 セッテはここで一瞬言葉を切った。


「アブソリュートシステム。破壊のための大いなる力」

 砂漠の統治者は憂う。

 この世界の行く末、そして世界を支配せんとする黒き力を。

 姫は少年と出会い、ともに世界を見る。

 少年は姫の元、己を見つめる。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『帝国の姫君』。

 空、砂、そして海。

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