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第22話 合体! ハイペリオンオメガVV・1

 オメガ・グリュンタールはクローネ・コペンハーゲンを取り戻すために翔ぶ。

 そして、彼が手にする新たなる力とは……!

 オメガ・グリュンタールの部屋にシルフィがやって来た。オメガは、もう、ベッドから起き上がり、机に向き合って何かをしている。


「オメガくん……何をしているんですか? 寝ていないと……」

「大丈夫です」


 と、オメガは言った。


「熱もだいぶ下がりましたし……多分、今日か明日には任務に復帰できると……」

「そう……ですか」


 シルフィは言った。


「あっ、シルフィさん、見てください! 僕、ダンさんに憧れてお絵描きを始めたんですよ! ほら!」


 オメガは天真爛漫な表情でたった今描いていた絵をシルフィに見せる。

 シルフィはその絵を見てしばらく考え込む。


「えっと……これは……ピラニアですか?」

「違います! 金魚ですよ! ほら、もっとしっかり見て!」


 オメガは歪に歪んだ線で描かれたイラストをシルフィの目の前でひらつかせる。


「やっぱりピラニアじゃないですかぁ」

「なんでそんなことを言うんですか? 上手いですよね!」


 シルフィは何も言わなかった。その代わり、真剣な表情になって言う。


「オメガくん、任務に復帰出来るのならいずれ知ることなので言いますが……」

「どうしたんですか?」

「クローネさんが……戦線を離脱しました。具体的には……敵組織に……その……」

「そう……なん……ですね……」


 オメガはさっきまでのテンションが嘘のように沈みこんで言った。


「だから、みんな、僕のことを避けるようにしてたんだ……。気を使って……」

「ごめんなさい」


 シルフィは頭を下げた。


「私たちは、知らず知らずのうちに、クローネさんを追い詰めていたんだと思います。彼女なら大丈夫だ。クローネさんならどうにかなるはずだ……って、そう思って……」

「クローネさんは、強い人です」


 オメガは言った。


「でも、そういう硬くて強い物ほど、少しでもヒビが入るとぽっきりといってしまうことがある……。そういうことなんだと思います」

「怒ら……ないんですか? 私たちのこと、もっと怒ったりするかと……」

「まったく、皆さん僕のことを下に見すぎですよ」


 オメガは言った。


「確かに今、僕はとっても泣きたい。どうしていいかも分からない。……でも、だからといって、皆さんを責めたり、そんなことは出来ない……」


 それからオメガは無理に笑顔を作ると続けた。


「だって僕は、クローネさんほど強くありませんから」


 クローネは、自分たち三人のパイロットの待機室真ん中のモニターに映し出された地図を眺めた。それを示しながら銀仮面の男は説明をする。


「我々の第一作戦目標はローマ連邦の植民都市、マプト。その街を襲撃することにより、我々の存在を世界に知らしめる。それで、いいだろう? ティラエ」


 仮面の男は、目の部分にあたるスリットをティラエに向けた。彼の目は、ちょうど影になっていてこちらからは見えない。


「そうねぇ、ローマ連邦を攻撃できるなら、私の本望。ありがとね、えぇっと……」


 ティラエですら、この仮面の男の正体も名前も知らない。ラムダ、ティラエ、そしてクローネの3人は、その復讐心を焚き付けられ、ここに集められただけなのだ。


「私の……名前……か」


 男は言った。やはり、機械のようにエコーがかかった声である。


「サザーム、と。サザーム・ジェノバと呼んでいただきたい」

「さ、サザームさん……!?」


 クローネは一瞬、足下がふらつく感覚を覚えた。


「安心しろ。確かに私は君とは2年前の戦役で敵対したかもしれない。だが、今はなんとも思っていない。今、私の心にあるのはただの虚無、それだけだ……復讐によって全てを失ったひとりの男の、ただの虚無……」

「待ってください! でも、サザームさんは確か……亡くなったはず……」

「確かに私は前回の戦役で敗北し、爆弾によって自ら自害した。しかし……運命とは残酷なものだ。私は奇跡か、あるいは不幸か、命を取りとめてしまった。以後、私は全身に負った醜い火傷を隠すためにこの仮面と手袋をつけるようになった」


 サザームの頭部はフルフェイスヘルメットに近い形状の銀色の仮面に覆われているし、両手は白い手袋をしていた。服装は黒地に白いラインの入ったロングコートだ。


「行け……クローネ、そしてティラエ……行って自らの武威を示してくるのだ」


 サザームは命じた。


 クローネとティラエは、戦艦・ネメシスの格納庫にて自身の機体に乗り込んだ。ネメシスはステルス機能を搭載した濃い青色の戦艦だ。現在、マプトの上空に、光学迷彩を展開して停泊している。

 クローネはちらりと隣に並ぶRA(ライドアーマー)を見た。赤色をした龍のような頭部のRAである。カメラアイの数は四つ、水色に光り輝いていた。背中には四枚のウイングが生えている。


「ミネルヴァΔ(デルタ)。クローネ・コペンハーゲン、撃ち抜きます!」


 クローネはレバーを引いて。機体の両足をカタパルトに乗せた。カタパルトが機体を前に押し出し、ミネルヴァΔは発進する。


「緊張するなぁ……」


 ティラエは呟いた。そして、クローネの見様見真似でカタパルトに機体の両足を乗せる。


「アンフィプテラ。ティラエ・マラガ、戦います!」


 赤い龍に似た機体が空に放たれる。


 クローネとティラエは機体を街へと降下させた。マプトは、石造りのローマ風建築が並ぶ港湾都市だ。


「うぅ、ちょっと高い……」


 ティラエは言った。


「ティラエさん、もしかして……RAの操縦は初心者だったりします?」


 クローネは尋ねた。


「当たり前でしょ? クローネちゃんと違って、私は一か月前にRA操縦の訓練を始めたばっかりなんだから……。戦場は初めてだし……正直、あのサザームさん? から支給されたこの機体に乗るのも初めて」

「そう……なんですね。でも、才能あると思いますよ? 一ヶ月で魔動機を支給されるなんてそうそうないことですし」


 クローネはにこりと笑って言った。


「クローネちゃんは?」

「私は……士官学校で何年も学んでこれですから……」

「じゃ、私の先輩になるわけだ」


 ティラエはにやりと笑って言う。


「そんなに畏まらなくてもいいですよ? えぇと……楽しく、というのは少し違うかもしれませんが……でも、そんな気張らずに、です!」

「不思議な気分だなぁ」


 ティラエは言った。


「はい?」

「私、本当はクローネちゃんが思うよりもずっとずっと悪い子なの。学校もサボっていたし、あんなに仇を取りたいと思ってるお父さんにだって、反抗してばっかりだった……。でも、あんたといると不思議と落ち着いた気分になれるの。どうして……かな」

「ティラエさん……」


 クローネは呟いた。


 スターペンドラゴンの艦橋に召集がかかった。オメガはシルフィと共に艦橋に向かう。


「オメガ……」


 アリアはオメガの姿を確認すると言った。だが、気を取り直して説明を開始する。


「マプト上空にミネルヴァΔともう一機、魔動機が出現した。現在、出撃したローマ連邦軍と交戦中との模様だ。シルフィ、オメガストライカーで……」

「待ってください!」


 オメガが手を挙げた。


「僕に行かせてください」

「だがオメガ……」

「大丈夫です。必ずクローネさんを連れ戻してきます」

「そうか……いいだろう」


 アリアはオメガの瞳を見つめて許可を出した。


「それから、ティンダロスには……」

「僕がひとりで行きます」


 オメガは言った。


「僕は、僕自身の手でクローネさんを取り戻したいんです。わがままかもしれません。思い上がりかもしれません。でも、そうしないと……僕の心が許さない!」

「分かった」


 アリアは言った。


「お前も……頑固なやつだからな、オメガ。だがくれぐれも無理はするなよ」

「分かっています!」

「本当か?」

「本当です!」


 オメガは艦橋を出ていった。


「シルフィ、例のやつの準備、急いでおけよ」


 アリアは意味ありげに言った。


「分かりました!」


 シルフィは敬礼のようなポーズをする。


「オメガストライカー。オメガ・グリュンタール、翔びます!」


 マプト近海に移動していたスターペンドラゴンからオメガストライカーが発進する。

 オメガがしばらく進むと、目の前に数機のレギオンたちが現れた。


「やっぱり……あいつらにとっては僕たちもクローネさんたちも等しくテロリスト……。そう簡単には行かせてくれないか……!」


 オメガは撃ち込まれる光弾をかわしながら洋上を街に向かう。


「でも……僕はクローネさんを止めなきゃあいけないんだっ!」


 オメガは翼の下部から光弾を発射させた。光弾はレギオンたちのバックパックを破壊し、海面に墜落させる。


「ごめんなさい……! 海の中は暗いだろうけど……!」


 オメガはいつかの自分たちのことを思い出した。大丈夫、今撃墜したパイロットたちも、誰かが回収してくれるはずだ。


 シルフィは、スターペンドラゴンの格納庫の奥にある、隠された部屋に移動した。そこには、巨大な何かが幌をかけられて保管されていた。

 シルフィは近くにあった操作盤に移動する。


「お待たせしましたね。オメガくん、今、射出しますよ……!」


 シルフィは操作盤をいじり始めた。


 マプトの市街地で、ミネルヴァΔはアンフィプテラと共にレギオンたちと交戦していた。


「ローマ軍……! 許さない……!」


 ティラエは闇雲に敵陣に突っ込んでいこうとする。だが、そんなアンフィプテラの肩をミネルヴァΔが掴んだ。


「待ってください!」

「私を……行かせてよ!」

「駄目です! そんな闇雲な戦い方をしても、討ち取られるだけです!」

「でも、私は……!」

「落ち着いてください!」


 クローネは言った。


「あんたは……自分に、自分たちに復讐すると言った……。だからいいのかもしれない。でも、私は今、目の前に復讐対象が……!」


 アンフィプテラの背中にある四枚のウイングが展開し、前方に向かう四つの砲台に変形した。


「アタックスキル……!」


 ティラエは自らの正面にあるクリスタルに手を触れようとする。だが、そこで彼女の動きは硬直した。


「どう……されたのですか?」


 クローネが訊いた。


「分からない……わた……しは……」


 手が震えていた。怖い、と思った。アタックスキルを放とうとしたその瞬間、ティラエは自分が命のやり取りをしているということに気づいたのだ。


「どうして……!」


 ティラエは言った。私は……お父さんの仇を取りたいんじゃあなかったの!? ローマ連邦が憎いんじゃあなかったの!?

 その時、クローネが叫ぶ。


「ティラエさん! 避けて!」


 ティラエはハッとして機体を後退させた。さっきまで自分のいた場所に光弾が炸裂した。

 見上げると、白い戦闘機が降下してくるところだった。尾翼はΩ字型をしている。


「オメガ……くん……?」


 クローネは呟いた。


「お前が……!」


 オメガは言った。


「クローネさんを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 オメガはオメガストライカーをアンフィプテラに突撃させる。

 ティラエの脳裏に恐怖がよぎった。


「こ、来ないでっ! 来ないでよぉっ!」


 アンフィプテラは闇雲にビームセイバーを振るって光弾を弾く。

 オメガは気がついた。


「この動き……こいつ! 初心者か!?」


 その時、オメガストライカーとアンフィプテラの間にミネルヴァΔが割って入った。

 クローネは思わずオメガに通信を入れる。


「オメガくん! やめてください! ティラエさんはまだ戦い慣れをしていなくて……!」

「クローネさん!」


 オメガは言う。


「どうして……こんなことに……! 僕はあなたと戦いたくない!」

「私もです!」


 クローネは言った。


「だから……私のところに……来てください」

「それは……」


 オメガは口ごもる。


「私は自分が嫌いです! 自分のいた場所も嫌いです! 正直……私は自分が憎い。私のせいで、ひとりの人間が命を落とした……! 私のせいで! オメガくんにはそんな思いはして欲しくない。だから……こっちに……来て……ください」

「僕は……」


 オメガは言った。


「でも僕は、そんなクローネさんが大好きです!」


 クローネは驚いて目を丸くした。


「確かに、クローネさんは……たまによく分からないことを言うし、ちょっと抜けてるし、それにいつも僕のことをからかってくる……。でも、それであなたを嫌いになったことはありません! むしろ、あなたは僕の憧れでもあった……。僕はクローネさんみたいな優しくて強い人になりたいんです!」

「私は……強くもなければ……優しくも……」

「それだけじゃあありません」


 オメガは続けた。


「僕が傷ついた時は、いつもクローネさんが元気をくれた。表でも、そして心の中でも、僕に寄り添ってくれた……。僕にはもう、クローネさんのいない世界なんて、想像できないんです……!」

「オメガくん……」


 オメガには、クローネの目の曇りが取れたように見えた。


「分かっていました。クローネさんが、あの時、僕に伝えようとしてやめたこと。いつか、南ローリー大陸のある街で、ふたりで公園から海を眺めて、アイスキャンデーを食べた時に、言おうとしたこと。僕も、同じことを言おうと思っていましたから……」


 オメガは深く息を吸って覚悟を決めた。それは、どんな戦いよりも、覚悟のいる言葉だった。


「クローネさん、僕と……付き合ってください! 僕は気付きました。この気持ちこそが、恋をするってことなんだと!」

「いいですよ……」


 クローネはにこりと笑った。その頬に涙がつたった。


「私が先に言おうと思ってたのに、言われちゃいました」


 だがその時だった。ミネルヴァΔとオメガストライカーの間にオレンジ色の機体が降下してきて、オメガストライカーをはね飛ばした。


「くっ……!」


 オメガストライカーは近くの建物に激突し、瓦礫に埋もれる。


「悪いな……弟。俺たちの仲間に変なことを吹き込まないで欲しい……」


 ラムダ・プロメテウスは自らの機体のコックピットでそう呟いた。

 後半へ続く!

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