第21話 闇が来る・2
前半の続き!
クローネは、コックピットから地球防衛軍プレトリア基地を見下ろした。ビームバイオネットをガンモードにし、そこから放つ光弾で出撃してくるカリバーンたちを無力化していく。
「カレリアさん……今……私が助けますからね……!」
クローネはまるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。
そんな彼女の目に、地上をある人物が歩いてくる光景が目に入った。カレリアだった。彼は、骨が折れてひしゃげた両脚を使い、ほぼ気力だけでふらふらと歩いていた。顔はくしゃくしゃに潰れてもはや原型を留めていない。
「カレリアさん……!」
クローネは機体を降下させた。そして、無我夢中でカレリアの目の前に着陸させると、機体を膝立ちの低姿勢にし、コックピットハッチを開いた。
「さぁ、カレリアさん! 早く……!」
クローネはコックピットから地面に飛び降りた。
「逃げましょう……! ここまで、来たんですから……!」
クローネはカレリアに肩を貸した。
「怪我なら、大丈夫ですよ。オメガくんの手にかかればちょちょいのちょいです。私だって全身骨折した時は、彼に治してもらったんですから」
クローネは無理矢理笑顔を作ると言った。
「クローネ……駄目だ……こんなところに……来ては……」
「え……?」
クローネは聞き返した。
「奴は……全部……知っている……。お前が来ることも……何もかも……」
「どういう……」
その時だった。銃声が鳴り響き、クローネの右肩を銃弾が貫く。
「くっ……」
間に合わなかった……? 目の前のことに気を取られて……! クローネは思った。そして、利き腕である右手を使えないとなれば……。
ふたりの目の前に現れたのは、拳銃を手にしたナイアーラだった。
「もう一発……次はお前だ」
銃声が鳴り響き、カレリアが撃ち抜かれた。
「カレリアさん!?」
クローネがカレリアをゆり起こそうとする。
「クローネ……もう……私は終わりだ……。だから……最後に……言わせてくれ。私は……お前が……好きだったんだ……。だから、お前に……協力した……。それが……真意ってやつだ」
カレリア・ウィンチェスターは息絶えた。
「カレリア……さん!」
銃口がクローネに向けられた。ナイアーラは少しづつ歩いてくる。
「残念だったな……クローネ・コペンハーゲン。君はまたしても大切なものを失った……。いいや、君には初めから何も存在していなかったんだよ……。産まれてすぐに、母親とは死に別れ、根っからの軍人だった父親からは疎まれた。士官学校ではいじめを受け、せっかく拾われてようやく人並みの人生を歩めると思ったら今度はこれだ……。お前のせいでカレリアは死んだ。お前に恋をしたが故にカレリアは死んだのだ」
ナイアーラは拳銃をしまうとクローネに顔を近づけた。
「お前の弱点……それはその優しさだ」
「あな……たは……!」
クローネはナイアーラを睨みつける。
「さぁ、憎め……この私を憎め。その憎しみこそが、お前が立ち上がる力になる……」
クローネは左手で拳銃を抜くと、ナイアーラを撃った。
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
何発も、何発も、銃弾を撃ち込んだ。ナイアーラの胸が、腹が破け、そこから臓物が飛び出した。
しかし、ナイアーラは死ななかった。彼は、そのままの姿で地に立ち続けた。
「そうだ……それこそが力だ……。だがクローネよ、お前にはもっと別に打ち倒すべき相手がいるのではないか?」
「打ち倒すべき……相手?」
クローネは濁っていく視界で、ナイアーラを見つめた。
「そうだ……。あの非情な命令さえなければお前はカレリアを失わずに済んだ。お前はその優しさゆえに誰よりもあの命令に苦しんだはずだ……。私には分かる。お前のその苦しみが……。カレリアを殺したのはお前自身でもあり、同時にお前の属する組織でもあるのだよ、クローネ・コペンハーゲン……」
「許……さない……」
クローネは自分でもこんなセリフが吐けたのかと思うような声で言った。
「わた……しは……お前たちも……何もかも……全部を……」
「それでいい。クローネ、すぐに貴様には新しいホームを用意してやろう」
ナイアーラは、彼に背を向けて自身の機体に乗り込むクローネに言った。
「さて……」
ミネルヴァΔが空に向け上昇していくと、ナイアーラは自らの身体の修復を始めた。クローネに撃ち抜かれた傷は、何事も無かったかのように元に戻る。
「もうひとつの方も、首尾よく……進んでくれているかな……?」
ゼロムたちが乗る艦は、ケープタウン近くの遥か上空に停泊していた。
「もし……」
と、ゼロムはモニターに映った空を見ながらエリシアに言った。
「もし、俺の読みが誤り、クローネが本当に壊れてしまったなら……俺は、どう責任を……」
「そういうことは考えるな」
エリシアが言った。
「お前の見込んだオメガの彼女だろう? 信じてやれ」
「だがまだ付き合ってはいない」
ゼロムは指摘する。
「いいじゃあないか。お互い、奥手すぎるというのもな」
だが、その時だった。艦に衝撃が走る。
「な、なんだ!?」
ゼロムはすぐに手元のモニターを確認した。
「艦の左舷に攻撃が……! これは、RAです!」
オペレーターのひとりが叫んだ。
「RA!? 気づかなかった……。ステルス機能がなにかか!?」
ゼロムはそう言いながら立ち上がる。
「はい、それに……!」
モニターに映し出されたのは、黄金色の光を放つRAの姿だった。
「この形態は……!」
ゼロムは目を見開く。
「アブソリュートモード!」
エリシアが言った。
「くっ……俺がデウス-EXで出れば……!」
「待て、お前のRAでもかなうかどうか。何しろ相手はアブソリュートモードを搭載したRAだぞ!」
艦橋を出ようとするゼロムをエリシアが止めた。
「アブソリュートモードはすでに凍結された技術のはず……。そんなものを搭載しているRAに、普通の魔動機が戦って勝てるはずが……」
「それは……やってみなくちゃあ分からないだろう」
ゼロムはそう言うと艦橋を出ていった。
クローネが無断出撃をしてから数時間が経とうとしていた。スターペンドラゴンの面々は彼女が戻ってくることを待っていた。だが、それにしても遅すぎる。艦橋にて待機をしている、アリア、レアーノ、フローラ、ダン、シルフィはややそわそわし始めていた。
「オメガはどうしている?」
ダンはシルフィに尋ねた。
「部屋で寝ています。私、ちょっとオメガくんを無理させちゃったみたいで……」
「そうか……それはいい。あいつはクローネがいなかったら生きていけないって言っても過言じゃあないからな」
「そうですね」
シルフィは面白そうに言った。
「もうあのふたりは、付き合っちゃえばいいと思います」
「まったくだ……」
ダンは何気なく前のモニターを見つめた。その時、何者かからの通信が入った。
「通信、表示します!」
オペレーターのひとりが言った。
画面に映し出されてのは、ナイアーラの姿だった。背景から、彼はどうやらプレトリア基地の屋外から携帯用通信機を使って通信をしてきているということが分かる。プレトリア基地は周囲から煙が上がっていた。
「ナイアーラ……!」
アリアは通信の相手を睨みつけた。
「諸君、クローネを待っているのだろう? 悪いが彼女はもう帰ってこない」
「な、何をしたんですか!?」
シルフィがナイアーラに詰め寄った。
「いいや、私は少し言葉で背中を押してやっただけだ……。だが、彼女は自らの意思で君たちから袂を分かつことを決意したのだよ。それにこうなることの原因を作った君たちの無能上司は……」
モニターの画面が切り替わり、破壊される濃灰色の戦艦の映像に切り替わった。
「この戦艦は、ゼロム・グリュンタールの戦艦だ。彼らの戦艦及びRAは我々の手によって破壊された。乗員たちの消息は分からないが、いずれ我々が何らかの君たちに対する悪い知らせとして報告するのは明らかだろう」
「そん……な……」
ふらついたシルフィの肩をダンがすかさずに支えた。
「『観測者』……だ」
ナイアーラは言った。
「観測者?」
アリアが聞き返した。
「ゼロムを滅ぼしたのも……そしてクローネが新たに向かう先も、新たなる『観測者』だ。彼らは今までの『観測者』とは違う。ルルイエ神聖教団を止めるための機関だったこれまでの『観測者』とはな」
「どう……違いますの?」
フローラが質問する。
「彼らは『復讐する者』なのだよ。自らを排除し、虐げてきたこの世界全てにな。せいぜい楽しませてくれたまえ。私の楽しい遊戯の時間、第二ラウンドをな」
クローネ・コペンハーゲンは新たなる服に着替えると新しい上官の案内である薄暗い会議室のような部屋に通された。クローネの新しい上官は、頭部をすっぽりと覆う銀色の仮面を装着していた。
クローネは、自身の新しい服を見下ろす。黒字に白いラインの入ったゆったりとした服だ。
部屋にはすでにふたりの少年少女がいた。少年の方はオレンジ色の髪をして、快活な笑顔を浮かべている。一方、少女の方は金色のショートボブヘアだが、その髪には一部、赤色のメッシュが入っていた。彼女はさもこちらに無関心そうに自身の爪の手入れをしている。
「紹介しよう」
仮面の男はエコーのかかった声で言った。
「彼女はクローネ・コペンハーゲン、君たちの三人目の仲間だ」
「そっか、よろしくね、クローネ」
オレンジ髪の少年がにこりと笑って片手を差し出してきた。
「よろしく、お願いします……」
クローネは少しだけ緊張して彼の手を握り返す。
「俺はラムダ・プロメテウス。ま、俺たちのことは君の方がよく知っているだろう?」
「プロメテウス……。それに、ギリシャ文字由来の名前って……まさか!」
クローネは驚いて目を丸くした。
「そう、そのまさかさ。俺の弟がお世話になっていたみたいだね」
「お世話しています……」
クローネは少し会釈をした。
自らの爪を薄ピンク色に塗っていた少女がちらりとこちらを見た。それから、はっとしたようにもう一度こちらを見た。
「な、何!? 新しい子が来るって聞いたから、どんな子かなーって思ってたら、すっごい美人さんじゃないの!?」
少女はすっ飛んできた。そしてクローネの身体にぎゅっと抱きついた。
「そ、そうですか?」
「うんうん、その髪とか、普段どうやってお手入れしているの? それにスタイルもいいし、絶対男の子にモテるでしょ?」
クローネは首を横に振った。
「いいえ、一度目はこちらが振られて、二度目は……」
クローネは言葉を詰まらせた。そうだ、私のせいでカレリアさんは死んだのだ。
「よせ、ティラエ。そいつはそのことでこの世に復讐を誓った」
仮面の男が言う。
「そのことって……何? モテなかったってこと?」
「違います……」
クローネはため息混じりに否定する。
「カレリアさんが、亡くなったのは私のせいですから。……私は、私自身に復讐をしたいのです」
「そういう……こと」
ティラエと呼ばれた少女はさっとクローネから離れる。
「よろしくね! 私はティラエ・マラガ。復讐対象は……主にローマ連邦、かなぁ」
「マラガ……って、あなたは!」
クローネはまたしても驚いた。
「そっ、南ローリー大陸の反乱勢力の首魁だったアディーラは私の父。私は裏切り者の娘として、本国で一生を生きていかなきゃいけなくなって……」
「あの……」
クローネはかけていい言葉が見つからなかった。このティラエという少女の父と自分は敵として戦っているのだ。どうすれば……。
「あぁ、気にしないで。私はあんた自身には何も変な感情は持ってないから。ただ……許さないのは私の父を、ただの裏切り者として処断した連中。もしお父さんと同じ状況になったとしたら、同じことをしなかったとも限らないのに……」
「そう……ですか」
クローネは言った。
「大丈夫大丈夫、そんな暗くならないで! ほら、笑顔笑顔!」
ティラエはクローネの口角をつまんで無理矢理笑顔を作らせた。
「ティラエ、新入りが困ってるだろ?」
ラムダがやれやれと言った。
「あの……ひとつ、いいですか?」
ティラエの手がようやく離れるとクローネは訊いた。
「ここは皆さんの控え室と聞いています。ですが、席は三つではなく四つ。ひとつ、席が多いのですが……」
「あぁ、その事かい?」
ラムダは言った。
「俺たちは四人で世界を変える。そういう目標があってね。あとひとり、是非とも君に誘って来て欲しいんだ」
「誘う? 何? クローネちゃんの色仕掛け?」
「そういうのはちょっと……」
クローネはどう受け答えしていいのか分からずに言った。
「だよねぇー、クローネちゃん、すっごく純朴そうだもん。ますます私のタイプかも」
ティラエが言った。
「ティラエ、君は少し黙っていてくれないか?」
ラムダが注意するように言う。
「悪いね、こいつはかわいい女の子には目がなくって。許してやって欲しい」
それからラムダはクローネに向き直った。
「そのもうひとりっていうのは、君の元お仲間さ。同時に、俺の弟でもある。悪い話じゃあないだろう? いや、君自身むしろ彼と肩を並べて戦うことを望んでいるはずだ」
「オメガくん……ですね」
クローネは呟くように答えた。
「大正解……だ」
ラムダは言う。
「あぁ、早く俺も弟に会ってみたいなぁ」
愛する者を救うため、少年は翔ぶ。
天翔ける者が蘇る時、少年は自らの分身と対峙する。
黄金に輝く力は聖か邪か。
今、新たな戦士が戦場に立つ。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『合体! ハイペリオンオメガVV』。
心を溶かすは愛か、それとも。




