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第21話 闇が来る・1

 ゼロム・グリュンタールはクローネ・コペンハーゲンらに非情な決断を下す。

 そしてクローネがとる行動とは……!

 オメガは、スターペンドラゴンにある自室のベッドに寝かされていた。そんなオメガの元にシルフィが食べ物を持ってくる。お粥だった。


「オメガくん! 食べ物ですよ! ジョアンさんが作ってくれました!」


 シルフィはオメガの枕元にある机にお粥の乗ったお盆を置いた。


「ありがとうございます……」


 オメガは上体を起こす。


「あの……クローネさんたちの任務は……」


 オメガは言った。


「無事、ではないかもしれませんが、終わりましたよ?」

「無事……ではない?」


 オメガ木製の匙に伸ばされたオメガの手が止まった。


「はい、カレリアさんは防衛軍に拘束されてしまいましたし……クローネさんはそのことでちょっと……」

「そんな……」


 オメガはベッドから抜け出そうとする。


「待ってください! オメガくんはまだお熱があるんですよ!」


 シルフィがそんなオメガを必死に抑えた。


「で、でも……!」

「大丈夫です。私に任せてください!」


 シルフィはウインクをする。


「分かりました……。僕はあなたを信じます」


 オメガは立ち上がりかけた腰を再びベッドに戻した。


「さ、どんどん食べて、元気になってくださいね!」


 シルフィは言った。


 シルフィはオメガがお粥を食べ終わると、お盆を回収して彼の部屋をあとにした。それから、食器類を厨房へと戻し、厨房に隣接する食事スペースのある席に座る。その前には、すでにクローネが座っていた。


「シルフィさん……」


 クローネはシルフィの姿を確認するとそう言った。とても沈んだ様子だ。


「クローネさん、オメガくんは、元気そうでしたよ。その……熱はありましたけど、メンタル的には……」

「そうですか……」


 クローネは言った。


「オメガくんは、自覚はないかもしれませんが、ここに来てから本当に成長しましたから……。最初は危なっかしくて、独りよがりで、それに暴走気味でしたけど……。最近だって少しは危ないところもありますが、でも、前よりもずっと強くなりました。それにひきかえ、私は……こんなことで……」

「誰かと比べて自分が駄目だとか……そういうことを考えるのは良くないですよ?」


 シルフィは言った。


「クローネさんにはクローネさんのやり方があるでしょう?」

「でも、私には理解できません!」


 クローネは言った。


「私には……どうして……あの場でカレリアさんを見捨てなければいけなかったのか……。確かに彼の行動は合理的に考えれば不可解なのかもしれません。でも、だからといって神経質にスパイかもしれないと判断して、見捨てるなんて……!」

「ゼロムさんも苦しかったと思います」


 シルフィは言う。


「ゼロムさんだって、人を疑うようなことはしたくないと思います。でも、私たち全員のためを思って……」

「みんなのためなら、どんな残酷なことをしてもいいんですか!?」


 クローネは立ち上がった。


「それは……でも……」

「もし、善こそが残酷で、悪こそみんなが幸せに暮らせる世界ならば、私は間違いなく悪を選びます」


 クローネは言った。そして、シルフィの前を立ち去っていく。


「クローネさん……」


 シルフィは呟いた。


 スターペンドラゴンの格納庫にて、警報が鳴り響いていた。ミネルヴァΔ(デルタ)の乗った台座がカタパルトへと移動していく。そのコックピットには、クローネの姿があった。


「ミネルヴァΔ。クローネ・コペンハーゲン、撃ち抜きます……!」


 カタパルトから洋上に、ミネルヴァΔは出撃した。


 シルフィはすぐさま、艦橋に駆け込んだ。


「アリアさん! クローネさんが無断出撃したって……」

「あぁ、本当だ。……ったく、ルールを破るなんて柄にもないことをしやがって」


 アリアは言った。


「でも、行き場所は分かってるっすよ」


 レアーノが言う。


「間違いなく……プレトリアの防衛軍基地っす」

「クローネは責任を感じていますものねぇ。カレリアのことに関して」


 フローラが言った。


「す、すぐに連れ戻してきます!」


 シルフィは言った。


「オメガストライカーは本来、私が乗るはずの機体でしたから……!」

「待て、シルフィ」


 アリアは言った。


「少し……頭を冷やさしてやれ」

「このまま……行かせるんですか?」

「そうですわね」


 フローラが呟く。


「クローネはここで壊れるようなやわな女じゃあありませんわ。それに、信じてやらなくて、何が仲間ですの?」

「そう……ですね」


 シルフィは艦橋を出ていった。警報ランプの赤い光に照らされた廊下を歩いていると、向こうから足下をふらつかせながらオメガが歩いてくるのが見えた。


「って、オメガくん!」


 シルフィはオメガに駆け寄り、彼の体を支える。


「シルフィさん……本当ですか……。クローネさんが……カレリアさんを助けるために……」

「本当です! でも、オメガくんが出てきちゃ……」

「僕も行かないと……。クローネさんをこれ以上追い詰めちゃ……」

「追い詰めてません!」


 シルフィは言った。


「彼女のやりたいようにやらせるんです!」

「やりたいように……?」

「クローネさんは、こんなことで壊れてしまうような人ではありません。それは、オメガくんも分かるでしょう?」


 オメガは思い出した。そうだ、クローネさんはいつも僕の目標だったんだ……。そんなクローネさんが、ここで終わるわけがない……! 彼女なら、きっと……。


「もしかして……」


 と、オメガは言った。


「もしかして……。なんですか?」

「シルフィさん! なにか、ゼロムさんに連絡を取れる手段を持っていますか!?」

「い、いいえ……! でも、多分この艦の通信履歴を遡れば、出来ると思います!」

「でしたら、すぐに……!」


 オメガは言った。


「ハッキングは大罪ですよ?」


 シルフィは言う。


「大丈夫です。無断出撃だって大罪じゃあないですか」


 オメガは少しだけ表情を緩めると言った。


 ふたりは、コンピュータの並んだ部屋に駆け込むと、シルフィの持ってきた私用のコンピュータのコードを艦のコンピュータに差し込む。

 しばらく、暗号化された通信履歴を解析していたシルフィだったが、やがて言った。


「あの、ありました! ここに繋げればいいんですね!?」

「はい、お願いします!」


 オメガは敬礼のようなポーズをとった。シルフィはにこりと笑ってそのポーズを返す。

 しばらくしてモニターにゼロムの姿が映し出された。


「お前たち、どうやってそっちからこちらに繋げ……」

「ゼロムさん!」


 オメガは言った。


「僕はあなたの真意が知りたいんです!」

「真意……?」


 ゼロムは問い返す。


「はい、あなたはクローネさんが彼を助けに行くことを見越して……あんな命令をしたんじゃあありませんか?」

「え……?」


 シルフィが隣で目を丸くする。


「そこまでお見通しだったか……」


 ゼロムは言った。


「俺の真意は、今のお前と同じだ。カレリアの真意が知りたい。何故、我々に協力したのか……。彼は絶対に我々を裏切らないと保証できるのか……」

「それで……わざと彼を見捨てて、クローネさんに助けに行かせた……と」


 ゼロムは頷く。


「そうだ。俺を責めてもらっても構わない。だが、我々がここで負けては、文字通り世界が滅びるんだ。俺たちは……時に非情とも思われるような決断をくださなくてはならない」

「ゼロムさん……」

「だが安心しろ、オメガ。汚れ仕事を引き受けるのは俺だけだ。お前たちは今まで通り……」

「そんなの、不公平です!」


 オメガは言った。


「ゼロムさんひとりに全部を背負わせるなんて、僕には……」

「オメガ、俺はお前に優しい世界で生きて欲しいんだ」

「だったら、あなたも優しくなってください!」


 オメガは言う。


「他人にばかりそう言って……自分だけ何もしないのはずるいです! そうやって……僕にばっかり『優しい世界』を押し付けて……」

「オメガ……」

「汚れ仕事を引き受けるのは、ただの逃げです! そんなわがまま、僕が許しません!」


 オメガはそう言って通信を切った。その途端に彼は、ふらついて後方の椅子に倒れ込む。


「あぁっ、ちょっと、オメガくん!?」


 シルフィがすかさず助け起こした。


「ごめんなさい。僕、ちょっと無理をしちゃったみたいです……」


 オメガは自分の額に手を当てた。


「あぁもう、お部屋に戻りますよ?」


 シルフィはオメガに肩を貸して立ち上がらせた。


 通信が切れると、ゼロムは自らの艦の艦橋で呟いた。


「ただの逃げ……か」

「言われてしまったな」


 彼の背後から、エリシアが面白そうに声をかける。


「お前は気負いすぎなんだ、ゼロム。もう少し、等身大でやってもいいと思うがな」

「だが俺の命はもう、俺だけのものでは……」

「そういうところだ。お前のそういうところが、逆にみんなを苦しめているんだぞ」


 エリシアは言った。


 一方、ティンダロスの艦橋でも、ミラがウィンダーとアギリに向かい合っていた。


「あんたたちはどうしてゼロムの命令に従ったの!? ゼロムも意味わからないけど、それを何も考えずに実行したあんたたちだって……」

「何も考えていないのは君の方じゃあないのかい? まな板ちゃん」


 アギリが言った。


「僕はちゃんと分かっていたさ……ゼロムはこうなることを見越して……」

「は……?」

「カレリアの真意を知りたかった……。ということだろう」


 ウィンダーがいつもの抑揚のない声で言った。


「それに、僕には彼のことをクローネが自らの意思で助けに行った。それ自体にも意味がある事だと思うんだけどな」

「どういう意味?」

「カレリアといちばん長く行動を共にした僕たちの仲間はクローネだ。彼にとっての僕たちとはそれ即ちクローネに象徴される存在でもある。そのクローネが助けに行くんだ。意味のあることだろう?」

「猫さんが……」


 ミラは呟いた。


「あたしたちは、何をすれば……」

「何もしなくていいんだ……。いいや、彼らのことに、口を出すべきじゃあない。何もしてはいけないんだ」


 アギリは言った。


 カレリア・ウィンチェスターは尋問用の部屋に拘束されていた。以前にミラが拘束されていたのと同じような部屋だ。カレリアの前には、地球防衛軍の軍人や、ブリテン王国軍の軍人たちが並んでいた。


「カレリア・ウィンチェスター。もう一度問う」


 カレリアに向き合って座るブリテン王国の軍人が言った。


「お前は何故我々を裏切り、この世界全体の裏切り者への協力をした……!」

「あなたたちは……みんな騙されている!」


 カレリアは言った。彼の頬には、殴られた時についた痣が黒く浮き上がっている。


「正しいのは彼女たちの方なんだ……。私はただ……世界を救いたい……」

「ふざけるなっ!」


 ブリテン軍人は片手に持っていた木製のステッキでカレリアを殴った。


「そんな言い分が通用するかっ! たったそれだけのことで、お前は自分がこれまで尽くしてきた祖国を裏切るというのか!? お前が大尉にまで上り詰めたのは誰のおかげだと心得る!? 我らが女王陛下様のおかげだぞ! それをお前は……」

「祖国を愛するがゆえ! 祖国を愛するがゆえだ!」


 カレリアは言い返した。


「なんだと?」

「私は祖国を愛するがゆえ、その祖国を滅ぼしかねないものには、断固として……」


 ブリテン軍人がカレリアの頭を掴み、机の上に叩きつけた。鼻の骨が折れる鈍い音が聞こえた。


「このっ! このっ! このっ!」


 軍人はさらにカレリアを机に叩きつける。やがて机の上には血溜まりが現れた。

 軍人はようやくカレリアから手を離した。


「それに……私は……」


 カレリアは机の上に突っ伏したまま微かな声で言った。


「恋をしてしまったのだ……」

「恋……? だと?」

「誰よりも優しく美しい……あの……人に……」


 その時、部屋にひとりの地球防衛軍軍人が飛び込んでくる。


「大変です! 地上部にまたしても敵襲! 機体はおそらくミネルヴァΔ、裏切り者の防衛軍人かと……!」

「なんだと!? すぐに迎撃しろ! いや、我々も出る! この男はもはや、逃げる力も残っていないだろう!」


 男たちはいっせいに部屋を出ていった。

 あとに残ったカレリアは呟いた。


「クロー……ネ……。来ては……いけない……。来てはだめ……なんだ……」


 カレリアはふらつく足取りでゆっくりと立ち上がった。

 後半へ続く!

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