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第2話 邪神の遺産・2

 後半です。

「こちら、クローネ・コペンハーゲン。車内に侵入者を発見しました」


 クローネは左腕のブレスレット型通信機のスイッチを入れて言った。


「し、侵入者!?」


 通信機の向こう側の神威が慌てる。


「神威さん、違います! 僕です! ついてきちゃいました……」

「なんだ……オメガか。クローネ……そこまでされちゃあ仕方がないな。一緒に連れていってやれ、もちろん、危険だと判断したら全力で守ってやれ」

「はい!? 私はオメガくんのお守役か何かですか!?」

「あぁ、実際、弟みたいなもんだろ」

「嫌ですっ、こんな弟!」


 クローネはハンドルを切った。


「うわっ、だ、駄目ですよクローネさん! ちゃんと前を見ないと……」

「違います。わざとです」


 そう言いながらクローネは通信を切った。


「まぁでも、オメガくんが弟なら私はお姉ちゃんで……立場は上という事だから……うーん、百歩譲ればあるいは……」


 その時、車の前方がなにかに乗り上げ、停止した。


「い、いくらなんでも怒りすぎで……」

「違います! 今度は本当に前を見ていませんでした!」

「えぇ……」

「ですが変ですね……地図によると、道はずっと真っ直ぐなはず……」


 クローネはそう言いながら車を降りる、オメガも彼女に続いた。

 車が何に乗り上げたのかはすぐに分かった。道を横切るように、なにか巨大なものが引きずられたような跡がくっきりと残っていたのだ。その跡の両端に盛り上がった土に、車は乗り上げていた。跡の幅は三メートル程もある。


「これは……」


 クローネは呟いた。


「動物……でしょうか?」


 だが、クローネは首を横に振る。


「有り得ません。解剖学的に見ても、こんな跡を残すような形態をした生き物は存在しないはずです。少なくともこの時空には……」

「この時空? それはどういう意味ですか?」


 オメガの質問に、クローネは車に戻りながら答えた。


「オメガくん、『魔獣』という言葉を知っていますか? 何年か前から世界各地に出現するようになった正体不明の異形の怪物たちです。『名状しがたき獣』……と呼んでもいいかもしれません。そういう存在なら、あるいは……」


 オメガはその話を聞きながら、助手席に座った。クローネは車をバックさせた。


「クローネさん、道が塞がれているのに、どうやって村まで……」

「大丈夫です。しっかり掴まっていてください!」


 クローネはそう言うとアクセルを吹かした。さっきよりもスピードを上げ、謎の跡に突っ込んだ車は、そのままそれを乗り越えていった。


「い、意外と乱暴な……」


 車はそのまま閑散とした荒野を走り抜けて、一軒の巨大な屋敷の前に停車した。屋敷の壁は蔦に覆われ、独特な雰囲気を形成している。


「カーター教授は、この屋敷にひとりで住んでいたようです」


 屋敷の木製の扉の前に立ったクローネは言う。そして彼女は、扉のそばのスイッチを押し、ベルを鳴らした。ジリリリリという音が静かな荒野の村に響き渡る。返事はなかった。


「やっぱり……誰もいないみたいですね。教授と連絡がつかないというのは……もうこの屋敷には居ないということなのでしょうか……」


 大方のあらましを先程車の中で聞いていたオメガは呟いた。


「それはまだ分かりませんよ?」


 クローネはそう言って拳銃を取りだし、慣れた手つきで扉の鍵に弾丸を撃ち込む。数発の銃声に驚いて、背後の庭木から鳥の群れが飛び立った。

 それからクローネは扉をゆっくりと押した。軋むような音がして、扉は開いた。建物の内部は薄暗かったが、家具調度品類は綺麗に整えられていた。


「オメガくん、銃の扱い方は……分かりますか?」


 クローネは予備のために用意していたもうひとつの拳銃を取り出してオメガに手渡した。


「え、えっと……引き金を引いたら弾が出るくらいのことは……」

「それは誰でも分かります。……本来なら手分けをして探すべきなのでしょうが、その分だと……一緒に探した方が安全でしょう」


 クローネはオメガを先導して部屋を廻っていった。一階は、書斎や台所、それに居間で構成されていたが、特に異変は感じられなかった。ふたりは少し軋む階段を上がり、二階に移動する。

 階段を上がってすぐのところにある部屋の扉を開けて、ふたりはぎょっとした。そこは、カーター教授の仕事部屋のようだった。窓の外を向いて置いてある机の椅子に、教授が座っている後ろ姿が見えた。


「す、すみません! いらっしゃったなんて……。お返事をなさらないものだから……」


 クローネが咄嗟に礼儀正しく謝った。だが、教授は返事をしない。


「クローネさん……これって……」


 オメガは嫌な予感がして教授に近づき、その椅子にそっと手をかけた。途端、驚いて椅子から手を離した。その衝撃で椅子が転がり、教授の身体が床に投げ出される。彼は喉を深くえぐられて息絶えていた。血の乾き具合から言って、死後数日は経過していそうだ。


「し、死んでいる……」


 オメガは息を飲んだ。


「こ、殺されたのでしょうか……?」


 クローネが上擦る声で言った。


「い、いいえ……」


 オメガはカーター教授の右手を見た。その右手には、血のこびりついた小型のナイフが握られている。


「自殺のようです……」


 オメガは教授の死体を避けながら彼の机に向かった。そこに、なにか手記のようなものが広げてある。遺書だろうか。

 だがそこでクローネが目にも止まらぬ早さで振り返り、部屋の扉口に銃口を向けた。


「え……」


 扉口には、銀色の髪をした少年が立っていた。瞳の色はルビーのような赤色をしている。彼は、銃口を向けられているにも関わらず無表情のままそこに立っていた。

 クローネは、相手が攻撃してくる様子を見せないので、警戒を解き、拳銃を下ろした。


「あなたは……何者ですか? それに、彼が死んだ理由を、知っているのですか?」


 クローネは少年に問うた。


「俺は、ウィンダー・ロズウェル。俺もつい今しがたここにやってきた。よってその男の死を確認したのは、今」


 少年は無感情で抑揚のない声で言った。

 それからオメガの方を見て呟く。


「お前は……」

「オメガくんの、知り合いですか?」

「い、いいえ……」


 オメガは首を横に振った。


「だが俺は知っている。オメガといったな。お前は……軍に入ったのか?」

「は……」

「いいえ! オメガくんは防衛軍に入ったりはしません!」


 オメガが答えるよりも早く、クローネが言った。


「そ、そんなことよりも遺書を読みましょう」

「それもそうですけどこいつは……?」

「いいんですっ! 後です! 後!」


 なんか訳ありっぽい人なのに後に回してしまっていいのだろうか……? オメガは疑問に思うが、クローネと共にカーター教授の手記を覗き込んだ。

 そこには、こう書かれていた。


 *


 七年前、ある探検隊が南極で遭難した際に、これまで人類が文明を築いたことがないと考えられていたかの大陸にて、文明の痕跡、及び謎の古代文字が書かれた石板を発見したことは世間にもある程度知られている事実だと思う。


 我々、ミスカトニック大学の考古学研究会は、その石板の解析を急いだものの、既存の言語にはまったく当てはまらない言語体系により、解読は困難を極めた。だが、我々考古学者が諦めかけた時、思わぬ所で新たなる発見があったのだ。


 二年前のミレニアム戦役の最中、我々人類はついにその生存圏を地球軌道上という限られた範囲ながらも宇宙にまで広げることに成功した。そして、月面への探査に向かったある国の調査隊が、そこで、驚くべき物を発見したのだ。それは、南極で見つかった石板に書かれた文字と、地球のさる古代文明にて使われていた古代文字との対応表、いわゆるロゼッタ・ストーンとも呼べる代物であった。


 私たちはこの石板を元に南極で見つかった石板の方の解読を急いだ。そこに書かれていたのは驚くべき内容だった。


 南極の石板の作成者、そして恐らくは月面の石板の作成者は、地球上の人類ではなかった。それらは、地球外からもたらされた文明によるものだったのだ。


 だが、石板の内容の最も驚くべき点はそこではない。結論から言おう。我々人類が住むこの地球は、はるか昔に、一度滅亡しているのだ。


 今より気の遠くなるような太古の時代、この世界に異星、あるいは異空間より降り立った者たちがいた。地上の者たちは彼らを、そして彼らの眷属を神と崇めた。だが、神々と崇められた異星の民たちはやがて互いに争い、そしてその争いによりほとんどの者たちが死滅していった。地球上の人類を含めた全生命体もそこで滅亡した。


 だが、神々の中にはその戦いを生き延びた者たちも少なからずいた。彼らは異なる時空を繋ぎ合わせ、世界を再び創造し直し、そして地球を去っていった。今現在の歴史に繋がる世界は、ここから始まったのである。また、世界各地の創世神話が似たような内容を述べながらも細部が異なっている点は、恐らく、この世界が異なる時空を繋ぎ合わせて無理やり「再創造」されたものだからなのだろう。


 こうして創造神たちは地球を去ったのだが、一方でかつての戦いで負った傷を癒すために地球に残った神々も存在していた。彼らは今も、地球に生き残り、海底に、地底に、息を潜めながら、時折地上の者たちの精神に干渉しているようだ。


 石板にはこれらの神、いや、邪神と呼ぶべき者たちを復活させる「鍵」も記述されていた。そこで私たちは石板を破壊することにした。触れてはならぬ宇宙の扉を開くには、人類は未だ生命体として未熟すぎるからである。だが、その一方で知識を完全に封印してしまうことは我々の研究者としての本能が許さなかった。我々は絶対に誰もが予想できない分野の物に「鍵」の内容を封印した。まさか誰も、人型機動兵器・RAのプログラムに、四分割されて「鍵」が記録されていると予想はしないだろう。それに、念には念を入れて4機のうち1機は厳重に秘匿されることになったのだから。


 しかし、私はこの事実をこうして手記に書いてしまっている。何故だろうか、完全に秘匿されるべき世界の真実を……。決まっている。奴が、私の精神に鑑賞し、毎夜夢の中で語りかけてきているのだ。深海の邪神が……。あぁ、今夜も眠れば奴が冷たい海底から私に語りかけてくる。私はどうすればいいのだ。どうすればこの深淵から逃れられるのだ……!


 *


 手記はここで終わっていた。オメガとクローネは顔を見合せた。


「にわかには信じられませんが……」

「事実だ」


 クローネの言葉をさえぎって答えたのはウィンダーだった。


「え……?」

「そこに書かれていることは事実だ」

「どうしてそれがお前に……?」

「オメガ、と言ったな。俺はお前を知っている。俺がお前を見たのは2日前、アーカム近郊の地球防衛軍基地だった。俺はハイペリオンミハイルのコックピットに映し出された映像から、お前を……」

「そういう事だったのか!」


 オメガは拳銃をウィンダーに向けた。


「お前たちは何らかの理由で邪神とやらを復活させようとしている! そのためにハイペリオンを奪った! だったら、僕はこの場でお前を……!」

「やめろ、お前には撃てない」


 ウィンダーは落ち着き払って言った。


「僕が聖人か何かだと思っているのか! お前みたいな奴ら……!」

「違う。安全装置だ」

「えっ、あっ、あの……これって……」


 オメガは自分の銃をクローネに見せた。


「こうやって外すんです」


 クローネは慣れた手つきで銃のレバーを下ろす。


「こ、今度こそ!」


 オメガはふたたび銃口を向けようとするがそれをクローネが押さえつけた。


「オメガくん! やめてください!」


 クローネは厳しい口調で言う。


「で、でも……こいつは敵……!」

「だとしてもです! 私たち地球防衛軍は、人を殺すために戦っているんじゃあありません! 人を守るために戦っているんです!」


 それから、少し口調を弛めて続けた。


「オメガくんも……これから防衛軍に入るのなら、それを忘れないでください」


 オメガは銃を下ろした。

 その時、廊下を白っぽい何かが通り過ぎるのが彼の目に映った。


「ウィンダー、仲間も来てるのか?」

「いいや、ここにいる仲間は俺ひとりだ」

「じゃあ……」


 オメガは咄嗟にウィンダーの前を通り過ぎた。


「オメガくん! どこに行くんですか!?」

「まだこの家には何かがいます!」


 クローネの言葉に答えたのとほぼ同時に、オメガは前方から何やら白いものに襲われ、床に仰向けに倒れた。


「うっ、うわっ……!」


 何かがオメガの上にのしかかる。だが、それ以上襲われることも、ましてや食べられることもなかった。いや、それ以前に相手は思ったよりも小さく、軽い。

 それは、ちょうどバスケットボールくらいの大きさだった。白くふわふわとした毛が生えており、背中にはコウモリのような翼が、手足は申し分程度の長さしかない。それが、両の目を大きく開いた。黒くつぶらな、大きな目だった。


「きゅっ、きゅきゅきゅう?」


 そいつは、鳴き声ともさえずり声ともつかない声を上げた。


「なっ、なんだこいつはぁぁぁぁ!?」


 オメガは自分が置かれている新たな状況に思わずそう叫んだ。

 この世界の秘密が眠る場所、そこは南氷洋。

 狂気の大陸への旅路が今、始まる。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『南極へ飛べ』。

 それは、深淵を知るための果てない旅路。

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