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第19話 ケープタウンへようこそ! ・1

ケープタウンへと上陸したオメガ・グリュンタールとアギリ・ランゴーニュ。

彼らは街外れのある教会にて恐怖の体験をする……!

オメガとアギリは、海中を進み、やがて海岸へとたどり着いた。ふたりはそれぞれの機体から降りると、ごつごつとした岩肌に覆われた地面に立った。


「アギリさん! やっぱり小型通信機も駄目みたいです……」


オメガは何度か腕輪型通信機を試しながら言う。


「まったく……あの幽霊船の伝説はデタラメじゃあなかったってか?」


アギリはやれやれと言った。


「あの、アギリさん……これからどうするんですか?」


オメガは尋ねる。


「そうだな……恐らく僕たちを襲撃してきたのはブリテン王国軍の誰かだろう。となるとここは敵地だ。表立った行動は出来ない……。大人しく救援を待つのがいちばんいい方法だろうな……」

「どうしてブリテン王国軍だって分かるんですか?」


オメガが質問する。


「オメガ、お前も少しは頭を使え。相手の立場になればすぐに分かることだぜ? 防衛軍が意味無く近づいた未確認機を攻撃することはない。とすれば、自らの植民地を守ろうとするブリテン王国軍の仕業で間違いないだろう」


そしてアギリは付け加えた。


「それから……多分僕たちの手間はひとつだけ省けたみたいだ」

「ひとつだけ?」

「あぁ、君たちが僕たちと共闘していることが白日のもとに晒されたからね。ブリテン軍が防衛軍に伝え、防衛軍はナイアーラに……」


だが、オメガはそれから先の話を聞いていなかった。海岸の岩場で、ある生き物たちを見つけたのだ。


「あぁっ! アギリさん! 見てください! ペンギンさんですよ! ほら! こんなにいっぱい!」


オメガは海岸にいるペンギン目掛けて姿勢を低くして近づいていく。だが、ペンギンは怒ったような表情をすると、オメガの手をつっついた。


「うわぁっ! 痛いっ!」


オメガは思わず手を引っこめる。彼の手の甲は出血をしていた。


「オメガ、何をやっている?」


アギリの拳がオメガの頭を直撃する。


「うえぇ……みんなして僕のことを……」

「いいから行くぞ。せめて今日の夜を明かせる場所だけでも探すんだ」


アギリは無理やりにオメガを立ち上がらせた。


「でも、アギリさん、僕、怪我しちゃいました……」

「そんくらい大したことないだろう。……まったく、だから僕は君が嫌いなんだ。君といると調子が狂う」


ふたりは海岸近くにある斜面に沿った森の中へと入っていった。森を抜けるのはひと苦労であったが、やがてふたりは、森を抜け、開けた場所に出た。そこは、広い墓場になっていた。向こうには屋根に十字架を乗せた教会が建っている。


「助かった! 今夜はここで明かせるぞ。オメガ……」


アギリはそう言って教会をめざして早足で歩き始める。だが、オメガはその場に立ち止まって周囲を見回していた。


「どうした? まさかお墓が怖いなんて言うんじゃあないだろうな?」


アギリはやや威圧するように言った。


「いえ、ただ……僕たちのことを誰かが見ているような視線を感じたので……」


オメガは首を傾げながら言う。


「まったく、お前は考えすぎだからそう思うんだ。行くぞ、怖がりちゃん」


アギリは少しだけ馬鹿にするような口調で言った。

オメガは無言で頷くと彼について教会へと向かう。

教会は、無人だった。いや、それだけではなく、ステンドグラスは所々にヒビが入り外壁の白い塗装も剥がれかかっていた。

アギリは軋む木の扉を押して教会の中へ入る。整然と並ぶ信徒席の向こう側に祭壇が見える。しかし、打ち捨てられてだいぶ時が経っているようで、至る所に蜘蛛の巣が張っている。


「美しくないな……」


アギリは呟いた。


「そんなことはありませんよ。崩れかけていくようなもの。不完全なものにだって相応の美しさはあるはずです」


オメガは言い返す。


「そうか? 僕には分からない」


アギリはそう言ってから、オメガに命じた。


「いいか? オメガ、君はここで待っていてくれ。僕は……牧師の部屋辺りを見てくる。まだ僕たちが眠れるベッドやクッションが残っているかもしれないだろう?」

「分かりました!」


オメガはシルフィの真似をして敬礼のようなポーズをした。


だが、オメガが信徒席に座って待っていると、しばらくしてアギリが戻ってきた。


「駄目だ、オメガ。ベッドはどれもズタズタ。おまけに虫が湧いてるときた。お前は来なくて正解だったぜ。……やっぱり美しくなさすぎる」

「僕は大丈夫ですよ。最悪ここでも寝られるんで」


オメガは信徒席に横になってみせた。


「残念だが僕はふかふかのベッドでしか眠れないんでね」

「神経質なんですね」

「お前が無神経すぎるんだよ……」


アギリはハァとため息をついた。


「まったく……一緒に遭難したのがウィンダーならどんなに良かったことか……」

「ウィンダーとは、仲がいいんですか?」


オメガが起き上がりながら訊く。アギリは彼の隣に座った。


「いや、ただ、お前と違って話が通じるってだけだ」

「アギリさん……」


と、オメガは言った。


「もしかして、友達いないんですか?」

「ぐぬっ……人の心を抉るような言葉を平然と言うな。お前は……!」

「ははは、図星ですね!」


オメガは少し面白そうに言った。


「当たり前だ。みんな仕事仲間だろう。僕は研究所育ちで周りはみんな敵だったし……」

「僕もそうでした」


オメガは言った。


「でも、僕はスターペンドラゴンのみんなも、それにティンダロスのウィンダーやミラちゃんも、みんな友達だと思ってますよ?」

「だからお前は甘すぎるんだ。仕事仲間と友達は違……」

「真面目なんですね」


オメガは言う。


「はぁ? 僕が?」

「はい、今の話を聞いて、アギリさんがとても真面目な人なんだなと思いました。でも、もうちょっと周りとの壁を取り払ってもいいと思うんです」

「周りとの壁?」

「確かに仕事は仕事かもしれません。でも……その中に友情や楽しみを見出しても、誰も怒らないと思いますよ? 現にアギリさん、既に芸術だけは見つけ出してるじゃあありませんか」

「あれは……」


と、アギリは言い出してやめる。あのことは、僕の心の奥深くにしまい込むと心に決めたんだ……。いいや、こいつの話だと、そういう考えが周囲との壁を作っているということになるのか……? アギリは意を決して口を開いた。


「なぁ、オメガ……。ひとつだけ、僕の話を聞いてくれるか?」

「どうぞ?」


オメガはエメラルド色の瞳をきょとんと見開いて促した。


「僕が研究所で訓練を受けていた頃……周りの人間は全て敵だった。だが、そんな中、たったひとりだけ僕の味方をしてくれる少女がいたんだ……。アイリス、それが彼女の名前だった。彼女は僕たちと違い特殊な能力を有しているらしくてな……。まぁいわゆるエスパーというやつで、遠くのものを透視したり、少し先のことを予知したり、そんな能力だった。その能力のおかげで、彼女だけは過酷な殺し合いを免除されていたんだ。恐らくは彼女の超能力を後々軍事利用してやろうという魂胆だったんだろう」


アギリは続けた。


「僕にとって彼女は、地獄に咲いた一輪の花だった。僕は時間を見つけては、彼女に会いに行っていた。だが、直接話しかけることは出来なかった。僕はこの手で、生き残るためとはいえ大勢の同年代の少年少女を殺してきてしまっている……。そんな僕が無垢な彼女に触れてしまっては……彼女を穢すことになってしまう」


アギリはそっと自分の膝の上に置いた手の甲に目を落とした。


「彼女は芸術が好きだった。特に、旧帝国時代の均整の取れた芸術がな。だから僕はそんな彼女の好きなものに近づくために、少しでも美しくなるよう、戦い方、仕草、そういうものを研究した。でも彼女は僕に見向きもしないうちに……やがて、別の研究所へと移っていってしまった……。僕は彼女を探すためにますます美しいものを好むようになった。今更、見つかるはずもないんだろうけどな」

「そんなことはありませんよ」


オメガは言った。


「まだまだ、希望を捨てるには早すぎると思いますよ。なんだったら、僕もお手伝いしましょうか?」

「いいや、いい。お前は余計にことを荒立てそうだ」

「よく言われます」


オメガはにっこりと笑って答えた。


「この前だって、ダンさんのお部屋を整理してあげようとしたら同じことを……。僕ってそんなにトラブルメーカーに見えます?」

「見えるから言うんだよ……」


オメガは「そんなことないと思うんですけどねぇ……」と呟いた。そして続ける。


「あぁ、でも、アギリさん、僕たちはもうお友達ですね?」

「え?」

「だってほら、今の話、まだ誰にも話してないでしょう? そういう話をするのって、お友達への第一歩だと、僕は思うんです」

「ま、僕はお前が友達だとは思っちゃいないけどな」


アギリは言った。だが、その表情はいつもよりも少しだけ緩んでいた。


───────


スターペンドラゴンの艦橋では、消息を絶ったオメガとアギリの捜索が始まっていた。


「やっぱり……通信は通じないです。多分、海に落ちた時にどこかにぶつけて、携帯用通信機も一緒に壊れちゃったんだと思います」


シルフィが計器類をいじりながら説明した。


「またですか!?」


クローネはシルフィの後ろから計器類を覗き込んで言う。


「まったく……オメガくんには後でお仕置きをしないといけませんね」


クローネは少しだけ状況を楽しんでいるように言った。


「心配はしないんですか?」


シルフィが問う。


「大丈夫ですよ。オメガくんは。今までだっていつも、こっちが心配すればするほど、あっけらかんとした顔で戻ってきたんですから。……でも、今回は少しお迎えに行った方が良さそうですね」

「オメガくんたちが落下した地点の潮流から予想される漂着場所は……」


シルフィは計器をいじって予測を出した。


「この地点ですね。機体の性能や海中を進むスピードも考慮して計算しましたから、ほとんど間違いはないと思います」

「分かりました。行ってきますね!」


クローネは艦橋を出ていこうとするが、そんな彼女をアリアが呼び止めた。


「待て、クローネ、ひとりで行くつもりか?」

「はい……その方が隠密行動もしやすいですし……」

「アギリだって行方不明になっているんだ。向こうの艦のメンバーも連れて行け」

「向こうの艦のメンバーですか……。分かりました!」


クローネは何かいいことを思いついたという表情で言った。


しばらく後、海上にはモーターボートを操縦するクローネと、彼女の背後でむっつりと腕を組んで座り込むミラの姿があった。


「で、どうしてあたしが猫さんと一緒に行かなきゃいけないわけ? あたしひとりでもオメガくんを助けて戻ってこれるのに……」

「そういうわけにはいきませんよ? ミラちゃんは何をしでかすか分かりませんから」


クローネはからかうように言う。ふたりとも潜入調査に近い任務形態のため、私服姿だ。クローネは水色がかったブラウスに紺色のロングスカート。そしてミラは、頭にサングラスをちょこんと乗せ、白いシャツの上に派手な色合いの薄手の上着を羽織り、ベージュ色のホットパンツという格好をしている。


「むぅ、せっかく猫さんを出し抜いてオメガくんをあたしのものにしちゃおうと思ったのにぃ……」


ミラは口をとがらせて言った。


「そういうところですよ」


クローネは言う。


「それにミラちゃん、楽しむ気満々じゃあないですか」


クローネはミラの頭に乗ったサングラスを見た。


「こ、これはオメガくんと一緒にちょっと観光を……と思って……」

「まったく……任務ですからね? 一応これは……」

「とか言いつつ猫さんだって抜け駆けしようと考えてるんでしょ?」

「考えてませんっ! というか、私とオメガくんはそんなんじゃあありませんからねっ!」

「ふーん、じゃ、オメガくんはあたしが貰っちゃ……」

「それは駄目です!」


ミラは面白そうににやにやと笑った。


───────


夜になった。オメガは外が暗くなったのを見計らって信徒席に横になる。彼は礼拝堂の隅から見つけてきたあまり綺麗とはいえない毛布にくるまっていた。だが、アギリは辺りを偵察するようにうろつき、眠ろうとしない。


「アギリさん、眠った方がいいですよ。体力をつけるためにも……」

「いいや、その椅子は固くて眠れやしない。これならやっぱり街の方で宿を借りた方が……」

「ブリテン軍に見つかるからやめた方がいいって話じゃあなかったんですか?」


オメガは言う。


「まぁ、そうなんだが……。いい、オメガ、僕は見張りだ。君は安心して眠っていてくれ」


するとオメガはがばっと起き上がった。


「そういうわけにはいきません。横になるだけでもだいぶ違いますよ。見張りは交代制でいいんじゃあないですか?」

「分かった、そうするよ。僕は君みたいな頑固なやつと口喧嘩をするほど無謀じゃあないんでね」


アギリは言った。

オメガは安心するように毛布にくるまって眠ってしまった。

後半へ続く!

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