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第18話 紫炎の竜・2

 前半の続き!

 オメガとディーナの間にしばらく沈黙が流れた。やがて、オメガが口を開いた。


「ディーナさん、それはどういう意味ですか?」

「お前はあの生物をだいぶ可愛がっているようだが……それはお前がやつの正体を知らないからだ」

「正体……?」

「あぁ、そうだ。やつはお前が思っているような大人しい無害な生物ではない。何故やつが今あのような姿になっているのかは不明だが、本来は……」

「きゅう! きゅう!」


 その時、当の本人のモフ子さんが現れ、会話をさえぎった。


「モフ子さん!」


 オメガは飛んできたモフ子さんを抱きとめる。


「今、モフ子さんの話をしていたところなんだよ?」

「きゅう?」

「ディーナさんが、モフ子さんの正体は……とか言い出して……」

「きゅう……」


 モフ子さんはその黒く丸い眼をディーナの方に向けた。

 ディーナはさっと立ち上がった。そしてモフ子さんを睨みつける。


「お前は……」

「きゅーう!」


 モフ子さんがオメガの腕を飛び出した。そしてディーナの方へ飛んでいく。


「ぐほっ」


 モフ子さんはディーナの腹部に突撃した。そしてそのモフモフの体をディーナに擦り寄せた。


「きゅうっ! きゅうっ!」

「ははは、懐かれちゃいましたね、ディーナさん」

「わ、分かったから……この生物を離してくれ……」


 シルフィがすかさずモフ子さんを引き剥がす。


「駄目ですよ? お姉ちゃんは初対面なんですから、そんなことをしちゃ……」

「その……生き物はいつもそんな感じなのか?」


 ディーナは訊いた。


「はい、いつもこんな感じですよ? イタズラ好きで……僕がお料理をしているといつも絡んできますし、この間なんてクローネさんのスカートの中に……」

「奇妙なものだな……」


 ディーナは言った。


「いや、私が言おうとしたのは、本来、その生物はお前たち人間に懐くようには出来ていないということだ。しかし何事にも例外はある、ということなのだろう。少し驚かせてしまったな、悪かった」


 ディーナは謝った。


「お姉ちゃん」


 シルフィがディーナに呼びかけた。


「これからも、よろしくですね!」


 シルフィは敬礼のようなポーズをとった。


「それじゃ、オメガくん、戻りましょうか! モフ子さんもですよ! 勝手にティンダロスに侵入してイタズラをしちゃ、駄目ですからねっ」


 シルフィはモフ子さんを抱いたまま、オメガと一緒に艦橋を出ていった。

 ふたりと一匹の姿が見えなくなると、ディーナは呟いた。


「誰よりも人間嫌いなはずのお前が、何故そこまで楽しそうに人間と戯れる?」


 翌日、アリアは艦橋に艦のメンバーを集めて、今後の作戦を説明した。


「あたしらはこれより、アマジグ大陸を北上し、カイロへと向かう。そこでシェヘラザード・ギザにことの次第を伝え、協力をとりつける。だが、その前に……」


 と、アリアは一同を見回した。


「地球防衛軍のナイアーラ提督とは袂を分かったということを明確に示さなくてはならない。そこで、あまりやりたくない方法ではあるが……」


 アリアはオメガとクローネの方に目を向けた。


「アマジグ大陸南端、ケープタウンにある地球防衛軍基地を襲撃する」


 オメガとクローネの顔色がさっと変わった。


「待て、お前たちがこのことに難色を示すのは知っていたが……なにも本当に破壊活動をはたらけと言うんじゃあない。あくまでもフリというやつだ。あたしらはもうナイアーラの下では戦えない。だから彼と決別をするため、これは必要なことなんだ……」

「アリアさん……!」


 オメガは言った。だが、クローネは呟くように言った。


「やりましょう……オメガくん……。私だって、本意ではありませんが……でも……」

「覚悟を決めるために、必要なことなんですね……」


 クローネは頷いた。


「でも待ってください!」


 オメガは言った。


「僕のRAは……」

「その事だが……」


 と、アリアは言う。


「オメガはひとまずオメガストライカーで出てくれ。その後にとっておきのプレゼントがある……」

「プレゼント……ですか?」

「ま、それは後でのお楽しみってやつだ」


 アリアはにやりと笑うと言った。


 二隻の戦艦は南極大陸を後にし、アマジグ大陸最南端の街、ケープタウンへと向かった。沖合の海域に停泊すると、オメガとクローネはそれぞれの機体に乗り込んだ。


「いいか……? 今回の作戦はティンダロスとの合同作戦になる。向こうからはアギリが出るらしいから……よろしく言っておくんだぜ?」


 アリアからの通信が入った。


「分かりました!」


 オメガはシルフィを真似て敬礼のようなポーズをとった。


「それじゃあオメガくん、行きますよ?」


 クローネが声をかける。


「は、はいっ!」


 オメガは返事をしてからオメガストライカーのコックピット内にあるレバーを引いた。


「オメガストライカー。オメガ・グリュンタール、翔びます!」


 オメガストライカーのΩ字型の尾翼から水色の魔法粒子が放出され、白い戦闘機は空中に射出される。一面の青い海の向こう側に緑の陸地が見えた。


「ミネルヴァΔ(デルタ)。クローネ・コペンハーゲン、撃ち抜きます!」


 クローネのミネルヴァΔも海上に射出される。しばらくして、スターペンドラゴンの後方にいたティンダロスからもハイペリオンガルーが飛び出してきた。ハイペリオンガルーはオメガとクローネの2機に追いつくと、通信をかけてくる。


「まったく……本当に美しくない作戦だがやむをえまい……。だがそれ以上に気に入らないのは君たちと一緒だという点だね」

「アギリさん……」


 クローネが少し残念そうに呟いた。


「いいや、君はいいんだ。僕はレディには優しいつもりだからね。だが問題は君だ。オメガ・グリュンタール。僕は君を認めていない。正直言って僕は君が嫌いだ。だいたいその天然な性格には無性に腹が立つ」

「それは……ごめん……なさい」


 オメガは謝ったが、心の中ではちっとも謝っていなかった。少しだけ機体を後退させると、レバーについたスイッチを押した。


「なんちゃって、これでもくらえっ!」


 オメガストライカーの両翼から光弾が発射される。


「うおっ、貴様、やったな!?」


 ハイペリオンガルーがその攻撃をかわし、振り向いた。そしてビームクローを展開する。


「美しくない攻撃をしやがって……僕がしつけ直してやる!」


 ハイペリオンガルーはオメガストライカーに突撃していった。オメガストライカーは機体をくるくると旋回させ、ハイペリオンガルーの攻撃をかわす。


「ふたりとも、何をやっているんですか!? やめてください!」


 クローネはすぐさま間に割って入った。


「いいんです! こんな奴、すぐに……」


 オメガが言う。

 だが、そこでアギリが呟いた。


「なんか……天気が……」


 オメガが空を見上げた。さっきまで快晴だった天気が、曇り空になり始め、また、海面はうねり始めた。


「いつの間に……」


 と、オメガは呟いた。


「あの……ふたりとも、どうかされたんですか?」


 クローネがきょとんとして言った。


「どうか……って、天気が……」


 オメガが言うが、クローネは余計に首を傾げた。


「天気は……晴れていますが……」


 クローネは空を見上げた。彼女が見た空は、どこからどう見ても雲ひとつない快晴だった。


「そんなことはありません! いきなり嵐に……!」


 オメガが言った途端、オメガとアギリの視界では大雨が降り始めた。


「アリアさん、こちらの天気は今……」


 クローネは通信をかける。


「え? どっからどう見ても快晴だが?」

「だ、そうです」


 クローネはふたりに言った。


「まったく、喧嘩をしたと思ったら急に結託して私をからかうなんて、どういうつもりですか?」

「で、でも本当に……」


 と、オメガは言った。オメガとアギリの視界では、まだ海は大時化に荒れている。

 そこで、アギリが声を上げた。


「おい、見ろ……! オメガ! 船だ! しかもかなり古い……」

「あっ、あれは……」


 ふたりが見たのは、波間を漂うぼろぼろの木製の帆船だった。船の形式からして、少なくとも十七世紀頃のものに見える。


「船……ですか? 何も見えませんが……」


 クローネは言った。


「で、でも現に……すっごく古い船が波間を漂って……」

「古い船……オメガくん、見てはいけません! 目をつぶってください!」

「え……?」

「多分それは、幽霊船というやつです!」

「幽霊船……?」

「はい、早い話が、大昔に沈んだ船がこの世に残した残留エネルギーが、時たまこうして実体化することがある……と」

「本当に幽霊の船版なんですね……」


 オメガは呟いた。


「なるほど、幽霊ならば納得だ。そっちのレディは霊感というやつがないんだろう」


 アギリが言った。


「クローネさん、ライラさんだけじゃなくて幽霊さんにも振られちゃったんですね……」


 オメガが面白そうに言う。


「オメガくん……うるさいですよ?」


 クローネは通信機越しにオメガを見てにこりと笑った。しかし、目だけは笑っていない。


「ゆ、幽霊より怖い……」


 オメガは呟く。


「でも見ちゃいけないっていうのはどういうことなんだ?」


 アギリが質問した。


「実は幽霊船には、ある恐ろしい伝説があるんです」


 クローネは話し始めた。


「かつて、ここ、アマジグ大陸の最南端を航行する船が嵐に見舞われました。船長はその時、思わず魔が差して神を冒涜する言葉を放ったと……。神はそんな船長に怒り、彼の乗った船を沈めて、永遠に海をさまよわせるという罰を与えたのです。そうやって生まれたのが幽霊船です。そして、その幽霊船を見た者には不吉なことが起こると……」

「不吉な……」

「こと……」


 オメガとアギリはごくりと唾を飲みこんだ。

 その時、クローネが叫んだ。


「オメガくん! アギリくん! 避けてください!」

「え……っ!?」


 気がつくと嵐は収まっていた。いや、この場合嵐の幻影は消えていたと言う方が正しいだろう。代わりにこちらに向けて二発の光弾が飛んでくるところだった。ふたりは避けようとするものの、突然のことにバランスを崩し、海面に叩きつけられた。

 飛行機の海面着陸はかなり難しいと言われている。角度を微妙に間違えただけでも、水圧により機体が大破してしまうのだ。水圧の衝撃を受けるのはRAでも同じであった。勢いよく海面に叩きつけられたオメガストライカーおよびハイペリオンガルーの計器類が悲鳴をあげ始める。非常事態を知らせる赤いランプがコックピット内を染めた。


「くそ……っ、動かない!」


 オメガはモニターの外に映る水泡と飛沫を見ながら言った。


「皆さん!?」


 クローネは海面に落下した二機を見てから、攻撃が飛んできた方向に視線を向けた。

 こちらに向かって迫ってくるのは、紫色のRAだった。背中からは竜のものに似た二枚のウイングが伸びたRAだ。右手にはプラズマライフルを持っている。頭部には、やはり竜に似た二本の角が生えていた。両の眼は黄色く光っている。


「あれは……!」


 クローネが言った。

 紫のRAのコックピットに乗るのは、金色の髪をした少年だった。年齢はクローネと同じくらい。だが、その表情、顔つきはやや大人びている。


「所属不明機、および彼らに何故か追随する地球防衛軍所属と見られる機体を確認した。これより殲滅に入る」


 少年は言った。彼はRAに、プラズマライフルを腰に戻すと代わりにビームセイバーを引き抜かせ、展開した。


「そちらがその気なら、私も……!」


 クローネはミネルヴァΔのビームバイオネットをセイバーモードに変形させ、迎え撃つ。ふたつの黄色い光刃がぶつかり合う。


「すごい剣圧です……! パイロットはかなりの手練……!」


 クローネのところに、相手からの通信が入った。クローネは戦いながらも許可を入れる。


「お前が……その機体のパイロットか……。地球防衛軍所属とみたがそれならば何故敵であるはずの所属不明機と行動を共にしている……?」


 少年は問う。


「それは……」


 クローネは言った。ナイアーラの一件をどう説明すればいいのだろうか。


「答えられないか……ならば私は貴様を敵とみなし、討滅する!」


 相手のRAはビームセイバーを振り上げた。

 クローネはビームバイオネットを構え直して防御体勢に入った。だが、一向に攻撃が加えられない。

 敵のRAは今にもトドメをさそうとする体勢から、いきなりビームセイバーを戻し、背部のウイングから魔法粒子を放射して、ミネルヴァΔから離れた。


「いいや、やめておこう。貴様なんぞいつでも倒せる。それよりも私が撃ち落とした2機の消息が気になる。我が植民地内をスパイされても困る故な。先に奴らを捜索し、危険分子を絶とう」

「あの……ちょっ……」


 クローネは言いかけるが、通信は一方的に切れ、紫色のRAは飛び去っていった。

 まずいことになりました……。クローネは心の中で呟いた。多分、あの人はオメガくんたちを見つけたらただじゃおかないはずです。その前に、私がなんとかしなくては……!

 一方、戦場を離れた紫のRAのパイロットはほっとため息をついた。


「落ち着け、カレリア……上手くいったはずだ……」


 彼は自分の名前を呼び、心を落ち着かせた。


「フッ、恐らく、勘づかれてすらいないだろう」


 そして彼は続けた。


「と同時に……彼女への警告、これは気遣いというやつだ。乙女を守るのが我ら騎士の務め……」


 カレリアは改めて今現在通信が誰とも繋がっていないことを確かめた。


「しっっっっっかしなんなのだ! 不意打ちがすぎるであろう! あの少女は! ひと目見た瞬間に生じたこの感覚! そして声を聞いた瞬間に訪れるこの安らぎ! 私は今、心に決めたっ! 彼女はこの私が守ると! たとえ敵であろうとも構わない! いや、敵だからこそ出来ることがあるはずだ! 私は騎士としての職務を全うするまで!」


 そう高らかに口上してから彼はふたたび呟いた。


「いや、しかし心配だ……。まさか彼女、私のこの心に気づきはしなかっただろうか……? 私が嫌われてしまう……なんてことはないだろうか……? あぁもうどうすればいいのだ私は!」


 カレリアはその場で頭を抱えた。

 海の不吉なうねりはふたりを飲み込む。

 そこで彼らが目にするのは、蘇りし死者たち。

 夜のとばりが下りるとき、恐怖の劇場は幕を開ける。

 生き残るため、彼らは闇を駆ける。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『ケープタウンへようこそ!』。

 人は、この世の頂点にあらず。

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