第17話 ティンダロスの魔女・2
前半の続き!
話し合いは続いた。内容は、実は地球防衛軍もナイアーラの陰謀に巻き込まれているらしいという話に移っていった。
ゼロムはその話を聞いてしばらく考えていたが、やがて言った。
「やはりこの争いは彼ないし彼の所属する謎の組織が黒幕となっている可能性が濃厚だな。してオメガ、君たちの上官は寛容な人物だろうか?」
「はい、間違いありません。アリアさんは、見た目はちょっと海賊みたいで怖いけど、でも、本当はとてもいい人です」
近くの椅子に座らされているディーナがちらりとこちらを見た。
「そうか……ならばそのアリアという者にも共同戦線を提案してみてはどうだろうか? まぁもっとも、君たちふたりは俺たちの話を聞いた瞬間からそのつもりのようだが……」
オメガとクローネは頷いた。
「それからつかぬ事を聞く。オメガ、そっちの黒髪の少女とはどういう関係なのだ?」
「は、はい……?」
「いや……その……だいぶ仲がいいように見えるのだが……」
「えっと……」
「オメガくんは私の大切な仲間です」
オメガが口ごもる中、クローネはきっぱりと答えた。
「そうですよね? オメガくん」
「は、はい……クローネさんは僕の……」
「そうか、まぁいい。だが必ずどちらかを選ぶのだぞ」
ゼロムは言った。
「だからさっきから何の話ですか。ゼロムさんもディーナさんも……」
「で、では……私たちはゼロムさんの指揮のもとに……」
クローネは言いかけるが、ゼロムは首を横に振った。
「残念だが俺は君たちと共に戦闘に参加することは出来ない」
「それは……どうしてだ?」
アギリが訊いた。
「真の敵はあまりにも謎が多すぎる。誰かがその内情を探らなくてはならないだろう? 幸いにしてこの回線は上層部には知られていない。ミラ・セイラムは我々から逃げたということにしておこう。……俺はしばらくの間はこうして君たちと距離をとりながら『観測者』もとい、ナイアーラの情報を探ろうと思う。なにしろ彼の本来の本拠地がどこなのかも分からない状況だからな」
「では……」
と、ミラに寄り添われ椅子に座ったディーナが言った。
「これからの作戦としては、我々ティンダロスはスターペンドラゴンと協力し、その……なんだ。今現在シェヘラザード・ギザが居住しているカイロへと向かう。ということでいいんだな?」
「その通りだ。では俺は一度ここで失礼するよ。あまりにも長話をしていると上層部に勘づかれる可能性も否定できない」
「分かった。健闘を祈る」
ディーナが言い、ゼロムとの通信は切れた。
「んーと、待って……ってことは……」
通信が終わるとミラが言った。
「オメガくんとあたしは公式に共闘出来るってこと!? あぁもう最高! 今日は記念日にしておこうっと!」
そして今にもオメガに飛びかからん勢いで立ち上がったため、クローネがオメガとのさりげなく間に立った。
「さて、オメガくん、そろそろ戻りましょうか。えぇっと……」
「私が案内しよう」
ディーナは言った。ウィンダーとアギリもそれに続こうとするが、ディーナは待ったをかける。
「いいや、こいつらはもう仲間だ。監視はそんなに必要ない」
ふたりは艦橋から廊下に出る。しばらく歩いていると、やがてオメガが言った。
「あの……ディーナさん。久しぶりに会いたい方がいるんですけど……」
「会いたい方? そうか……あいつだな」
ディーナは答える。
「あの……それは……誰で……」
「クローネさんには言わないようにって口止めされているんです」
オメガは言った。
「分かった、行ってこい。多分、この先を曲がったところにある倉庫に隠れているはずだ」
「分かりました!」
オメガはディーナの隣をすり抜けて足を引きずりながら早足で歩いた。
「いいんですか? オメガくん、ディーナさんの目を離れて……」
「構わない。あの脚じゃあ何も出来ないだろう?」
ディーナは言った。
*
フローラ・リヨンは薄暗い倉庫の木箱の上で、ひとり、うずくまっていた。
「このフローラ・リヨン、一生の不覚ですわ……」
フローラはため息をついた。
「確かにわたくしは魔女としての勘でミラちゃんの背後の組織には何かがあると考え、ここに潜入しましたわ。それで、彼女たち三人の指揮官がディーナ・オルレアンであることを突き止めて、かつての仲間の姉であるディーナの目を覚ますためにあれやこれやと……。ですけど、こんなに早く和解します!? はぁ、もう少し間を置いて去ればかつての仲間に出会うこともなかったというのに……。ここは南極、勝手に船を抜け出すことも出来ませんし、完全に詰みましたわ……」
その時、倉庫の入口の自動扉が開いて閉まる音がした。そして、部屋の中を歩く足音が聞こえる。
フローラは何者かは分からないが見つかってはまずいということでますます息を殺した。ディーナならば合言葉を決めているはずだ。確か「コンビーフ」と。
「フローラさん! いるんですよね!?」
それは、紛うことなきオメガ・グリュンタールの声だった。
フローラはちらりと顔を上げて、小声で言った。
「オメガくん……ですの?」
「あっ、フローラさん! 良かった……。僕はちょっとあなたに文句があるんですよ?」
オメガはフローラの姿を見つけて、荷物を掻き分けながら寄ってきた。
「なんですの?」
フローラは尋ねる。
「一体全体フローラさんのことをいつまで黙っていればいいんですか!? おかげで多分みんなの中ではフローラさんはいつまでも行方不明のまま、きっと内心心配してますよ! クローネさんなんて特に。クローネさんは変な人ですけど本当は優しいんですから」
それを聞いてフローラは笑いだした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!? クローネが変人? あはははははははは、最高! 傑作ですわ! ……あぁでも、駄目ですわ。わたくしの存在は一生黙っていてくださいまし。わたくし、この船が南極を脱してどこかに寄港したらその段階で人知れずいなくなって……」
「どうしてですか! どうしてそんなに仲間から隠れようとするんですか! フローラさんは……こんなにいい人なのに」
するとフローラは首を横に振った。
「わたくしはいい人ではありませんわ。その証拠にいつかオメガくんが乗るフェリーを攻撃しろと命じたのはこのわたくしですもの」
「でも……それはミラちゃんを助けるために、攻撃自体本気ではありませんでしたし……」
「それともうひとつ、わたくしがこの艦に乗っていたなんてみんなが知ったら、きっとわたくしのことを裏切り者だと……」
「そんなことはありません」
オメガはきっぱりと言った。
「クローネさんもシルフィさんもダンさんも、そんなことを思うような人じゃあありません。ですから、そろそろ区切りをつけて……」
「はぁ……」
フローラはため息をついた。
「あなたには本当の事を言わないと駄目なようですわね」
「本当の事?」
オメガは訊いた。
「そう、今までのことはあくまでも建前。本当はわたくし、とっても悪役気質ですのよ?」
「はい?」
「ですから、こうして表に出ないで色々と暗躍の真似事をするのがとっても……」
「そ、そんなくだらない理由で……」
「くだらなくはありませんわ! わたくしは悪役! 悪の女王! 悪い魔女さんですのよ!」
フローラは得意げに木箱の上に立ち上がって言った。
「そうは見えないけどなぁ……」
オメガは呟く。
「なんだかんだでみんなのことを助けてくれるし……」
「そ、それはまぁ成り行きで……」
フローラの視線が泳いだ。
オメガはフローラの腕を掴んだ。
「な、何をするんですの!?」
「いいですか! 僕は死んでもあなたを連れていきますよ! クローネさんに挨拶させます! クローネさんの心の心配を取り除いてあげるために!」
オメガはフローラを無理やり引っ張ると連れていこうとする。
「くっ……さ、触らないでくださいまし! 変態!」
「いい歳をして悪役ごっこをする方が変態でしょう!」
「うるさいですわね! わたくしはまだ十八ですのよ!」
「いや、十八歳でも悪役ごっこはちょっと……」
その時だった。フローラがバランスを崩し、木箱が倒れる。そして周りの荷物も皆ドミノ倒しのように崩れていった。
「え?」
「う、うわわわわわわ」
オメガは後方に倒れ、フローラがその上にのしかかる体勢になる。さらに荷物が轟音をたてて周りに落ちてきた。
すぐさま廊下を走ってくる音がして、扉が開く。クローネが現れた。
「あっ、クローネさん!」
オメガは倒れたままの体勢で言う。
「オメガくん! 大丈夫ですか!? すごい音がしたので……って、フローラさん!?」
クローネが目を見開いた。
「あ……あはは……お久しぶり……ですわ」
フローラがバツの悪そうに言う。
クローネはしばらく驚いた顔をしていたが、やがてフローラの体制を見て彼女をキッと見据えた。
「フローラさん……いくらフローラさんでもそれは許されませんよ?」
フローラはちょうどオメガにのしかかる体勢になっている。
「お、落ち着いてくださいまし……これは事故のようなものですわ。それにわたくしはあなたのかつての上官……」
「『かつての』ですよね?」
クローネはオメガが見たこともないような氷の笑顔を浮かべて言った。
「今は違うはずです」
フローラはさっとオメガから離れた。
クローネはどこから取り出したのか紙と画用紙を持ってペンで何やら書き加え始めた。
「え、えっと……何をしているんですの?」
「フローラさんにはスターペンドラゴンに来てもらいます。その際にはこれを首からかけていてください」
画用紙には「私は、オメガくんを押し倒して襲いかかりました」という文が書かれていた。
「あ、あの……クローネさん……」
オメガが遠慮がちに手を挙げた。
「オメガくん、大丈夫でしたか……?」
クローネがオメガを庇うようにフローラとの間に立ち尋ねる。
「大丈夫ですし、本当にそんなんじゃあないんです。フローラさんの言う通りこれは本当に事故で……」
「え……あ……そ……」
クローネはオメガとフローラとを見比べた。そしてだんだんと顔を赤らめていく。
「そ、それは本当に申し訳ありませんっ!」
クローネは頭を下げた。
「か、かつての上官にこんなことを……っ!」
「はぁ、まったく、いいんですのよ」
フローラは言った。
「クローネ、わたくしが見ていない間にすっかり大きくなりましたわね」
まるで親戚のおばさんのようなトーンだ。
「え……」
「前はいつもオドオドしていて、誰かのためにそんなに怒ったりなんてできる人ではありませんでしたわ」
それからクローネの表情を見て続けた。
「前よりも活き活きしていますわね。その顔も」
「あ、あの……でも……フローラさんは海で船が沈んで行方不明に……」
「クローネさん、それは……」
オメガは説明した。フローラと出会った時のことを、そして、彼女がひとり隠れてこの組織のため、ディーナのために奔走していたことを。
「そうだったんですね……」
クローネは言った。
「それは軽率なことをしました。フローラさんの考えも聞かずにスターペンドラゴンに連れていこうなんて……」
「いいえ、いいんですのよ。わたくしもあなたに会えて決心がつきましたわ。スターペンドラゴンにて昔の仲間の顔でもなんでも拝んでやりますわよ」
フローラはそう言うとオメガとクローネの背中を押して倉庫を出た。彼女はちょうど倉庫の前に来ていたディーナに言った。
「と、言うわけでディーナ、あなたはもうひとりでやっていけますわね。フローラ・リヨン。ただいまよりスターペンドラゴンに移籍いたしますわ」
*
ゼロム・グリュンタールは艦橋にて、ティンダロスとの通信を切ると、隣に座るエリシアに言った。
「エリシア、オメガの監視はもう必要ないだろう」
「ゼロム……?」
「今回少しだけだが実際に言葉を交わしてみて分かったことがある。オメガ・グリュンタールはもう、ひとりで立って歩ける立派な男だ」
そう言ってから付け加えた。
「いや、ひとりで立って歩ける……というのはこの場合不適格か? 少なくとも肉体的には怪我をしていて歩いているのがとても辛そうだった」
「そんなことはどうでもいいだろう……」
エリシアはため息をついた。
「だが私は安心しているぞ。ようやくゼロムのストーカー紛いの行動が終わったのだからな」
「お前は俺の事をなんだと思っているのだ……?」
「父親気取りのただのストーカーだろ? おまけにロリコンの」
エリシアは少しいたずらっぽく笑って言った。
運命はそこで巡り合う。
天を斬り裂く龍は、少女をいずこへといざなうのか。
暗黒の大陸にて、少年たちは新たな脅威と相対する。
運命は波間にあざ笑うか。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『紫炎の竜』。
恋、それは罪なる名。




