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第17話 ティンダロスの魔女・1

 スターペンドラゴンとティンダロスの衝突を止めるため、ミラ・セイラムは急ぐ。

 そして、仲間たちに世界の真実を伝えるために……!

 スターペンドラゴンは氷山が浮かぶ海にて、敵の黒い戦艦と二機のRA(ライドアーマー)を相手取り戦闘をしていた。


「すぐにミラがやってくる! そこまでなんとか持ちこたえるんだ!」


 アリアは言った。


「了解しました!」


 砲撃主が言い、スターペンドラゴンの砲塔が光弾を発射した。弾幕は敵を一切寄せ付けない。


「駄目だ……これじゃあ近づけない」


 いつもの無表情な声でウィンダーが言った。


「ちっ……美しくない……。死にものぐるいになるなんてよォ!」


 アギリはバーニアを吹かし戦艦に無理やり突撃していこうとする。


「待て、お前らしくない」


 そんなハイペリオンガルーの肩をハイペリオンミハイルが掴んだ。


「何をそんなに焦っている……?」

「僕たちは仲間がひとり減ったんだ……! だから、それを補うのが僕の役目ってやつだろう! 美しさの欠片もないかもしれないけど……でも!」

「それは良くない」


 ウィンダーは言った。


「ウィンダー?」

「お前まで失ったら俺はひとりになる。それにミラは生きている。生きて、彼女なりの場所で戦っている。……分け合おう」

「は……?」

「彼女の分も、俺たちが分け合おう」


 ハイペリオンミハイルは背部のプラズマビットを分離させ、空中に展開し、いくつもの光線を放った。スターペンドラゴンのいくつかの砲塔が破壊される。


「ほ、砲塔! やられました! 損傷箇所は五つ!」


 砲撃主に混ざって砲塔の操作をおこなっていたシルフィが叫んだ。


「構うな! たかが砲塔五つがやられただけだ! 他のは残っているだろう! 弾幕! 最大限に撃ち込め!」


 アリアが命じる。


「くっ……これじゃあ近づけない……!」


 アギリは言った。

 その時、戦場にもう一機のRAが現れる。ハイペリオンシュヴァリエだ。


「ミラ……」


 ウィンダーが呟いた。


「ん? んえ、まな板ちゃん!」


 アギリが驚いてそちらの方を見た。


「来てくれたか……」


 アリアが呟いた。


「あんたたち、そこまで!」


 ミラからの通信がウィンダーとアギリに入る。


「まな板ちゃん……どうして……」


 アギリが呟いた。


「あぁん? 誰がまな板だぁ? てめぇ、聞こえてるぞ!」


 ミラは通信用モニターを睨みつける。

 ハイペリオンシュヴァリエにディーナからの通信が入った。


「どういうことだ……? それに……後ろには地球防衛軍の者たちまで……」

「話せば長いんだけど……」


 と、ミラは切り出した。


「だから、一旦ティンダロスに戻っていい?」

「構わない。だが……」


 ディーナはミラの後ろにいるふたりに目を向けた。


「この人たちなら大丈夫だよ。そうだよね? オメガくん、猫さん」


 オメガとクローネは頷いた。


「そ、そうか……ミラがそう言うのなら構わないが……」


 ミラの登場を目にしてスターペンドラゴンも攻撃をやめていた。ハイペリオンシュヴァリエは氷山が浮かぶ海上に存在している黒い戦艦、ティンダロスに向けて機体を降下させた。


「アギリ……」


 ウィンダーはアギリに目配せをする。


「分かってる……あいつらが艦の中でなにか不審なことをしないように見張るんだろ?」

「そうだ」


 ハイペリオンミハイルとハイペリオンガルーもティンダロスの格納庫へと向かう。


 オメガとクローネはミラの手引きでティンダロスの格納庫に降り立った。どこの戦艦の格納庫も見た目はあまり変わらないな……とオメガは思った。三人はハイペリオンシュヴァリエのコックピットから下がったワイヤーを伝い格納庫の床面へ着地する。深緑色の金属のプレートにおおわれた床面だ。


「オメガくん、支えましょうか?」


 まだ脚の痛みが収まらず、歩くのが大変そうなオメガに対してクローネは言った。


「あぁっ! この泥棒猫! オメガくんはあたしが支えるの!」


 ミラはすぐにふたりの間に割り込んだ。


「大丈夫、もう歩けると思うよ……」


 オメガは自らの脚を確認しながら言った。この分なら引きずりながらでも一応は歩けそうだ。

 三人が降り立つとすぐに、ハイペリオンミハイルとハイペリオンガルーもやって来た。ウィンダーとミラのふたりも格納庫に降り、三人の方に歩いてきた。


「久しぶりだな、オメガ……クローネ」


 ウィンダーは相変わらず無感情な声ながらもそう挨拶をした。


「そうだね、こっちこそ」


 オメガはウィンダーに手を振る。クローネは軽く会釈をした。


「……と、ウィンダーは言ってるが僕は君たちを信用したわけじゃあない。気安く話しかけ……」

「えぇっと、君は確か……ミラちゃんが言ってたワカメくんだね!」


 オメガは無邪気な笑顔を浮かべて言った。


「おい、まな板ちゃん……お前こいつに僕のことをなんて教えたんだ?」

「別に? いつもあたしのことをいじめてくる仕返しをしただけだけど?」

「いじめてはいない」


 アギリは否定する。


「そうだな……」


 と、ウィンダーも言った。


「ミラがいなくなっていちばん狼狽していたのはアギリだ」

「はぁ!? なにそれ、気持ち悪っ」


 ミラはあからさまに嫌な顔をする。


「うるさいね。僕は君がいなくなったら組織的に大きな損失になるから心配をしていただけだ」


 アギリの目が動揺する。


「おふたりとも、すごく仲良しですね」


 クローネが面白そうに言った。


「「仲良くはない!」」


 ふたりが声を揃えて言い返す。

 その時、格納庫にディーナが現れた。彼女は黒い戦闘服を身にまとった兵士たちを数名護衛につけている。


「待たせたな。そしてオメガ、クローネ、ようこそ我が艦へ……」


 それからディーナはミラに向き直った。


「……で、話っていうのは?」

「あたしたちは……みんな騙されていたの」


 ミラは言った。


「騙されていた……?」

「そう、『観測者』はルルイエ神聖教団が邪神様を復活させるのを阻止するために設立された組織のはずだった……。でも……」


 ミラはここで言葉を切った。この先の言葉を発するには、それ相応の覚悟がいるようだ。だが、すぐに意を決して話を続けた。


「その組織の上層部にいたのは、ナイアーラ・ブリストルだった。いつも指揮官にモニター越しに命令をしてきて、偉ぶっている……」

「待ってください! それはあり得ません!」


 声を上げたのはクローネだった。オメガもその声に同意をするという表情をしている。


「クローネ……?」


 ディーナは驚いてそちらの方に仮面を向けた。


「なぜお前がここで否定をする」

「なぜって……それは……ナイアーラさんは私たちが所属するアーカム基地の提督でもあるからです!」

「なんだって……?」


 ディーナは言い、ミラは愕然とした表情になった。ウィンダーとアギリは顔を見合わせる。


「やっぱり……」


 と、ミラは言った。


「あたしたちのこの戦いは茶番だったんだ……。目的は分からないけど、その裏では同じ人物が糸を引いている……」

「ミラ」


 と、ディーナは言った。


「お前を疑うわけではないが……その話はにわかには信じ難い。そもそも三つ巴の戦いをさせてナイアーラに何か利点があるのだろうか……。例えばレンヌ財団のような者たちならば戦争により儲けるという利点がある。しかし私の考える限りでは彼がそのような企業に属している可能性は低い。仮に有名な企業のエージェントだった場合、既に顔が割れているため、私たちや『観測者』はともかくとして地球防衛軍などに所属していてはすぐに正体がバレてしまうだろう」

「でも指揮官! 実際に……!」


 ミラが訴えるように言った。


「分かっている。私は『信じ難い』とは言ったが『信じない』とは言わなかったはずだ」

「指揮官……」


 ミラがディーナを見上げた。


「お前は少し気が短いところはあるが、それでも信頼に値する私の部下だ。お前の新しい上官と話がしたい。いいだろうか?」

「いいよ……繋がるかは分からないけど」

「いいや、繋がるはずだ。お前をここに寄越したのは私を信頼させるためだろう。ならば次は指揮官同士で話し合いをするのがものの順序というもの」

「すごい観察眼だね、指揮官」


 ミラは言った。


「私とて伊達にここの指揮官をやっていたわけではないからな」


 ディーナは答える。

 それからオメガとクローネの方を見て言った。


「オメガ、クローネ、お前たちも来てくれ」

「僕たちも……ですか?」

「あぁ、お前たちは敵だが……それでも妹の仲間ならば信頼に値する人物だろう。今は緊急事態だ。なるべく多くの頭が欲しい」


 ディーナはそう言うと兵士たちを伴って歩き始めた。ミラ、オメガ、クローネ、ウィンダー、アギリもそんなディーナに続いた。


 やがて、一同はティンダロスの環境にたどり着く。スターペンドラゴンよりも面積は狭く、薄暗い環境だった。だが、計器類にオペレーターや砲撃手たちが向き合っている光景はスターペンドラゴンと何ら変わりはない。


「ミラ、お前たちの指揮官への通信コードを入力しておいてくれ」

「了解っ」


 ミラはピースサインで返事をすると計器類の方に駈けていった。


「オメガ……グリュンタールか」


 ディーナは言った。


「お前の話はミラから聞いている。そして同時にウィンダーからもな。お前は結局どっちを選ぶのだ?」

「はい?」


 ディーナの視線がミラとクローネを行ったり来たりするような気がした。


「その……あれだ」

「あれ……ってなんですか?」


 オメガは首を傾げる。


「いいや、なんでもない。だがどっちつかずは両方を傷つけることになるぞ」


 ディーナは少しからかうような調子で言った。


「ディーナさん」


 オメガは言った。


「あなたはやっぱり、シルフィさんのお姉さんだ」

「それは……どういう意味だ?」

「いえ、なんでもないです。ただ……」


 と、オメガは続ける。


「ちょっと似ているな……と、そう思って……。やっぱり、僕たちの味方にはなってくれないんですよね」


 ディーナは答えなかった。

 しばらくして、モニターにゼロムの姿が映し出された。


「ゼロムさん……」


 オメガは思わず呟く。


 *


 リオデジャネイロの軍港から一隻の戦艦が出航した。表面の装甲の色は赤と金、ローマ連邦の国旗のカラーをしている。

 艦橋も、豪華なものだった。艦長が座るべき椅子は、玉座のようだ。さらに床には赤いカーペットが敷かれ、部屋の細部には金色の装飾が作られている。

 だが、艦長のための椅子に座るのはその豪華な場には似つかわしくない小柄な女だった。髪色は赤く、ふたつ結びにしている。だが、玉座にちょこんと座る姿は、どこか「なぜ私がこの場に……」という心の声を醸し出していた。


「レイカ艦長」


 と、前方のモニターに映るのはライラックの姿だった。


「首尾よく頼むよ。君が運んでいる荷物は僕たちの希望となるかもしれない代物だ」

「は、はいっ、総督! レイカ・パレルモ、頑張らせていただきますっ!」


 レイカは姿勢を正して立ち上がり、敬礼をする。


「ははは、そんなに気張らなくてもいいよ。君は立派な艦長さんだ。しかも君が今から合流する相手はアリア・グラスゴー。かつての師のような間柄だろう?」


「はっ、ですから失敗は許されません!」


 レイカは言う。


「やれやれ、そうかい。君は失敗をするような人間には見えないけどね」


 ライラックはにこにこと笑って通信を切った。


「はぁ、やっぱり私には荷が重すぎます……」


 レイカはため息をついた。


 *


 モニターに映ったゼロムは続けた。


「俺は……ここにいる者たちにふたつの提案を出そうと思う。ひとつは、何もなかったことにしてこれまで通り戦いを続けるか……。もうひとつは、我々で共同戦線を張り、この世界に隠されている陰謀を暴くか」

「共同戦線……か」


 ディーナは呟いた。


「だがそうなれば我々は孤立無援となるぞ。恐らく組織のさらに上層部からは我々は討伐対象となる。そうなれば……」

「では、見なかったことにする……か」


 ゼロムは言った。


「いいや……」


 ディーナは首を横に振った。


「確かに、かつての私ならばそうしていたことだろう。私には記憶が無い。だからそれ故に上層部からの命令に従って動くのみだった。しかし、今の私には妹がいる。かつての私を知る存在がいる。その妹に情けない姿は見せられない」

「では……」

「私は後者を選ぼう。たとえ死んでもな」

「待ってください!」


 だがここでオメガが待ったをかけたのだ。


「オメガ……?」

「オメガくん……?」


 ゼロムとクローネが驚いて言い、ミラも同様に彼の方を見た。


「たとえ死んでもというあなたの考えには賛成できません。ディーナさん。もしここであなたが死んだのなら、シルフィさんが悲しみます。ですから、訂正してください」

「オメガ……お前は……」


 ディーナが言う。


「必ず、全員で生きてこの世界の秘密を暴きましょう」


 オメガはゼロムの方に向かって言った。


「どんなに絶望的な状況でも、なにか策はあるはずです。というか、もう考えていますよね? ゼロムさんならきっと」


 ゼロムに全幅の信頼を寄せるオメガを見て、クローネは思った。そうですね……ゼロムさんはオメガくんのお父さんのような存在です。オメガくんが言うのなら、きっともう彼は策を……。


「ある存在を大将に添えれば我々の部隊の士気は高まり、また、仲間として合流してくれる存在も多く現れるだろう」


 ゼロムはオメガの言葉を受けて言った。


「誰なんですか? それは」


 オメガは問う。

 ゼロムは答えた。


「シェヘラザード・ギザ。地球防衛軍の前総監にして、アラビア帝国皇帝、シャフリヤール6世の姉だ。ミレニアム戦役の折も、彼女の呼び掛けにより各国の軍が集まり地球の危機を救ったという。彼女を見方につけられれば、或いは……」

「そうか……シェヘラザード……」


 ディーナは呟く。そして、こめかみをおさえて一瞬ふらついた。


「ディーナさん!?」


 クローネがすかさずディーナを支えた。


「どうされたのですか!?」

「いいや、すまない……彼女の名前になにか懐かしさを感じてな……。それだけだ」


 ディーナは答えた。

 後編へ続く!

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