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第2話 邪神の遺産・1

 アーカムの街に暮らすオメガ・グリュンタールは、三機のRAによる地球防衛軍基地襲撃事件に巻き込まれた!

 友人のクローネ・コペンハーゲンを助けるため、自らと同じ名を冠す機体、ハイペリオンオメガに乗り込んだオメガだったが……?

 オメガは、ハイペリオンオメガを降りると、神威かむいによって地球防衛軍基地内のある部屋に通された。そこは、白い壁に囲まれた小さな部屋だった。机を挟んで椅子が置いてある様は、さながらまるで警察の取調室のような印象を与えてくる。


「オメガ……といったな、一から説明してもらおうか」


 神威は、オメガを椅子に座らせ、自分はその向かい側に座りながら言った。


「はい、えっと……」


 オメガは話した。自分とクローネが友人であること、そして今日、水筒を返してもらうために基地に戻った彼女を追い、戦闘に巻き込まれてしまったこと。だが、自分がかつてプロメテウス研究所というところで兵器として造られた人造人間だということは、黙っておいた。神威さんは信用できそうだが、それでも、初対面の人にあの事を話すのはとても気が引ける。

 だが、神威は彼が何かを隠していることをすぐに察知した。


「オメガ、隠し事は良くないぜ」

「隠し事……ですか?」

「あぁ、なにか事情があるのかもしれないが、こういう場ではやましいこと以外は包み隠さず話すべきだと俺は思う。……それに、お前は俺たちの秘密兵器を知っちまったんだ。それなのに自分の秘密を隠すのは、フェアじゃあないぜ」

「分かりました……話します……」


 オメガは慎重に言葉を選びながら話し始めた。


「僕は……実は人間じゃあないんです。プロメテウス研究所で兵器として研究され、造り出された人造人間なんです。ですから、初めてでもRA(ライドアーマー)を操縦出来ましたし……それに、他の人にはない特別な治癒能力も持っています」

「治癒能力?」

「はい、怪我をした相手の傷を、瞬時に治すことが出来るんです。もっとも……死んでしまった相手や、自分の怪我には通用しませんが」

「なるほどなぁ」


 神威はひとり合点がいったように呟いた。


「道理で、あのクローネ、傷ひとつ負っていないのに気を失っていたわけか」

「そうなりますね……」


 オメガは答えた。


「よし、分かった。もう帰ってもいいぜ。時間を取らせて悪かったな」

「え、いいんですか!?」


 オメガは驚いて目を丸くする。


「あぁ、上層部はなんと言うか知らないが、俺はお前を信頼に足る人間だと判断した……。それにハイペリオンオメガはもう戦場に出ちまっているんだ。これ以上隠し通すことも出来ないだろう」

「あの……」


 と、オメガは言う。


「ハイペリオン……って、なんなんですか? いや、RAのシリーズ名のひとつだっていうことは分かりましたけど、でも、なんで謎の敵によって奪われてしまったのでしょうか。それに……敵の正体は……? あの、黒いRAは敵なのでしょうか?」

「オメガ」


 と、神威は言った。


「敵や、黒いRAの正体については俺は知らん。だが悪いことは言わん。好奇心は猫をも殺すって言うだろう? これ以上余計なことに首を突っ込むのはやめておけ、後戻りは出来なくなるぞ」

「すみません……」


 オメガは頭を下げると立ち上がった。

 部屋の扉に手をかけた時、神威が最後に声をかけてくる。




「医療棟の四〇八号室だ」

「はい?」

「クローネの居場所だよ。会ってやってくれないか? こんな事があったんだ。俺たちもしばらく忙しくなるし……なかなか会えなくなるだろうからな」

「分かりました! ありがとうございます!」


 オメガは扉を開けると廊下を飛び出して行った。


 医療棟の四〇八号室は比較的すぐに分かった。やはり地球防衛軍基地は世界中から多くの国の人が訪れる場所とあって、案内表示はしっかりとしている。オメガは受付にて少し待たされたが、すぐに408号室に通された。

 オメガはさっき取り調べを受けた建物よりもだいぶ有機的なデザインの廊下を歩き、木製の扉をノックする。扉には408のプレートが下がっている。その下には「Krone København」のネームプレートも取り付けられていた。北欧圏の昔の言葉の綴りはよく分からないが、クローネさんの名前が刻まれていることはオメガにもなんとなく理解出来た。

 オメガはそっと扉をノックした。


「どうぞ……」


 クローネの落ち着いた、そしてどこか優しげな声が聞こえる。

 オメガは少し安心感を覚えて、扉を開けた。


「あぁ、オメガくんですか……」


 クローネは言った。彼女は、ベッドの上に上体を起こし、本を読んでいるところだった。黒い細いフレームの眼鏡をかけているのを見て、オメガは彼女が確か軽度の遠視だったことを思い出した。


「そ、その残念そうな物言いはなんですか……」


 オメガは言い返す。


「気のせいです」


 クローネはこちらを少しだけからかうようなほほ笑みを浮かべて言った。


「ま、まぁ元気そうでよかったです」

「オメガくんこそ、神威さんから聞きましたよ? 戦ったんですってね」


 クローネは本を閉じて眼鏡を外した。


「えぇ、まぁ、一応……」

「見てみたかったです」


 今度は、からかいでもなんでもなく、本気なのだろう。一年くらい続く付き合いの中で、オメガは彼女の表情をだいぶ読み取れるようになっていた。


「僕だって、クローネさんがRAに乗って戦うところは見たことありませんし、お互い様ですよ」

「そうかもしれませんね」


 それからクローネは窓辺に置いてあった水筒を手に取り、オメガに向かって放り投げた。オメガはそれを受け止めた。


「ごめんなさい。返すのを忘れていて……」

「い、いえ、そんなことは……」


 何しろあの時基地に向かったのはクローネさんのせいではなく僕の勝手な判断のせいだ。我ながら、ついついやってしまいがちな短絡的な思考が嫌になってくる。


「でも、暇ですね。オメガくんのお陰で」

「はい?」

「だって、オメガくんが怪我を全部治してくれたお陰で、どこも悪くないのに入院ですよ? 『傷はないのにバイタルだけは死にかけの状態から生還した人みたいだ』って、さっきから検査に次ぐ検査ばっかりで嫌になっちゃいます」

「それは……すみません……」


 オメガは謝るが、クローネは首を横に振った。


「違います。私は感謝してるんです。オメガくんが助けてくれなかったら、私は今頃お父さんやお母さんのいる天国に……」


 あぁ、確か……クローネさんのご両親はもうこの世の人じゃあないんだっけか。代々軍人の家系だったということは聞いているが、それ以上のことをオメガは知らない。


「あの……クローネさん」


 と、オメガはそこで別の話を切り出した。


「あの……ハイペリオンシリーズの事なんですけど……」

「なんですか?」

「どうして、敵があの三機を狙っているのか……僕にはやっぱり気になってしまって……神威さんには『好奇心は猫をも殺す』って言われたんですけど……」

「そうですか……」


 クローネはやや考え込むような表情をしたが、すぐに答えた。


「では、私も神威さんと同じ言葉をあなたに返します」


 クローネは、意志のこもった、キッパリとした口調で言った。


「ですが……怒らないでくださいね。別に私たちはオメガくんに意地悪をしているわけではなく……」

「それは分かってますけど……でもやっぱり、そう言われると気になります」

「オメガくんの好奇心の強さは私もよく知っているつもりですが、でも、こればっかりは……知らない方がいいこともあるんです」


 クローネは遠くを見つめるような表情で言った。


「そうですか……では、お邪魔しました……。僕はこれで……」


 オメガはクローネに別れの挨拶を告げると、部屋を出ていった。


「ごめんなさい、オメガくん、でも私には、今回の事件があの事と関わっているようにしか見えないのです……」


 *


 オメガは、アーカムの中心街にある「モモトセ・チトセ」という店に向かっていた。そこは、彼が料理人として働いている店であり、また、下宿している家でもあった。

 オメガが扉を開くと、カウンターの向こうにいた40歳程の男が顔を上げる。


「いらっしゃ……って、オメガか。どうした? 基地の方じゃあなにか大変なことがあったみたいじゃあないか。お前、よくあの辺には足を運んでいるみたいだから心配したぜ」

「店長さん……」


 オメガは男に声をかけた。それから決意したように言う。


「すみません、僕、しばらく店を空けようと思います。いつ戻ってくるかは分かりませんが……でも……必ず戻ってきますので」

「オメガ……」


 店長は彼の目をじっと見つめるが、やがて言った。


「覚悟は出来ているようだな、分かった。……だが、必ず戻ってこい」


 *


 アーカムの街から程遠くない海底に、巨大な黒い金属の塊が沈んでいた。海底を、海上を、空中を、そして宇宙空間を進むことの出来るその鉄塊を、人は浮遊戦艦と呼んでいる。

 そんな浮遊戦艦の内部で、コンピューターを相手に格闘しているスタッフたちがいる。彼ら彼女らを監督するように、後方をひとりの黒い仮面を被った女が歩いていた。


「やはり……駄目なのか……?」


 女はスタッフたちに尋ねた。


「は、はい……やはり我々が三機だと思っていたハイペリオンに四機目が存在していた以上、4機を揃えない限り機体が『鍵』としての機能を果たすことは無いものかと……」

「そうか……」


 女は部屋の前方の強化ガラスを見つめた。その向こう側の格納庫に、三機のハイペリオンが格納されている。


「やはり……ウィンダーたちにふたたび基地を襲わせ、四機目のハイペリオンを奪取するべきでしょうか……?」


 スタッフのひとりが質問する。


「いいや……」


 と、女は答えた。


「既に前回の襲撃により基地の警戒態勢はマックスに達しているはずだ。そんなリスクを犯すよりかは……余程簡単な方法がある」

「簡単な方法……ですか?」

「あぁ、ハイペリオンの設計者に……直接訊きに行けばいい」


 女はニヤリと笑って言った。


 *


 謎の敵によるハイペリオン奪取事件から2日が経過した。アーカムの街を出た郊外の舗装されていない道を、一台の黒い自動車が走っていた。うんざりするような曇天に覆われた荒野を走る車の運転席にあるのは、クローネの姿だ。

 今日のクローネは、地球防衛軍の制服姿ではなく、白いブラウスの上に紺色のカーディガンに短めのネクタイ、そして紺色のスカートにタイツという私服姿である。


「まったく……どうして私がこんな役目を受けることになったのでしょうか……」


 クローネは運転席でため息をついた。


 時刻は先日に遡る。ひと通りの検査を終えて無事に退院を果たしたクローネは、基地の廊下で、突然神威に呼び止められたのだ。


「クローネ、ちょっといいか?」


 神威は言った。


「なんでしょうか?」

「あー、先日のハイペリオン奪取事件の事なんだがな……お前も勘づいているとは思うが、あれには7年前、南極で発見された石板が関わっている」


 一見すると、何の脈絡もない話のように聞こえるが、クローネはやっぱりかと思った。本来、兵器であるRAの開発に、ミスカトニック大学の考古学者にして7年前、今まで人類の文明が存在しないと思われていた南極大陸で謎の石板を発掘したカーター・プロヴィデンス教授の名があった事に、彼女は違和感を感じていた。そして先日の事件である。これはもはや暗示的と言えるのではないだろうか。


「やはり、そうでしたか……」

「そこで、だ。お前には、事件の真相究明のためにカーター教授の自宅に向かってもらいたい。実は教授は数日前から連絡が取れなくなっていてな……。本来なら警察が動くところを、我々が抑えているんだ。現場をいじられる前に、色々と見ておきたいからな。場所は……えーと……」


 神威はメモ帳を取り出して見た。


「ダンウィッチ村。ここアーカムの街からはそう遠くないところにある小さな村だ。よろしく頼むぜ」


「やっぱり、それは……クローネさんが優秀だからじゃあないですか?」

「また、思ってもないことを……」


 クローネはハンドルを握りながら言いかけてハッとした。そして後方を振り返ると、後部座席からオメガが這い出してくるところだった。


「……って、うわっ、オメガくん!? どうして……」

「僕が好奇心の塊だってことはクローネさんも知ってるはずですよ? クローネさんも神威さんも、絶対にあの事件の真相を教えてくれそうにないからついてきちゃったんです」

 後半へ続く!

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