第15話 観測者たち・1
オメガ・グリュンタールの前に帰還したミラ・セイラム。
彼女の決断とは……!
ハイペリオンシュヴァリエとハイペリオンガルーは空中で何度も激突した。その様子を、ハイペリオンミハイルに乗ったウィンダーが距離を置いて眺めている。
そんなハイペリオンミハイルの様子を見たミラが、そちらにも突撃していった。
「てめぇもだ! ウィンダー・ロズウェル!」
ハイペリオンミハイルはビームセイバーでミラの攻撃を防御する。
「無益だ。やめろ」
ウィンダーは抑揚のない声で言う。
「んなことはあたしだって知ってる! でも、こっちは好きな人から引き離されて! 閉じ込められて! んでもってあんたたちには出し抜かれて! 頭にきてるの!」
「そうか……そのストレス……存分に発散させてやろう」
ウィンダーはハイペリオンミハイルの背部にある天使の羽状のプラズマビットを分離させ、光線を発射した。ハイペリオンシュヴァリエはその攻撃をひらりひらりとかわしていく。
「ちょっと! 何やってるんだ!? ウィンダー! お前まで本気になって!」
アギリがすかさず通信を入れた。
「ミラは仲間だ。その仲間のストレス発散に付き合うのは当然のこと」
「分かってるじゃない。堅物のくせに」
ミラは嬉しそうに言うとハイペリオンシュヴァリエのビームレイピアとハイペリオンミハイルのビームセイバーを交わらせた。
「あいつら……味方どうしで……」
戦いの様子を見上げていたダンは呟いた。
「いや、そうじゃあない……多分……ウィンダーたちはミラちゃんを呼び戻すために僕を攻撃したんだ……!」
「どういうことだ? あの三機のハイペリオンのパイロットはお前の敵じゃ……」
「敵だけど……僕の大切な友達でもあるんです!」
ダンの言葉にオメガは答えた。
「そうか……じゃあ、あいつらは本気でこっちを攻撃してきたわけじゃあなかったってことか?」
オメガは頷く。
「そうです……。僕がもっと早く気づくべきでした。この船は非武装です。本当に沈めるつもりがあるならもっと早くに沈んでいたはずだ。でも、そうはならなかった……。ということはあいつらは、わざと狙いを外して攻撃していたんです」
その時だった。戦場に新たなRAが現れた。オレンジ色の戦闘機形態をしたRA、グリフォーンだ。グリフォーンは人型形態に変形する。
「ミラ、ウィンダー、もういいだろう」
ディーナからの通信がふたりのもとに入った。
「でも……こいつらが!」
ミラはディーナに言いつけるように言った。
「いや、だがミラ……それに関しては私にも責任があるぞ。なにしろ作戦を指揮しているのは私なのだからな」
「それは……そうだけど……」
「ミラ、戻ってこい」
ディーナは言った。
「私たちはお前を待っていた」
「指揮官……」
ミラは言った。
「でも……あたしが……このまま戻ったらゼロムさんは……。いつかゼロムさんを心から笑顔にしてあげるって約束したのに……」
「その……ゼロムというのがお前を攫った人間なんだな」
ディーナは言った。初めて聞く名前なのにどこかで聞いたような気もする。もしかして、あの妹とかいう人物と関係しているのか……?
ディーナは仮面の中で悩んだ。
その時、戦場にまた新たなるRAが登場した。
「標的を確認しました。撃ち抜きます!」
ガンモードのビームバイオネットを撃ち込んできたのはミネルヴァΔ、クローネだった。
「クローネさん!」
オメガは甲板から叫んだ。
「オメガくん……もう少しの辛抱です。私が助けに……」
だが、クローネは戦場の様子を見てハッとする。あれは……ハイペリオンシュヴァリエ、でもミラちゃんはあの黒いRAに連れ去られたはずじゃ……。
「オメガ」
ダンがオメガの隣から言った。
「クローネに事情を説明してやれ」
彼はオメガの持ち物である腕輪型通信機を返した。
「はい……」
オメガはクローネに通信をかける。
「クローネさん! 彼らは元々この船を沈めるつもりはありませんでした! ミラちゃんをおびき寄せるために船を攻撃するふりをしていたんです!」
「オメガくん……でも、どうしてオメガくんを助けるためにミラちゃんが戻ってこられるのですか? ミラちゃんは誘拐されて……普通ならそういう場合、本人の意思では戻ってこられないはず……」
「それはね、猫さん」
ミラからの通信がクローネに入った。
「あたしを誘拐したのが、ゼロム・グリュンタール、すなわちオメガくんの育ての親さんだからだよ」
「なんだって!?」
オメガ、クローネ、ダンの3人は驚いた。
「ゼロムは『観測者』としてあたしたちルルイエ神聖教団が邪神様を復活させるのを阻止しようとしていた。で、『鍵』を持つ四機のハイペリオンが戦場で一同に会すことを避けるために作戦を展開していたの……」
「話の展開が急すぎてまだついていけてませんが……つまり、ミラちゃんは自分たちと敵対する組織により連れ去られていたものの、その犯人はオメガくんの知り合いだった……。だから、オメガくんを見捨てることが出来ずにミラちゃんを助けによこした……と」
「そうそう」
ミラは頷いてから小声でつけ加えた。
「まぁ、本当はあたしが無断で出てきたんだけど……」
「で、ミラ、どうするつもりだ」
ディーナが言った。
その言葉を聞いてクローネは呟く。
「ディーナさん……」
「お前はゼロムという者に悪い感情を持っていないように感じるが……戻るのか? 私としては、お前の無事を確認できただけでも満足だ」
「待ってください!」
と、アギリが言った。
「それじゃあ指揮官は、ミラが僕たちと敵対することになっても……!」
「どうなろうとミラ自身の意思だ。私はそれを尊重したい」
「あたしは……」
ミラは言った。
「ゼロムには本当に心の底から笑って欲しい。でも多分、彼自身本当の自分を見つけられていないと思うの。だから……その手伝いをしてあげたい。あたしは……戻ることにするよ」
「ミラ……」
アギリが呟いた。
「ごめんね、オメガくん……あたし、オメガくんのこと大好きだから、絶対に猫さんとは付き合っちゃ駄目だからね。……それから猫さん、あんたとあたしの決闘は、しばらくお預けみたい」
ハイペリオンシュヴァリエは背部のバーニアから魔法粒子を噴射し、戦場を離脱していった。
「ミラ……。ちっ、僕たちも帰るとするか」
アギリはウィンダーに言った。
しかし、そこにディーナが割って入る。
「待ってくれ……」
ディーナはクローネに通信をかけた。
「君も私のことを知っていたようだな……。妹の仲間か……?」
クローネは無言で頷いた。
「私は……妹の誇りになるような姉ではないのかもしれない……。だが、それでもひと言だけ言わせてくれ、妹を頼んだ」
ディーナはそう言うとグリフォーンを戦闘機形態に変形させ、飛び去っていった。ハイペリオンミハイルとハイペリオンガルーもそれに続く。
最後に、戦場に残っていたミネルヴァΔも、やがて方向転換をし、去った。
しばらく海を眺めていたオメガとダンだったが、そんなふたりの所に船長の制服をきた男が走りよってきた。
「おふたりさん! まだ……逃げずに残っていたんですか! 他の人たちはみんな逃げました! なにしろこの近くに地球防衛軍の戦艦が停泊していたみたいで……そちらに向けて……! あなたたちもすぐに向かってください! RAはいなくなりましたが、この際まだどんな危険が残っているか分かりません! さぁ、急いで!」
船長はふたりを急かして甲板から下ろそうとする。
「あなたたちは……どうするんですか?」
オメガが船長に訊いた。
「我々船の乗務員は船が無事なこともあり、そのまま帰航します。ですが、乗客は別です。万が一のことがないとは考えられない。ですから……」
「分かりました。ありがとうございます」
ダンが頭を下げた。
「行くぞ、オメガ。多分その戦艦っていうのはスターペンドラゴンだ。振り出しに戻っちまったな……」
ダンはオメガに肩を貸してやり、救命ボートに向かうため、甲板から伸びる階段を下っていった。
ダンの読みは当たった。乗客たちの救助をおこなっていたのはスターペンドラゴンだった。オメガとダンの乗ったボートも引き上げられ、ふたりは他の乗客たちとは別れて艦橋に向かった。
艦橋には、アリア、レアーノ、そして艦のクルーたちの他に、RAパイロットであるクローネとシルフィの姿もあった。
「ダン! それにオメガくんまで!」
シルフィはふたりの姿を見つけるなり敬礼のようなポーズをとった。
「シルフィ、戻ってきちまったぜ」
ダンはやれやれという様子で言った。
「オメガくん……」
クローネはオメガの様子を見て沈んだ様子で言った。
「ごめんなさい……こればっかりはどうしようもなくて……こんなところ、戻りたくありませんよね……」
オメガは俯いて何も答えなかった。
「クローネ」
と、ダンが言う。
「ちょっといいか? 話がしたい」
「話……ですか?」
「あー、そうだな……オメガのことなんだが……」
ダンはオメガを横目に言った。
オメガはそんなダンの様子をちらりと見た。気のせいか、ダンにはオメガの瞳に、少しだけ元気が戻ったような気がしていた。
*
相変わらず総督府の執務室で作業をしていたライラック・ソフィアは一枚の紙を取り出してまじまじと見つめた。
「どうかされたのですか……?」
横でライラックを手伝っていたモカが尋ねる。
「いいや。ただ……よく出来ているなと思ってね」
そう言ってライラックはモカに紙を見せた。
それは、RAの設計図だった。機体名の部分には「HYPERION Ω VV」と書かれている。
「ハイペリオンオメガVV。この機体には、ちょっとした仕掛けが施されていてね」
ライラックは楽しそうに言った。
「機体が完成するまでに、パイロットくんが元気になってくれるといいんだけどね」
*
艦橋を出てすぐのところにある休憩スペースで、ダン・アマテは待っていた。彼は、窓から夜の海を眺めている。クローネは、ダンの姿を見つけると、その隣に立ち、同じように窓の外を見た。
「話って……なんなんですか?」
「クローネ、お前は……責任を感じすぎだ」
ダンは言った。
「オメガが心に負った傷は、お前のせいじゃあない」
「で、ですけど私には、オメガくんの先輩としての……」
「相変わらず、真面目なんだな」
ダンは言った。
「だが、今回ばかりはその真面目さが逆にオメガを傷つけている」
「え……」
クローネはダンをまじまじと見つめた。
ダンは窓に背を向けて寄りかかった。
「お前……自分が何を言ってもやっても、オメガは元気になってくれないと言ったな」
クローネは頷いた。
「実際、そうですから……」
「あいつはあいつで責任を感じているんだ。早く元気にならないと、クローネに心配をかけてしまうんじゃあないかってな。だからその急ぐ気持ちが逆に、あいつ自身の回復を遅くしている」
「じゃあやっぱり、オメガくんは私と一緒にいない方が……」
「それは違う」
ダンは答えた。
「むしろ、今のオメガにはお前が必要だと、俺は思う」
「ですけど……」
「あいつは……ことある事にお前の名前を呼んだ。それに、お前の機体を見た時のあいつの目は、本当に輝いていた。本人は気づいていないだろうがな……」
「でも……私はどうすればいいのでしょうか。一緒にいればオメガくんが責任を感じてしまうというのなら……」
「それは簡単な話だ。クローネ……一度あいつに、本音をぶつけてみろ」
「本音……ですか?」
ダンは頷いた。
「そうだ。クローネ……お前は昔からそうだった。確かにお前は誰よりも優しい人間だと俺は思う。だが、その反面、自分のことはいつも後回しにしてきた。一体全体、自分の心の悩みを、本音を……完全にさらけ出したことが今まで何度あったか?」
「それは……」
「クローネ、本当の信頼は、お互いに何ひとつ隠し通さなくてもいい、そんな関係だと俺は思うぜ」
ダンはそう言ってから休憩スペースの出入口に向けて歩き始めた。
「いいや、悪い。時間を取らせちまって……今のはただの雑談だ。気にしなくてもいい。だが……まぁ、これだけは言わせてくれ。俺はお前たちが似た者同士だとはこれっぽっちも思っちゃあいない。お前に比べてオメガは未熟で幼稚な子供同然だ……。だが、そんなふたりが一緒になれば、見事なまでにお互いの欠点を補い合える……。それが俺の、お前たちを見ての感想ってやつだ」
ダンはそう言って休憩スペースを出ていった。
クローネはそっと自身の胸に手を当てて呟いた。
「オメガくん……。私……」
後半へ続く!




