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第13話 地獄を見た日・2

 前半の続き!

 エンディミオンラージャはチャクラムを発射した。しかし、ミネルヴァΔの方が動きが速かった。腰からやや銃身の大きい光弾銃を引き抜くと、目にも止まらぬスピードでチャクラムに光弾を撃ち込んだ。チャクラムは軌道をそれ、あらぬ方向に飛んでいき、エンディミオンラージャの腕に収まった。


「てめぇ、そうか……あの時の射撃型RAのパイロットか……」


 ドゥルヨーダナは言った。


「だったら近接戦に持ち込むまでだ!」


 エンディミオンラージャはビームフィランギを手に取りミネルヴァΔに突撃した。しかし、ミネルヴァΔは光弾銃を手の中で回し、グリップを銃身と直線状に変形させた。それから銃身を覆っていた装甲がスライドし、そこから黄色い光刃が飛び出す。これこそ、ミネルヴァΔ専用に開発された新装備、ビームバイオネットだ。


「変形した……!?」


 ドゥルヨーダナは一瞬驚いたものの、そのままミネルヴァΔに突撃した。


「だがてめぇは近接戦は不得意だったよなァ!」


 しかし、ドゥルヨーダナの読みは外れた。ミネルヴァΔはエンディミオンラージャの攻撃をかわすと、セイバーモードとなったビームバイオネットで相手の腕を切断した。


「なっ……貴様……!」


 激昂したドゥルヨーダナがさらなる攻撃を加えようとするが、ミネルヴァΔはビームフィランギの剣撃を全てかわし、ビームバイオネットをガンモードに変形させ、エンディミオンラージャの頭部を撃ち抜いた。

 メインカメラが損傷し、エンディミオンラージャのコックピットが暗闇に包まれる。

 クローネはそっと呟いた。


「私の……勝ちです」


 そして機体を地面に倒れるハイペリオンオメガと月聖神の方に向けた。

 だがそこでドゥルヨーダナが叫ぶ。


「命までは取らないってか。だが、てめぇのそんな考えが甘っちょろいってんだよォ!」


 エンディミオンラージャが振り返り、ビームフィランギを振るってミネルヴァΔに襲いかかる。それでも、ミネルヴァΔはエンディミオンラージャよりも速かった。すぐにビームバイオネットをセイバーモードに変形させ、エンディミオンラージャの上半身と下半身を切断する。

 今度こそ、エンディミオンラージャは完全に沈黙した。


 オメガは、戦いが繰り広げられている最中に、コックピットを這い出し、月聖神の方に向かっていた。


「僕が……僕が傷を治さなくちゃ……神威さんは……!」


 彼自身も半壊しかかったコックピットにより、傷を負い、足を引きずりながらの歩行だったが、神威の怪我は瀕死の重症だ。溢れ出てくる涙と、痛みを堪えながら月聖神の方へと歩みを進める。


「神威さん……! 神威さん……!」


 オメガは月聖神の半壊したコックピットハッチに手をかけた。ハッチはオメガの力でも簡単に開く。


「神威さん!」


 オメガは神威に呼びかけ、その腕に肩を貸し、彼をコックピットの外に運び出した。神威は血まみれになり、息も切れ切れという状態だった。


「今……治しますからね!」


 オメガは言った。


「オ……メガ……」


 と、神威は微かな声で言った。


「神威さん?」

「い……いん……だ……。俺は……もう死ぬ……」

「そんな……諦めちゃ……!」

「いいや……分かるんだ……俺は……もう……心の臓が止まりかけてるってな……」

「そん……な……でも!」


 オメガは神威を抱き抱えると、全身の力を振り絞り、必死に治癒しようとした。神威とオメガを緑色の光が包み込み、神威の傷は癒えていく。だが、それと同時に彼の瞳は濁っていった。


「き、傷は治したのに……!」

「オメガ……お前……言ってたよな……。死んだ者を生き返らせることは……その能力をもってしても……出来ないって……。はは、遅かったって自分を責めるんじゃあないぜ……俺は……いや、多分、俺の魂はもう、ここにはないんだろう……」


 そして、神威は最後の力で言った。


「知ってたぜ……お前が……俺の茶室を使ったこと……。役に立てたんなら……本望さ」


 それが、和泉神威いずみかむいの最後の言葉だった。


「う、う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 オメガは絶叫した。涙がとめどなく溢れてきた。


「僕は……僕は何も出来ずに……! どうして……! こんな!」

「そいつはお前が無力だからだぜ、ガキ」


 その言葉にオメガは振り返った。涙で濁る視界に、あの、エンディミオンラージャの赤髪のパイロットの姿があった。彼は、銃を構えていた。


「だがてめぇの今の涙はさっきのとは違う。俺様の嫌いな涙だ……」


 彼は引き金に指をかけた。


「目障りだ。死にな」


 銃声が響いた。

 だが、動いたのはドゥルヨーダナの方だった。彼は、拳銃を取り落とした。手のひらから、血が流れている。

 ドゥルヨーダナは斜め上方を見上げた。そこにはミネルヴァΔのコックピットハッチを開き、銃を構えるクローネの姿があった。ドゥルヨーダナの弾丸が発射されるよりもコンマ一秒速く、クローネが弾丸を放ち、彼の銃を破壊したのだ。


「てめぇ……」


 ドゥルヨーダナが言った。


「殺してやる! てめぇの目の前で! そこのガキをなァ!」


 ドゥルヨーダナは地面に力なくうずくまるオメガに飛びかかった。そしてその両手でオメガの首を締め上げる。


「あ……あぁ……」


 今のオメガにはもう、抵抗する力すら残されていなかった。

 だが、ドゥルヨーダナはすぐに首の後ろに冷たいものを感じて振り返った。クローネの銃口が首元に突きつけられていた。

 彼は思わずに手の力を弛めながらも言った。


「おいおい、てめぇみたいな甘ちゃんに俺様が撃てるのかよ。あぁ?」


 クローネは無言で銃口をドゥルヨーダナの肩に移し、引き金を引いた。返り血が、クローネやオメガにも吹かかり、ドゥルヨーダナの左腕がだらりと垂れ下がった。


「私は本気です」


 クローネは怒気を込めた強い口調で言った。


「オメガくんから離れないと……次は心臓を確実に撃ち抜きます。私の射撃の腕はご存知ですよね? 抵抗しても無駄だと思いますよ」

「ちっ……はいはい、分かりましたよっと」


 ドゥルヨーダナはクローネの怒気に押されてオメガから離れていった。クローネは銃を構えながらオメガを庇うように立った。

 やがて、彼の姿は瓦礫の向こうへと消えていった。

 ドゥルヨーダナの姿が見えなくなるとクローネはほっとため息をついた。そしてオメガの方を振り返る。


「クローネさん……どうして僕を……助けたん……ですか……?」


 オメガは涙を含んだ声で言った。


「え……?」

「僕は神威さんを助けられなかった……僕は戦いに負けた……僕は……初めて死ぬ事の恐怖を知った……。こんな役立たずな僕を! どうして!」


 クローネは思わずオメガの頬を叩いていた。


「馬鹿なことを言わないでください! そんなのオメガくんが仲間だからに決まってるじゃありませんか! 役に立つとか立たないとか、そういう問題じゃあありません! 私たちは仲間であり、大切な友達でしょう?」

「う……うあぁ……クローネ……さん……僕は……!」


 オメガの眼からまたしても涙が溢れ出てきた。


「まったく……どうしようもないですね……」


 そう言いながらも、クローネはオメガをぎゅっと抱きしめた。


「でも……今は私がこうして受け止めますから、今日泣いた分だけ、また今度はいっぱい笑ってくださいね」

「はい……」


 オメガは、クローネの温かさを感じながら涙声で頷いた。


 *


 ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィは、気がつくとある廃墟の二階にいた。彼は、左腕に激痛が走るのを感じる。撃たれたことを思い出し、そちらを見ると、かなり雑な方法で包帯が巻かれていた。


「ドゥル! 気がついたの!?」


 ドゥルヨーダナが寝かされているボロボロのベッドのベッドの傍に、リーファが座っていた。彼女はドゥルヨーダナの手をしきりにさすっていた。


「良かったぁ……このまま死んじゃうかと……」


 ドゥルヨーダナは彼女の手を振り払った。


「おいリーファ」


 ドゥルヨーダナはリーファに言う。


「銃、持ってないか?」

「パパが護身用にって言って渡してくれて……持ってるけど……」

「貸せ……」


 ドゥルヨーダナはベッドから起き上がると言った。


「いいけど、何に使うの?」


 リーファはそう言いながらも銃を彼に渡してきた。


「そりゃもちろん……」


 ドゥルヨーダナは弾を確認しながら言う。


「こうやって使うんだろうがよ!」


 銃弾が、リーファの手を撃ち抜いた。


「え……」


 リーファは何が起きたのか理解出来ずに言う。


「俺様は今最っ高にムカついている。そん時に真っ先に目に入ったのがてめぇだったって訳だ。恨むんなら俺様じゃあなく、運命ってやつを恨みな!」


 そしてドゥルヨーダナはリーファのもう一方の手も撃ち抜いた。


「や……やめて……」


 リーファが懇願するような涙目になって言った。


「嫌だね。俺様はあのハイペリオンのパイロットをじわじわと痛めつけて殺す予定だったんだ……。だがそいつには失敗した……。てめぇはその代わりって奴だ!」


 三発目の銃弾はリーファの右足首を撃ち抜いた。


「痛い……助けて……ごめんなさい……! う……ううあぁ……」

「ごめんなさい? おいおい、勘違いするなよ。俺様はてめぇに対しては何ひとつ恨みを持っちゃ居ないんだぜ? むしろ感謝してるくらいだ。こうやってストレスを発散する場を提供してくれてるんだからなァ!」


 続けて三発の銃弾が発射された。弾はそれぞれ、腹、太もも、そして肩を撃ち抜いた。


「助……けて……パパ……」


 まるで、聞こえるはずもないその微かな声に呼応するかのように、ザギムが銃声を聞きつけ、部屋に飛び込んできた。彼の手には拳銃が……。


「ドゥルヨーダナ……貴様……!」


 そこまで言ったところで、ザギムは脳天を正確に撃ち抜かれて床に転がった。


「おおっと、悪い。手が滑っちまった。ま、どうせその銃で俺様を撃つつもりだったんならこっちは正当防衛だ」


 それからドゥルヨーダナはリーファに向き直った。


「おね……がい……もう……やめて……助……けて!」

「あぁそうだな。飽きた。もう楽にしてやんよ」


 ドゥルヨーダナはリーファの心臓を撃ち抜いた。


 ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィは廃墟を出ると夜のブラジリアの街に繰り出した。周囲には、半壊した建物や瓦礫の山がいくつも見える。

 だが、そんな彼の目の前にひとりの少女が現れ、道を塞いだ。水色の髪をした少女だった。本来、耳のある位置には白い電極のような装置が取り付けられている。服装はやや近未来的で、色は水色と白だ。


「なんだ? てめぇ……てめぇも撃ち殺されたいのか?」


 ドゥルヨーダナは問うた。


「残念だが、私を射殺することは不可能」


 少女は機械のような声で言った。


「あぁ? どういう意味だ」

「私は生命、あるいは魂と呼ばれる機構を保有していない」

「分からねぇな」


 ドゥルヨーダナはやや混乱しながら言った。


「理解してもらう必要性は存在しない」


 少女は言う。


「んで、俺になんの用だってんだ?」

「私はルルイエ神聖教団よりの使者。ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィを今日付けで戦闘要員としてスカウトせよ。それが教団の命令」

「そこじゃあ思いっきり暴れられんのか?」


 ドゥルヨーダナは問う。


「肯定」

「そうかい、じゃ、てめぇらの仲間になってやるよ」


 ドゥルヨーダナは決意をした。それに、俺様が痛めつけて殺すべき相手はもうひとり増えたんだからな。あのクローネとかいうアマめ……。てめぇはどうやって殺してやろうか。


 *


 ブラジリアの近郊にある墓地に、アリア、ライラック、そしてクローネの姿があった。目の前の真新しい墓石には「Izumi Kamui」の名が刻まれていた。


「僕も責任を感じざるを得ないよ……。君たちは大切な仲間を失い……ハイペリオンオメガは大破、機体の破片は例の『鍵』となる故に回収こそしたものの……」

「あまり、自分を責めないでください。私たちは、例えどんなリスクを負ったとしても、この反乱を鎮圧していましたし……それに……神威さんだって多分、ライラさんがそんなことを言うのは、望んでないと……」

「そうかもしれないね……」


 ライラックはそう言って後ろを振り返った。


「それで君たちは、今後の任務のために、南極に向かうわけだが……」


 ライラックの視線の先には、木陰のベンチに力なく俯いて座り込むオメガの姿があった。額には包帯をまかれ、傍に松葉杖を立てかけている。


「私たちもかなり慰めたんですけど……」

「今回のことは相当精神に来ちまったらしくてな」


 クローネとアリアが言った。


「彼は、能力は見た目相応にあるものの、精神に関しては、稼動年数が浅いこともあってまだまだ未成熟だったからね……。今後の作戦に影響はありそうかい?」

「正直な話、その質問に対しては首を縦に振らざるを得ないな」


 アリアが答える。


「どうだろうか、ふたりとも。彼には少し療養させるというのは……」

「療養……ですか? ライラさんのところで?」


 だが、ライラックは首を横に振った。


「いいや、彼としては、この戦いの原因を作った僕なんかとは一緒にいたくないだろう」

「そんなことは……」


 クローネは言いかけるが、ライラックは構わずに続けた。


「むしろ、彼と一緒にいるべき人間は別にいるよ」

「そいつは……誰だ?」


 アリアが訊く。


「僕たちのよく知っている人たちさ。旅する画家さんだよ」


 ライラックは、オメガの今現在の心境とはまったくもって正反対な明るい青空を見上げながら言った。

 少年は地獄を見、静かに戦場を去る。

 運命の歯車は容赦なく回り始める。

 海上にて再開するは敵か味方か。

 その時、世界の真実が明かされる。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『帰ってきたミラ・セイラム』。

 血染めの少女は何を見るか。

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