第10話 過去への勝利・1
RBが放った光に飲み込まれたハイペリオンオメガ。
果たして、オメガ・グリュンタールの運命は……!
ハイペリオンオメガは高エネルギー粒子砲の光に飲み込まれた。
「オメガくん!」
クローネが叫ぶ。
「そんなっ……!」
ミラはハイペリオンシュヴァリエにビームレイピアを振るわせながら言った。そして、エンディミオンラージャから機体を離すとハイペリオンオメガが消えた方向に向かおうとする。
だが直後、奇妙な状況が発生した。総督府に向かっていた光のエネルギーは途中で出力を失ったように消え去ったのだ。
光線が完全に消滅すると、そこには二機のRAの姿があった。片方はハイペリオンオメガ。そしてもう片方は、いつかの黒いRAだった。黒いRAは右手を前に突き出し、さながら光線からハイペリオンオメガを守ったような体勢で空中に静止していた。
「見えないシールドを展開して……」
クローネは驚いて目をぱちくりさせた。
「あれほどのエネルギーを受け止めたの……?」
ミラも驚いて言った。
だがそこにエンディミオンラージャがビームフィランギを振り上げながら突撃してきた。
「よそ見するんじゃあねぇ!」
ミラは咄嗟に対応しようとするが間に合いそうにない。だがそこで目にも止まらぬ速さで黒いRAが動いた。それはあっという間にこちらに飛んでくると、エンディミオンラージャを突き飛ばした。そしてハイペリオンシュヴァリエに腕を回すと、その機体を掴まえた。
黒いRAはバーニアを吹かしてハイペリオンシュヴァリエを天高く連れ去っていく。
「あぁっ、てめぇ、離しやがれ!」
ハイペリオンシュヴァリエはもがいた。
しかしそこで、黒いRAはハイペリオンシュヴァリエに微弱な電流を流した。
「くっ……」
ミラは電流を受けて気を失う。
「ど、どういうことだ……?」
オメガは自分自身に起きたことも、そして今黒いRAがしようとしていることも理解出来ずに呟いた。
「あいつは、僕を助けて……でも、ミラちゃんをどこかに連れ去って……」
オメガはハイペリオンオメガのバーニアを吹かして黒いRAを追おうとするがそこにクローネが呼びかけた。
「待って! あのRBを見てください!」
「な……」
RBは早くもエネルギーの充填を始めていた。あの黒いRAといえど、ハイペリオンシュヴァリエを抱えたままでは二射目を受け止めるのには間に合わないだろう。その時、RBの身体が大きく横に揺れ動いた。
「なんだ……?」
オメガとクローネが視線をその斜め上に向けると、そこにはスターペンドラゴンの姿があった。船体を傾かせて砲撃をRBに撃ち込んでいる。
「な、何とか間に合ったぜ……。今のうちに総員、攻撃だ!」
アリアからの通信が入った。
「きゅう! きゅう!」
彼女の背後をモフ子さんが飛んでいく。
「わ、分かりました!」
オメガは返事をした。
だがそんな彼の前に月聖神が上昇してくる。
「神威さん!?」
「オメガ、お前の機体はもう、アタックスキルを発射する程度の魔力も残っていないだろう。だったらここは俺がやる!」
神威がそう言うと、月聖神は光刃刀を振り上げた。
「アタックスキル! 蒼炎斬龍破!」
月聖神が光刃刀を振り下ろすと、刀身から斬撃が発生し、それはやがて青い光の龍の姿になりRBに向かっていった。
青い光の龍はRBの主砲に炸裂する。RBの前部が爆発し、主砲が焼き裂かれた。
「やった……!」
「いや……」
神威は顔をしかめる。確かに主砲は破壊した。だが……。
RBのボディの側面から無数の小型砲塔が飛び出した。そこから光線が発射される。光線は周囲の建物やRAを破壊していく。破壊されるRAのほとんどが反乱軍のレギオンだ。
「み、味方ごと……」
オメガは言った。
「あいつ……恐らく……パイロットは何も分かっちゃあいないんだ……いわゆる暴走状態というやつだろう」
「暴走状態……?」
オメガは聞き返した。
「RBはその巨大な体躯をパイロットひとりで維持するために最も効率的な方法を取ります。それがパイロットの脳波に直接システムを接続させて操るという方法です。でも、これには大きなデメリットがある……それが、パイロットの精神に多大な負荷をかけ、暴走させてしまうということです。もっとも、恐らくRBを戦場に投入するような人間は、パイロットの暴走すら広域破壊兵器を効果的に運用するためのメリットとしか考えていないのかもしれませんが……」
クローネが説明した。
「そんな……。パイロットを救わないと……!」
オメガはバーニアの出力を上げ、RBの元へ向かおうとする。
「オメガくん! 無茶です! ……というのはこの際、言ってられませんね……」
クローネはそう言うと半壊した自身の機体を立ち上がらせた。そしてバーニアに点火し、ハイペリオンオメガの隣に移動する。
「クローネさん……?」
「私の……プラズマスナイパーライフルを取ってください」
オメガは頷いて、ストリクスの背部に装備されたプラズマスナイパーライフルを手に取った。ハイペリオンオメガはそれを構えてみる。
「標的を確認、撃ち抜きます……」
ストリクスの右眼のレンズと、クローネの右眼のレンズが連動し、照準が表示された。
「オメガくん、私が撃てと言ったら、撃ってください」
オメガはゆっくりと頷いた。
「させるかァッ!」
だがそこにエンディミオンラージャが突撃してくる。
「いいや、お前の相手はこの俺だ!」
すかさずに神威の月聖神が止めに入る。光刃刀とビームフィランギがぶつかり合った。
「オメガくん、今です! 撃ってください!」
「は、はい!」
オメガはプラズマスナイパーライフルのトリガーを引いた。一発の光弾が発射され、それはやがてRBの上部、主砲の真上にあった装甲に当たり、そこを引き剥がす。すかさず、小型の砲塔が火を噴き、こちらを攻撃してくる。
「オメガくん! 今撃った場所が恐らくコックピットのあるであろう装甲です! あとはオメガくんがパイロットを救出してください! そうすればRBは自然と機能を停止するはずです!」
「分かりました!」
オメガはバーニアの出力を上げるとRBに向かって突撃していく。次々と撃ち込まれる光線は、空中を何度も翻り、かわした。
「行っけぇぇぇぇ! 僕は、お前を助ける!」
ハイペリオンオメガはプラズマスナイパーライフルを投げ出し、ビームセイバーを展開した。
だが、その時だった。彼らの頭上でハイペリオンシュヴァリエを抱えて静止していた黒いRAが空中に手を伸ばした。すると、その手の先の空中の一点に、まるで吸い込まれるかのようにRBが吸い上げられ、そして一点目掛けて巨大な鋼鉄の塊が消えていく。
「なっ……」
オメガは目を丸くして機体を空中に静止させる。
「あれは……!」
神威が言った。
間もなく、RBはその場から跡形もなく消え去ってしまった。
「そんな……」
クローネは言う。
「あの吸引力、そして物体を消滅させる力……エネルギー量から判断しても、間違いなくあの場に発生したのは……」
「なんだってんだ?」
目の前のエンディミオンラージャと格闘しながら神威が問う。
「超小型ブラックホールです。恐らくは、我々の目では観測できないほどの大きさのものでしょう。ですが、それでも数十メートル程しかないRBを吸い込むには充分な大きさなのです」
「んな無茶苦茶な!」
神威は月聖神に光刃刀を振るわせながら言った。
「私もにわかには信じられません……ですが、目の前でその事象が起こってしまった以上……」
オメガは黒いRAを探して空中を見上げた。あいつ……僕がせっかくRBのパイロットを助けようとしたのに……それを……! だが、黒いRAはハイペリオンシュヴァリエ諸共どこかに消え去っていた。
「神威、クローネ、オメガ」
と、三人にアリアからの通信が入った。
「総督は逃がした。RBは消滅した。もう……そこにいつまでも居残って戦う理由もないと思うんだが……?」
「で、ですが……!」
「作戦は、終了ですか」
言いかけるオメガを遮って神威が言った。
「あぁ、終了だ。すぐに帰艦しろ。あたしらはブラジリアを一旦後にし、今後の作戦を練ることとする」
「了解!」
神威は月聖神の光刃刀をエンディミオンラージャ目掛けてひと振りし、機体を離した。
「逃がすかよ!」
エンディミオンラージャはチャクラムを発射する。だが、月聖神はその攻撃も光刃刀で弾いた。
「坊や、続きはまた後でだ!」
月聖神はバーニアを吹かして戦線を離脱する。
エンディミオンラージャはそれを追おうとするが、ハイペリオンオメガがすかさずにプラズマライフルを連射し、近づけなかった。ハイペリオンオメガとストリクスも戦線を離脱していく。
「ちっ……追いつけないか……まぁいいさ、今日は存分に暴れさせてもらったからなぁ!」
ドゥルヨーダナは満足気に言った。
*
パラマリボのゲルマニア軍基地では、戦況の報告が続いていた。ザギム・レンヌはそんな作戦司令室の後方で、均等に並んだモニター郡の前に陣取るゲルマニア軍人たちを眺めていた。彼の隣には娘のリーファもいる。
報告によると、ゲルマニア、及び反乱軍勢力は各地で勝っているとの事だった。ローマ連邦軍基地に対する同時攻撃により、多くの基地が既に陥落している。さらに地球防衛軍もほとんどが動けない状態らしい。
「総督府は……」
と、ザギムは近くを通りかかったゲルマニア軍人に問うた。
「総督府はどうなっている?」
「か、陥落した模様です。ですが不可解なことが二点ほど……」
「不可解な点?」
「はい、まず、ザギム様の指示で総督府を火の海にせんがため向かっていたRB、ケトゥスが突如乱入した正体不明の黒いRAのために跡形もなく消滅してしまったと……」
「どういうことだ?」
「さて、そこまでは私もまだ……。それから、総督、ライラック・ソフィアが街に逃げ出すのを目撃したとの情報も……」
「後者の方は、問題あるまい」
ザギムは言った。
「捕まるのも時間の問題だろう」
「ねぇ、お父様」
と、ここでリーファが口を開く。
「どうした?」
「ライラックを探すためにブラジリアの街を洗うんでしょう? 私にも手伝わせてよ」
「いいが……お前は、何が目的だ?」
すると、リーファは瞳をギラギラと輝かせた。
「私は私で別の重犯罪人を捕まえたいの」
「別の重犯罪人……?」
「名前はクローネ・コペンハーゲン。たっぷり痛めつけてこの世に産まれてきたことを後悔させてやるんだから……」
リーファは笑みを浮かべた。
*
スターペンドラゴンは戦場を離脱すると南ローリー大陸のケンタウルス海側の海上に停泊をした。反乱以前に艦が滞在をしていたブラジリア近郊の地球防衛軍基地も反乱側勢力によって陥落していた。
艦橋にて、クルーたちを集めてアリアは今後の作戦を説明した。
「ブラジリアの街は今現在、反乱側勢力によって徹底的に出入りを検問されている。よって街からライラック・ソフィアが脱出することは不可能に近い。だから彼は、街のどこかに潜伏をしているはずだ」
「あの……考えたくはないっすけど、もう既に総督が殺されちまったという可能性は……」
レアーノの言葉にクローネは顔を下に向けた。
「ないだろうな。そうだとしたら反乱勢力が既に公表をしているはずだ」
それから作戦の説明を続ける。
「そこであたしらはブラジリアに潜入調査員を送ることにする。んで、ライラック・ソフィアが見つかり次第、あたしたちに連絡を寄越してほしい。そしたらRAを射出してひと暴れさせ、その隙に総督閣下を救出するつもりだ」
「潜入調査員、それは……」
オメガが口を開く。アリアは頷いてから答えた。
「クローネ、やってくれるな」
「え……あ、あの……私ですか?」
「あぁ、お前だ。ライラとの関係や何やらを見て総合的に審査した結果、お前が一番の適任だと判断した」
「そ、それは……が、頑張ります」
クローネは言った。
「あの……」
と、オメガが言う。
「僕も行って問題は無いでしょうか」
「オメガ……もか……?」
「僕は一応、ライラさんに恩があるので……」
オメガは言った。リーファ・レンヌ暗殺未遂事件のことはまだ誰にも言っていない。だが、あの時の恩返しはしておきたい。
「わーかった。いいだろう、行ってこい。だが、くれぐれも無茶はするんじゃあないぞ。お前たちはいっつも、無茶や無理をしがちな傾向があるからな」
「はい、ありがとうございます!」
オメガはいつか出会ったシルフィとかいう少女を真似て敬礼のようなポーズを取った。それを見たアリアが少し驚いたような顔をした。
後半へ続く!