虚空の底 湖面の空
ふわりと浮かび
立つことすらもままならない
寄る辺のない自分
伸ばした手の向かう先が
前を向いているのかさえも
判別がつかないほどに
煌めく湖面のその先へ
届くはずのない指先が
不意になにかに触れたとき
碧い湖面は蒼い湖面へ
蒼の境界線を越えて
大地は空へ
空は大地へ
見上げたつもりが
見下ろしていて
沈み堕ちる感覚を
指先に触れた温もりが
強く引き寄せ抱き留める
堕ちようのない泉の底は
未だ高い空の上
仰いだ空はすぐ傍で
その眼下には雲の海
堕ちていたのは自分自身で
世界はこんなに高くて広い
地に着き低きを目指すのも
跳ねて高きを目指すのも
望めばこんなに手が届く
泉にたゆたいただ手を伸ばし
届けばいいと願ってた
見えないだけで
見てないだけで
それはこんなに遠くて近い
気づけば瞳が熱くなり
気づけば頬が緩んでた
先にあるのは虚空の蒼で
望みながら諦めていた
囀ずる声は届かない
奏でた歌は届かない
決めていたのは自分自身で
自分で声を閉じ込めていた
届くはずのない指先、と
受け止められない両の手、と
決めていたのは自分自身で
決められるのは触れた誰か
届くはずのない指先が
不意になにかに触れたとき
蒼い虚空は碧い空へ
碧の境界線を越え
求めるものは与えるものへ
与えたものが求めたものへ
救われたはずが
支えを与えて
何もないはずの両の手に
抱き留められた温もりが
思い込みだと教えてくれる
仰いだ空は泉の底で
見上げたつもりが見下ろしていて
求めた光はすぐ傍で
立っているのは積み上げたイシ
触れようのない虚空の蒼は
触れようとしない自分自身で
積み上げたものを信じることも
ただ手を伸ばし嘆くのも
そうありたいと望むだけ
知ればこんなに世界が広がる
見えないだけで
見てないだけで
世界はこんなに狭くて広い
自分はこんなに脆くて強い
気づけば瞳が熱くなり
ありがとう、と鳴いていた
その手の温もり
握りしめながら
今はまだ
この地に根を張るようにして
一人で立てはしないけれども
この手の温もりがあるのなら
ここが私の中心だから
誰かのために手を伸ばし
底から掬い上げることも
自分のために手を伸ばし
空へと跳び上がることも
きっと出来る
ちゃんと出来る
〜原題 handshake〜