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【コミック2巻発売】恋する魔女はエリート騎士に惚れ薬を飲ませてしまいました ~偽りから始まるわたしの溺愛生活~【書籍2巻発売中】  作者: 榛名丼


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第34話.帰ってきた恋人

 


 広い空を覆うように翼を広げる偉容。

 惚けるようにセシリーが見上げると、頭上から声が降ってくる。


 どうやらジークは遠目に、セシリーが居ると気がついたらしく。


「セシリー! 宿舎前で待ってる!」


 明るいその声を聞いたとたん、セシリーの全身にびびびと電流が走る。


(ロッ…………ロマンチイィーーーック!!)


 セシリーの脳内に住む十人のロマンチスト審査員たちが、点数を掲げる。


 10点! 10点! 10点! 10点! 10点!


 10点! 10点! 10点! 10点! 10点!


(圧倒的100点満点よ!!)


 戦地から戻ってくるなり、セシリーを見つけて叫んでみせたジーク。

 朗らかな声からして、彼は怪我をしていないし、仲間たちも無事なのだろう。それを数秒で、セシリーたちに伝えてくれたのだ。


(ずるいくらい……素敵よ、ジーク)


 なぜこんなにも、彼は格好良いのだろう。

 だらしなく緩んでしまう頬を、セシリーはむぎゅむぎゅとおさえる。別れの決意を何度固めても、ジークはいつも呆気なくセシリーの心を揺さぶってしまうのだ。


「団長の下半身ったら、格好つけちゃって」


 と言いつつ、シャルロッテは羨ましげな溜め息を漏らしている。見せつけるような二人の関係に、恋知らぬ王女はどぎまぎしていた。

 そのときセシリーは「あっ」と気がついた。テーブルの下に割れた食器が散っているのだ。


「シャルロッテ様、どうしましょう。食器類がガンガンに割れていますが……」


 王女が使う食器である。食器の善し悪しなどはぶっちゃけセシリーには分からないが、きっと庶民の手が届かぬほど値が張る代物に違いない。


(もしかしてこれ、聖空騎士団が弁償する、なんて話になるんじゃ)


 騎士団が多額の借金を負う羽目にならないか、心配していると。

 シャルロッテがあっさりと言った。


「いいのよ。このカップ、マーケットで買ってきてもらった安いやつだから」


 なんとシャルロッテ、今日中に騎士団が戻ってくると見越していたらしい。敢えて安いものを出して使っていたようだ。


「マーケットかぁ……いいですね! 今度一緒に行きましょうよ!」

「そんなの無理よ。市井では民草の下半身たちが暮らしているのだから」


 無理だと言いつつシャルロッテはどこかしょんぼりしている。


「それなら女性だけ参加できるマーケットを、シャルロッテ様が開催したらどうですか?」

「え!」


 何気ない提案だったが、シャルロッテは目を見開いている。大きすぎる眼球がぽろっとこぼれ落ちてきそうだ。


「ま、マーケット……いいかも。いいかもしれないわ、楽しそうじゃない」


 何やらぶつぶつと呟いている。


 その間も、ジークを乗せたスノウに続いて、続々と上空を飛竜たちが飛翔していく。

 セシリーはシャルロッテを庇いつつ、部屋の中へと戻った。強風にふらついてバルコニーから落ちでもしたら目も当てられない。いかにもか弱そうなシャルロッテは二階から落ちたら全身の骨を折ってしまうことだろう。


「ねぇ。そろそろ宿舎のほうに行ってみましょうよ、セシリー」

「えっ」


 セシリーはびくりとした。


「下半身たちが待ってるわよ。早く行かないと」

「で、でも」

「今さら何を恥ずかしがってるのよ?」


 もじもじするセシリーが照れていると誤解したようで、シャルロッテは苦笑している。


(だって、戻ってきたら惚れ薬のことを伝えるって決めてたし……!)


 解毒薬は未だ作れていないのだ。

 だが、こうなった以上は、ジークに惚れ薬の件だけでも事前に伝えておいたほうがいいかもしれない。

 彼に軽蔑されるとしても、これ以上、事実を隠しておこうとは思えない。それにこのままではセシリーは溺愛に流されるようにしてジークと結婚してしまうだろう。いざ彼に強引に迫られたら、まったく断れる気がしないのだ。


(今のうちに私に疑念を持てば、結婚の話を進めようとは思わないわよね……)


 二人の関係は未だ婚約者だ。

 結婚式の日取りなんかはまだ決まっていないのだから、今ならばやりようがある。


「わ、分かりました。行きましょう」


 よし来た、というように頷くシャルロッテ。

 その柔くて細い腕に、セシリーはしっかりと抱きついている。むぎゅむぎゅしている。


「でも怖いから、離れないでくださいね!」

「んもう、仕方ないわね。下半身が怖いのはわたしも同じなのに」


 やれやれとか言いつつ、シャルロッテはにまにましている。

 言葉通りに呆れているということはまったくない。むしろ唯一の友人に頼られた喜びで胸がいっぱいになっているシャルロッテなのだった。



 そんな二人はもちろん、気がつくわけもなかった。

 ジークに続いて頭上を通り越していったアルフォンスが、とある女性を後ろに乗せていた――なんてことには。




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