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【コミック2巻発売】恋する魔女はエリート騎士に惚れ薬を飲ませてしまいました ~偽りから始まるわたしの溺愛生活~【書籍2巻発売中】  作者: 榛名丼


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第28話.その頃のジーク3

 


 その日、聖空騎士団はシャルロッテの護衛任務についていた。



 といっても男性の下半身に大きな恐怖心を抱くシャルロッテが遠出することはない。

 今日も彼女は自身が住む宮殿の庭を散策するという。駆り出される人員は団員の半分となる十名だ。

 残りの十名は飛竜の飛行訓練に臨んでいる。ジークが居ないときはアルフォンスに指揮を任せてある。サボり癖のある男だが、実力については指折りだ。


 ジーク、シリルはなるべくシャルロッテの近く――といっても十メートルほど距離を取って控えている。他の団員に至っては五十メートルは離れている。

 護衛として適切な距離とはまったく言えないのだが、これくらい離れていないとシャルロッテが怯えてしまうため、苦肉の策である。


 侍女に日傘を傾けられたシャルロッテは、なんだか楽しそうに花を指差している。

 その白魚の指先をよく見ると、白い蝶々が止まっていて、はたはたと羽根を揺らめかせていた。


「この蝶はメスよ。かわいいわね」


 シャルロッテは人のみならず虫の雌雄も判別がつくようだ。


 ジークは微笑むシャルロッテの横顔を見て、周りに注意を払いながらも、心の片隅で考えていた。

 美しいピンクブロンドではなく、可愛らしい亜麻色の髪の少女のことだ。


 今頃セシリーはどうしているだろう。最後に彼女に会ってから、早十日もの日にちが経っていた。

 休息日には花束を手にランプス邸に向かったのだが、セシリーには会えなかった。なんと風邪を引いたという。

 看病するという強い意志で窓硝子をたたき割ろうとしたジークだったが、スウェルに止められてしまった。よっぽど体調が悪いようで、誰にも会うべきでないというのだ。


 未来の父親に逆らうわけにもいかず、花束とメッセージカードをおいて引き返してきたが……。


「はぁ~あぁ~……」

「団長! 溜め息デカいです!」


 シリルの注意する声に「悪い」と短く謝っていると。


 ――くすり、と小さくシャルロッテが笑った。


「下半身の溜め息、セシリーに似てるわ」

「え?」

「……あっ」


 シャルロッテが頬を赤くする。

 彼女から話しかけてくれるとは、珍しいこともあるものだ。ジークとシリルが驚きに顔を見合わせていると。


「団長の下半身、もう少し傍に寄って。話しづらいから」

「……え、あ、はい」


 ジークは慌てて、しかしシャルロッテを怯えさせないよう慎重に近づいていった。

 侍女たちも驚いた顔をしている。それも当然だろう。シャルロッテの男嫌いは生半可なものではない。

 特に男らしい――悪く言うと凶暴そうな外見であるジークのことを、見かけるたびにびくびくしていたくらいだ。


 怯えるシャルロッテを可哀想に思っていたが、だからといって団長が護衛任務を放棄するわけにもいかないので、どうしたものかと思っていたのだが。

 そんな彼女が、自分から近う寄れとジークに話しかけてくるとは、いったいどのような心境の変化か。


(……いや、セシリーの影響だな)


 飛竜にパクリされたセシリーの保護を、ジークはシャルロッテに頼んだ。

 あの出来事以降も、二人はよく交流していたようだ。ジークとしては妬けるが、固く緊張していたシャルロッテの心を、セシリーは簡単に解していってしまった。そんな彼女に脱帽する思いだった。


「あの、その、セシリーの話なんだけど」


 なんの話かと思いきや、まさにセシリーについての話題だったらしい。


「……セシリーが、どうかしましたか?」

「その、ね。下半身は、あの子のどういうところが好きなの?」


 興味津々! というのを隠そうともしないシャルロッテの問いかけに、ジークはしばし考える。


 セシリーのことを思おうとすると、なぜか思考に靄がかかるような気がする。

 靄を振り払うように頭を振りながら、ジークはきっぱりと答えた。


「可愛いところと、一生懸命なところが好きです」

「……んま」


 シャルロッテが頬を赤らめる。侍女たちもざわめいている。


「感情表現が豊かなところも愛おしいし、見ているだけで楽しくなります。それに、俺の言動にいちいち翻弄されて狼狽える姿も可愛いです。俺は思ったことを言うだけなんですが、それでもセシリーを困らせたくなるというか、困った顔も魅力的だから」

「んままま満点回答」


 スタンディングオベーションしてしまうシャルロッテに侍女たちも続く。


 ジークの答えはまさに理想の回答だった。短い言葉ながら相手への思いの丈が伝わってくるのだ。

 ノロケと自覚せずにこの領域まで辿り着ける男は、一国にひとり居るかどうかの逸材――侍女たちがジークを見る目がとたんに柔らかくなる。私たち、騎士団長のこと誤解してたわね、の目である。


「あの子のほうがベタ惚れなんだと思ってたけど、下半身も相当なのね」


 ぜーはーと荒っぽく吐息を吐くシャルロッテの頬は、ほんのりと赤い。


「ねぇ、いつから好きなの?」

「……え?」


 シャルロッテはわくわくしながら訊いてみる。

 男女の馴れ初め。これが気にならない女子が居るだろうか。いや居ない。


 侍女たちもドキドキしながらジークを見つめている。

 だがジークは、何も答えない。というよりも、答えられなかった。


「ちょっと? どうしたの?」

「……あ、いや。すみません、少しぼーっとしてました」

「もうっ。セシリーが居ないからって、やる気がないのは困るわよ?」


 やれやれと肩を竦めるシャルロッテ。


 ジークは短い謝罪のあと、再びシャルロッテから離れて護衛任務を継続する。


 シリルが不安げにこちらを見ている気配を感じながらも――ジークは虚をつかれたような顔つきのまま、しばらく途方に暮れていたのだった。




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