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【コミック2巻発売】恋する魔女はエリート騎士に惚れ薬を飲ませてしまいました ~偽りから始まるわたしの溺愛生活~【書籍2巻発売中】  作者: 榛名丼


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第22話.あーんがしたい

 


 誰の姿もなくなった宮殿を出たセシリーは、バスケットを手に飛竜の飼育地帯に向かっていた。


「ジーク、喜んでくれるかしら……」


 彼の味の趣味がよく分からないので、とりあえずいろんな種類を詰め込んでみた。

 準備に抜かりはないが、それでも好きな人の反応が気になってそわそわしてしまうセシリー。


 歩いているうちに、王城外れにある飼育地帯が見えてくる。

 セシリーがきょろきょろしていると、遠目に発見していたのか。ふいにジークが高い生け垣をぴょんと跳び越えて現れた。


 婚約者との突然の邂逅に、セシリーの胸が騒ぎ出す。


「セシリー!」

「好き!……間違えた、ジーク!」


 ほとんど人目がないのをいいことに、しかと抱き合う二人。


(このまま、時間が止まっちゃえばいいのに…………)


 などと、うっとりとするセシリー。

 しかしジークは加速する男である。愛おしげにセシリーの額や頬に触れると、はっとしてその腕にかかるバスケットをつかみ取った。


「大きいバスケットだな。セシリーには重いだろう、俺が持つ」


(好き!)


 なんという気遣い力だろうか。最高である。

 セシリーの身体の二倍ほどはある巨大なバスケットを、軽々と持ってみせるジークに、セシリーはきゅんっと胸を高鳴らせている。


「あ、あのねジーク。今日は、一緒にお昼ご飯を食べたいなと思って――」

「食べよう」

「い、いいの!?」

「今は飛竜たちも厩舎で昼ごはん中だから、入ってくれて大丈夫だ」


(そっか。飛竜を制御できる人たちがご飯中じゃ、困るもんね)


 難しければバスケットだけ渡して帰るつもりだったが、問題はないようだ。

 前回は勝手に門扉から入ってしまったが、今日は正式に詰め所で許可をもらう。ジークと腕を組んでセシリーがすりすりしていると、気がついた他の団員たちが寄ってきた。


「あ! セシリーちゃんだ!」

「チャラ男!……間違えた、アルフォンス様!」


 セシリーは笑顔で取り繕った。

 ジークがこちらを見下ろす。褐色の瞳に見つめられると、それだけでセシリーの心臓は爆音で高鳴る。


「俺以外の男、呼ぶなんて悪い子だな」

「は、はうっ……!」

「だけど仕方ないか。でも……あとで分かってるよな?」


 セシリーの胸の真ん中で色とりどりの花火が打ち上がっていく。


 青、緑、紫、ピンク。赤、赤、赤…………。


「お仕置き、しゅるの?」

「ああ。する」


(おひおきしゃれひゃう~~!!!)


 期待のあまりセシリーの両膝ががくがくする。


 その間にも、物珍しげな顔をした団員たちが続々と集っている。

 やはり若い団員が多い。ほとんどは十代後半だろう。

 同い年くらいの彼らに向かって、セシリーはなんとか正気らしい笑みを作り出した。


「初めまして皆さん。ジークの婚約者、セシリー・ランプスです」


 ジークから少し離れ、挨拶すると、団員たちが「おお」とざわめく。


「あれが噂の、団長の婚約者殿か」

「うふふ。それほどでも」


 まだ誰も褒めてはいないが、褒められる前に謙遜するセシリーである。


「今日はお昼ご飯を作ってきたんです。皆さんの分もあるので、ぜひ召し上がってください」

「え? いいの?」


 嬉しそうにするアルフォンスたち。だが、


(良くはない)


 無論、セシリー的には決して良くはない。

 セシリーだって、ジークと二人きりでランチを楽しみたかった。だが、そうできない理由があるのだ。


 というのも張り切りすぎたセシリーは、結果的に山のような量の料理を作ってしまった。大食らいのスウェルや子爵邸の使用人たちの口にもぶち込んできたのだが、それでも大量に余ったのだ。

 家畜の餌にしても良かったが、それは最後の選択肢ということで、セシリーはジークの部下たちにも食べてもらうことにした。彼らにも「団長の婚約者殿、素敵!」「結婚はよ」と思ってもらえたら、今後いろいろとやりやすくなるかもしれないし。


 打算だらけのセシリーの提案で、団員たちが芝生の上に敷布を敷いていく。

 聖空騎士団の宿舎では朝夜のみ食事が出るため、少し離れた王城内の食堂を利用することが多いのだという。そのこともあってか、セシリーの差し入れはかなり喜ばれているようだ。


 昼食の場が素早く整えられていく。

 でかすぎるバスケットを脇に抱えるジークが、ふと傍らを振り返り首を傾げた。


「どうした、セシリー?」

「え? うふふ。なんでもな~い」


 微笑んで誤魔化すセシリー。

 が、彼女の目はギラギラと輝いている。底にはマグマのような熱い闘志が燃えたぎっていた。


 というのもセシリーには本日、ゼッタイに果たしたい目標があった。

 それは何かというと、



(ジークにあーんがしたいっっ!)



 ――であった。




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