表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/135

095 突入前


――話はそれから二時間ほど前に遡る。



 私の言葉を聞いたヘルは、愉しげに唇を歪ませ、「へえ」と言った。


「帝国支部長アイへの伝手か。しかも王叔父ツェーデルのお墨付きと来る。それならわざわざこうやって話を聞いて、そしてお前のスパイとなったとしても、確かになお釣りが来そうだ。


 

  ……まあ、お前の言うことが本当なら、の話だけどな」

 


 目を眇める。「……この期に及んで私がお前に嘘をつくと言うのか」

 

「信じられるだけの根拠がねェっつってんだよ。つうかお前強かろうが一介の伯爵令嬢で騎士見習いだろ。あの『王国最強』と知り合いだとしても、アイへの口利きをしろと要求できる立場にあるとは到底思えねぇな」


 一理ある。

 というか、怪しまれるのも当然と言えた。


 ジークレインは隣でじっと黙り込んでいる。奴も、私とツェーデルが()()()関係であるというのははったりたと考えていることだろう。

 しかし、私がツェーデルを通じてアイにコンタクトを撮れる立場にあるのは紛れもない事実だ。私が蒼月流の使い手であることを知っている師匠ツェーデルは、私が望めば、アイに口利きをしてくれるはずだ――アイがそれを受け入れるかどうかは全く別の話だが。


(それにしても……)


 私はちらりとジークレインを横目で盗み見た。

 ……知らなくていいことを知らせすぎたな。


 切羽詰まって闇魔法を使い、さらにこの場で新たなカードを切らざるを得なくなった、しかも、ジークレインのいる場で。

 

(この世界の私は、アルティスタ・ファミリーとの繋がりがあるかどうか調べようとも、当然に一切何も出てこないが……)


 我ながら、――やむを得ないことだとはいえ――ジークレインの前で、不審な行動ばかり取ってしまっている。

 こいつは今、私のことをどう見ているのだろう。


「何かお前の言葉を裏付けるものはねぇの? じゃないとノりたくたってノれねぇよ」

「ツェーデル閣下と親しくしている、という証明か? あるいは、アイがお前を幹部として受け入れるかどうかの証明か?

 後者はさすがに保証はできない。あの女は誰の口利きだろうと自分の気に入らない人間を下に置いたりはしない」

「そこまでは望んでないって、さすがに。王族一人の口利きひとつで得体の知れない人間を幹部に招き入れるなんて、逆に信用ならねぇよ。口利きで人材登用する王侯貴族とやり方が変わらないだろ」

「……そういう貴族ばかりじゃない。勝手に一括りにするな」

 

 ジークレインが苦言を呈するが、ヘルはふんと鼻を鳴らして柳に風とばかりに軽く受け流した。


()()じゃァないかもしれないけど、ほとんどはそうだろ」

「……」

「つうか王宮仕えなんてその最たるものじゃねぇか。騎士には貴族しかなれないし、文官は国試を受ければいいことになってはいるけど、名ばかりだ。そもそも国試を受けられる頭がある人間は、それなりの教育を受けた人間だけだしな」


 ……で、と、ヘルがこちらを見た。

 

 どうなんだ?

 俺がそれに乗っかることができるだけの保証ができるのか?

 ――そう、油断のならない瞳が言っている。


 私は目を細め、一歩ヘルに近づいた。

 ヘルとジークレインが同時に、一瞬、面食らった表情になったのが見えた。が、構わずに、肩に手を添え――そのまま、顔の横で囁く。


 

「私の剣はアイの剣だ。東の帝国の居合術――曲がりなりにも芸術家(アルティスタ)のお前ならば、聞いたことくらいあるだろう。

 あの女が、一子相伝の、東の帝国の秘剣を使うということを」


 

 それが私に受け継がれているということ。

 それが一体どういう意味なのか、少し考えれば答えは出るはずだ。


 と――ぐい、と、腕を引かれる。

 振り返れば、眉間に深い皺を刻んだジークレインが、これ以上ないほど低い声で言った。


「近い」

「……悪い」


 妙な迫力に気圧されて思わず頷けば、ジークレインは不機嫌そうに舌打ちをした。


「そもそもなんだ今のは。今、あいつに何と言った? まさか俺に聞かせることができないことを――」

「別にそういう訳じゃないが」もちろん、そういう訳だ。「そもそも本当に秘密にしたいことなら、あえてお前の前でこんなふうに言う必要もないだろうが」

「なら普通に声を出して言えば――」



「どういうことだ」



 ジークレインの抗議の声を遮るように。

 ヘルの堅い声が、その場に落ちる。


()()()()()()()()。ありえない。お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか? アルフィリアの貴族なんだろう、お前は――」

「……そうだ。調べてもらっても疚しいことはない」

「なら……はったりにしたって度が過ぎてる。そもそも俺はアイを知らねぇんだぞ。お前の主張を信じるとして、()()()()()()()()()()()

「そうだな。だが」



 ――見ればわかる。

 私はきっぱりと明言した。



 帝国最速の秘剣。

 一目瞭然の言葉の通り――蒼月流を知っているものがそれを見れば、一目で()()()とわかる。

 そういうものだ。


「……ならどこでそれを俺に見せる」

「おあつらえ向きの試金石があるだろう? ちょうど私たちがやろうとしていたことだ。


 私とジークレインを摘発に行かせろ。

 あそこには腕利きもいるだろう。手っ取り早く、私の力を見せてやる」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ