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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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093 提案

 闇魔法の使い手は四大魔法の使い手と異なり平民にもいるものの、クロード(かつて)の体感から言うならば割合としては貴族の方が多い印象である。

 アルフィリアの貴族社会では闇魔法を発現することは違法ではなく異端ともされることはないが、異質であり、ひそやかな差別対象であることは間違いない。ゆえに秘匿されるケースが多いが、貴族であっても強烈な憎悪を抱けば闇魔法を発現することはある。むしろ、魔法の才を持っている分、貴族の方が強力な闇魔法使いになりやすい――()、ヘル以外に片腕であり、そして頭脳としていた貴族出身の男が強い闇魔法使いでもあった。


「……闇魔法使いであることは一般的に秘匿される習わしであるからこそ、貴族社会にどれだけの数の闇魔法使いが眠っているのかは陛下ですら知らないだろう。

 だが衣食住が満たされた貴族に闇魔法を使えるということは、少なくとも今の自分の状態に――乱暴に言い替えれば()()()()に不満を持っている可能性が高い」

「……」


ヘルは薄笑みを浮かべたまた答えない。

 

「……衣食住が満たされた貴族が次に求めるものは名誉、権勢、富といったところだろう。持たざる貴族が持つ貴族を妬む心情は最早憎悪のそれだ。突き詰められた嫉妬が憎悪になった時、闇魔法を得る……、というのも有り得ないことではない。

 お前たちが炙り出したいのはそういう輩だな」


 ――妙な、既視感があった。


 かつての革命でも、不満を持った貴族に火をつけて煽動したことで、いくつもの都市を陥落せしめた。不満分子を煽るのは乱を起こすために必要な手順だ。


 

(……南部支部ごときと一緒にされてはかなわないが)

 この既視感は、()()()()()()のように思えてならなかった。



「回り道がお嫌いのようだな。なら率直に問おう。

 ――お前ら南部支部は、王都を落とすつもりか」

「なっ……」


 ジークレインが目を剥く。

 ……が、想像したほど驚愕した様子を見せなかったということは、想像の範疇にあったのかもしれない。ジークレインの聡明さは今さら言うまでもないことだ。


 二人でヘルに目を向ける。

 薄笑いのまま、腕を組んで黙って聞いていたヘルだったが――ややあってから口を開いた。


 

「――やっぱりわかる?」



「……!」

「まさか、そんな。本当のことなのか……」

 

 ……と、いう反応だったな、今のは。

 どこか愉しげな様子のヘルを、ジークレインがおののいたように警戒するように睨みつけている。


「段取りだけでかなりの時間を使いそうな、南部支部(うちのとこ)には手の余る……成算が限りなくないに等しい、バカバカしい計画だけどな」

「やはりクーデターか」

「してぇみたいだね。貴族の闇魔法使いの憎悪をうまーく利用して戦力にして、王宮に喧嘩売る気でいるんだよ。

 で、この商売は第一段階の初期の初期。とりあえず【マンティコアの涙】と偽った危険魔法薬(ドラッグ)の数をばら蒔いて、体制に不満を持ち、かつ、戦力になりそうな地方貴族と繋がる。それから先はどんどん中央と近づいていって、できれば王族に近しい貴族と手を組んで王都をひっくり返すっていう算段らしい。そして支部長(ウチ)のが王座簒奪ってな」

「――雑な作戦だな」

「だよなあ」


 ヘルも嘲るようにうべなう。

 

 ……そう、そんなに上手くいくはずがない。

 危険魔法薬を通じて不満を持つ貴族を集め、クーデターを起こそうとするという端緒は悪くないが、旗手が犯罪組織では話にならない。人を動かすならそれに値する人物が前に出なければいけない。掲げた傀儡(アタマ)を玉座に、その裏にマフィアがいる、という形ならばまだわかるが、マフィアの幹部が王座に座ろうとしているなどついてきた人間もすぐに離れる。


 ――そもそもアルティスタという組織を舐め過ぎだ。


「……その言い方だと」眉を顰めたままジークレインが問うた。「お前は全く所属している組織の方針に賛同していないように聞こえるが」

「そうだよ。成算低いっつったろ」

「ならどうしてこの取引の指揮を執っていた」

「そりゃ俺が上司(うえ)を殺すにはまだ時期尚早だからに決まってる。俺たちは忠誠心で繋がった組織じゃないからな」


 ニヤリと笑ったヘルに、ジークレインの眉間の皺がさらに深くなる。「――わかってはいたが相当の危険人物だな。クローディア、本当にこの男となんらかの取引をする気か」

「それこそ今更だろう。そも、アビスは既にヘルの腹の中だ。隊長殿、アグアトリッジの命を掴まれている以上、私たちは『取引』によってここで生かされている」

「さすがよくわかってるな」


 ――さあ、そろそろ本題に入ろう。

 南部支部で燻るなとお前は言った。協力の代わりに何を差し出す。

 ヘルが目を細めた。つまらない取引なら応じず、ここで人質ごと殺すという目だった。

 

 ヘルを手中に収めたい。

 そして革命に傾かないように監視をしたい。

 そのためにも、ここで失敗するわけにはいかない。


「……とりあえず、南部支部に身を置いたままで、私達に情報を寄越せ。間諜として私と内通し、そしてこの実地研修期間内にアルティスタの南部支部を撃滅する」

「な……っ!?」

「ほー?」

「不可能じゃない。アルティスタは支部同士の結びつきが薄いところと濃いところがあるが、ひとつの支部が(まつりごと)の中枢まで入り込んで為政者の真似事までしようとするのは独断専行、やりすぎだ。……ともすれば組織全体への背信と言える」


 ――アルティスタ・ファミリーは裏切りを許さない。

 故に、他の支部が南部支部を助けることは無い。


「……それで? お前は俺の働き口を消して、どうするつもりなわけ?」

「ところで。

 ――訳あって、私はツェーデル・ド・アルフィリア閣下と親しくてな」

「!」

 

 ヘルが息を飲む。

 ……ツェーデルの名がヘルに知られていることには想像がついていた。

 裏社会にもおいそれと敵に回してはならぬ人物として名が通っているはずだからである。

 

「それで、なんだよ……」

「――東の帝国支部だ」

「何?」

 


「幹部の中でもとびきり強いと知られている支部長――アイ。

 私の伝手を使って、彼女と交渉しよう。

 お前を幹部候補として登用するように、とな」



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