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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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088 交渉

「貴様あっ、この俺に対して、こんな暴挙が許されるとでも思っているのか……!」

「お前、よく喋るなあ。腕切り落とされてすぐに恨み言言う余裕あるなんて、タフだな? もう一本いっとく?」


 喚くアグアトリッジを横目に、ヘルが嘯きながら刃についた血を払う。

 一連の動作を見ていたジークレインが、強い、と小さく呟くのが聞こえた。――確かにヘルの殺しの腕、つまり武器の扱いは、騎士団の一級騎士と比べても劣らない。


「わかってないなら教えてやるけど、アルティスタに与することを決めて、俺の指揮下に入った時点で、お前のオウチの威光もなんも消えてんのね。当たり前だろ? 俺がお前をどう扱おうと、使えねー無能な部下を処分しただけなわけ」

「アグアトリッジ家が黙ってないぞ……!」

「わー、こわーい。落ち目の侯爵家を怒らせて、オレもしかして大ピンチ? アㇵッ」


 血に沈みながら、アグアトリッジが歯軋りをする。止まらない出血に顔色を紙のように白くしながら、その眼は瞋恚と憎しみに燃えている。

性根はねじ曲がっていても、その根性はたいしたものだ、と思う。


「……とりあえず、すぐに敵対する気はないということはわかった」ジークレインが眉間に皺を寄せたまま、重く口を開く。「ただ、お前はマフィアの一員なんだろう? クローディアの口車に乗っていいのか? 話を聞くにそちらの組織が裏切りを許すとは思えないが」

「問題ねーよ、まだそいつの駒になるかどうか決めてないし。もしつまんねえ話なら、別にお前ら二人とも殺して取引終わらせて帰るだけだしな。だから別に貴族のお坊ちゃんに心配される筋合いはねーわけよ。おわかり?」


 小馬鹿にした物言いに、ジークレインがさらに眉間の皺を深くする。

 が、それ以上は何も言わず、視線をアグアトリッジに向けた。


「……それより、そいつをそのまま放置する気か? このままだと失血で死ぬだろう」

「ㇵ? お前、裏切り者の生死を気にすんの? 変わってんな」

「……裏切り者なら、それこそ生かして情報を得る必要がある。表層とは言え、犯罪組織とかかわっているのなら捕えて吐かせればそれなりのことはわかるはずだ。

……それに、お前も別に、こいつを殺そうとしたわけじゃないんだろ? 殺す隙ならいくらでもあった、それを腕を切り落とすに留めたのは、ここで死体を出す面倒リスクを避けたかったからだ」

「まあそれはそう」


 あえて否定する気はないのか、ヘルはあっさり頷いた。

 ――ヘルいわく、ここで行われている取引を仕切っているのはヘル自身なのだという。一応自分の頭上には『上』がいるものの、実務の監督を担っているのは自分とその駒だと。

 無能な部下を無能と死なせるばかりでは、目付け役としてのヘルの評価を下げる。加えてアグアトリッジは腐っても上級貴族の子息で、研修中とはいえ近衛騎士候補だ。使えないからというだけで死体にしては不都合も多い。そも、死体はひとりでに歩いて勝手に土に埋まってはくれないのだ――処理には相応の手間と時間がかかる。


「そいつの腕、焼いといて。火で止血できるだろ。血さえ止めりゃ死なねえよ」

「この男の身柄はもらってもいいと? 太っ腹だな」


 私が聞けば、「別にいいよ」と軽く言い、ヘルは暗器を懐にしまった。

 

「向こうには殺したっていっとくよ。邪魔だったから斬ったっていえば上も納得するだろ、もともと奇麗好きな性格でいらっしゃるわけじゃないしな」

「確かに」


 規律も何もなさそうな南部の幹部であれば、最近組織の表層に掠ったばかりの『下っ端』がどうなろうと、気にすることはなさそうだ。

 私が片頬で笑うと、ジークレインが硬い表情のままアグアトリッジに近づいた。右手の上に生み出した高温の炎で、血の吹き出す腕の断面を容赦なく焼く。肉の焼ける悪臭とともに、ぎゃああ、とアグアトリッジの苦悶の声。

 ジークレインはぎゅっと顔をしかめたが、火魔法をやめるつもりはなかった。……仲はお世辞にもよかったとは言えないが、学友の裏切りにも、こうやって苦しみもだえる姿にも、ある程度思うところがあるのだろう。ジークレインは非情ではない。相応に情が深く、懐も深い。


 ……まあ、私はアグアトリッジがどうなろうと知ったことではないが。


「で、クローディア・リヴィエール。俺を使うって、お前は一体何をしてえわけ?」

「これから話す。……が、まずうちの隊長殿の安否確認が先だ」


 ああ、とヘルが気のない声でつぶやく。「そういやこの馬鹿坊ちゃんがやったって話だったな」

 

――そう。

 アグアトリッジの言い方だと、アレンが重傷を負っていることは確実だが生死は定かではない。

 彼とは縁も決して浅くない。……このまま見捨てる気にはなれない。


「救出すること、構わないな?」

「まあ、それ自体は別にいいけどさ。その隊長殿はお前の『話』に口を挟んだりしてこねえわけ? こっちはお前に興味を覚えたから一時的に敵対するのをやめたんだ。……面倒な邪魔立てが入るなら、俺がそいつにとどめを刺すぜ?」

「わかっている」


 ふうん、と言い、ヘルは唇をゆがめて笑った。


「じゃあ十分だ。

十分以内に帰ってこなかったら、お前らは口八丁講じて逃げたと見做す。その時はこの男を殺す。こいつはお前らにとって重要な情報源ほりょだ。死なれたら困るだろ?」

「ああ。……行くぞジークレイン」

「、わかった」


 声を掛ければ、傷口を焼いての止血を終えたらしいジークレインが立ち上がる。

 ――逃げるつもりなど毛頭ない。ヘルを私の手の内に『取り戻す』ことは、私にとって今まさにすべきことだ。


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[一言] 薬、吐かなくていいんだろうか?
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