表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/136

078 達成目標

 ――潜入しての諜報任務。


 なるほど、任務がそれならば第七班の班長を務めるのがアレンであるのは納得だ。【蒼】の頭であった時、私は奴に諜報とはなんたるかを叩き込んでいる――かつての、私にとっての師匠アイのように。

 厳しさもアイほどであったかはともかくとして、私が裏社会で暗躍した分のノウハウはある程度伝えてある。アレンは近衛騎士隊の中でもかなり年若い方だろうが、こと諜報においては右に出るものはそうそういまい。そもそも元が有能だった。


(だが、なんともな……)


 私はちらり、と周りを見る。

  ――二頭立ての馬車とはいえ四人で同乗すると、なかなかに狭い。

 ジークレインは無表情でいるが、やや居心地が悪そうだ。侯爵家という上級貴族の出身であるアグアトリッジなどはもはや、不機嫌さを隠そうともしていない。この俺がどうしてこんな襤褸馬車に……と考えていることがまるわかりだ。


(できるのか? お坊ちゃまであるこいつらに。潜入などという高度なことが)


 ジークレインはたしかに強い。あらゆる技能において天才だ。……が、何せいい意味でも悪い意味でもプライドが高い。

 アグアトリッジにいたっては、完全に悪い意味でプライドが高い。

 諜報員というのは目立ってはならないのだ。二人とは相性が悪いのではないだろうか。


 それに、である……私は前世で慣れてはいるが、今回の任務地は場所が場所だ。根っからの貴族の子息であるこいつらが、どれほど息を潜めていられるのかを思うと、今から頭が痛い。


(アレンもユルゲンも、何を考えているんだ……?)


 横目で様子を窺えば、アレンは静かな表情のまま、腕を組んでじっとしている。

 私はさっそく、弟子の心情をはかりかねて困惑していた。



 今回の任務地――つまり目的地は、近衛騎士隊の本部からはやや距離がある。今向かっているのは、王都とはいえ郊外、それも治安がよろしくない繁華街ダウンタウンだった。

 騎士団を抜けた私が逃げ込んだ貧民街スラム、それと王都内区のあいだにある街、といえばわかりやすいか。

 

 近衛騎士隊の本部から任務地の近くまでの移動手段として、アレンは馬車を採用した。徒歩で向かって体力を削ることを避けるためだ。

 二頭立てとはいえそこまで質の良い馬車を使わなかったのは、目立つのを避けるためだろう。繁華街はいわゆる夜の街だ――治安がよろしくない郊外でも、馬車を使えるような富豪はそこそこ行き交う。今、私たちが乗っている程度の馬車のグレードならば、悪目立ちしないで済む。


「……そろそろだな」


 呟けば、前に座っていたジークレインが顔を上げた。窓の外を見て「本当だな」と言う。

 馬車はそろそろ王都内区のはじに差しかかろうというところだった。もう少し行けば、目的の繁華街に出る。


「郊外ともなると、同じ王都だというのにところどころ汚れが目立つな」


 ふん、と吐き捨てるようにアグアトリッジが言った。


「ゴミもよく見かけるし、何より物乞いが多い。家無しの平民ももう少し綺麗に住むべきだろうに。ここは陛下のお膝元だぞ」

「……言葉を選べ、アグアトリッジ研修生」


 明け透けな物言いに眉を顰めたジークレインよりも先に、奴を咎めたのはアレンだった。「これから行くのは平民の街だ。そんな態度じゃ潜入に支障が出る」


「十分に選んだつもりでしたが」

「あまり感心しない振る舞いだ」


 アグアトリッジが鼻を鳴らす。それにアレンも鼻白んだ様子を見せた。

 

 ……とはいえ事実、言葉は選んでいるのだろう。

 私が前世で滅ぼしたいと願った貴族はもっと、聞くに耐えない言葉で平民たちを罵り、虐げていた。……リヴィエールやイグニスをはじめとする四大魔法の伯爵家はそういった傾向は薄いが、自分たちを高貴な存在だと信じて疑っていない貴族の方が少数派だ。

 だから、蔑んではいても人間扱いしているアグアトリッジは、中央貴族にしてはマシな方だと言える。おそらくは、第二王妃が死に、アグアトリッジ侯爵家そのものが窮地――周りの監視の目から逃れられない環境に――陥ったからこそ、言動に気をつけているのだろう。態度からそのことが窺える。


 しかし気を遣ってこうならば、やはり中央の上級貴族は前世と変わらず腐ったままか。地方貴族の中には、身分差もなんのそのと平民たちと和気藹々と接する者もいるようだが、結局は政の舵取りをするのは中央の貴族。


 どうにかしないと、きっとこの世界でも『第二のクロード・リヴィエール』が生まれる。……たとえ私が、国を裏切らずとも。


(……まあ、どんな態度を取ったとしても、私たちは所詮貴族。搾取する側だ)


 現状を変えようとしなければ、偽善者にすらなれない。

 ……前世の私は、変えようとして、何もかもを奪いつくしてしまったが。



 きっ、と音を立てて馬車が止まる。

 どうやら、繁華街のすぐ近くまで来たらしい。


「降りるぞ」


 腰に佩いた剣が目立たぬようにケープを羽織り、全員で馬車を降りる。

 アレンが振り返り、私たちを見て言った。


「今回の任務地は、この街の奥にあるジャズ・バー、『イデン』だ。そこで危険魔法薬【マンティコアの涙】の取引があるという情報が入っている。

 ……その売人と取引相手を検挙する。それが第七班の達成目標だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 実は陽動とか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ