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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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073 懸念

「マークス・ハース二級……」そこまで言ってから、階級を示す徽章の意匠が以前と異なっていることに気が付き、訂正する。「失礼しました、マークス・ハース一級騎士。何か御用でしょうか」


 クラウドとしてもあまり会っていなかったため、昇格していたことは知らなかった。四年前、女子でありながら私が隊に入ることを知らされ、さらには枢機卿の部下が関わる任務にも携わったことからもわかるが――ハースはどちらかと言うと分隊ではなく近衛騎士隊の中でもコンスタンティンにごく近い中枢にいる若手騎士である。そのため、分隊の隊長をしているとなかなか顔を合わせる機会がなかったのだ。

 ハースの方は、私が【蒼】の隊長をしていたことも、『死んだ』ことも知っているらしく、ほんの僅か眉根を寄せた。……あるいは、格式張った話し方に違和感を覚えている、といったところか。

 まあ、なんでもいい。用件は、と今度は目で問うと、彼は静かなため息とともに「ついてきてもらおう」と言う。


「女子の宿舎は、少なくとも研修生たちとは別にするようにとのことだ。つまり、リヴィエール。お前の目的地はそちらではない」

「なるほど、ハース一級騎士にご案内いただけると」

「……そういうことになるな」


 ハースがちらりとジークレインを見る。ジークレインは一瞥を受けてやや怪訝そうな表情をしたが――なるほど。……どうやら何か、他にあまり聞かせたくない話があるらしい。

 私はジークレインに向き直ると、「じゃあ」と口を開いた。


「ご案内いただけるそうなのでついていくことにするよ。研修で行動を共にする時があれば、また」

「……ああ」


 ジークレインは頷き、ハースに視線を一瞬寄越してから、踵を返して去っていく。寮指定の臙脂の外套マントが翻りながら遠ざかっていくのを見送ると、不意に、横にいたハースが小さく呟いたのが聞こえた。


「……あれが現火の聖騎士長の息子、ジークレイン・イグニスか」

「ご存知なのですか」

「有名だ。類まれな天才だと。……わかっていると思うが、ユリウス隊長を含めた幹部たちの間でも話題に上っているぞ。今代は一体なんなんだと」

「まあ、それは……」


 そうなるだろうな。

 何せ、まず、女が研修に参加している。王国騎士団による決定だが、確実に何かあると皆察している。ツェーデルの陛下への上奏から実現したことだが、騎士団団長であるユリウス王子は、ツェーデルの真意を知らないはずだ。当然である。未来の記憶を持っているなど信じる方がおかしい。私は初めからおかしい師匠ツェーデルだからこそ真実を話したのだ。


「火魔法の天才ジークレイン・イグニスの研修先、【マンティコアの涙】事件の被害者であるマリア・アンディヌスの躍進、そして枢機卿襲来。アルティスタの存在を匂わせるスパイの自死」

「……」

「俺にはなんとも、お前が中心にいる気がしてならない」


 言っておいて、ハースは私の答えが欲しかったわけではないらしい。言いたいことだけ言うと、ついてこいとばかりに歩き出す。


「……まあ少なくとも、ジークレイン・イグニスが実地研修インターンシップ先を近衛騎士隊ココにしたのは、お前が原因だとは思うが」

「原因とまで言われるほどではさすがにないと思いますが。ジークレインが勝手に決めたことですよ、それこそ私の実地研修先がここだと決まるより以前に」

「とはいっても、ライバル視はされているだろう」

「……それは」

「ああ……いや、ライバル視というよりは……。まあ、どちらでもいいか」

「はあ……」


 気のない返事をしつつ、そのままハースについて歩いていくうちに辿り着いたのは、コンスタンティンやユリウス王子の直接の部下が寝泊まりするための宿舎だった。

 男所帯も男所帯、平隊員たちの宿舎ではなく、幹部たちの使う建物で寝起きしてもよいというのは、なるほど女性騎士への配慮だろう。元々女性を受け入れる用意がされている隊ではないのだから、四隊と違って女子用の宿舎がないのはいたしかたないことだ。

……とはいえ、私の立場が立場だ。『事情』を知るコンスタンティンが、監視がてら近くに置いておくという意味がある可能性も否定できない。まあ別に構わないのだが。


「……リヴィエール、先程の話だが」

「はい? 先程の、とは」


 ハースもこの宿舎を利用しているのだろう、私とともにそのまま建物の中に入っていく彼の横を歩きながら、私はその横顔を見上げた。


「そちらを目の敵にしているとかいう、アグアトリッジ侯の息子の話だ。……彼は第二王妃ソフィアの縁者だったろう?」

「……はい、たしか甥御だったかと」


 枢機卿の事件を経て失脚したも同然の第二王妃派には、当然もはや権勢などない。そもそも既に、肝心要の第二王妃ソフィアが死んでいる。

 【マンティコアの涙】や枢機卿に関連する一連の事件を経て、それなりによくない影響を受けた家の中に、たしかアグアトリッジ侯爵家もあった。


「――知っての通り、我々は今、大量の仕事をこなしている。今年は恐らく、研修生たちにも働いてもらうことになるだろう」

「!」

「そのためにリヴィエール、お前がいる」


 まとめ役をしろと求められる場合もあるということか。

 なるほど、話が読めた。


「……アグアトリッジ関連のトラブルにはくれぐれも気をつけよと、そういうことですか」

「そういうことになるな」


 なるほど、と頷く。

 ……できることなら、なるべくアグアトリッジと離れた隊で活動したいものだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] たぶん一緒に仕事することになるんだろうなあ
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