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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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070 偽装工作

 *




 ――教師陣の決定を待て、と、学園長はそう言ったが。

 近衛騎士隊の女性禁制を解除するという方向性を正式に発表し、アカデミーの実地研修インターンでも女生徒の受け入れを開始すると示されたのは、それからすぐのことだった。



 さて、話は――その通達が出され、ロイヤルナイツアカデミーでは幹部陣のみに知らされていた事実が、一般生徒たちにも伝えられた少し前に遡る。

 久しく近衛騎士隊に呼び出されたと思えば、私は副隊長であるコンスタンティンじきじきに、極秘の単独任務に赴けとの命令を与えられた。「これが終われば、()()()()()()()」などという言葉と共に。

 正しく、頭が痛いというような表情で私にそう告げたコンスタンティンを訝りながらも、命令の中身を詳しく聞けば――それはほとんど、『死にに行け』と言われているのと同義の内容だった。しかも、その任務自体に、命を投げ出せと命じられるほどの重要性はない。ただただ、達成が不可能であるということだけがわかる極秘任務。

普段であれば直属の上司から通達されるにもかかわらず、たった一人だけ呼ばれ、任務内容を告げられた事実。告げられた、『長い休暇になる』という言葉。


 ――そして極めつけに、任務内容の可否は問わぬと来ている。

 つまりは、『そういうこと』だった。


「近衛騎士隊特別分隊【蒼】――分隊長クラウド」

「はい」

「引き受けてくれるな?」


 眉間を揉みながら苦々しい声で言うコンスタンティンに、同情する。

 しかし私はそれを当然顔には出さず、ただ姿勢を正し、騎士の礼を取った。「任務、謹んで拝命いたします」


「……手間をかけてすまないな」近衛騎士隊の副隊長という仮面を脱ぎ、一時的に『クラウド』の正体を知る『共犯者』の顔になったコンスタンティンが、ため息を吐きつつ言った。「しかし我々はそれだけお前を買っているということだ。不便もあるだろうが、呑み込んでくれ」

「はい――いいえ、副隊長」私はその言葉に、小さな苦笑で返した。「どちらかと言えば、私は副隊長に不便をかけている方です。ツェーデル(あのかた)のお力をお借りしているのは、むしろ私の方なのですから」


 言うと、冗談だとでも思ったのだろう、コンスタンティンは「そうか」とだけ言って肩を竦めた。予想できていた反応だったので、それ以上は何も言わない。


「それでは、とっとと任務を終わらせて、『休暇』を頂こうと存じます」

「……ああ、クラウド。頼んだぞ」



 ――そうして。

 近衛騎士隊特別分隊【蒼】の分隊長であったクラウドは『死んだ』。

 言い換えれば、ロイヤルナイツアカデミーの生徒であるクローディア・リヴィエールが近衛騎士隊に入隊するための前準備が完了したということになる。

 コンスタンティン・ド・アルフィリア、およびマークス・ハース。『クラウド』が実は生きているということを、近衛騎士隊の隊員で知っているのは現時点で二人。どちらも、クラウドがクローディア(わたし)であるということを知っている人間だ。


 私は午前の二つ目の講義を聞くべく席に着くと、ふう、と小さくため息をついた。


 伝え聞くところによれば、殉職した者の名前が刻まれる慰霊碑に『クラウド』の名が刻まれているらしい。なんとも言い難い気分である。

また、部下であったアレン・ツヴェルンが、クラウドが死んだ任務の内容について調べているらしい。端的に言ってやめてほしかった。探られれば痛い腹だからだ――死は偽装であるという事実、さらに、禁制が解かれる前に女が既に近衛騎士隊に所属していた、という秘密に繋がってしまう。


(まあ、【蒼】の分隊長という立場は、正直少し惜しかったが……こればかりは仕方ないか)


 『クラウド』と『クローディア』の二つの顔を使い分ける、などと七面倒なことをしなくてよくなったのは助かるが、アレンをはじめとして好き勝手使える手足がなくなったのが難点だ。それに、来年新米騎士として近衛騎士隊に配属されることになったとして、ここ数年で得た部下たちが『先輩』となることにも、複雑さを感じる――まあ、そもそも『クラウド』はあまり他の騎士たちと関わりがなかったため、そこまで心配すべきこともないのかもしれないが。


(心配すべきなのは、むしろ――)


「フェルミナが気になるか」


 不意に声を掛けられ身を強張らせれば、隣の席にはいつの間にかジークレインが座っていた。

これから受けんとしているのは、高学年のみ履修可能な、剣術に関する座学だったが――そういえばジークレインも履修していたなと思い出す。……とはいえ、今まで隣の席に座ったことなどなかったはずだ。特に最近のジークレインはわたしを避けているようだったので。


「いきなりなんだ。突然声をかけてくるんじゃない、驚くだろう」

「驚く? 気配で気づかなかったのか」

「お前は私を一体なんだと思ってるんだ? 業間休みの間くらい気を抜くこともある」


 ジークレインは肩を竦め、ペンと講義用のノートを手持ちの鞄から取り出す。私はそれを眺めながら頬杖を突き、「どうしてわかった?」と問う。


「どうして、とは?」

「は? ……もちろん、なぜフェルミナのことを考えていたとわかったのか、と聞いているんだ。そのくらい文脈でわかるだろう」

「……愚問だな」ジークレインは舌打ちでもしたそうな表情で吐き捨てた。「お前がぼんやりと何かを考えている時は、だいたい頭の中にあるのはフェルミナか剣のことだろうが」

「……」


 私は無言で頭に両手で触れる。……そんなにわかりやすいか?

 ジークレインがため息をついた。


「いつまで経ってもフェルミナのことばかりだなお前は……まあ、もう本当に今更だし、いちいち腹を立てていても面倒臭いだけだが」

「腹を立てる? ……私が何を考えていようが、お前に文句を言われる筋合いはないだろう」

「言ってないだろ、文句なんて。……それに、お前がフェルミナを気にする理由もわかる。俺も少し心配していたところだ」

「……そうか」


 私は黙り、意味もなくジークレインがペン先を軸に嵌めているのを見つめる。

 ――あの寮長会議の時から、フェルミナはどうも、心ここにあらずのようで。私はずっと、そのことが気がかりでいたのだ。

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[一言] アレン君気づくかな? フェルミナ大丈夫かなあ
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