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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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閑話2 とある好敵手の決意


幼い頃から天才と持て囃されて生きていた。


周りには、自分より強い大人は父上を初めいくらでもいた。 しかし、自分より強い同年代はいなかった。会ったこともなかった。

厳しく育てられたからこそ、俺には父上の厳しい訓練に耐えてきた自信があった。そして、他の追随を許さない魔法の才能があるという自負と、それから自分は『天才』ジークレイン・イグニスであるという誇り。……今思えば、俺はそうでないつもりで驕っていたのだろう。


だが、その驕りが徹底的に破壊されたのは、ロイヤルナイツアカデミーの入学式だった。

俺は、自分より強い子供なんて存在するはずがないと思っていた。というより、他人に興味がないというのが本音だったと思う。常に自分が最も優秀なのだと思い込んでいて……いつか茶会に呼んだ男爵の養女――フェルミナの特異性とその聡明さには興味を持ったが、同年代の子供に向ける興味なんて、それだけだった。俺が目指すのは常に上、火の聖騎士長の座。歴代イグニス伯爵が座するその場に誰よりも早く就き、誰よりも強く、王国を守る立派な騎士となる。それしか考えていなかったのだ。


――けれど。

明らかに俺より素晴らしい戦いをしたが、結果的に失格となったやつがいた。

クローディア・リヴィエール。

リヴィエール家の次女。魔法の使えない落ちこぼれと噂が流れていた、水の名門の娘。水の聖騎士の妹。

彼女は失格となったせいでか、圧倒的な強さを見せたにもかかわらず、俺の次の成績――次席としてアカデミーに入学することになった。


どうして。どうして。どうして。

お前は落ちこぼれなんじゃなかったのか。魔法が使えないのに、どうしてそこまで強いんだ。

何故、お前が首席じゃないんだ。こんな成績、認められるはずがない。自分より強いと明らかにわかるやつの上になんていたくない。俺は受けるなら、正しい評価がいい。首席になるべきはクローディアだ。俺じゃない。


『魔法を使えない落ちこぼれ』

『お前みたいなやつがどうして次席なんだ』

『水の名門のくせに水魔法を使わずに次席に居座る』


そう言う奴らの気持ちもわからなくはないが、聞くたびに苛立った。アグアトリッジに至っては、クローディアに直接決闘まで挑んだ。

認められないのはこっちの台詞だ。腹立たしくてならなくて、交流試合では俺がアグアトリッジを降してやると決めた。

……そもそも何より腹立たしいのは、クローディア自身が自身に向けられる言葉を『どうでもいい』と考えて全く気にしていないところだ。あいつは何にも興味を持っていない。いつもどこか遠いところを見ている。それが嫌で堪らなかった。


マリア・アンディヌスのこともそうだ。嵌められそうになり、心無い言葉をぶつけられたにも関わらず、あっさりと許して、あまつさえ名前で呼ばせていた。俺と彼女は『リヴィエール』『イグニス』と苗字で呼びあっているのに、『クローディア』『マリア』と名前で呼び合う彼らを見て、到底理解し難いと思った。そもそも公女はクローディアにいったい何をしたのか、自分で理解しているのだろうか。


……そして。

何にも興味を持たない、どうでもいいという態度のクローディアの、唯一の『特別』が、フェルミナだった。

平民出身の土魔法使い。唯一無二の存在。土の新入生の中では優秀な成績で入学した彼女は、その異質さから貴族令嬢の新入生から疎まれているようだったが、同じ異質なクローディアと仲が良かった。

……クローディアは、フェルミナと話す時だけ、とても優しい目をする。大切なものを、愛おしいものを見る目。守りたいと、全力でそう思っている目。

フェルミナもそうだ。クローディアと話す時、彼女を大切に思っているということがよくわかる目をする。

二人は互いに特別なのだ。


――羨ましいと、そう思った。

クローディアに、フェルミナに守られたいと思ったことはない。

しかし、どうしてだかはわからないが、クローディアの――彼女の『特別』という位置にいるフェルミナを、羨ましいと思った。俺は、その位置にはいないから。



……そのはずだったのに。

クローディアは、新入生交流会の襲撃で、枢機卿の攻撃から俺を守った。捨て身で。一歩間違えたら、死んでいたかもしれないのに。

どうして庇った。

どうして一人で戦う。

何故頼ってくれない。

俺はお前に守られなければならないほど弱いのか?

目を覚まさないクローディアに張り付いて自問自答を繰り返す俺に、フェルミナが言った。少しだけ、拗ねたような――そして、仕方ないなあと苦笑混じりに。


『ロディにとって、ジークレインくんは、特別だからだよ。とっても大切な人なの。わたしは知ってるから』

『クローディアにとっての特別はお前だろ』

『ううん。……そうかもしれないけど、常にクローディア・リヴィエールはジークレイン・イグニスを意識してるから。誰にも譲りたくないのよ』


俺はフェルミナの言っていることがよく分からなかった。

彼女は、保健室の寝台で深く眠るクローディアの手をぎゅっと握ると、俺を振り返ってこう言った。


『ジークレインくん。ロディを守ってあげて。

ロディは強いけど、一人で頑張りすぎちゃうでしょう。

ロディに並べるなら、ジークレインくんだけだよ』


そうなのだろうか。

……そうかもしれない。

いや。……必ず追いついてみせる。そして、庇われた借りを返してみせる。

だから。


「今度こそ、俺がお前を守るから。

早く、目を覚ましてくれ」







――そして。

クローディアが目を覚ましてしばらく経ったのち、何故かマリア・アンディヌスに盛大に喧嘩を吹っ掛けられることになるのだが、

まあそれはまた別の話だ。

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読者視点だとたまらん歪みが美味しいれす!!
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