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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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061 報せ

「…………」私は何度か目を瞬かせた。そして言った「どうした、ジークレイン」

「は? な、なんだよ」

「いや……まさかお前に礼を言われるとは思わなかったからな」


 正直とても驚いている。アカデミー高学年になり、それなりに仲のいい親友となってからはともかく、それまではかなりいがみ合っていた――いや、『俺』が一方的に突っかかっていっていた結果なのだが――から、今のこのジークレインに礼を言われるというのは多少違和感がある。十一、二歳のジークレインは確かに天才だったが、それゆえにかなり人を寄せ付けなかったからな。いたずらに人を見下すやつでもなかったが。


「……俺がお前に礼を言うことがそんなにおかしいのか」

「いや、そういうわけじゃない。別に大したこともしていないしな。だからふてくされるなジークレイン」

「ふてくされてなんてない」


 完全にふてくされているように見えるが。

 フェルミナはくすくすと笑っている。私は肩を竦めると、ふうと軽く息をついた。


(……なんにせよ、ジークレインと伯爵が死ななかったことが救いだな)


 取り逃がしたのはもうどうしようもないが、これでアヴァロン峠の戦いは恐らくもう起こらないだろう。これで共和国とアルフィリアの関係が悪化する恐れもあるが、どうもあの枢機卿は手傷を負わされたと教皇に泣きつくタイプには思えない――あくまで希望的観測だが、あの男は自分の享楽のために生きている、そんな気がするのだ。

 考えれば考えるほど、共和国の国政がどうなっているのか謎だな。宗教国家なのは間違いないのだが、幹部であるはずの枢機卿がああだ。内情が掴みにくそうなことこの上ない。

 あるいは、アイ(ボス)ならば何か知っているのかもしれないが――。


「……クローディア」


 聞こえてきた声に顔を上げると、ジークレインが真剣な目でこちらを見ていた。


「なんだ? ジークレイン」

「もしかして。あの爆発から、俺たちを守ってくれたのって――」



「クローディア・リヴィエール」



 ばたん。

 ジークレインが口を開いたタイミングで、保健室の扉が開いた。ノックもなしに入ってきたということは、訪れた人物は決まっている。ジークレインも、それからフェルミナも、入ってきた人物を見て急いで敬礼の体勢になる。


「――ツェーデル・ド・アルフィリア前騎士団長閣下」

「ああ、いい、楽にしろ。お前たちもだ、イグニス、ハリス」

「はっ」


 敬礼を解いたジークレインが、緊張した面持ちでツェーデルを見ている。フェルミナがあまり緊張していない様子なのは、火魔法の名家であるジークレインに比べて、ツェーデルの武勇に詳しくないからだろう。私にとってはどうしようもない勝手師匠であれど、ジークレインにとっては英雄なのだ。無理もない。

 それから、彼の後に続いて焦げ茶のローブを纏った初老の男性が姿を現す。


「ジークレイン・イグニス君。それから、フェルミナ・ハリス君。君たちは速やかに寮に戻りなさい」

「が、学園長先生……で、ですが」

「今から彼女への聴取を行います。イグニス君、君にも話を聞かねばならないことがあるやもしれませんが、今は大人しく寮に戻るように」


 念押しされたジークレインが、押し黙る。まだ何か言いたいことがあったのか、少し不満げな表情だ。

 しかしそれをぐっと抑えたらしい、彼はややあってから、「わかりました」と低い声で応え、頭を下げた。フェルミナは少し眉を下げ、ジークレインと同じように頭を下げる。


「じゃあ、わたしたちはもう行くね、ロディ。お大事に。……学園長先生、前騎士団長閣下、失礼いたします」

「……失礼いたします」


 フェルミナを伴って、ジークレインが保健室を後にする。足音が遠ざかっていくのを確認してから、私は改めて二人を見た。

 ジークレインとフェルミナを追い出したということは、聞かれてはまずい話をするということだ。校医も恐らく、暫く戻っては来ないだろう。

 私が眠っていた間、いったい何が起きたのか。起きてからずっと、それが気になっていた。


「……まったく」


 深い溜息と共に、口火を切ったのは学園長だった。「無茶と独断専行は師弟でよく似ているようだ。今さらかもしれませんがね」


「さすがにその評価は遺憾です。私は閣下ほどじゃありません」

「ハッハ! ひどい言い草だなクローディア」

「まあ、それはそうでしょうねえ」ツェーデルの言葉を完全に無視した学園長が、溜息をついてかぶりを振った。「まさか私に知らせずに、ヴォジャノーイ君を使って調査など。余計に気を揉みました」


 まったくである。

 特に私は、ヴォジャノーイがツェーデルの孫であるなど知らなかったから、てっきり彼が内通者なのかとすら疑ってしまった。さらにはそのヴォジャノーイに余計な疑念を抱かれる始末。報告連絡相談という概念がツェーデル閣下には欠如しているというほかない――まさに今更だが。

 そう言えば言うのを忘れていたな、とツェーデルが愉快そうに笑った。もちろん、こちらはまったく愉快ではない。……私の場合は貴族同士の関係性を知らなかったという落ち度があるが、学園長はさぞ頭痛がしただろう。


「……まあ、終わったことを追及していても時間の無駄ですね。特にこの方の場合は」

「それはまあ、そうでしょう。……それで、お二人はいったい何をお伝えしにきてくれたのでしょうか」


 改めてそう問うと、ツェーデルと学園長が互いに目配せをした。

 それから、ツェーデルがその両眉を僅かに顰めてみせる。



「――サーシャ・デイヴィスが自害した」

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