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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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048 アレクシス・ヴォジャノーイ

「ロディの試合は午後からよね?」姉はこちらの動揺に気づかない様子で、柔らかな微笑みを浮かべた。「先程時程を確認したの。間違っていないかしら」

「……そう、だよ。合ってる、姉上」

「それまではお友達と観戦するの?」

「いや……」言葉の上だけで否定する。「親しくしている友人は、だいたい選抜選手なんだ。だから……」


 心ここにあらずで声を紡ぎながら、意味もなく辺りを見回す。

 ヴォジャノーイを探さなければという、焦りがあった。この違和感を放置していいものかどうかはかりかねたからだ。

 思い出せば、ヴォジャノーイの行動は朝から不可解だった。早朝の談話室にいた彼の姿を思い出す。『試合の日は自寮の選手の様子を確認するために早く起きている』という、彼の語った理由もよく考えれば不可解だ。本当にそうなのであれば、談話室ではなく出口や門など、必ずその選手たちが通る場所にいるだろう。談話室はあくまでただのリラクゼーションルームだ、朝の忙しい時にあんなところを訪れる者はあまりいないだろう。

 ――では彼は、あの時談話室で、()()()()()()()()()()()


「そうなの? すごいわ。じゃあ、私と一緒に観ましょうか。休暇ができて慌てて来てしまったから、一人で少し寂しかったのよ」


 どうかしら、そういう姉の顔を見上げた。

 ふわ、風を孕んで青い髪が膨らみ、揺れる。

 ……そういえば、『前回』では、アカデミー時代は殆ど姉と言葉を交わすことも、関わることもなかった。ジークレインの背を追い、強くなることしか頭になかったからだ。

 そうして、大切な姉と疎遠なまま、私は近衛騎士となった。そして、姉はその後間もなく、死んだ――。

 アカデミーに入った後は、騎士養成学校に良縁を探しに来たご令嬢を除き、家族と関わる機会は殆どなくなる。学内で何か催しものがある時以外は、話すこともない。『前回』のように家族との距離が遠かった場合は尚更のことだ。

 今のうちに、姉上と、存分に話しておいた方がいいのではないか、と心の中で『クロード』が言う。今回、同じ道を辿るとは限らない。それでも。


(――いや)


 首を振る。

 違う。そうではない。フェルミナに、姉に、同じ道を辿らせないために私はここにいる。今を、生きている。

 望まない未来を恐れてすべきことをしないのは怠慢だ。今、私が未来を変えるためにやるべきことは、あの枢機卿に繋がる手がかりを得るために、ほんの少しの違和感も見逃さないこと。


(マリアのそばに枢機卿ヤツ内通者スパイがいることはほぼ、間違いない。そして、ヴォジャノーイは公子であり、そして何より水の監督生プリーフェクトだ。寮生であるマリアの情報を集めるのは、難しいことではないんじゃないか……?)

ぞ、と背筋を悪寒がかけ上った。


 あの時、朝、ヴォジャノーイがあの枢機卿に密かに連絡を取っていたのだとしたら――。


「どうしたの? ロディ」


 黙り込んだ私に、姉が不思議そうな顔をして声をかけてくる。私はゆるゆると顔を上げて姉を見ると、小さく笑ってみせた。


「ごめん、姉上。少しやるべきことがあるんだ。だから観戦席を一旦離れる」

「あら、そうなの? 残念だわ。……でも、きっと大切なことなのね。頑張って、ロディ」

「ありがとう、姉上」


 じゃあ、これで。

 午後は応援しているからね、そう言って手を振る姉に手を振り返し、私は走り出す。

 目指すは本校舎、学園長室だ。魔法力エネルギーを薄く身体に纏い――アイの下にいた時に身につけた、水や闇に変換することなく魔法力そのものを活用する『魔法』である――肉体を強化し、一刻も早くと足に力を込める。肉体強化を施しつつ全速力で駆けているところを誰かに見られたら惨事だが、新入生交流試合を見物する生徒が多いこともあり、幸い闘技場となった修練場から本校舎への道にはほぼ人はいない。


 私は本校舎に入ると、人の気配のしない廊下を駆け、学園長室に向かう。

 ――修練場だけでなく校舎や寮ごと把握する必要があり、かつ多忙な学園長は、悠長に闘技場で試合を見物してはいないはずだ。交流試合の監視役として学園長の目は必要だろうが、きっと魔法道具を使っての監視モニタリングを行っているはずだ。


「失礼します、学園長。リヴィエールです!」

「……入りなさい」


 果たして。予想していた通り、慌ただしく学園長室の扉のドアノッカーを鳴らすと、ややあってから入室を許可する学園長の声が耳に届いた。

 失礼します、と一言言って入室すると、学園長はアルフィリア建国時代から存在するとされている聖女の魔法道具――魔水晶を執務机の上に置き、それを通して事務仕事の傍ら試合の様子を見ていたようだった。


「どうしたのです、リヴィエール君。君は選抜選手であったはずですが……いや、愚問でしたか。『今日起こるかもしれないこと』についてですね」

「ええ。学園長も、私の報告――内通者の可能性についてもうご存知でしょう」

「それが?」

「アレクシス・ヴォジャノーイの居所を教えてください。歴代監督生の魔法力は水晶に登録されているはず。その魔水晶を使えば彼の居場所を掴めますよね」


 こちらの言葉を聞くなり、学園長は眉を顰めた。何を仰りたいのですか――彼がそう言う前に、私は言葉を重ねる。



「――枢機卿の内通者が、アレクシス・ヴォジャノーイである可能性があります」




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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ面白い 色々陰謀が渦巻いている中記憶を頼りに真実を探る感じがすごく好きです [一言] クロードが入る前のクローディア、一人で剣を振ってたのだろうかとか、意識が覚醒する前に結構地雷が…
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