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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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002 クロード・リヴィエール

 いや。

 いやいやいや。

 どういうことだ。……女?

 クローディアとは、誰だ?

 私は、クロード・リヴィエール。王国転覆を目論んだ大罪人のひとり。クローディアなどという名前ではない。自分のことだ、間違うはずもない。

 ……というより、そもそも私は男だ。


「待てっ、クローディア!」

「ロディ!」


 ――混乱のあまり、気がつけば足が動いていた。

 腕を掴む兄の手を振り払い、必死で兄をおさえている姉の脇をすり抜け、何も考えずに足を動かす。

 『いつも』兄が落ちこぼれの"俺"を叱責するのに使っていた談話室を飛び出し、「お嬢様!?」と『なぜか』私を見て叫ぶ使用人たちを横目に、エントランスを走り抜ける。そして重い扉を無理に押し開くと、転がり出るように屋敷から外に出た。


 そして目に入ったのは、抜けるような青空。

 頬を撫でる春の風が、長く伸び黒髪を揺らす。

 眩いばかりに照らす太陽が、自分の立つ芝生が、屋敷の中から呼ぶ声が、吹き抜けていく風が、それに揺れる庭の花々が――走馬灯の続きであるとは、とても思えない。


「まさか……いや、そんな……、え?」


 嫌な予感が背後まで近づいていることから目を背けつつ、思わず呟き――そして、愕然とした。

 ――なんだこの、甲高い声は。

 ボーイソプラノという声の音でもないぞ。

 待て。これではまるで。


「そんな馬鹿な話がある訳がない。私が」


 あわてて、自分が纏う服を探る。そこで、羽織っていた薄手の上衣のポケットが、膨らんでいることに気がついた。

 恐る恐るそのポケットに手を差し入れ、そこに入っているものを取り出す……それは、手鏡だった。雫を象ったリヴィエール家の紋があしらわれた瑠璃色の手鏡。

 なぜ戦いの最中、かつてのライバルを守って死んだはずの者の上衣に、こんなものがあるのかはさておき。

 私は覚悟を決めてその手鏡に手を伸ばし、その蓋を開けた。


 そして。

 天を、仰いだ。


 見慣れた夜色の髪に、リヴィエール家の者に多い青の瞳。そこまではいい。

 だが、しかし……鏡には見覚えのない『少女』が映っていた。少年ではない、少女だ。


「嘘だろう……」


 もし全てが夢であるなら、これは悪夢だ。

 私は、『クローディア・リヴィエール』と名が刻んである瑠璃色の手鏡を持ったまま、ぼそりと呟いた。







 ――クロード・リヴィエールという男の話をしよう。


 落ちこぼれと呼ばれながら努力で成り上がったものの、最終的には憎しみに囚われ闇に落ちて、多くの人間を不幸にした愚かな男の一生についてである。


 クロードは、世界でも五指に入る国力を持つと言われる、アルフィリア王国の貴族に生まれた。その中でも王国騎士団の水の聖騎士長を数多く排出してきた名門、リヴィエール伯爵家の次男として。

 アルフィリアが魔法大国と呼ばれる所以は王国騎士団にある。そして魔法力を持つ貴族であれば、誰もが憧れる英雄の職業、それが騎士だった。土・水・火・風の4隊に分けられて編成されている王国騎士団の中でも、それぞれの隊の幹部とされるのが聖騎士。そして――長とされるのが聖騎士長というわけだ。

 勿論、幼いクロードも、優秀な兄と姉のように、水の騎士になることを……ゆくゆくは、水の聖騎士となることを夢見ていた。


 しかし結論から言えば、クロードは水の聖騎士になることはなかった。

 その理由は幾つかあったが、まずは何より、水魔法の才能がなかった。『俺は、アルフィリアや皆を守る水の聖騎士になる!』――そう叫んだ少年が夢を叶えるのは、土台無理なことだったのである。


 ……ともあれ、この時のクロードは、前向きな子供だった。

 落ちこぼれと言われながらも、己の夢を諦めようとはしなかった。魔法が駄目ならば剣の腕を、と、ひたすら修行を重ね、王国でも指折りの剣豪に密かに弟子入りし、剣の腕を磨いたのである。


 さて、騎士志望の者が王国騎士団に入団するには、まず騎士養成学校である、『ロイヤルナイツアカデミー』に入学しなくてはならない。

 入学が可能になる年齢は、11歳。貴族であること、四大魔法のうちいずかれの属性の魔法の素養があること、がロイヤルナイツアカデミーの入学の条件だった。


 クロードは11歳になり、すぐにロイヤルナイツアカデミーへの入学を志願した。


『お前のような落ちこぼれが、ロイヤルナイツアカデミーに入学できるはずもない。恥を晒すだけだ』

『姉様も反対よ。何も今年でなくてもいいでしょう。クロード、あなたが怪我でもしたら、私は……姉様はとても辛いわ』


 兄・クロヴィスも姉・ノエルもそう言って反対の意を示したのだが――クロードは二人の反対を押しのけて入学試験を受けた。

 そして、結果は合格。水魔法を一切使わず、剣の腕だけで勝ち取ったものだった。

 最下位の成績での合格だったが、クロードは晴れてロイヤルナイツアカデミーの生徒となったのだ。


 そして、その年の首席合格者は、稀代の火魔法の天才と呼ばれていた少年だった。

 それが、クロード・リヴィエールという愚かな男を語るのに欠かすことはできない、永遠の好敵手(親友)にして宿敵ライバル


 ――ジークレイン・イグニス。


 クロードがアルフィリア王国に反旗を翻した、あの日。

 彼は、クロードの前に立ちはだかった、火の聖騎士長であり……、

 そしてどこからともなく飛んできた攻撃から、クロードが身体を張って守った男だ。

 


 ――さて。

 ジークレイン・イグニスと、クロード・リヴィエールの初期の間柄を一言で言い表すとすれば、『犬猿の仲』であった。

 より正確に言うのであれば、クロードが一方的にライバル視し、突っかかっていっていた、とするべきか。ジークレインはいつでもクロードを面倒臭そうにあしらっていたものだ。


『おいイグニス! 俺と勝負しろっ!』

『……お前も懲りないな、リヴィエール。いい加減学習したらどうなんだ? お前じゃ俺には勝てないって』

『うるさいっっ!』


 と、こんな調子で学生同士の試合に挑んでは、クロードはあっさりとジークレインに負けていた。


 片や将来を嘱望された火魔法の天才、片や名門に生まれたにも関わらず魔法が使えず、剣の腕だけで入学した落ちこぼれ。

 リヴィエールと、イグニス。 同じ、魔法における四大名門貴族に生まれた子にも関わらず、こんなにも違う――その事実は、クロードがジークレインをライバルとして敵視するには十分な理由だった。


 単純な剣技においては、クロードの成績はアカデミー内でも上位に入ってはいるものの、アルフィリアの騎士としての『剣技』とは、魔法と併用した魔法剣のことを指す。故に魔法がほぼ使えないクロードの総合成績は言わずもがな。

 また、頭の出来は悪くなかったが、クロードはほとんどの自由時間を剣の修行に使っていたために学問も得意ではなく――故にジークレインに彼が勝てる要素などどこにもなかったのである。


 何度も心が折れかけたことはあった。

 しかし、彼がそれでも夢を諦めずにいられた理由は、クラスメイトの少女にあった。

 クロード・リヴィエールの人生において、ジークレインと同等に大きな意味を持っていた彼女の名は、フェルミナ・ハリス――アルフィリア王国史上初めての『平民出身』の学生だった。


『クロードはすごいね。真っ直ぐ前を見て、夢を追いかけてて……。わたしは弱いから、すぐ他人の顔を伺っちゃう』

『……なんだよ、フェルミナ。それは、落ちこぼれのくせにめげないなっていう皮肉か?』

『もう、そんなこと言わないでよ。わたし、クロードのこと、応援してるんだよ。今日だって昨日より、ジークレイン君と長く打ち合ってたじゃない。あんなに優秀なジークレイン君と……。ホントにすごいなって、尊敬してるんだから!』

『でも、結局俺は、あいつに勝ったことないし』

『でも、ジークレイン君が毎日クロードの勝負を受けてるのは、クロードの成長を無視できないからなんじゃない? どうでもいいなら、ちゃんと挑戦に応じたりしないと思うよ』

『そうかな。俺、成長できてるのか?』

『そうだよ! クロードは絶対強くなってる、わたしが保証する!』

『……そっか。ありがとな、フェルミナ』


 そう、いつもクロードを励ましてくれたフェルミナは、アカデミーでの彼の心の支えだった。


 ――注釈すると、フェルミナは決して落ちこぼれではなく、筆記も実技も男に負けない程に優秀だった。平民出身にも関わらず奇跡的に発現した土の魔法力で、ハリス男爵家に養女として育てられ、アカデミーには女子トップの成績で合格していた。

 ただし、彼女は貴族しかいないロイヤルナイツアカデミーでは、異端な存在だったのだ。

 身分制度が厳しく定まっているアルフィリアでは、貴族と平民の身分差は絶対。男爵家の養女となっているとはいえ、平民出身というだけで、フェルミナはアカデミー内でも激しい差別に晒されていた。


 魔法が使えない落ちこぼれ貴族と、魔法が使える平民。

 同様にアウェイな二人は、成績と身分の差を越えた親しい友人同士だった――否。


 ……クロードは、彼女のことが好きだった。

 己と違い、優秀な彼女に劣等感を抱いていてもいた。

 しかし何より尊敬し――憧れていた。強くなって守りたいとも思っていた。

 クロードにとってフェルミナは、誰よりも大切な少女だったのだ。



フェルミナが傍にいた。

そして目指すべき位置にジークレインがいた。


 故にクロードは不断の努力を続けることができ、アカデミーを卒業する頃には、剣の腕だけでジークレインの次点の成績を叩き出すようになっていた。……そしてまた、フェルミナは、二人に続く第三席の成績を保持していた。

 アカデミーを卒業するまで、彼ら三人は――ジークレインとクロードは相変わらず仲は悪かったが――互いに認め合う仲間となっていたのだ。

 そしてクロードは、王国騎士養成学校・ロイヤルナイツアカデミーを次席で卒業し、王国騎士団に入団した。


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