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更改のクローディア ~闇落ちして最強の敵キャラになった元落ちこぼれのライバルポジの男は、最終的に主人公を守ったら女として逆行していた~  作者: 日下部聖


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112 本館棟

「……やってみる価値はありそうだな」


 足を止めたジークレインが、静かに瞼を閉ざす。暗い中でもわかるほど、ジークレインの黄金きんと睫毛は長い。

 私は探知の邪魔にならぬようなるべく気配を消すように努めた。近くにいる私は除外して探知・感知を行っているであろうから気を遣う意味は特にないのかもしれないが、ついでに息も潜めておく。


 やがてジークレインは目を開くと、「見つけた」と言った。


「ユリウス殿下とよく似た気配。花陽宮の本館棟だ。最上階中庭側の部屋だな。……複数の人間が接近してる」

「……まずいな」


 第一王妃リリアナが殺されれば、暴動の目的が達成されたことになる。

 王侯貴族の間でも主流だった第一王子派の派閥が一気に力を失い、第二王子派が力をつけることになるだろう。第二王子の人となりは知らないが、第二王妃ソフィアのやらかしていることを考えれば――帝国風に言うのなら――その息子が祀り上げたくない類の神輿であることは想像がつく。


(……人のことは言えないがな)


 親が親なら子も子であるという理屈を捏ね始めるときりがない。

 今回だって、私の父親は闇魔法の研究をしているらしいということから、南部支部の暴動に関わっていた可能性があるのだ。

 

「クローディア?」

「いや。悪い、急ごう」


 時間がない。続けて強行突破だ。

 私たちは顔を見合わせて頷き合うと、気配を探るために止めていた足を再び動かし、本館棟最上階にある王妃リリアナの寝室に向かって、最短距離で進む。


「なんだ、お前たちは……」

「闇よ」

「誰か! 侵入――」

「闇よ」

「おい! 今すぐ人を――」

「闇よ」


 行き会ってしまった夜警の騎士は私の闇魔法で発見し次第で眠ってもらう強行軍を続ける。

――怪我はさせていないが、同胞相手にこの振る舞い。これで王妃を殺されていたら本当に冗談では済まない処分になるだろう。


とはいえ、苦々しさに、自然と歪む顔をそのままに魔法を行使しながらも、前世の私がこうも囁くのだ。

――剣を握っていながら、弱い者が悪いと。

 突然の襲撃だろうが、闇討ちだろうが、対処できてこその騎士だろうと。ジークレイン・イグニスならばそれができるはずだからと。


――ある種、強いのが良しということは、戦いの場では真理だろう。

弱いものが死ぬのだ。強い者が生きる。敵を屠ることができた者のみ生き残るのが、クロード・リヴィエールの歩んできた道だった。


 けれども。

 戯言であろうと、革命を銘打ち、世の中を変えてやろうとしていた『俺』が強固に持つべき思想ではなかったとも思う。


 国は民のためにある。

 クロードが()()()()()()()()ものは弱き民だった。

 

 弱さを悪としながら弱き者を扶けるだなんて――自家撞着以外の何物でもない。


(不完全だった。――クロード・リヴィエールは。私は)


 望んでもいない二度目の人生を長く歩めば歩むほど、己の醜さと愚かさが浮き彫りになる。

 革命を目指した私をなかば嘲笑したアイの気持もわかろうというものだ。今のお前にできるのであれば好きにしろと。 ――とはいえ彼女の場合、クロード・リヴィエールの行先に興味があったからこそ、自分のもとから送り出そうとしたのかもしれないが。


「――ここが本館棟か」

「さすが、大きいな」


 中庭を突っ切り、辿り着いたのは、闇の中に聳え立つ建物。

 暗くてその様子がよく見えないでいるために、城とも宮殿とも形容できないそれは、『建造物』と表現する他なかった。

 おまけに背も高い。壁に張り出しているのはバルコニーだろうか。ジークレインが小さな火を出して操り、最上階あたりをささやかに――あま派手にすると人を呼ばれるので――照らし出す。

 オレンジ色の光に照らされ、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる、本館棟の一部。見上げた白い石壁に、ひときわ広いバルコニーがあるのが見える。

 

「あそこが王妃の寝室だろうな」

「本館棟の正面から入るのは……時間のロスだな」


 離宮とはいえ王族の宮殿だ。門からお邪魔して無事中に入れたとしても、廊下や部屋を幾回りもしなければ、王妃の寝室にはたどり着けないだろう。

 そもそもこういった宮殿は、奥の部屋に辿り着くためには、部屋をいくつも横切らなければならない作りになっていることも多い。王妃の居場所がわかっていたとしても、そこまで辿り着くための道は感知では分からない。

 道を見つけるのが、手間だ。


(外壁を登っていけたらいいが……登るにはさすがにつるりとしすぎだな)


 魔法力で身体機能を強化したとしても、ただの跳躍では届かないだろう。

 さて、どうすべきか。そう思った時、ジークレインが素早く「おぶされ」と言ってきた。


「は?」

「いいから早く」

「……何か考えがあるんだな?」


 重ねて言われ、私はジークレインの背中に乗る。

 私にとって、あのジークレイン・イグニスに背負われなければならない状況はなんとなく屈辱的ではあったが、そのあたりをごちゃごちゃ言っている時間はない。


「クローディア。掴まっていろよ」


 瞬間。

「火よ」と詠唱を始めたジークレインの手から、勢いよく炎が噴き出され、その反動でジークレインの身体が真上に浮き上がった。


「!?」


 手から噴出され続ける炎により浮いたジークレイン。

 彼は私を背負ったまま、驚異的なバランス感覚でそのまま上へ上へと飛んでいくと、そのままバルコニーへと降り立った。


 ――ついさっきまで自分たちが立っていた中庭を見下ろすことができる、王妃の寝室に繋がるバルコニーにだ。

 


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