107 感知
「クローディア!」
「ジークレイン……」
無駄な捜索に時間をかけていていいのかと思っていても、出された命令は捜索だ。
研修生の身分で勝手な行動をしすぎると今後に響くのではないか――そんなことを思って、二階へ向かう階段の踊り場で足を止めると、駆け寄ってきたのはジークレインだった。
「二人一組で行動しろと言われたから来たが……どうした? こんなところに立ち止まって」
「……いや」
「やっぱりお前もおかしいと思うのか? 奇襲が読まれていたなら南部支部長がいるわけないと」
はっと顔を上げてジークレインを見る。「お前も同意見か」
「見くびるな。その程度のこと、少し考えればわかる。……ただ、念には念を入れてということじゃないか、とも思う。
俺たちの裏をかいて逃げず、本当は隠れていた南部支部長を見つけ出せなかったというんじゃ大失態だ」
「……それはそうだが」
とはいえ不可解は不可解。
ほぼいないとわかっている捜索に近衛騎士の一つの班――私たちを含めたB班だ――を動かしている。
(……私たち研修生の使えなさ加減をマイナスにして差っ引いてるのか? だから『念の為』のことに多めに人手を割いた――?)
これもありえないことじゃないが、さすがになめすぎだろう。私たちはあくまでも近衛騎士隊副隊長に命じられて配属されてるんだぞ。
「……いや、やっぱりおかしい」
「ジークレイン?」
「エントランスホールでの戦いを見てみろ」
二人揃って踊り場から二階に上がり、ホールでの戦いを見下ろす。エントランスホールから二階は吹き抜けになっており、下の様子が窺えるのだ。
「……なんだか敵が守りに入ってるな」
「ああ。そのせいで先輩方も上手く攻め切れていない」
……ジークレインの言うように、敵は連携し、上手く攻め入られないように立ち回っているように見える。
しかし攻撃に重きを置いているのではなく、あくまで守勢を重視している構えに見えた。攻撃も一撃離脱、マフィアにとっては宿敵である近衛騎士相手にしているのに、殺意の籠った攻撃とはとても言えない。
「……近衛騎士は強い。無闇に攻めに行かないのは賢明な判断とも言える。だが……」
「いささか冷静すぎないか? ……あいつの言う通りなら、南部支部のマフィアというのは優秀とはいえない者を頭に置いてるんだろう?」
あいつというのは当然ヘルのことだろう。
そうだったな、と言えば、ジークレインは眉を顰める。
「あいつが偽情報を流したのか? 南部支部長は本当は切れ者で、俺たちはまんまとおびき寄せられた――」
「それはないだろう。南部支部長が間抜けなのはクーデター計画なんぞを上げた時点で明らかだし、そもそも奇襲を計画したのは近衛騎士隊上層部なんだからな」
「だが今のこの状態はなんだ? あまりにも周到だと思わないか?
間違いなく奇襲を予期していたと思える対応、煮え切らない戦い方、予期していたなら逃げればいいのにこんなに人……を……」
ジークレインが言葉の途中から、ますます不可解そうな表情となっていく。そしてそのまま黙り込んだ。
(――確かにそうだ)
奇襲を予期していたのなら迎え撃つのではなくまとめて逃げればいい。その方が被害が少なくて済む。
それなのにわざわざ迎え撃った。南部支部長が逃げる時間を稼ぐためか?
「時間稼ぎ――」
「!」
「なあクローディア、もしかしたら――これは時間稼ぎなんじゃないのか。守勢重視の戦い方も、俺たちをここに引き留めるためのもので、他に何か目的があるんじゃ――。
……さすがに俺の考えすぎか?」
「いや……」
有り得る。
いや、むしろ蓋然性が高い。
しかしこのくらいのこと、ヒラの近衛騎士はともかく、一級騎士ともなると、当然思いついているはずだ。
それなのにそんなことを一言も口にせず、わざわざここで時間を潰している理由はなんだ?
(――まさか……)
いや。
今はそんなことを考えてこの場を荒立てるよりも、さっさと無駄な捜索を終えることが先だ。
しかしまともに探していたら、それこそ時間が取られる。戦闘そのもの時間稼ぎ目的なら、ここでは時間短縮を考えなければ。
(どうすれば……)
ふと顔を上げると、険しい顔をしたまま一階に視線を落としているジークレインの横顔が目に入った。
――そういえば。
「ジークレイン、たしかお前、人の気配を察知できるんじゃなかったか?」
「多少は可能だが……待て。まさかお前、ここに南部支部長がいるかどうかを探れって言ってるのか?」
「そうだ。話が早いな」
無茶を言うな、とジークレインが首を振る。
「そもそも一応任務中だぞ。そんな不確かな感知なんてやってる暇はないだろ」
「どうせ研修生にろくな期待なんか掛けていないんだ。何をしてようと構わないはずだ」
「……あのな、だとしても、俺の感知はそこまでの精度じゃないんだ。こんなに人がごった返している廃教会じゃうまく探れるか怪しいし、何より俺は南部支部長の気配を知らない」
「なら私が教える」
私はジークレインの右手を取り、それを自らの両手で包んだ。ジークレインが「なっ、」と間抜けな声を漏らし、一歩後ずさる。
「なんだ、突然……!」
「南部支部長は、闇魔法の使い手を炙り出すような危険魔法薬をばらまいてたんだ、おそらく自身も闇の魔法を使える。私がお前の魔力と同調して、闇魔法の気配を教えるから、お前はそれを辿れ」
何よりアルフィリアにいるアルティスタ幹部はだいたい闇魔法が使える。
ここにいるかいないかぐらいは手っ取り早く答えが出るはずだ。




