104 辞令
クラウドに伝えたいことが、第二王子派の後暗い活動か。第二王子の生母である第二王妃が死に、ウェスタ侯爵家が没落してからもうだいぶ勢力としては弱まっていたと思っていたが、まだよからぬことを企む輩が残っているとは。
第二王子本人はまだロイヤルシヴィルアカデミー――文官養成学校に在籍している学生にすぎないので、大した政治的権力を持っているわけではないが……。
(しかし、第一王妃、か……)
第一王妃。リリアナ・ル・アルフィリア。第一王子ユリウスの生母であり、元の身分も公爵家の姫と高い。
アレンが一体何を言いたかったかはわからないが――文脈から考えて、第二王子派が、第一王妃に何かをしようと考えているということなのだろうか。
「おい、クローディア」
「! ジークレイン」
「どうした、考え込んで。そろそろ戻るぞ、コンスタンティン副隊長の指示を仰がなければ。アレン隊長を揺さぶり起こして相談する訳にはいかないだろう」
「ああ……そういえば」
クーデター阻止の作戦に参加するか否かについて、班長不在の私たちはどうすべきか、最後まで聞けずに飛び出してきてしまったんだったか。
(なら、第一王妃うんぬんについては後から考えるべきなのかもな……)
それに、今あれこれと考えるよりも、アレンがまた目を覚ましてから、改めて話を聞き出す方が確実だらう――今の私はクラウドではないから、少々手間かもしれないが。
今は、近衛騎士隊がクーデターをどう料理するのかを間近で見ておきたい。マフィアを味方に引き込んで情報を提供した当人としては、情報源が露見しないよう細心の注意を払う必要もある。
「……わかった。そろそろ戻ろう。
先生、ありがとうございます」
「ええ。……あなたたち、学生でしょう。大きな作戦があるらしいけれど、無茶はしてはいけませんよ」
「はい。心得ています」
「……失礼いたします」
ジークレインと二人、頭を下げて病室を出る。
……なんとなく気まずい思いをしながら並んで歩いていると、不意にジークレインが口を開いた。
「お前は……アレン隊長の『隊長』とやらを知っているのか?」
「……はあ? いきなりなんだ」
「お前はその『隊長』とやらに似ているのか? 夢うつつのアレン隊長が、勘違いするくらいに……それに彼は、お前の受け応えに、違和感を覚えてらっしゃらない様子だった」
ジークレインが私の方を見る。
何かを聞き出したそうな、問い詰めるような眼差しにいたたまれなくなり、軽く目を逸らす。
「……知らん。幻覚でも見ていたんだろう?
まだ容態は安定しないようだし、私はただ万一の時のためにも、得られる情報があるなら得た方がいいと思って彼の勘違いに乗っかった。それだけだ。私があの人の上司に似ていたかどうかなんて、そんなことは私の知ったことではない」
「……そうか」
「……なんだ、何が言いたい?」
ジークレインは一度立ち止まり、再度私を見た。
咎めるような視線だった。
「……別に」
「……」
しかし何も言わずに歩き出す。
物言いたげなのに何も言わない――そんならしくない奴の様子に、こちらとしてもどうすればいいのかわからなくなる。
(まさか……気づいてるわけもない、だろうに)
私がかつてのアレンの隊長だったなどと。
ふと思い浮かんでも、アカデミー在学中の学生が近衛騎士隊で分隊長もやっていたなんてそんなもの、すぐに脳内で消される発想だろう。
(言いたいことがあるなら遠慮なく言え、と。
……言える立場でもないしな。聞かれて困ることもある)
このくらいの年齢の、前世の『俺』ならば言っただろうか。何かあるなら言えよ、と。
――友達だろうが、と。
(……今の私とジークレインは)
いったいどういう関係なのだろう。
*
「ツヴェルンの様子はどうだった」
「今は眠っています」
「……そうか」
元の場所に戻れば、集められていた騎士隊員は既に解散しており、その場には数人の幹部とコンスタンティンのみがいた。ハースの姿もある。
「まあ、意識が一度でも戻って何よりだったな。これから快方に向かうといいが……まあ、さすがに今回の作戦は休んでもらうことになるだろう」
「……」
「それで――話の途中だったな。
お前たちの分隊はアグアトリッジ、ツヴェルンが抜けて四人から二人になった。到底分隊として動くには足りない。であれば今回の作戦は――」
「恐れながら……お待ちください副隊長殿!」
コンスタンティンの言葉を遮るようにジークレインが一歩前に踏み出した。無礼だぞ、と、眉を顰めたハースが苦言を呈す。
「申し訳ありません……ですが! 俺は……俺たちは作戦に参加することを望みます! この場でじっとしているなどできようはずもない! 人数が足りなくとも――」
「……早合点だイグニス」
「は……」
「逆だ。お前たちには選択権はない。必ず行ってもらう。
ユルゲン直属の遊撃隊として作戦に組み込む。ユルゲン自身の推挙もある」
(なんだって……?)
ユルゲン・ヴィーマンは近衛騎士隊でも有数の実力者。であれば確実に重要な位置に配置される。敵との交戦もあるだろう。そんなところに私たちのような学生を――、
(……いや。そうか。これは、見定められているのか)
ジークレインと私。
クラウドであった私がいたとはいえたった二人が、情報を持ち帰ってこられたことを、訝しく思われている。
「……そういうことだ、リヴィエール」
「!」
「え……?」
「お前達は上層部に少なからず疑われている。敵の間諜なのではないかとな」
「そんな馬鹿な……俺たちは、」
ゆえに――と。
今度はコンスタンティンがジークレインの言葉を遮った。温度の低い瞳がこちらに向けられる。
「今回の作戦で、お前たちが王国に資する騎士だと証明してみせることだ」




